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5月の強い風が吹き、2つに結ばれた射勢ナツキの黒い髪が揺れる。
暴れる前髪で視界が遮られ彼女は唸った。
暴れる前髪で視界が遮られ彼女は唸った。
「今の長さが一番微妙なんだよねー…」
指で前髪をかき上げるが、またすぐに風でばらけてしまう。彼女は諦めてパーカーのポケットに手を突っ込んだ。
晴れたのは良かったが、風が強いためか肌寒い。ショートパンツはまだ早かったかな…とナツキはもうひとつ唸った。
晴れたのは良かったが、風が強いためか肌寒い。ショートパンツはまだ早かったかな…とナツキはもうひとつ唸った。
第1(57)話 春の日
「邪魔なら切っちまえよ」
ナツキの隣を歩いていた栗田ミキオが、ちらりと彼女を見ながらそう言う。
耳にかかるくらいに伸ばしたミキオの髪は、以前よりも暗い…茶色で染められている。
曰く「学生指導の先生をギリギリ回避できる色」とのことだったが、効果はいまひとつのようだ。
耳にかかるくらいに伸ばしたミキオの髪は、以前よりも暗い…茶色で染められている。
曰く「学生指導の先生をギリギリ回避できる色」とのことだったが、効果はいまひとつのようだ。
「ダメー。ウチ”黒髪ロング”目指してるんだからー」
ナツキは言い直すように「好きでしょ?”黒髪ロング”」と続けた。
ミキオは話が呑みこめずに、ぽかんとナツキを見やる。彼女は的を射たとばかりにはにかんだ。
ミキオは話が呑みこめずに、ぽかんとナツキを見やる。彼女は的を射たとばかりにはにかんだ。
「…なんのことだ?」
「ホラ、前買ったぐらびあ誌見て言ってたじゃん」
「ホラ、前買ったぐらびあ誌見て言ってたじゃん」
思い当たる節があったミキオは「あれか」とつぶやく。
確かにその女優を好みだと言ったが…だからナツキはあれを目指してるのか?と思い至り、隣の彼女を見て…数秒。
確かにその女優を好みだと言ったが…だからナツキはあれを目指してるのか?と思い至り、隣の彼女を見て…数秒。
「まず胸が足りねーだろ」
「うがー!!なんでそこに行き着くのー!」
「うがー!!なんでそこに行き着くのー!」
噛み付かんばかりの勢いでミキオの腕に取り付くナツキ。
そこまでのやり取りを数歩遅れのところから見ていた羽鳥タンサンが、半笑いで「結構時間ないよー」と言った。
そこまでのやり取りを数歩遅れのところから見ていた羽鳥タンサンが、半笑いで「結構時間ないよー」と言った。
「げ!」
ミキオが時計を見て走り出す。それに続く2人。
3人はガンダムウォーの大会に出る予定だったのだ。
3人はガンダムウォーの大会に出る予定だったのだ。
×××
大会の開始時刻になんとか間に合う形で、彼らが溜まり場としている玩具店『おもちゃのカキヨ』に到着する。
ガンダムウォーの大会は店舗の隣にある対戦スペースと名付けられた古い家屋で行なわれていた。
ガンダムウォーの大会は店舗の隣にある対戦スペースと名付けられた古い家屋で行なわれていた。
対戦スペースは木造建築の古い建物で扉はガラス張りになっており、そこから人影が覗いている。
既に他の参加者は集まっているようだった。
既に他の参加者は集まっているようだった。
「遅いよミキオ!今日は来ないのかと思った」
「わりぃわりぃ」
「わりぃわりぃ」
対戦スペースに入って来たのがミキオたちだと分かるや否や、少年――諏訪部睦月が駆け寄ってくる。
赤黒デッキを駆使するプレイヤーで、ミキオより2つ年下でありながら互角の勝負をする好敵手だ。
赤黒デッキを駆使するプレイヤーで、ミキオより2つ年下でありながら互角の勝負をする好敵手だ。
その睦月の後ろから遅れて歩み寄ってきた少女がいた。
比較的長身で、おかっぱに切りそろえた茶色い髪が特徴的な版十赤音だ。
ミキオたちと同い歳で、ホームショップが同じ睦月の付き添いとして大会に来ている。
タンサンは赤音に気付いて「や」と手を挙げる。
比較的長身で、おかっぱに切りそろえた茶色い髪が特徴的な版十赤音だ。
ミキオたちと同い歳で、ホームショップが同じ睦月の付き添いとして大会に来ている。
