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「へへっ、やっとおれっちの4色ジンクスが完成したぜ」

ミキオと真理、ナツキと武志…二組の対戦は、タンサンがデッキ構築で悩んでいる間に終了した。
結果は、対戦を申し込んだ2人の惨敗。

「そろそろお風呂はいろっか☆」

ナツキが、組んだ腕を前に伸ばしながらそう提案する。
タンサンは「誰かおれっちと対戦しようぜ」と言いたげな表情だったが、周りの様子を伺うことにしたらしく黙っている。
日は落ち、開け放した窓から少し冷たくなった外気が入ってきた。

「ウチはミキオと入りたい!」
「入るわけねーだろ」

手で追い払うようにミキオはそう言い、胡坐を崩して寝転がる。
ナツキは「ホントは見たいくせに~」と頬を膨らませ、ミキオはムキになって「み、見たくねーよ!」と返す。

「広いの?お風呂」

姉さんがパンパンと手を叩き、そう聞く。
ミキオにすがりつくのを止めたナツキは、姉さんの顔を見て挑戦的に鼻を鳴らした。

「もち。あんたんちの100倍は広いわ」
「言うねぇ。じゃあ、見せてもらおうかしら」

と彼女は立ち上がり、荷物を漁り始める。
出てきたのは着替えと洗面用具。それを見てナツキは眉をひそめる。

「は?一緒に入る気!?」
「え、だめ?合宿っぽくいこうよ」

姉さんは客間のドアの向こう――トイレを借りるときに場所を把握していた――風呂場の方向を指す。
真理は2人の顔を交互に見て、「たしかに。合宿っぽいですね」と言った。

「とか言って、あんた比べる気でしょ!」

敵愾心むき出しで姉さんを…いや、彼女の胸元を指差すナツキを「んな事するか」と笑い飛ばす姉さん。
ナツキはそうは言っているが、一緒に入ること自体はそこまで嫌がっている様子はないな。と、やり取りを聞いていたミキオは少々意外に感じる。
タンサンは様子を見るのにも飽きて、一人でデッキを回し始めていた。

「じゃ」

と客間を出るナツキと姉さん。
「では、私も」と、真理もデッキケースを片付けてそれに続く。

扉は閉じられ、客間には男子三人だけが残された。


第26(32)話 漢たちの正義



「おれっちのターン、緑Gを配備…」
「おぅ…」
「……」
「…」

気のない返事で許可するミキオ。
バーべキューの前と同じく、客間に残された3人は「ひとまず…対戦するか」となったのだが、場に1枚のGカードが並んだだけでお互いに黙る。

「お、オレは…覗くぜ!!」

しばらく沈黙した後、ミキオは意を決したように立ち上がって口を開いた。
向かい側に座ったタンサンは「お」と口を開け、武志は読んでいた小説から顔を上げる。

「ミキオちゃん、露天風呂とか温泉ならまだしも民家で覗きは…犯罪の匂いがするぜ?」
「バッカ、それがイイんだよ!」

ナッちゃんと風呂に入るのを拒否したにもかかわらず、わざわざ覗くということは…姉さん狙いか?
とタンサンはそこまで考えてから「武志センパイの前でそういうことするのかよ?」という表情でミキオを見た。
いや、タンサン自身も興味がないと言えば嘘になるのだが。

「よし。お前たちがそこまで言うのなら、俺も手を貸さないワケにはいかないな」

と、本を閉じて立ち上がる武志。
それに諭されたタンサンも、迷いを捨てる。

「オレ(俺、おれっち)たちの戦いはここからだッ!!」

息を合わせる3人。
そこからの彼らは、間違いなく『速度1』だった。

「廊下…異常なし」

客間から顔を出したミキオは、後ろに控える2人にそう告げる。
廊下の明かりはついていて、遠くから微かな音が聞こえる以外は静かなものだった。

「GOGOGO!」

小声で合図する武志。
3人は廊下に出て、すり足で風呂場の方向へと歩みを進める。

リビングの前まで来て足を止めるが、人の気配はない。どうやら、ナツキの両親はもう2階に上がったらしい。
2階へと続く階段を少し確認して、左へと曲がる。

風呂場の場所は大体見当がついていた。
角を曲がった突き当たり、トイレの隣の木製の扉が目に入る。洗面所の扉だ…そしてその先には作戦目標が待っている。
3人は息を呑んだ。

