拡張躯体:インフレスペオペ文明

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スレイヴ/S.L.A.V.E.


 Sensorimotor Linkage & Acting Voluntary Enlargement body/感覚運動系と結合し代行する随意制御型拡張躯体。
 機刷鎧のさらに先にあるもの。魔術を持つ──というより敵性魔術への対抗手段を必要とする幽接文明が、一定の水準のロボット工学や神経工学、制御工学等を得た時、必然として発生する兵器体系。
 神経接続によって駆動し、もって『人体』としての個体圏域の恩恵を得る、巨大ヒト型機動兵器。有人兵器にして融人兵器。

 定義論としては、上記の条件を満たすあらゆる兵器が、その技術水準や形態に関わらず、スレイヴたりうる。
 人型種族が用いる人型機動兵器も、タコ型種族が用いるタコ型機動兵器も、流体種族が用いる、本来の肉体部より高性能な混ぜ物も。
 歩兵の延長としての陸上兵器でも、亜光速の機動速度を持つ恒星間兵器であっても、扱えるエネルギースケールに億倍の開きがあろうとも、そのすべてが等しくスレイヴとなる。

(が、とりあえず本編で出そうなのは光速のn%が速度単位のハイパーインフレ、かつおおむね人型の形状ばかり、になりそう)
(スピンオフ、別の文明圏でフルメタのラムダ・ドライバ持ちASぐらいに落ち着いた性能のスレイヴも出したい)

 利点は、主に三つ。
 すなわち前述の個体圏域、加えて一定の技術水準以上の場合は、誘導量子神経系とSSSC。


暗能子<アイテロン>

 斥力として働き宇宙を押し広げる第五相互作用、暗能力<アイテール>を量子化したゲージ粒子。
(元ネタ:中国語でダークエネルギーを示す暗能量。厳密には暗+能量なので『暗能』を切り出すのは変だが字面重視で)

元子<アペイロン>

 五つの相互作用が分化する以前、最初期の宇宙にあった原初的なエネルギー。
 光子、ウィークボゾン、グルーオン、重力子、暗能子のいずれのゲージ粒子にも分化しうる。
 幾度の相転移ののち、既に安定しきった現在の宇宙においては、もっぱら再分化機関<リプログラミング・リアクター>からのみ、産出される。

再分化機関<リプログラミング・リアクター>

 【作中時系列の高位文明圏】において広く使用される、ゲージボゾン双変機構。
 炉心たる乱折面型位相欠陥<クラムプルド・テクスチャー>と、その安定器と遮蔽器を兼ねるブランケット、最終的な相互作用を決定づける誘導量子神経系から構成される。

 炉心の人工位相欠陥は、プランクエネルギーを湛えた超高熱・超高圧の原初宇宙の欠片に等しく、その内部の物理法則ではあらゆるゲージ粒子が区別されない。

 この封じ込められた、極小の原初宇宙にゲージ粒子を撃ち込み(扱いやすさから、大抵は光子が使われる)、還元された元子を回収。
 通常空間に復帰した元子の寿命はミリ秒足らずだが、その崩壊/相転移の指向性やタイミングを制御することで、任意の実/仮想ゲージ粒子に再分化させ、ゲージ場を自在に変形させることが可能となる。それはつまり、あらゆる基本相互作用を理論上は制御できる、ということ。
 しかし理論上は〝何でも可能〟であっても、実用的には出力や精度等の限界は常に存在するため、〝再分化機関でしか出来ないこと〟に用途を絞って運用される。
 具体的には、まず第一に、仮想重力子および仮想暗能子の生成と配置による時空曲率の制御、及びその応用による超光速航法など。
 第二に、自身を構成する素粒子間の相互作用のコントロールによる、極めて高度な物性制御が挙げられる。

