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「ねぇ起きて。ミキオー」

ナツキの声でミキオは目を開ける。
目の前にナツキの黒い瞳。

「てめぇ、なにやってんだ!」

布団の上にちょこんと乗った彼女を改めて見る。
強化合宿で見た薄めのメイクに、黒髪は――いつもの二つ結びではなく――後ろで一本に結ばれている。

「何って…起こしにきたんじゃん☆はい、おはようのチュー」
「や、やめっ…」

顔をグイと寄せる彼女。
そこでミキオは驚いて”目を開けた”。

「うおッ!?」

視界いっぱいに部屋の天井。
半身を起こし重い瞼を開けながら、きょろきょろと部屋中を確認するミキオ。
いつもと変わらない自分の部屋に、一人。

「めずらしく早いじゃない」

居間に下りてきたミキオの顔を見て、朝食を準備していた母・節子は時計を見た。
6時半。いつものミキオならありえない早起きだった。

「なんか嫌な夢見て起きちまった」
「そ。今日あれだっけ?カード大会」

節子はカレンダーの予定を見ながらそう確認する。予定には、「地方予選」とミキオの字で書いてあった。
GT7都市地方予選大会[伊達大会]…。
半年にいっぺん行われるガンダムウォーの頂上決戦「グランドトーナメント」の、文字通り予選だ。

「だぜ」と眠そうに答えるミキオ。節子は味噌汁と白飯を乗せたお盆を手に台所から出てきた。

「あんた強いの?」
「”中級者”ってとこかな」
「自称中級者って事は…初心者に毛が生えた程度かしら」

節子はテーブルに茶碗を置いて笑った。
まだ、完全に起きていない”回転不足の”脳で、母の言葉の意味を考えるミキオの前にそれらが並ぶ。
節子は「朝は白飯に味噌汁と魚」と決めている人だった。

そこで玄関の呼び鈴が鳴る。
音が終わるか終わらないかのところで、玄関の扉が開いた音が聞こえた。

「ういーっす!」

居間にタンサンが入ってくる。
やっぱりな、という顔のミキオと「あらいらっしゃい」と言う節子。
中学生の時分から頻繁に、一時期は毎日この家に出入りしていたタンサンには堅苦しい挨拶は無い。

「あ、タンサンじゃん!」

声の主は、呼び鈴の音で目を覚ましたのだろうミキオの5つ年下の弟、セイヤ。
開けっ放しになっていた居間の扉からタンサンを確認するなりそう叫んだ。
顔つきはミキオにそっくりだが、髪は黒髪の短髪。

「ヴォルフのフューラー、マジチートでしょコレ!倒し方教えてよ~」
「あ~それか。それは援軍のタイミングにちょっとしたコツがあってよ?」

セイヤはここぞとばかりに携帯ゲーム機を持ってきて、タンサンに指示を仰いだ。タンサンはゲームが得意なのだ。
ミキオは朝食を口に運びながら、節子に「父さんは?」と聞く。
「昨日飲み会だったみたい。昼まで寝てるはず」と答える節子の声は、再び鳴った呼び鈴でかき消された。

「開いてるわよー」

彼女はさも平然と玄関の方向に向かってそう言う。
その声を受けて、今度は跳ねるような足音がトントンと聞こえる。

「おっはー☆」

居間の扉から顔を出したのは、ナツキ。
彼女がこの家に顔を出すようになったのは高校に入ってからなのだが、既に節子とは意気が合っていた。
それもミキオの頭を痛くすることのひとつだったのだが。

「隣いい?」

と言いながら、すでにミキオの隣の椅子に腰を下ろしているナツキ。
強化合宿からもう半月が経つが、以来、彼女のメイクは以前に比べて薄い。
褒めたせいでこうなったのは明らかで、ミキオからすれば少し微妙な心境だ。

「なに?」
「いや」

彼女の顔を見ていたミキオは目をそらし、「電車の時間、確認してなかった」と嘯く。
地方予選の会場である伊達総合会館は伊達駅の目の前にあり、電車で行くには丁度いい場所だった。

