『相棒』ガリュウ(シリアス・381氏)


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2007/03/28(水) 21:19:58 ID:dGpin0AD

ノスワルドの辺境の森に一匹のドラゴンがいた。
そのドラゴンはガリュウと呼ばれ、とても凶暴な性格をしていたので人々から恐れられていた。
ガリュウはとても強く、人を襲うことは無かったが付近の放牧場を度々襲い、家畜を食い荒らして人々の生活に深刻な害を与えていた。
更に小腹が空けば目に付いた野生動物をも食い殺し、ガリュウの支配領域となった森から血の気が絶えることは無かった。

しかしそんな生活にある日突然終わりが訪れた。

ある日、ガリュウは腹を空かせて獲物を探していた。
辺りにめぼしい獲物がいないと分かると、人間の放牧場で家畜を襲うことにした。
そして、いつもの道を通り、人間の集落に顔を出して……

………違和感に気付く。
家畜がいない。
それどころか、人間の住処そのものが跡形も無く消え去っていた。
…………………
もうこの集落は襲えない。
仕方が無いのでガリュウは別の集落を目指す。

…………………
無い。
何処にも無い。
集落も。
放牧場も。
人影も。
今まで確かにあったものが、跡形も残らず丸ごと無くなっていた。
人間がガリュウの悪行に耐えかねて集落を捨てて新天地を求めたと、そのことはガリュウには分からない。
ガリュウが理解出来た事は、もう此処では獲物は獲れない、それだけだ。
こうなればもう野生動物を食べるしかない。
ガリュウは森をさ迷い歩くが、ついに野生動物すら見つかりはしなかった。
全て食らい尽くしてしまったのだ。
そのことにガリュウが気付いたのは食べ物を失って三日経った日のことだった。



その広大な森を支配しているのは、ガリュウだ。
そして、その広大な森の中にいるのも、ガリュウだけだ。



獲物を失って八日過ぎた。
ガリュウの空腹は今にも倒れそうなほど限界に近く、もはやまともにものを考える力すら残されてはいなかった。
もう、何でもいい。
この空腹から開放されるのであれば、何でもいい。
ただそれだけの本能がガリュウを動かしていた。
そして………

……………見つけた!

遥か遠くに、重そうな荷物を担いで歩く行商人を見つけた。
ガリュウはまともに残されてもいない体力を振り絞り、無我夢中で突き進んだ。
―――肉だっ!
―――獲物だっ!
―――人間だっ!
向こうもこちらに気付いた様で、重そうな荷物を迷うことなく投げ捨てて必死に逃亡を図る。
…………が、もう遅い。
一匹と一人の距離はあっという間に縮まり、ガリュウはその手が届く距離にまで人間に追いつくと………




















初めて食べた人肉は、正直に言えば不味かった。
が、それでも久々の獲物だ、胃袋は全てを受け入れ、骨すら残さずに人間を丸ごと食らい尽くした。
しかし―――
…足りない。
腹いっぱい食べたい。
もうこの森に獲物がいないのはこの数日でよく分かっていた。
なら、森を出よう。
獲物を求めて。
人間でも何でもいい。
……ただ、腹が減った。
そうして、ガリュウは森を出て獲物を求め旅に出た。



人間を食い殺した、という事実がガリュウにとって後々好都合になってきた。
ガリュウの首には莫大な賞金が懸けられ、一攫千金を狙う人間達の方からガリュウに寄って来たからだ。
賞金に目が眩んでのこのことやってきた賞金稼ぎ達をガリュウは片っ端から食っていった。
人間を食う度に賞金は跳ね上がっていき、しまいには使用人付きの屋敷を買って余りが出るほどにまでなり、討伐隊まで現れたがガリュウにとってはただの餌の群れだ。
そうして、新たな獲物に不自由しなくなったガリュウだったが、再び予想だにしなかった事態に遭遇することになる。

いつもの様にのこのことやってきた獲物を一口で食い殺そうとして……………

―――――衝撃!

逆にガリュウが吹き飛ばされる。
すぐに立ち上がり、再び獲物に噛み付こうとして二度目の衝撃を受けた時に目の前の人間にやられたのだと分かった。
二度の激しい衝撃を受けてガリュウは崩れ落ち、このままやられるのか、と思ったが……

「大丈夫か?」

と言い、なんとその人間がガリュウに歩み寄ってくる。
その人間は自分がガリュウに与えた傷口を手早く手当てすると、

「立てるか?」

と言ってガリュウの身体を優しく撫でた。

「…ガァァ……」

ガリュウにとって本来獲物であるはずの人間に倒されてしまうのは納得し難い事実であったが、目の前の人間に与えられた温もりは今まで独りだったガリュウにとっては抗し難い魅力であり幸せでもあった。

