まだ空に星が瞬く頃、チチはパチリとその大きな瞳を開いた。
都会の繁華街ならば、終電を諦めた酔客達が、始発まで待とうと覚悟を決めた時間に目覚める習慣は、
結婚してからずっと続いている。
目は覚めたのだが、だるくて起き上がる事ができない。
ヤードラットから帰還した悟空は、妻に触れることすら叶わなかった2年余りの歳月を取り戻すかのように、
毎夜チチを求めた。そして、ひとたびその身体を腕の中に収めると、チチが意識を失うまで離そうとしなかった。
チチは夕べも意識を飛ばし、そのまま寝入ってしまったらしい。おそらく3,4時間しか寝ていないだろう。
本当はもう少し横になっていたかったのだが、この時間に起きて朝食の支度に取り掛からないと、大食い親子を
満腹にさせるだけの量は作れない。
鉛のように重い体を起こし、隣に大きな口を開けて寝ている悟空を起こさぬよう、そっとベッドから降りた。
夕べ記憶に残る最後の悟空の姿は金髪碧眼だったが、今は黒髪に戻っている。いつ、何をきっかけに超化を
解いたのか、チチは不思議に思いながら寝室を後にした。
身支度をしようと、夜着のボタンをはずした時、姿見に映った自身の胸元を見て、チチは絶叫した。
「ぎええぇぇぇぇぇっ・・・!」
鏡に映ったチチの白い首筋から鎖骨にかけて、昨夜の名残の赤い痣が無数に散りばめられている。
胸元ばかりではない。その丸い肩口から二の腕、折れてしまいそうに細い手首にまでも、悟空の「印」が点在
している。
「ご、悟空さ、あれ程、見える所にはつけねぇでくれって言ったのに・・・夢中になると見境が無くなるんだから!」

昨晩のことが頭をよぎる。
深く口付けを交わした後、悟空の唇は大きくのけぞる首筋をたどり、浮かび上がる鎖骨に降りてくる。
「チチは柔らかくて旨そうだな。食っちまえそうだ」
そう言って、肌に優しく歯を立てられると、チチは思わず切ない声を漏らしてしまう。その声をもっと
聞きたくて、悟空は妻の身体のあちこちを甘く噛み、時には音を立てて強く吸い上げ、その時々に
よって異なる啼き声を愉しんでいるのだ。
サイヤ人が襲来する前の悟空は、チチが懇願すれば口づけの範囲を広げないだけの自制心が
あった。しかしヤードラットから帰ってきてからは、もともと少ない理性に益々歯止めが利かなく
なったらしい。それも超サイヤ人になったことと関係があるんだべか?チチは首をひねった。
「はぁー。これじゃ、長袖を着ねえとな・・・」
季節は初夏を迎え、北方に位置するパオズ山とはいえ、日中は汗ばむほど暑くなる。本当は
ノースリーブのチャイナ服を着る予定だった。
「東の439地区、明日は晴れて気温も高くなるでしょう。」
夕べ、天気予報のキャスターの言葉を思い出し、チチは憂鬱になった。しかし、この恥ずかしい
痕跡を人目に晒すことはできない。絶対に嫌だ。
長袖でもなるべく薄手の物をと、チチは白いシルクのブラウスを選んだ。ところが、これにも問題が
あった。
白いブラウスは、光の加減によっては、チチの身体の滑らかな曲線を、影絵のように映し出して
しまうのだ。そればかりか、ブラジャーのレース模様まで、くっきりと浮かびあがってしまう。
他の者はいざ知らず、生真面目なチチにとっては裸で表を歩くことと同じくらい恥ずかしい事だ。
だからといって厚手の服は着たくない。仕方がないので夏物のベストを羽織ることにした。
こうすれば身体の線も下着の線も透けて見えることはない。
やれやれ、これで大丈夫だべ。と、夜着からその細い足を抜き、スカートを穿こうとしたそのとき。
「ぎええぇぇぇぇぇっ・・・!」チチはまた絶叫した。
透きとおるように白く、むっちりとした太ももの内側から、すらりとしたふくらはぎ、きゅっと締まった
足首にかけて、また赤い花びらが、そこかしこに落とされている。ご丁寧に膝の裏にまで付けられていた。
「な、何でこんな処にまで・・・」チチは絶句した。

