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#13 発売日に遭遇


「京ちゃん?」
「ん?」

詩織が廊下からあたしに声をかけた。あたしの席は廊下側の後ろから2番目で、ちょうど斜め後ろに教室の扉がある。

「どしたの?」
「今日用事できちゃったんだ…」

そういえば今日は部活が休みになるって言うから、詩織と遊びに行く約束してたっけな。

「あぁ、全然いいよ。気にしないで」

詩織が約束をキャンセルするってことはそれだけ重要な用事なんだろうし。
詩織は高校1年のとき同じクラスだった子で、頭も良く、なによりカワイイ。告白されたって話は月1くらいで聞くけど(笑)、付き合ってるって話は聞いたことないなぁ。

「ごめんね。こんどおごるから」
「期待しとく」

詩織は「じゃあ」と言って自分の教室に戻る。ここで次の数学を手伝ってくれても良かったのに…。

始業ベルがなる。ここから最悪の授業の連続だ。
”魔の金曜日”
あたしはそう呼んでいた。5校時と6校時が、2だかBだかの違いだけで連続して数学…。
去年は詩織が同じクラスだったおかげでなんとかやってこれたけど、今年はまずいかも。前期中間の前に何か対処しないと!

授業は普通に始まり、30分くらいが過ぎた。
さっきまであたしと話していた、隣の席のいっちーはもう熟睡。あたしも限界だぁ…
ノートの上に額をつけたあたし。不意にポケットが小刻みに揺れる…あ、携帯をスーパーサイレントにすんの忘れてた!
うちの学校は公には「携帯電話の校内への持ち込みは禁止」という学則があった。だれも守らないことくらい、先生たちだってわかってるはずなのにね。

どうやらこのくらいの振動音じゃ先生までは聞こえないらしい。…おかげで眠気は覚めた。

『詩織さんなんだって?予定がなくなったんなら俺とカキヨ行かない?今日くらいになれば、さすがに売ってんだろ』

藤野からのメールだ。あいつの席は窓際の中間ほど。いちいち授業中こんなん送ってくるとか…

『行く②(^-^) 詩織用事できたって』

あたしは送信ボタンを押した。藤野は月曜からこの調子だ。
今月末発売のタクティカルスターター「知略の猛将」と「迅雷の騎兵」が早いところではもう発売されてるってネットに書いてあったから、『カキヨ』にもそろそろ入荷するんじゃないか?って。
でもそれは東京とかの”都会”の話であって、こんな片田舎のおもちゃ屋はもっと遅いでしょ。昨日も松岡と3人で『カキヨ』行ったけど、なかったからフリープレイして帰ってきたのに…懲りないわね。

×××

金曜の授業たちは、あたしを疲れ果てさせて帰っていった。ここまでくれば休日はもう目の前!掃除は秒殺してやるわ!

「松岡いる?」

あたしは掃除の帰りに松岡のクラスに寄った。今週の掃除は昇降口だから松岡の2-4は帰り道だ。
ちあきは「松岡ー。京子来たよー」と松岡を呼ぶ。ちあきも松岡も去年クラスが一緒だった仲。呼ばれた松岡は、ちりとりを片手に教室の入り口まで来た。
ほぅ、今日はちゃんと掃除してたか。

「なんだ?」
「いやね、今日も藤野がカキヨ行くって言うからどうかと」

あたしは唐突に切り出す。

「あぁ、悪い今日は無理だ」
「また助っ人?」
「まぁ…そんなところだ」

松岡は運動神経抜群のくせに、どこの部活にも所属してない。でも中学のころの経験から、サッカー部の助っ人としてたまにお呼びがかかっていた。

「わかった」

あたしは4組を後にする。
ホームルームも何事もなく終了して、あたしは自転車で『カキヨ』への道を走る。藤野も今日は自転車であたしの後ろを走っていた。

「風強いな!京子ーパンツ見えてるってー」

藤野が後ろから叫ぶ。確かに今日風強すぎ…。立ちこぎするあたしのスカートがバタバタと音を立てていた。でもね…

「残念ー!こんなこともあろうかとハーパンはいてますから!」

結構大きい声で言ったつもりだったけど、風が強くて微妙だ。
坂を下りて脇道に入る。そこを少し行ったところに『おもちゃのカキヨ』はある。

「あるといいなー」

藤野は自転車のスタンドを足で出しながら言った。今回のスターターは確か緑青と緑赤…白はまたスルー。
あたしは『カキヨ』の扉を開ける。

「これでガンダムと戦える、見事な対応だバンダイッ!」

店内に足を踏み入れた瞬間にカウンターのほうから聞こえる男の声。店頭で叫ぶなよ…。
ってこの声、まさか…。

「やぁ、お嬢さん」

公旗…!あたしがはじめて出た試合で藤野と対戦してたプレイヤーだ。彼はレジで受け取っている箱は…タクティカルスターターだ。

「あ、どうも」

あたしは軽く頭を下げる。

「そうか…君たちも府釜高校の生徒だったのか…私もあそこの卒業生でね」

公旗は笑った。この人うちのOBだったんだ。ってことは、ここら辺に住んでるのかな?

「あの時の決着をつけるというのはどうかな?」

公旗が少し真面目な口調で続けた。あの時?…あぁ試合で3位決定戦するとかって言ってたやつか。

「いいですよ♪」

あたしはカバンの中を確認する。よし、デッキはちゃんとある。勝負よ!

「京子!」

藤野が急に声を出す。あ、そういや忘れてた。

「何?」
「その男は俺と戦わせてくれないか?」

藤野は公旗を見る。そっか、こないだのリベンジってわけね。でも、これはあたしの勝負なんだってば!

「嫌よ!だいたい、今日はこの人から申し込んできたんだし!」

あたしは公旗を指差す。そう言われた藤野は自分の財布を出し、中身を確認しながら何かを計算しているようだった。

「よし、帰りにローソンでペッパーステーキ串おごるから!」

藤野はあたしの前で手を合わせる。マジ?それだったら普通に譲るんですけど!
そんなに公旗と勝負したいわけ??

「しょうがないわねぇ…その約束忘れないでよ?」
「よし!そんなわけで、俺と勝負してください!」

藤野はガッツポーズをとりながら公旗のほうに向き直る。

「あぁ、私は別にかまわないが」

藤野もタクティカルスターターを買い、あたしたちはとなりの空き家へと移動する。
空き家は『カキヨ』と同じく古い建物で鍵もない。風で建物全体がギシギシいっていた。大丈夫なのかここ…?

「失礼、早速タクティカルスターターから何枚かカードをデッキに加えさせてもらうよ」

机に荷物を置いた公旗はまずそう言った。カスタムフラッグを入れるのは間違いないわね…。

「はい。俺もそうさせてもらいます」

藤野も今買ったばかりの箱を開ける。青緑 緑赤の混色って書いてあるけど、実質は緑メインって感じね。00ユニット入れるために、無理やり他の色も入れてみましたって感じ。
二人は黙々とデッキの入れ替え作業を行う。

「できたぜ!」
「私もだ」

二人はほぼ同時にデッキの調整を終える。
藤野が使うのは強力な00ユニット…でもプレイヤーのレベルは公旗のほうがずっと上だろう。
頑張りなさい、藤野!

「「おねがいします」」

二人が頭を下げる。
…始まる!

つづく


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初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:08.05.30
更新日:10.04.14