「ガ」
「あっ、おい、そんなに舐めんでくれ」

その日からガリュウはその人間について行くと決めた。
その人間にも迷惑ではなかったようでガリュウはすんなりと受け入れられた。
そうして、ガリュウは初めて仲間というものの温かみを知った。



この人間はなにかと頻繁にガリュウに話しかける。
おかげで、ガリュウも少しならば人間の言葉を理解出来る様になってしまった。
そうして話を聞いていると、どうやらこの人間はアウトローと呼ばれる部類の人間らしいことがわかった。
国と言う囲いの中に馴染めず、自由を求めて野に下った人間のはぐれ者。
だからこの人間にとってはガリュウの賞金になど興味は無い。
そもそも金の使い道なんて無いのだから。

「お前は何がしたい?」

いきなりそんなことを聞かれても、ガリュウにはどうしていいのかは分からない。

「ガァー……」
「俺はな、世界を知りたいんだ。もちろん地図で何処に何があるかは大体分かるが、そんなんじゃない。実際に目で見ないと分からないこと、実際に体験しないと分からないことを、俺の命が消えるその日まで追い求めていきたいんだ」
「ガッ?」
「ふふっ、お前には少し難しかったかな?」
「…………グァ…」

またいつもの何気ない話が始まった。
実際にはこの人間の話の中でガリュウが理解出来たのは一割にも満たない。
が、この何気ない話が、この何気ない時間が、この何気ない毎日が、ガリュウにとっての宝であった。

願わくば、こんな日々がずっと続きますように。

しかし、そんなガリュウの願いを現実は聞き入れてはくれなかった。

ただでさえ、ドラゴンがいるというだけでも十二分な脅威であるのに、更にそのドラゴンが人食いドラゴンでそのドラゴンを手なずけた野蛮人まで付いているとなれば、それは国家にとっては放ってはおけない危険分子であるのだから。
たとえ、本人達に反逆の意思が無かったとしても……だ。
だから、ガリュウ達は常に命を狙われていた。
それでも、大抵の敵はガリュウが難なく撃退した。

そう、撃退だ。

ガリュウはこの人間と共に過ごし始めてから、人肉は二度と食うまい、と心に誓った。
それは、人間の味など忘れてしまいたかったから。
だって………この人間も、噛み付けばきっと同じ味がするだろうから。
そんな目でこの人間を見たくはなかった。
この人間は、ガリュウにとってそれほどの存在なのだ。
だから……………



旅をしていればいろんな出会いがある。
当然、強敵とも出会う。
今回は、その傾向が著しかった。

まず、寝込みを襲われた。
そんなことはいつものことだ、敵は十人はいたがどれも普通の人間やウルフリングばかりだった。

「グアァァーーーッ!!」

そういって最後の一人をガリュウが突き飛ばす。

「オーケイ、その辺にしといてやろう」

相棒の人間にそう言われ、ガリュウは追い討ちをかけようとした手を止めた。
それが敵にとって好機となった。

「オイ! 奴を出せっ!!」

そう言って一人のウルフリングが呼び出したのは………

「んなっ!?」
「ゴァァァ!!」

思わず二人して声を上げてしまった。

敵は………デカい。

ガリュウの倍の大きさはあるであろう、エメラルドグリーンのボディをもったミスリルゴーレムだ。

「っ! くそっ!!」

そう叫び、人間が攻撃魔法をミスリルゴーレムに向けて放つ。
が―――

カァァン!

そんな音と共に人間の魔法は刎ね帰されて虚空へと飛んでいった。

「―――っ! こりゃあ洒落にならんな……」

人間はそう愚痴って、それでも次の魔法を発動させる。

「グガァァ!」

ガリュウもブレスを吐いて援護する。
しかしミスリルゴーレムには効果がなかった。

「ウォォォォゥ…」

と、ミスリルゴーレムが反撃する。
狙われたのは人間の方だ。

「ちぃ!」

人間はギリギリで直撃は回避するが、敵の振り下ろされた腕が地面にぶつかった時の衝撃まではかわしきれず……

「くぅっ………」

と呻き、倒れてしまう。

状況は圧倒的にこちらが不利。
相棒の人間は倒れてしまったし、何より敵が強すぎる。
ガリュウは焦っていたが、するべきことは分かっている。
この人間を…………死なせるわけにはいかない。

「ガァァァァァッ!!」

ブレスが効かないのなら、直接叩くまで。
ガリュウはミスリルゴーレムめがけ突進する。

「ウォォォォム!!」

が、ミスリルゴーレムに応戦され、力で押し負けて弾き返される。

「ガァ!!」

それでも、ガリュウは怯まずに再び突進しようとして、

「待て、もういい! 逃げろっ!」

と叫びながら、痛めた足を引きずって歩み寄ってくる相棒に気付く。
しかし、

「……グァッ」

ガリュウは相棒を尻尾で弾き返した。

「………お前……」
「ガァァァァッ!」

相棒が遠のいたのを確認して、再びガリュウはミスリルゴーレムに突進する。
弾き返されても、何度でも、何度でも………
この時、ガリュウに弾き返された人間は悟ってしまった。