「や、約束が違うでねか!」
「違わねえぞ。ちゃんと電気消してやっただろ?」
チチの抗議には耳を貸さず、悟空はチチの膝の間に身を置き、両膝の裏に手をかけて、脚をM字型に
大きく開いた。チチは股間に風が当たるのを感じ、悟空の視線もその部分に注がれているのを感じた。
夫に凝視されていると分かっただけで熱い泉が湧いてくる。だが悟空は秘部には触れず、チチの脚の
付け根の色が変わる辺りに吸いつき、腿、膝頭と舌を這わせながら、足元の方へ身体をずらした。そして、
足の指を一本一本ねぶると、今度は反対の足の指をねぶり、足首から太ももにかけて唇を落としていった。
それでも肝心の部分には触れてこない。チチはどうしようもない掻痒感を覚え、両脚をすりあわせようとしたが、
悟空の左右の脇に抱えられているため動きが取れない。チチが焦れているのを察した悟空はチチの脚から
口を離し、秘所に顔を近づけた。
「はあっ、やっ、ああ!」
悟空の荒い息がチチのソコにかかっただけで、チチは銃で撃たれた小鹿のようにひくつき達してしまったのだった。
「なんだあ、チチィ。おめえ、もうイっちまったのか?俺は指一本だって、ココに触っちゃいねえんだぞ。
じゃあ、おめえの一番欲しいモンやっからな・・・」
超化した悟空は愉快そうに言って、ぐったりとしたチチの両腿を抱え、猛った己自身をチチの中へ刻み込んだ。

 チチはそこで我に返った。夕べの事を思い出しただけで身体の中心が火照る。
とりあえず長いスカートを穿いた。これならば昨夜の「証拠」は隠れてしまうだろう。姿見の前で身を翻すと、
スリットから覗く白い脚に「証拠」はくっきりと残っている。どうやらチチは痕がつき易く、消えにくい性質らしい。
肌が抜けるように白いために余計に目立つ。こうなると「色白」も考え物である。
 チチはスカートの下にズボンを穿くことにした。快適さか、良妻賢母としての慎みかを秤にかけ、
慎みを選んだのだ。
 予定していた服装に、いろいろな変更があったため、いつもより支度に手間取ってしまった。チチは急いで
髪を結い上げた。豊かな黒髪は家事の邪魔になるからと、昼間は高く結い上げられている。後ろ髪のほつれを
確認しようと首を捻って鏡を見ると、うなじの辺りに何かの型がついているのに気づいた。首筋を鏡に近づけて
うなじをよくよく見てみると、それは人の歯型だった。
またしても、夕べの出来事が脳裏に蘇える。
四つ這いにされ、尻を高く上げさせられ、後ろから悟空に激しく突きこまれた。悟空は突き込みながら、
チチの身体に手を回し、右手の中指で肉芽を玩び、左手でチチの左の乳房を揉んだ。床についた
チチの膝がガクガクと震えた。それでも悟空はイク事を許さなかった。
「まだイくなよ。一緒に、俺と一緒にだぞ・・・」
そう言って、後ろからチチのうなじを噛み、手放そうとしている意識を戻した。激しい突き込みの後、
チチは耳元で悟空の低い呻き声を聞き、同時に身体の奥に熱い塊が注がれるのを感じた。悟空は
うなじから口を離し、チチに共に果てることを許した。

 「く――――っ!!」チチは唇をかみ締めた。
 涼しさを完全に諦めたチチは、首にスカーフを巻いた。この日のチチのいでたちは、上はブラウスにベスト。
下はズボンを穿き、その上にスカートを重ね履き。首には黄色のスカーフ。これで防虫ネットのついた
麦わら帽子をかぶれば養蜂家である。
 チチは性的なことが苦手なのだ。悟空との性交渉を否定している訳ではない。女としての悦びも知っている。
でも、それは人目につかぬところで行われる夫婦として当然の行為だ。だが表立ったところで、性的な表現を
見聞きすることには抵抗がある。ましてや自ら性的な事柄を口にすることは勿論、それを匂わせるような行動や
服装は出来なかった。
 身体中についた印は、自分の性生活の象徴に他ならない。チチにとっては人目に触れることは許されない。
人目といっても、この山中でチチの周りにいるのは、印を付ける張本人である夫と、まだ7歳の息子。そして
孫の顔を見に3日と開けずに遊びにくる実の父親。他人といえば、男女の違いがイマイチ分かっていない
ナメック星人の居候だけだ。
 それでも、いつ他の誰かが来るかもしれない。自分が痣の一つ一つから、その行為を思い出してしまうように、
他人にもその印から二人の営みを連想されてしまいそうで、チチは怖かった。
 脚を大きく開かされ、その中心に顔を埋められ、花弁を舐め上げられる度に大きな声を出してしまう姿を。
夫から請われるままに恥ずかしい言葉を口にする自分を。二人の汗の匂いまでをも、身体についたマークは
鮮明に再現してしまうような気がした。