 再分化の誘導は純粋な量子力学上の作用によっても可能だが、(作中の技術水準の)スレイヴは、フレームや装甲の大半に〝増設された中枢神経〟としての機能を持たせることで銀枝を根付かせ、その確率偏向を転用することで極めて高効率・高精度な再分化制御を行っている。個体圏域に次ぐ、融人兵器の明確な強み。

(一般的な霊渉力学的な干渉、銀枝/銀紋は、あくまで自身の神経系に対してのミクロな干渉しか行えない。体外に対するマクロ作用も原理上は可能であるが、魔術を持つすべての文明種族はその条件を満たさない)

(基本的に、多くの再分化機関は、ゲージ粒子だけではなくバリオン・レプトンの再分化能も有し、これによりモノポールエンジンと同様の動力源としての機能も兼ねている。燃料質量を光子に変え、光子を元子に変えているかたち。
が、最初期の試作品や、小型モデルなどは、自前の質量転換能力を有さず、機関外部からの光子供給に依存して稼働するようなケースもある)

 なお再分化機関が破壊された場合、安定器を失った位相欠陥が蒸発。
 通常真空に相転移する過程で、内包していたエネルギーを吐き出し爆発するが、人工位相欠陥を人工位相欠陥たらしめるのはエネルギーの総量ではなく密度であるため、爆発の規模自体は(再分化機関を生産できる文明レベルからすれば)さして大きくない。最初から加害を目的として造られた兵器の方が上。

製造手段

 核となる人工位相欠陥は、限りなく光速に近い速度に加速された複数の素粒子を衝突させ、瞬間的にプランクエネルギーを叩き出すことで生産される。
 そのために必要となる粒子加速器<コライダー>は、最低でも惑星並み、大きければ恒星公転軌道並みの巨大さを持つこととなり、その建造難度と代替不可能性から、これが恒星間文明において、もっとも技術的に価値あるものの一つとなる。

 すなわち恒星間戦争においては真っ先に狙われる、ということで、
 ゆえに本丸、本拠地、司令部となる機動天体に内蔵される(あるいは加速器をコアとして、装甲や移動能力、防衛装備や居住施設を取り付ける)ケースも多い。

 また再分化機関の製造において、もっとも有用な技術とは、再分化機関そのものである。
 既製の再分化機関の活用によって、再分化機関(及び、他の高度技術品)の新造の難度は著しく低減する。
 よって『最初の一基』が極めて巨大な壁となり、再分化機関『以前』と『以降』の文明には、決して越えられない技術格差が生じることとなる。
 恒星間文明における産業革命とも。

元焔

 再分化機関搭載兵器から放出される、煌めく焔のような光学エフェクト。
 相互作用の極めて薄い元子を100%制御下におくことは原理的に不可能であり、必ず一定量が制御を外れて機体を透過。機体外にてあらゆる種類のゲージ粒子へと確率的に崩壊していくが、
 重力子と暗能子は閉弦束縛されなければ弱すぎ、グルーオンやウィークボゾンは作用範囲が狭すぎて、外部から巨視的に観測ができるのは『光子に化けた元子』の、焔のような輝きのみである。
 再分化機関それ自体の特性や、機体の誘導量子神経系の回路設計等の複数の要因によって、その光学スペクトルには個性が生じる。

重力電磁転壊炉<ジェムブレイカー>

 Gravity-ElectroMagnetic convertible quantum-Breaker
 本来、極低確率でしか起こらない、量子破壊による光子と重力子、電磁/重力の相互変換を、安定して発生させる機構。 とはいえ、もっと単純な機構で可能な電磁的操作を、わざわざ重力越しに行う必要は皆無なため、実際にはもっぱら電磁→重力の方向でしか使われない。

(元ネタ↓ とはいえこれが可逆か、実際効率どんなもんかはよくわからんけど、まあハードSFではないので……
https://physics.aps.org/articles/v13/s33)

 再分化機関より安上がりかつ小さく作れるものの、出力や効率、汎用性の面で劣る。主機に再分化機関を、補助にこちらを搭載する混合運用も多い。
 ジェムブレイカーによって生成された重力子は、一定確率で元の光子へと崩壊。この〝先祖返り〟により、ジェムブレイカーが生み出す人工重力場には、あたかも宝石の破片のような視覚効果が伴うことになる。