タンサンは赤音に気付いて「や」と手を挙げる。
「どうも」
赤音は一見愛想悪そうな口調で、しかしそれなり親しそうな手振りでタンサンに返事をする。
睦月と赤音は半年ほど前に初めてカキヨに来てから、ほぼ毎月のように大会に顔を出すようになっていた。
睦月と赤音は半年ほど前に初めてカキヨに来てから、ほぼ毎月のように大会に顔を出すようになっていた。
「ミキオ、絶対戦力は買った?」
睦月は「そう言えば」と発売したばかりの最新エキスパンションの話題を上げる。
この28弾からは『弩級』や『Lサイズ』などが新しく加わったのだ。
この28弾からは『弩級』や『Lサイズ』などが新しく加わったのだ。
「んにゃ。カキヨは今日か明日には入荷すると思うんだけどなぁ」
「そっか、まだボクも全然揃ってないけどね。買ったらトレードしてよ」
「そっか、まだボクも全然揃ってないけどね。買ったらトレードしてよ」
二つ返事で返すミキオ。
その隣でナツキは乱れた前髪を直していた。
邪魔になるくらいなら、と鞄からコンコルドを取り出して前髪を横に留める。
その隣でナツキは乱れた前髪を直していた。
邪魔になるくらいなら、と鞄からコンコルドを取り出して前髪を横に留める。
「さぁ、受付するよー」
良く通る声で、店のお兄さんが大会の開始時間を告げた。
彼は店の身内なのか、ミキオがカキヨの大会に初めて出た頃からずっと大会を切り盛りしていた。
今日の参加者はミキオたちを含めて10人のようだ。
彼は店の身内なのか、ミキオがカキヨの大会に初めて出た頃からずっと大会を切り盛りしていた。
今日の参加者はミキオたちを含めて10人のようだ。
「赤音ちゃん今日も付き添い?」
受付に並ぶ参加者の中で、ナツキは後ろに並んだ赤音に向き直ってそう言う。
「あくまで睦月の付き添い」と言いつつ赤音はずいぶん足しげくカキヨに来るな、とふとそんなことを思ったのだ。
「あくまで睦月の付き添い」と言いつつ赤音はずいぶん足しげくカキヨに来るな、とふとそんなことを思ったのだ。
「付き添いだ。悪いか?…というか、ちゃん付けはやめてくれ」
「やーめなーい☆」
「やーめなーい☆」
参加者全員の受付が終わったのか、店のお兄さんが対戦相手を読み上げながらスコアシートを机に置いていく。
栗田ミキオの名前は2卓目で呼ばれる。
相手の名前は「アズマジロウ」と呼ばれていた。聞き覚えがあるような無いような名前だ。
勇んでテーブルにつくミキオ。ややあって対戦相手も向かい側に座った。
相手の名前は「アズマジロウ」と呼ばれていた。聞き覚えがあるような無いような名前だ。
勇んでテーブルにつくミキオ。ややあって対戦相手も向かい側に座った。
「あんたが1回戦の相手か」
「あぁ。東だ、よろしく」
「あぁ。東だ、よろしく」
ミキオは「東二郎」と書かれたスコアシートと、相手の顔を見比べながらそう口を開いた。
東次郎は、肩口まで伸ばした黒髪に、縁の無い眼鏡をかけた青年だった。
東次郎は、肩口まで伸ばした黒髪に、縁の無い眼鏡をかけた青年だった。
「見ない顔だけど、手加減はしないぜ」
相手の力量は解らない。だからこそあえてミキオは挑戦的にそう言った。
対する東は「あぁ、来い!」と口にする。最初はずいぶん年上だと思った彼が途端に少年っぽく見えた。
対する東は「あぁ、来い!」と口にする。最初はずいぶん年上だと思った彼が途端に少年っぽく見えた。
取り出される互いのデッキ…。
ミキオのデッキはゴッドガンダム柄のスリーブが着けられたもの。東のデッキはガンダム試作1号機フルバーニアン柄のスリーブが着けられたものだ。
ミキオのデッキはゴッドガンダム柄のスリーブが着けられたもの。東のデッキはガンダム試作1号機フルバーニアン柄のスリーブが着けられたものだ。
「それでは1回戦始めてください」
店のお兄さんがタイマーのスイッチを入れる。
大会開始だ。
大会開始だ。
これは、M県府釜市に住むガンダムウォープレイヤーの達の物語である。
つづく
txt:Y256
初出:Yの遺伝子-Y256の創作置き場-
掲載日:11.06.27
更新日:11.06.27
掲載日:11.06.27
更新日:11.06.27