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「あー!遊んでるしー!」

入ってくるなり、ナツキが露骨に嫌そうな顔をつくる。
部屋の中では、ちょうどミキオと武志の1戦目が中盤を迎えていた。
リングエリアで向かい合うカードは、ガンダムシュピーゲルとセラヴィーガンダムだ。

「準備は終わってるぜ?」

サボってると思われたのが心外らしく、ミキオは窓の外を指差してそう言い返す。
吐き出し窓の外には、夕日に照らされたバーベキューセット。
それを見て納得しそうになるナツキ。だが。

「そうじゃなくて。火も起こしとくのが普通でしょうが」

そう言ってナツキの後ろから現れたのは姉さん。
切り分けた具材を載せたお盆を持った真理も続く。

「言ったでしょ?そんなにテキパキ動くわけないって」

と彼女ため息をつき、ナツキの肩をたたいたかと思うと、窓を開けて両手に持っていた靴を外に放る。

彼女らは、野菜を切り分けながら男子がどこまで準備をしているかという話をしていた。
「きっとウチのミキオが火起こしまでやってくれてるね☆」と目を輝かせてニンジンを洗うナツキに、姉さんは「甘い甘い。せいぜいセットを出したところで満足して終了。ってとこかしら」と予想を立てた。
「では、2人とは違う予想となると…バーベキューセットが見つからず準備が出来ない、といったところでしょうか」としれっと言ったのは真理。彼女は「あの蔵は広いですし」とも付け加えた。

結局、”あたり”は姉さんということになる。
姉さんのほうにすればどうと言うことは無い予想だったのだが、ナツキにとっては「姉さんのほうがミキオを理解している」とも取れて無性に腹が立った。

「うがー…ミキオのバカァー!」
「な、なんだよ。いいじゃねーか、強化合宿だろ?」

ミキオに飛びつくナツキ。持っていた手札が宙を舞う。
タンサンは申し訳なさそうに「言い出したのおれっちなんです。すいません」などと姉さんに言う。

「まぁ、いいわ。…さ、始めましょ。焼肉♪」


第20(26)話 焼肉奉行



「はいミキオ。あーんして☆」
「するかボケ!」

口元に差し出された肉にそっぽをむくミキオ。
差し出したのは左隣に立ったナツキ。少し大きめのエプロンをしていた。

「なんでー!いーじゃんいーじゃん!」
「その肉どう見ても生焼けだろーが」

差し出されたままの肉を指差し、反論するミキオ。
彼の右隣に立っていたタンサンは、「じゃあミキオちゃん、ちゃんと焼けてたらするのか?あーん」と肉を頬張りながら指摘する。

「っ…。そう言うことじゃねーよ」

そんな3人のやり取りを見ていた姉さんは、「こっちのなら丁度いいわよ?」と鉄板の上の肉を指差す。
「煽るな!」というミキオの非難じみた視線をするりとかわし、彼女は別の肉をひっくり返した。

「お姉さん気が利く~!はい、あーん」

ナツキはひょいと肉を拾い、再びミキオに差し出す。そこでミキオはたまらず逃げ出した。
彼女は都合のいいときだけ「お姉さん」と呼ぶのか、と缶ビールに口をつけながら武志は思う。

「この肉誰かどうぞ。あ、そっちの豚はまだ手つけないほうがいいかも」

タンサンが突っついていた肉を指してそう指摘する姉さん。
後髪をひとつに結び、まるで対戦中のように鉄板の上に気を配っていた。
真理は「では、お言葉に甘えて」と、言われた肉を皿に取る。

「すげぇ。この人、鉄板上の全てを把握している…!」
「焼肉奉行だからなぁ…」

武志はやれやれと窓の縁に腰を下ろす。
「焼肉奉行」を褒め言葉と受け取ったのか、姉さんは箸を持ってないほうの手でVサインをつくり、タンサンの皿にちょうど良い焼け目のニンジンを取り分ける。

「あ、おれっちニンジンいらないっす」
「好き嫌いしないの」

皿を小さく突き返すタンサンを姉さんは一括し、さらにニンジンを重ねた。
タンサンは「こ、この皿はもう使い物にならねぇ」と戦慄する。

「真理さんもどう?」

武志が真理に缶を差し出す。
彼が持っているのと同じ缶である。

「いぇ。まだ”職務中”なのでお酒は」
「あ、そっかゴメン」

武志は手を立てて謝罪のポーズを取る。
真理は「それに…お酒が入っては、この後の”強化合宿”の内容に響くのでは?」と少し口元をを緩めてそう言う。

「痛いところ突くなぁ…気をつけます」

武志はそうだな、と空けようとしていた缶から手を引く。

「そんなぁ。酒入った程度で鈍るような腕じゃあ無いでしょうが♪」

と、今度は姉さんが窓枠に置かれた缶を手に取り、躊躇いもなく開ける。
「やめとけって…」と飽きれる武志と彼女のやり取りを尻目に、真理は立ち上がって新しい紙皿を出す。
それに気付いたナツキが「どしたの?」と首をかしげた。

「マスター…いえ、ご主人様と奥様にもと思いまして」
「あ、そだね☆じゃあ、」

と言ってナツキは「これとこれとぉ…」と箸で真理の持ってきた皿に肉や野菜を次々に乗せる。

「あ、そうか」

ナツキの横顔を見ていたミキオが、唐突にポンと手をたたいた。
驚いたナツキは箸で掴んでいたカボチャを鉄板の上に落とす。

「どしたの?ミキオ」
「なんかいつもと違うと思ったら、今日は化粧薄いんだな」

ナツキは2回瞬きをして「あぁー」と頷く。
確かに彼女の化粧はいつもほどではなかった。

「パパが怒るからね」

バッチリ決められなくてごめんと言った口調で舌を出すナツキ。
ミキオは「ふぅん」と視線を鉄板に戻す。

「いつものより、今日のほうがいいぜ」

ミキオは、肉を口に運ぶ直前に小さくそう言った。
独り言のような声で、しかも周りはうるさかったが、ナツキの耳にはしっかり届いた。
ナツキは耳を疑い、きょとんとした顔でミキオを見返す。
ギャーギャー騒ぐんだと思っていたミキオは、むしろその反応にびっくりして面食らう。

「いや、そーいう訳じゃねーぞ?いつもよりマシってだけ!マシってだけ!」

と、急いで取り繕う。
ナツキは表情を変えずに、真理の手元の皿を握る。
真理もすんなりと皿を渡した。

「ウチ、ちょっとパパとママのところにこれ置いてくるね」

彼女はするすると無駄のない動きで武志達の間を抜けて部屋にあがり、廊下へと続く扉の向こうに消えた。
一部始終を見ていたタンサンがクスクスと笑い、武志と姉さんは「?」と顔を見合わせた。

「っ…なんだよ」

失言だった。といわんばかりに口を曲げるミキオ。
真理は「ありがとうございます。栗田君」と、なぜか礼を述べた。

ナツキは客間の扉を閉めて、寄りかかる。
暗い廊下にリビングの明かりが差し込んでいる。

「ウチ…ミキオに褒められちゃった」

確認するように口に出すナツキ。視線は皿の上のカボチャに向けられる。
鎖骨の下あたりがむずかゆい。


つづく


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初出:mixi(10.04.29)
掲載日:10.04.29
更新日:10.04.30