元子高速誘導定義炉/RAID<レイド>

 Rapid Apeiron Inducing Definer
 元子の再分化を制御する誘導量子神経系のうち、特に精密かつ機動的な操作を可能とするもの。
 欠点として非RAIDの恒常変換系に比べて変換の容量上限が低く、また即応性を確保するために、常に元子の供給に余力、〝遊び〟を作る必要がある。
 通常空間中においてミリ秒未満の寿命しか持たず保存が効かない、という元子の特性上、結果的に使われなかった元子は、元焔として排出する他ない。

 最速の反応速度を持たせるために、極めて随意的・反射的な感覚にコントロールを頼っている都合上、意識の焦点を合わせやすい部位に。つまり人型スレイヴにおいては主に掌部に、配置される。

閉弦束縛<ディスクロージング>技術

 時空曲率制御技術を支える、重力および暗能力の、事実上の増幅技術。
 閉弦束縛無しには、時空曲率制御のエネルギー効率は極めて劣悪なものとなり、とても実用には供さない。

 前提として、重力および暗能力は、他三種の基礎相互作用に比べ、極めて“弱い”力である。
 この“弱い”が意味するパワースケールの開きは、実に10の数十乗倍。人間が直感的にイメージできる強弱や大小の限界を、遥かに上回っている。

 なぜ、これほどまでに“弱い”のか? それは閉弦である重力子<グラビトン>と暗能子<アイテロン>だけが、次元の束縛を受けず、高次元方向へと常時、流失しているためである。我々が日ごろ体感できる重力というのは、本来あるべき重力の大半が余剰次元へと流れた後の、僅かに残った絞りカスに過ぎない。

 閉弦束縛<ディスクロージング>技術は、その流失を抑制する。通常ならば余剰次元に逃げ隠れてしまう閉弦<closed-string>を、三次元ブレーンに一時的に固着させて暴き出す<disclose>。
 結果として、閉弦束縛は重力および暗能力を増幅する──より正確な原理としては『減衰が無効化』され、その作用領域内では10の数十乗倍、他の相互作用と同等の強度までパワースケールが拡張される。これにより、実用的なエネルギー効率での、時空曲率制御が可能となるのである。

 ちなみにこの重力・暗能作用の増幅は、再分化機関やジェムブレイカーによる人工的な時空曲率制御だけでなく、自然の重力場等に対しても同様に作用する。
 そのため惑星や恒星を閉弦束縛場で覆うだけで、『本来あるべき自身の重力で』重力崩壊を起こすことになる。

無因果型共時性連関通信/Superluminal Strange Synchronicity Communication


 超光速通信。規格化されたテレパシー。
 たとえるなら、遠く離れた二点で同時にサイコロを振って、同じ目が出た時。
 それを『情報が伝わった』と見做せるか? といえば見做せない。情報が伝わっていないのだから、光より早く『同じ結果』を離れた二者が得ても問題ない。
 では、二回振って二回とも同じなら? 三回振って三回とも同じであれば? 百回振って、百回とも同じであれば? ──というのが、物理世界の因果律を破らないまま、SSSCが光速を超えて情報を共有できる理屈である。無論、そのような奇跡的偶然は、思考実験の中では起こり得ても実際の確率としては、まず起こらない。

 が、幽接生物の神経系が引き起こす『奇跡的偶然』には、このような奇怪な一致も含まれる。
 つまり、いまだ正体のわからない【魂】、光速限界を持たない非物理系を通って情報が伝達されており、物理世界の各幽接ノードで起こっているのは量子の確立ゆらぎに付け入っての表出に過ぎない、というのが本質。
 根本的なSSSCの原理は分かっていないものの、経験論の蓄積として、純物理的な通信で可能な情報の送受信は、おおむねSSSC上で可能となっている。
 しかし大規模で複雑、常設的なネットワークを築くのには向かず、必要な時、必要な相手とのみ繋ぐのが基本。