その夜。
風呂から上がったチチが寝室に入ると、悟空はベッドの上で、母親の帰りを待ちわびた子供のように、
にかっと笑った。チチの腕を取りベッドに引き込もうとする悟空の手を、チチは振りほどいた。
「悟空さ。おら、頼みがあるんだ」
頼み、と言われて悟空の顔は曇った。
「な、なあ、チチ。オラ、おめえにはホントに悪ィと思ってんだ。オラの稼ぎが無ぇから、おめえにばっかり
苦労かけちまって・・・でもよ、あと3年で地球そのものがやばくなっちまうんだ。仕事の話は人造人間の
ことにケリがついたら、そん時、改めて考えっから。なっ。だから今は・・・」
「その事もあるけど、今はその話じゃねえだ」
「仕事」の話ではないと分かった途端、悟空は顔をほころばせた。
「ん?じゃあ、なんの話だ?」
促しても、チチはベッドの横に突っ立ったまま、真っ赤な顔をしてもじもじしている。普段はポンポンと
威勢のいい妻が口ごもるのは、「エッチ」なことに関係する時だということを悟空はよく知っている。
悟空は勢いよく上半身を起こし、ベッドの脇で立ち尽くす妻の身体を捕らえると、そのままベッドに
倒れこみ自分の下に組み敷いた。
「言ってみろよ。どうして欲しいんだ?いっくらでもキモチよくしてやっから。遠慮すんなって。
オラとおめえの仲じゃねーか」
「そ、その逆だ!」
「へっ?」
「もう、おらにキスしねえでけろ!」
あまりの要求に悟空は声も無く、組み敷いたチチを見下ろした。

「これ、見てけれ!」
チチは夜着の袖をたくし上げ、その細い腕を悟空の前に突き出した。夕べから24時間近く経ち、
風呂に入った後にも関わらず、まだうっすらと「証拠物件」は残っていた。
「ははっ。おめえ、消えにくいタチだなあ」と悟空はのん気に言った。
「誰のせいだと思ってるだ!おかげで、おらはこの暑いのに半袖も着れねえだぞ」
「暑かったら涼しい格好すりゃいいじゃねえか」
「この痕が見えるのが嫌なんだ!」
「なんで?」
「だって・・・こっぱずかしいでねか・・・」
「そっかあ?」
非常識のカタマリのような夫と、常識と公衆道徳のカタマリのような妻の会話は、容易にかみ合わない。
「とにかく、目に付く処にはキスしねえでけれよ。首と肩、手と足は絶対に駄目だべ」
悟空はチチの身体を見下ろし、釈然としない面持ちで禁止された区域を確認した。
「なあ、目に付く処は駄目だって言うけどよ、ここも駄目なんか?」
ちゅっ。悟空はチチの花のような唇に口づけた。
「そ、そこは・・・」もちろん、OKである。チチは頬を染めて、こくんと頷いた。
そんな妻の愛くるしい仕草に、悟空のイタズラ心がむくむくと頭をもたげた。
当然、下半身もむくむくと頭をもたげた。
「じゃあさ、ここは?」
悟空はいつの間にかチチの夜着のボタンを外し胸元に手を入れていた。
そして、ふっくらとした胸の上にあるピンク色の突起を、人差し指で捏ね回した。

「やんっ。あん、悟空さぁ・・・」
「ここは目につかねえ処だからいいんだよな?」
悟空はニッと笑った。
「ココも目につかねえ処だからいいんだよな?」
悟空の右手は夜着の裾をたくし上げ、チチの濡れそぼった溝を下着の上からツーっとなぞった。
「んっ、はん。ダメ・・・」チチは身をくねらせた。
「ん?ダメなんか?ココは目につかねえ処だろ?あっ。オラは見てもいいんかなあ?」
とぼけた調子で尋ねながら、悟空はチチの下着の中に手を差し入れ、直接その場所に触れた。
花芯を擦る指の動きに、チチはこのまま悟空に身を預けてしまおうと思った。が、それでは元も子もない。
「なあ、ご、悟空さ・・忘れねえでけれ・・目に付く処には・・なっ?」
喘ぎながらも念を押した。
「おう。わかってるって」
能天気な夫の返答に、大丈夫だべか、とチチは一抹の不安を覚えた。何といっても、人造人間襲来の
日時を忘れてしまうような男である。おまけに、まだ黒髪のままだが、半裸の妻を組み敷き、その瞳は
妖しい深緑色の光を放ち始めている。
案の定、その晩もチチの白い柔肌のあちこちに、所有者の刻印は押されてしまった。
「悟空さ!あれ程、目に付く所にはキスしねえでけれって言ったのに!もう悟空さはメシ抜きだ!」
「いいっ!!オラのせいかよ?!おめえだって、噛んでやってる時は、イイ、イイって、
でっけえ声出してヨガってたじゃねえか。オラ、その声聞いてたら、つい・・」
そう。悟空の言う通り、チチもその最中は悟空の指や唇が自分の体の何処を這っているか分からない程、
行為に溺れているのだ。
身体中についた「愛のシルシ」と自身のモラルの間で、チチの服装に関して悩む日々は続くのであった。

[完]

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最終更新:2008年11月26日 12:59