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俺を正志と名づけた親は、この町の役場の前に俺を捨てたらしい。
”らしい”とつけたのはこの話自体が聞いた話だからで、事実とは違う可能性、希望を含めているからだ。

俺は少し離れた都会の孤児院で、幼年期を過ごすことになった。
孤児院はひどいところだった。表では明るい孤児院をアピールしていたが、実際は違う。
院の先生は俺たちを見下し、影で「捨て子」と呼んでいたのは知っていたし、彼らに問いただしても隠しはしなかった。

あるとき、学校友人の一人が、俺をカードゲームというものに誘った。
それなりに楽しい日々が続いた。俺の人生の中にやっと光が見えた。
しかし、大会に出たあの日、全てが変わった…。

1回戦であたった相手は俺を誘った友人、いつもと違う雰囲気。俺は気圧され、負けた。
勝ったあいつは、最後に俺を見た。そのときの顔が、孤児院の先生にそっくりだった。
その時思った…あぁ、ここも同じなんだな、と。

俺を「捨て子」と呼んだ、あいつらと同じだ。
どいつも、こいつも。
なら、そいつらに勝つしかないんじゃないか?見下されないためには、勝つしかないんじゃないか?

俺は必死に努力し、努力した。
プレイングも学んだし、友人とも互角に戦えるようになった。しかし、友人の勝ったときの顔が許せなかった。憎いと思った。


あるとき、都会の大会でイカサマをしているプレイヤーを見た。相手は気付いていないのか、何も指摘しない。結果、そのプレイヤーは優勝した。
俺は次の日からプレイングではなく、イカサマを練習した。イカサマが上手くなるににつれて、勝率も上がっていった。

…これだ、と思った。

「正志はホント強いよな~勝てねえわぁ」

俺を誘った友達はそう言った。
バカが。イカサマしてるんだよ。

「こんなタイミングで引いてきたんですかww」

大会で言われた。
タイミング?イカサマしてるんだから当然だろ。

「マジに勝てん…早すぎる」

当たり前だろ、イカサマだ。

「なんか、つまんなくなってきたぜ…最近全然勝てねえ。俺、今日でやめるわ」

わからないのか?俺のイカサマが。
なぜ勝てない?こんな俺に。


今思えば、言って欲しかったのかもしれない…
「お前、イカサマなんてしてないで、ちゃんと”正々堂々”戦おうぜ?」と…

だが、悲観する意味なんてない。
勝ち続けてる俺が正しい。また見下されたいのか?

相手は負けて悔しがる。俺は勝って黙る。
…その日々のくり返しだった。

友達は俺を誘った奴を含め、全員ガンダムウォーをやめた。
イカサマを見抜けなかった奴らだ…当然だ。

俺は一人になった。
けれど大会に行けば、相手なんかいくらでもいる。

さびしくはない。俺はもともと一人だ。
イカサマがわからない奴など、友達ではない。

歪んでいる?あぁ、そうかもな。
お前らと同じだ。俺を見下したお前らと。



しかし、この大会はいつもと何かが違った。俺を捨てた、この町の大会では…。

「ガンダムヴァーチェでダメージを与えます」
「ああ」

公旗とかいっただろうか、この対戦相手は…
こいつは、いつもの対戦相手と違った。
本国を削り取ったというのに小さく笑い、どうしようもない子供を見るような目で俺を見た。

なぜ屈服しない?なぜ悔しがらない?

「投了だな。…後に隠したカードは何かね?青年」

俺の手札の後ろに隠されたカード…捨て山から余分にドローしたカードを見抜いての発言だった…。
指摘されてもいいように、いくつもの策は用意していた。
しかし、今まで指摘されることはなかった…ここに来て指摘されるとは思わなかった。

対応が遅れる。

ギャラリーがざわつく。

「負け惜しみは結構ですが、次があるのでそろそろスコアシートを」

俺は言葉を選んで言った。
なんだ、この敗北感は…。勝ったのは俺だ!奴の本国を、ユニットを、駆逐したのは俺だ!!!

心の中で叫ぶ。

そして、このどうしようもない敗北感を持ったままの俺の前に、一人の女の子が現れた。
年は俺よりも下のはずだが、そいつは俺のことを真正面から見た。

「”正々堂々”勝負!」

昔、言って欲しかった言葉を今、その子は言った。
もう遅い。俺の手はイカサマで得た黒い勝利に染まってしまった。

倒すしかない。この純粋で無垢な瞳に怒りを灯した少女を。
そうすれば、この気分も晴れるだろうか?
いや、考えるまでもない…晴れないさ。また、俺の心に黒い勝利を刻むだけ…それだけだ。


早く終わらせて帰ろう…この町は嫌いだ。
俺を捨てたこの町は。


おわり




txt:Y256

初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:08.
更新日:10.04.14