 SSSCによる超光速での情報共有をストレートに行えることも、融人兵器の強みのひとつ。

慣性質量制御

 そのまま。ヒッグス機構に割り込むことで実現する。
 実のところ、一般的な物質の質量において、ヒッグス場が素粒子一つ一つに与える質量は比率としてわずかであり、その大半は素粒子『間』の結合・束縛エネルギーによるものである。
 そのため質量を増やす分にはシンプルにヒッグス機構を強めるのみで問題ないが、ヒッグス機構を弱めたところで減らせる質量には限界がある。
 そのため慣性質量の低減は、『質量を減らす』のではなく、『負の慣性質量を付与する』ことで正質量と相殺し、結果的にゼロに近付けている。

穿天航法<ペネテレーン・ドライブ>


重力波浪<グラビティ・ハロー>

 時空に孔を穿ち、負のエネルギーを注ぎ込んで保持される穿天路は、極めて不安定な時空構造である。
 重力波浪とは、この穿天路の繊細な均衡を崩して圧壊に導き、穿天航法による空間転移を阻害するための、人工的に発振される重力的ノイズを指す。
 名前の由来は、荒れ立つ重力の波浪が、あたかも後光<ハロー>のように揺らぎながら広がる点から。

穿天航法以外の超光速航法に対する、重力波浪の有効性

 重力波浪は、基本的に穿天航法に対する阻害能力を主眼においてノイズ波形が設計され、また実際に運用される。
 これは穿天航法が超光速航法のなかで圧倒的なメジャーを占めているため。
 しかし、では穿天航法以外のマイナーな超光速航法に対しては重力波浪は無力か? といえば、そんなことはまったくない。

 そもそもあらゆる超光速航法は、それが超光速航法である限り、必ず、極めて精緻な時空間の操作を不可欠とする。例外はない。
 そのため、その操作対象をかき乱す重力波浪は、多少の阻害強度の差はあれ、既知のすべての超光速航法に対して有効である。

混天儀<ケイオスフィア>

 重力波浪の、継続的・恒常的な発振能力を備えた施設や設備を指す言葉。天をかき混ぜ、波立たせるもの。
 超光速航法を用いた空間転移は、文明中枢への直接的な強襲を可能とする。悪意を持つ異種文明に座標を知られた次の瞬間には、首都に反物質の塊が転送されても、不思議ではない。
 恒星間戦争においては、超光速航法それ自体が、戦術兵器の質や量の差など遥かに凌駕する、戦略的脅威である。

 よって超光速航法への対抗技術としての混天儀、重力波浪による広域転移封じは、恒星間文明にとって安全保障上の『必需品』である。
 自身の超光速航法の利用も制限される点や、発振される重力波浪がそのまま存在シグナルとなってしまう点など、デメリットもあるものの、背に腹は代えられない。

 なお、デメリットの後者、発振される重力波浪によって自らの存在と座標を露わにしてしまう問題に関しては、ひとつ、解法が存在する。
 木を隠すなら森の中。すなわち、自己複製型の混天儀の無差別・無作為拡散である。


静天路<セレーン>

 混天儀の転移阻害に対する、さらなる対抗技術。
 混天の中において、静謐なる(serene)天路(celeste lane)を拓くもの。

転移ノード


陰陽<ブラック・サン>

 ブラックホールを高次元方向に拡張することで造られた、人工的な高次元ブラックホール解(ブラック・オブジェクト)のこと。
 基礎研究ではマイクロブラックホールを、技術実証や試作の段階では天体質量ブラックホールを用いた陰陽も製作されているものの、この質量規模では得られる出力が生産難度に対して見合っておらず、実用的とは言いがたい。
 恒星間戦争における、戦略的『実用品』としての陰陽は、もっぱら中間質量ブラックホールを素体としたものである。当然、その建造と維持には、文字通りに天文学的なリソースを要求され、これを賄える勢力は広大な既観測宇宙の中でも数えるほどしか存在しない。最大最強の文明複合体である【名称未定】でさえ、保有する(実用的な質量の)陰陽は、十に満たない。
 理論上は中間質量ブラックホールに留まらず、銀河中心、超巨大質量ブラックホールの陰陽化も可能と推測されているが、現実的には、その実現に必要なリソースは、現存する全文明のリソースの総和を遥かに上回っている。