なんてことだ………
あいつは……
俺を逃がそうとしていたのか………

どれだけ傷ついても、ガリュウは立ち上がる。
たとえ横殴りにされて左の角が折れても、たとえ無駄だと分かっていても、相棒を守るために。
その想いを知った人間は……

「……すまない………」

背を向けて、ゆっくりと離れていく。

「おい、あいつ逃げてくぞ!」

ウルフリングの一人が叫ぶが、ガリュウがけっして追わせまいと威嚇しながらミスリルゴーレムに突進するために、彼らには離れる人間を追いかけることは出来なかった。
そして……

相棒が見えなくなったのを確認しガリュウは前方の敵に集中する。
ガリュウ自身、ここで死ぬつもりはない。
この場を乗り切って、再びあの相棒と一緒になるために……

「ウォオオゥ!!」

そう吼えてミスリルゴーレムの放った左の打撃を右側頭部に受け、ガリュウの意識がもうろうとする。
倒れたガリュウに止めを刺そうとミスリルゴーレムが右腕を振り上げる。
そして、振り上げた右腕を勢いよく振り下ろす。
迫るミスリルゴーレムの腕をガリュウはじっと見据えて……

死ねない………

まだ……死なない!!

何故か……迫る腕が止まって見える。
それに……力が溢れる。
それはガリュウですら知らないガリュウの本当の力。
何なのかは分からないが……これなら………

「グガァァァァァァァァァァァッ!!」

一度は崩れ落ちた足で再び地面を踏みしめ、全力でミスリルゴーレムにぶつかっていく。
眠っていたガリュウの『地竜の鳴動』の能力が完全に目覚めた。

辺りに、『ベキャンッ!!』という音が響いた。

ついに巨体のミスリルゴーレムが弾き飛ばされる。
荒い息を吐きながら、ガリュウは弾き飛ばしたミスリルゴーレムを見る。
しかし………

「………ウォォォ……」

敵は……立ち上がった。
ガリュウの突進の直撃を受けた右肩をかばいつつ、左腕だけで立ち上がる。

ギチギチギチギチ………

歪んだ右肩から耳障りな音を出しながらもミスリルゴーレムは第一歩を踏み出し…………

ギチギチギチ……ギィィィ!!

そんな音を出しながら、ミスリルゴーレムの右肩がゆっくりと……
―――――落ちた。

「ウオオオオォォォォォォッ!!」

響き渡る咆哮。
………いや、絶叫。
落ちた右腕のことなど目もくれずにミスリルゴーレムは後退する。

「お、おいっ! 何処に行く!?」

今まで黙って見ていたウルフリングや人間達もミスリルゴーレムを追うように逃げていく。

ガリュウは生き残った。

今からなら相棒に追いつくのも容易いだろう。
ガリュウは振り返り、そして―――

「ガッ………」

気を失った。
右側頭部に受けたダメージがかなり深刻だったようだ。
その場に、今度は完全に崩れ落ちてしまう。



意識が戻った後、一番最初にガリュウが感じたのは違和感だった。
自分が相棒を逃がしたのは覚えている。
そして、ミスリルゴーレムを撃退したのも覚えている。
しかし……………

相棒の人間の顔が……
………思い出せない……

頭が痛い。
そこは、ちょうどミスリルゴーレムに殴られた位置だ。

…………ただ、一つだけ覚えていること。
相棒は……強かった。

きっと、自分の存在をアピールしておけば相棒から会いに来てくれる、ガリュウはそう考えた。
自分に会いに来た人間と戦って、自分を倒した人が相棒なのだ、と。

―――本当の相棒は………
……………既に殺されてしまったとも知らずに…………………



それから、ガリュウは相棒を待ち受ける砦として『ナーダの関所』に穴を掘り、その奥に陣取った。
ガリュウの予想通り、ガリュウのもとには頻繁に人間がやってきた。
ガリュウはそれら全てと戦い、全てを殺してしまった。

まだ?
あの人間は……
相棒は……

ガリュウは待ち続けた。
簡単にひねり潰されてしまうひ弱な人間ではなく、相棒を。
いつかきっと来てくれると信じ、ずっと洞穴の奥で……

ガリュウが洞穴の奥に籠もり、近づかなければ無害だと判断したノスワルドの住人達は、二度とガリュウに人が殺されることがないように、ガリュウの潜む洞穴の入り口にとある看板を立てた。

その看板には、こう書かれてあった。


「ガリュウ」の眠りを
さまたげるもの、死あるのみ。
この先、進むべからず。


〈了〉
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