「遂にここまで着ましたね、センパイ」
「あぁ…なんつーか、扉の向こうが脱衣所ってだけでテンション上がるな」

武志の台詞にうなずく2人。
扉の向こうからは水の音と、女の声。

「そのまま入れば、影で一発でバレるんじゃ…?」

ミキオは、入ったこともない人の家の風呂場の構図を想像して、そう言う。
タンサンと武志も「そうだな」と首を縦に振る。

「よし、ここからは匍匐前進でいくぞ」
「…了解!」

武志の提案に、小さく敬礼する2人。
ミキオは引き戸を少し空ける。中から聞こえる音がより鮮明に聞こえるようになった。

「~♪」
「ちょっと!くすぐったいってば!」
「ナツキちゃんくすぐったがりね~」

シャワーの音の合間に聞こえるナツキと姉さんの声。
「よし」とミキオは腕まくりをして、体制を低くする。

いよいよ決戦の刻だ。

「見せてもらおうか、射勢家のお風呂…いや、彼女たちの性能とやらを。ミキオ、いっきまーす!」

直後、引き戸がガラガラと音を立て勢い開く。

「勢い良く空けすぎだって!」と苦言を吐こうとしたタンサンは、彼の顔を…その驚きに見開かれた目を見て、彼が戸を空けたのではないということを察する。
聖地に足を踏み入れようと身構えていた3人の上に、影が落ちる。

「…?」

3人は来栖真理の役職を忘れていた。
ナツキのお目付け役の彼女が、”危険分子”である彼らを残したまま彼女と一緒に風呂に入るなどということ、考えればありえない事だった。
そして、彼女はこうして今、脱衣所での見張りという任を全うしている。

ミキオたちは、「では、私も」と言って客間を出た彼女も一緒に風呂に入っているものとばかり考えていたのだ。
都合の良い思い込みだったことを知り、ミキオはうなだれる。

「…」

真理は、少し怒ったような、それでいてしょうもない光景を目の当たりにしたような顔で3人を見下ろす。
当の3人は、彼女の目をまともに見ることができず固まる。

「…うがー!お前ワザとやってるだろー!」
「そんなことないよー♪…ってコラ、やめなさい」

と真理の後ろ…半透明の扉の向こうから、ナツキの叫び声が聞こえる。
姉さんの楽しそうな声にミキオは少しだけ得した気分になったが、真理の視線を感じてニヤけるのを止める。

真理は、もと来た廊下の向こう…客間を指し、3人は「ですよねー」と小声で言った。
武志がため息をつくのが早いか、扉は再び閉ざされた。

「…」
「……」
「…ひとまず部屋戻るか」

武志が虚しそうに口を開く。
目の前にある作戦目標は、一瞬のうちに手の届かないものとなった。
いや、最初から手の届かないものだったとも言えるのだが。


×××


「どしたの?」

客間の扉が再び開いたのは、それからしばらくしてからだ。
入ってくるなりナツキは、無気力なミキオの顔を見て少し心配そうな顔でそう聞く。
ミキオは、彼女の青いTシャツのプリントをぼんやりと見ながら「いや、なんでも」と応えた。

「テンションが一気に上がって、一気に下がっただけだから気にしないでくれ」

武志はそう言って苦笑した。
ジャージ姿の姉さんに続き入ってきた真理が、客間の扉を閉める。髪が生乾きなのを見ると、彼女も2人の後に風呂に入ったのだろう。
「急に活きが悪くなったわね」と変な顔をする姉さんの隣で、事情を知ってる彼女だけは目を伏せてやれやれと息をついた。


つづく


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txt:Y256

初出:mixi(10.05.20)
掲載日:10.05.20
更新日:10.05.20