 機能としては、常に莫大な重力ノイズを発振しており、これが超広域・超高強度の混天儀としても作用する。が、陰陽の持つポテンシャルは、たかが『非常に強力な混天儀』には収まらない。

 そもそも、

キャリゲート艦


主観偏移<パララクス>航法


前駆放射

 いかに優れたレーザー発振器・粒子加速器であってもエネルギー損失はゼロではなく、
発振や加速の過程では、必ず投入エネルギーの一部が電磁パルスやニュートリノ、重力波等の放出という形で失われる。
 この、撃ち出す過程で漏出する────言い換えれば、DEW発射の直前に放射されるエネルギーを、〝前駆放射〟と呼ぶ。その強度はおおむねエネルギーの総量に比例し、かつその比率は小さい。対人級のDEWであれば、前駆放射は検出不能なほど微弱なものでしかない。
 が、高位文明製のスレイヴの戦闘において用いられる(≒有効打となりえる)DEWの出力は、最低でも数ペタジュール級。最大では数百エクサジュールに達するものすら存在する。
 この域の投入エネルギー量であれば、その極一部の漏出でしかない前駆放射も十分に観測可能な強度を得る。結果、DEWが『発射された』ではなく『発射される』ことを、前駆放射の観測で一瞬だけ先んじて知覚可能。
 光速や亜光速のDEWをスレイヴが回避・防御可能な理由がこれ。超光速通信であるSSSCと合わせて使えば、事前に察知可能な猶予時間はより伸びる。

 端的にいえば、目標内部に高エネルギー反応! がお互い筒抜けの状態ということ。威力が高い攻撃ほど、前駆放射もまた鮮明であり、ゆえに対応されやすくなる。

 ただし現在の戦場ではチャージに時間を掛ける(=時間あたりの投入エネルギー量を減らす)ことで、ギリギリまで前駆放射を低減させつつ高威力砲撃を放てる狙撃型や、
 『あたかも前駆放射のような、単なる低エネルギー発振』で敵の防御リソースを空費させる空砲型、味方の火砲の前駆放射を掻き消すようノイズを流す擾乱型などが双方に存在し、前駆放射を巡った戦術も一筋縄ではいかない。

 加えて、射撃/砲撃のみならず、近接戦闘にも、前駆放射は関わってくる。
 スレイヴの機動速度は光速のn%を基本単位とし、その肢の末端速度は亜光速に達する。慣性質量が限りなく低減されていてもなお、そこには莫大な運動エネルギーが発生する/莫大なエネルギーが注ぎ込まれている。
 そしていかに優れた推進器やアクチュエーターであってもエネルギー損失はゼロではなく、動作の『入り』の時点で────あらゆる一挙手一投足に、僅かながら前駆放射が発生してしまう。

 その『基本動作に応じて発生する前駆放射』は射撃/砲撃のそれに比べて遥かに微弱で、飛び道具の距離では観測はほぼ不能。しかし近接戦闘の間合では、お互いに感じ取れてしまう。つまり戦術の俎上に乗る。

 さながら生身の武術家が、敵手の視線のブレや筋肉の引き攣り、呼吸と脈のリズム。そうしたわずかな前兆を読み・また己のそれを欺瞞するがごとくに、
 スレイヴ同士の近接戦闘では、前駆放射という動作の前兆を読み合い・騙し合い・詰まし合う、亜光速域の駆け引きが発生することとなる。

