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#28 最低の相手が来る


「京子ー?」

誰かがあたしを呼ぶ…トイレの前に立った藤野だ。
あたしは涙をぬぐい、ドアノブの握る。

「あのねぇ、女の子がトイレ入ってるのに話しかけにこないでよ」
「悪い…どうしたんだ?目赤いぞ?」
「ごみが入ったの!」

あたしは少し強い口調でそう言って、ずかずか対戦スペースに戻る。

「松岡帰ったのか?」
「うん。あんたの試合はどうだったわけ?」
「それがさぁ…」

藤野が口を開くが、あたしは別のものに目がいく。
最後まで試合をやってた公旗の机…なんか雰囲気が変…?

「藤野、あれ」
「あ?おい、引っ張るなって!」

あたしは藤野の手を引っ張り、その机に向かう。

「後に隠したカードは何かね?青年」

公旗の本国はなくなっていた…負けたんだ。
対戦相手は知らない人。あたしたちより少し年上みたい。

「なんのことです?」

公旗の問いに、わけがわからないという風に返す青年。
”後ろに隠したカード”ってなによ。負けたからっていちゃもんつけてるの?大人気ない…。

「それに、攻撃を受けてなくならない本国…」

ん?言ってることが変…何?この雰囲気…。

「彼がイカサマ…したんだ」

さっき藤野と戦った菊池さんが、あたしの隣で教えてくれた。
イカサマ!?

「負け惜しみは結構ですが、次があるのでそろそろスコアシートを」

険悪なムードの中、喋りだす青年。

「あぁ。負けたのは事実だ」

公旗はあきらめたのか、カードをしまった。
イカサマ…ってこのゲームで?あたしは半信半疑でトーナメントの表を見た。さっきの人は伊賀 正志って名前らしい…。
次の対戦相手はトーナメントの表で見ると…あたし!?確かに隣のテーブルで、公旗たちが対戦してたけど。

「なんだか険悪な空気になっちまったな…京子、俺次の対戦あるから」

と藤野はあたしの脇を離れる。つまりさっきの試合は勝ったのね。やるじゃん。
あたしは…どうしようかな。とりあえず座っておこうか…。

「お嬢さん、ちょっとまて」

イスに座ったあたしの肩を叩く公旗。
向かい側のイスには、すでに伊賀が座っていた。

「なんです?」
「彼はルール違反をした。今信一郎と”強制退去”にしようかと話しているところだ」

本当なんだ、イカサマ…。
あたしの中に、怒りがこみ上げてきた。

「大丈夫です。あたし、やります」

公旗の顔を見て、あたしははっきり言った。

「しかし、お嬢さん」
「やらせてください」

公旗はやれやれといった風に手を挙げて、一歩さがる。

「わかった。ただし、これだけは注意してくれ。ひとつ、熱くならないこと。ふたつ、”目に見えるもの”は常に確認を。それだけだ」

公旗は鋭い眼差しで伊賀を見て、そう言った。”目に見えるもの”…本国とか手札の枚数かな?
この人、変人だと思ってたけど、言うときは言うんだなぁ…。
あたしは伊賀に向き直り、デッキを出した。

「”正々堂々”勝負!」
「…?」

伊賀はとぼけた顔をする。あたしは、机にデッキを音を立てて置いた。

「お嬢さん、早速熱くなってるぞ?」
「いえ、全然♪」

あたしは公旗のほうを向いて、ニッと笑ってみせる。

「助言は無しでお願いしますよ?」

伊賀が静かに言った。
普通は、助言はなしってのは暗黙の了解のはず。それを釘刺すってことは…やっぱり何かしらイカサマをするってこと…。
そして、あたしにそれは見抜けないとなめてる…!

「わかった。お嬢さん、イカサマを見つけたら指でも折ってやるといい」

公旗は言った。顔は真剣。
あはは、冗談に聞こえないよ…。

「では、2回戦をはじめてください」

信ちゃんの声。
さっき公旗と話したからだろう、信ちゃんはあたしのほうを見て心配そうな目をした。

「「よろしくお願いします」」

じゃんけんをする。
あたしのグーは負けた。これはイカサマじゃない。

「僕のターンからですね」

伊賀はターンを開始する。
イカサマ…いったいどんなデッキを使うんだろ…?

×××

お互いにGを出すだけでターンが経過していた。
未だ伊賀に怪しいそぶりはなし。伊賀のデッキは赤と黒のGから推測すると赤黒コントロールかな?

「アストレイアウトフレーム(バックホーム)をプレイするわ」
「許可です」

いつもは4ターン目くらいにしか来ないバックホームが来てくれた。まずはよし!

「ターン終了よ」
「ドロー。配備フェイズ、赤基本Gをプレイしてこのカード、転向をバックホームにプレイ」
「どうぞ」

赤と黒のGが2枚ずつならんで、転向…部品ドロボウはないわ。それに、相手はコストが払えないからバックホームはバニラ当然。

「ターン終了」

あたしはドローする。バックホームがなくたって戦えるし!

「私兵をヴァリアブルで場に。そして、ストライクノワール!」
「許可です」

あと1ターン待てば、このユニットパクれたのにね、残念!

「じゃあ地球に出撃、先制点よ!」
「5点ですね?」

出撃した時点で、すでに伊賀は本国にダメージを受けていた。
早いわね…でも、それだと対抗策がないのがモロにばれてるわよ?

「ターン終了」
「ではリロールフェイズ、転向の資源を払いません。バックホームは戻しで」

結局1ターンだけ奪取?意味不明。
その時、後ろで観戦していた公旗の手が突如あたしの肩に乗せられる。

「いっ…」

あたしは思わず振り返る。公旗の真剣な眼差しがあたしに向けられる。
何??

「助言は…!」

今までとぼけた感じだった伊賀の口調が、急に強くなる。
公旗は「”助言”はしてないさ…」と言ってあたしの肩から手を離す。
何?何?助言するようなとこ?今の?

…まさか

「す…捨て山の枚数を確認してもらっていいですか?」
「っ…。いいですよ」

短い舌打ちをあたしは聞き逃さなかった。
枚数は序盤だけあって少ない。確認して伊賀は「6枚」と答えた。

転向のプレイ時の資源2、ノワールのダメージ5点…1枚足りない!!

「1枚足りなくないですか?」
「そうですか?転向の資源とノワールのダメージで…あ、そうですね。”手が滑りました”」

あたしの中で疑心暗鬼だったものが形を成した…。
くそ、くそ…!

「今さっき、あたしは昔からの友達を快く送り出したとこなの。それなのにあんたね…最低よ、イカサマなんて!」

あたしは伊賀を指差して強い口調で言った。伊賀は何も動揺することなく、本国から1枚カードを捨て山に移す。
たった1枚…そのために公旗は助言してきたんじゃない。”これが伊賀という人間なのだ、今後も注意しろ”と忠告してきたんだ。

「だから…」
「もういいです、続けてください」

何か言おうとした伊賀に、あたしはきっぱり言った。

こいつだけは絶対に倒す!
あたしは手札を持ってないほうの手を握り締めた。

つづく


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初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:08.06.25
更新日:10.04.14