「あ、真理が送っていってくれるってよ?」
「まじ?じゃあ…今、真理さん待たせてんの?」
「うん☆」

ミキオは、しばし沈黙して「うん☆じゃねーよ」と食器を片付けに立ち上がる。
真理が車を出す可能性を失念していた。

「あんまり真理さん待たせんな。いくぞ」
「いや、一番準備が遅かったミキオちゃんがそれ言っちゃうわけ?」

タンサンはセイヤに「あとはプロイツェン自爆直後に『私はそなたの姉だ!』のイベントを発生させればハッピーエンド楽勝だぜ」とゲーム機を返す。
セイヤは手元に戻ったゲーム機とタンサンの顔を交互に見て「スゲー!」と目を輝かせた。


栗田家を出たところで、ライトグリーンの車体が目に入る。
真理の車だ。

「待たしてスミマセン」
「いえ」

車に乗り込む3人。
ドアを開け、運転席真後ろの後部座席に陣取ったのはミキオ。
「デッキよし、参加証よし」と荷物を確認する。

「今日はウチも後ろー☆」

ミキオに続き、後部座席に乗り込んでくるナツキ。
タンサンは「じゃあ、おれっちは前か」と助手席に座った。

「考えたら、後ろ座ればミキオと隣同士じゃんね!」
「今更かよ。てか、止めろや」

やめろと言われてやめるようなナツキではない。もはや挨拶のようなものになっていた。
車が発進し窓の景色が流れ始める。

ミキオは、視線を窓の外から車内に戻し、隣で彼の腕を軽く握って鼻歌を歌うナツキをちらりと確認した後、自分の腕に視線を落とす。
右手首に腕輪が巻いてある。白と黒の三角形を交互に配した模様のシリコンリングだ。

「あたしを倒した証が欲しい、ですって?」

強化合宿の翌朝…。
ナツキの家を出たところでミキオが口にした希望に、姉さんは眉をひそめた。

「免許皆伝の証!みたいな」
「なによ、それ」

姉さんは飽きれたような顔をしながらも、少し迷ったような顔をして数秒。右手首に巻いてあったシリコンリングを取り、「じゃあ、はい」とそれをミキオに手渡した。

「あざっす!地方予選、姉さんのぶんまで頑張ります!」
「いや、あたしも出るってば」

姉さんは違う違うと手を振った。
確かに「師匠は卒業する」とは言ったが、引退はまだ先の話。


「何?それ」

ミキオの視点が動かないのを不審に思ったナツキが首をかしげる。
言われたミキオは「あぁ」と右手を見せるようにナツキに向き直る。

「姉さんに貰った。免許皆伝のあか…」

そこまで言って、ミキオはしまったと口を閉じる。
「姉さんから貰った物」などとナツキに言えば、その後の展開など見えている。
もう遅いか、と恐る恐る隣に座ったナツキの顔を伺うミキオ。

「…ふーん。じゃあウチはこれあげる!」

彼の予想に反して、と言うか今までのパターンに反して、彼女は姉さんの件をさらりと流し、自分のカバンに付いていたコンコルドをミキオの前髪に付ける。
髪止めで束ねられた金髪の前髪を見て「カワイー」だのとニコニコと笑った。


×××


駅前の駐車場に車を止め、徒歩で伊達総合会館に向かう。


ガラス張りの扉の向こうには、開場待ちの列が見える。
昨年の大会では一番先頭に並んだが、今年は随分先を越されたもんだ。とタンサンは残念そうに言った。

「頑張ろうね☆」
「今回こそはエースのおれっちが…オフィシャルに名前を刻むッ!」
「わくわくするぜ!」

思い思いの抱負を口にする3人。
ドアノブを掴んだのはミキオ。

姉さんに教えられた事。
諏訪部睦月へのリベンジ。
やりたいことは山のようにある。

が、まずは楽しむこと!

「よっしゃ!いくぜ、地方予選!」

GT7都市地方予選大会[伊達大会]の扉が今、開いた。


第30(36)話 戦いの舞台へ




つづく


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txt:Y256

初出:mixi(10.06.04)
掲載日:10.06.04
更新日:10.06.04