 以上、およそいかなる交戦距離であっても、前駆放射が影響しない機動戦闘など存在しない。

 スレイヴにとって、前駆放射を〝見る〟ためのセンサー感度は、単純なエネルギー出力や攻撃力、機動力や防御力に並んで、重要な能力値である。

バースター兵器

 指向性エネルギー兵器のうち、発射機構の耐久性と耐用性を犠牲にしたものを指す言葉。
 端的に言うなれば、一発撃つたびに銃身が熔け崩れて砲身が吹き飛ぶ、加速器や発振器というより『指向性をもって爆発する爆弾』である。
 ある意味では、原始的な火薬銃器に回帰している、とも言える。

 デメリットは、そのまま。耐久・耐用を軽視したものでは一発撃つごとに発射機構の修復・再生プロセスに時間を要し、
 無視したものは完全な使い切り。連射は不能であり、こと継戦能力と経済性においては、標準的なDEWに大きく劣る。

 ではメリットは?
 主に挙げられるのは、三つ。一つは単純な出力。二つ目は一基あたりの生産コスト。
 そして最後が、速射性ではない『即射性』である。

 光速・亜光速のDEWに対し、スレイヴが対処可能な最大の理由は、前駆放射の観測である。
 扱うエネルギーの総量が莫大であるがために、DEW発射直前の、割合では極僅かな電磁パルスやニュートリノの漏出すら、前兆として観測可能な強度を得てしまう。
 高エネルギーな砲撃であれば、発生する前駆放射が鮮明となり、敵に対処されやすく、
 一方でエネルギー量を減らせば前駆放射は読まれにくくなるものの、当てたところで有効打になりえない。

 このジレンマに対する一つの解が、『チャージ時間を長く取り、時間あたりの投入エネルギー量を減らすことで、前駆放射をギリギリまで低減させ、観測されないようにする』スナイパー型であり、バースター兵器はその対極。

 『どれだけ鮮明な前駆放射が発生・観測されようが、実射とのタイムラグが限りなく小さければ対処は不能』という、いわばクイック型である。通常の加速器や発振器では、砲身への負荷や制御の問題から、発射プロセス全体の所要時間の短縮にはどうしても限界があるが、
 ただ点火して起爆するだけの、指向性の爆弾たるバースター兵器にはその制約は存在しない。敵手のDEWの種別や距離などにも左右されるが、条件がよければ『敵砲の前駆放射を見てから〝後の先〟を取る』ことすら可能となる。

火面兵器

 指向性エネルギー兵器の分類、というより撃ち分け可能なモードの一つ。

 細く絞り込む火線兵器は当てれば確実に有効打になるが命中させにくく、
 三次元的に拡散させる火錐兵器は、比較的当てることは容易いものの、どうしてもエネルギー密度が低くなってしまう。

 火面兵器は、その中間。
 扇状、平面的に拡散させることで、それなりの攻撃範囲=命中性を確保しつつ、
 同距離・同総エネルギー量という条件において、火錐兵器より遥かに高いエネルギー密度を実現する。


相転移砲

 指向性エネルギー兵器の一種。
 弾道始端、発射された瞬間には弾体が観測できず、その次の瞬間から射線上の虚空より光子の塊が溢れ出す。以降、駆け抜けた距離に比例してどんどんと光子が、総エネルギーが増えていく──
 と、見かけ上は『射線を走れば走るほど威力が上がるレーザー』のような、極めて異質な挙動を取る。

 してその弾体は、原初粒子たる元子<アペイロン>。 
 撃ち出した観測不可能な元子の塊が、随時観測可能な光子へと崩壊していくことで、
 あたかも『射線を走れば走るほど威力が増していくレーザー』のように見えている、というのが実態である。発射した元子すべてが光子に変われば、ただのレーザー兵器と相違ない。そして相転移砲にとって崩壊後の光子とは副産物でしかなく、その加害能力の本質は、まさに崩壊の瞬間。

 ほとんど相互作用をしない、という性質によって敵の障壁も装甲もすり抜けた元子が、
 まさに敵の内側で、相互作用を持つ光子に相転移することによる、防御不能の内部破壊こそが本領である。

 観測不能・不干渉な状態に置かれていたエネルギーが可干渉状態にシフトすることによって、
 理論上は敵の内側を直に灼きうる、という点では、マイクロブラックホール兵器にも近しいが、
 MBHの蒸発『点』を、対基地・対要塞・対天体などならともかく、同スケールの機動兵器が描く軌道に直撃させることは不可能といっていい。戦術兵器としてのMBHは、ホーキング輻射によるガンマ線の爆風で広い範囲を浅く焼く、いわば榴弾としての運用がもっぱらである。

 一方、『線』、あるいは『面』、あるいは『錐』状に、漸近的に崩壊座標を伸ばす相転移砲は、MBHに比べてはるかに座標を『合わせ』やすい。単位体積あたりの実体化エネルギー量自体は弱くとも、繊細な内部を直に攻撃できるならそれで十分。

 なおデメリットは、現宇宙唯一の元子供給源である再分化機関と直結する必要がある点と、ほとんど相互作用をしない元子を、元子のまま高密度圧縮・加速・発射するために、非常に複雑で高度なプロセスを踏む必要がある点。
 他のDEWの十倍以上の時間、きわめて独特な前駆放射を垂れ流し続けるため、相転移砲を撃つ前に、敵の通常のDEWによって蜂の巣にされてしまうことも。


重力波兵器

 指向性エネルギー兵器の一種。
 自然界ではありえない短波長・超高強度の重力波動によって、瞬間的に巨大な潮汐力を発生させ、万物を引き裂きあるいは圧壊させる。
 重力波であるために非常に高い透過性を持ち、防御が難しい、という点では、相転移砲とニッチが被っているが、重力波兵器の方が相転移砲よりも生産も制御も容易で、射撃プロセス全体に掛かる所要時間も大きく勝る。
 しかし相転移砲より制御は容易い=必要な演算リソースは少ないが、要求エネルギーの燃費は悪く、同じ時空曲率制御により防御・軽減され、かつあくまで力学的・機械的な負荷を掛けるに過ぎないため、素の強度&慣性質量低減で耐えられる可能性もある。一長一短。




レギオン/L.E.G.I.O.N.

 Legion of External Ganglia Individual-Overextend Network/体外神経節群による個体過拡張ネットワークの軍勢、の再帰的頭字語。

 つまりファンネル。ビット兵器。

 単なる補助子機・無人機などはレギオンとは呼ばれず、拡張を超えて本体から物理的に分離した端末に、なお銀枝が宿り続けて。
 つまり一つの魂が、物理的に分かたれた複数の神経系と並列接続し、擬似的な群体化を果たして初めて、レギオンたりうる。

 レギオンユニットの一つ一つが個体圏域を纏い、誘導量子神経系により元子の再分化を十全に制御し、かつSSSCによる超光速での連携を可能とする、という点でスレイヴ『部隊』と同等でありながら、
 すべて『一人』であるために複数人では不可能な域の、完璧に統御された連携をこなせる、という非常に強力なシステムだが、適合者が大きく限られる。
 このレギオン適性は脳機能ではなく、未だ原理も所在も掴めない【魂】にほぼ完全に依存しているため、人工的な強化なども難しい。

惑星規模居住構造体<テラストラクチャ>

 広義では、巨大居住構造体<メガストラクチャ>の中でも、並外れて巨大なもの全てを指す。
 狭義では、広義に加えて、その内部に完全な生態系を有している、という条件が追加される。

 メガをも遥かに上回る巨大さゆえのtera<テラ>と惑星規模であるためのterra<テラ>のWミーニング。
 広義と狭義の違いは、『惑星規模』を単なる大きさとして見るか、それとも生態系の器という機能をも含む、と見るかの違いである。

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