第2章第8話「“キャナ☆”の最初の友達は!?」


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作:イシス


PM12:46 ボード学園中等部廊下


昼休みは大体どこの学校でも賑やかなものだが、今日のボード学園はより一層の賑やかさに包まれた。
それはあの国民的人気アイドルの“キャナ☆”が復学したからである。普段はテレビや雑誌などでしかお目に
かかれない人気者が身近に現れたとあって、誰もが一目見たい、彼女と話をしてみたい、こいよ“キャナ☆”、
肩書きなんか捨ててかかってこいとばかりに、中等部3-Aに生徒たちが次々と押し寄せていく。その人数は
教室に入りきることが不可能なほどだ。

3-Aに行けないまでも、生徒たちの話題は常に“キャナ☆”が中心になっている。彼女を意識しない生徒は
いない。だが、黒髪に迷彩柄のバンダナをした中等部2-Aの転入生、八代棗はそうではなかった。
昼食を終えてからは廊下に出て窓を開け放ち、ずっと外を眺めていた。ボード学園の校門前にも“キャナ☆”
目当ての集団が集まっていたが、棗の瞳はそれを見ていない。

こうしていれば何も考えなくてもいいような気がした。
それでも棗の頭では渦を巻くように、三日前の出来事が思い返される。


いぬみたちに自分の正体が仮面ライダーだと明かし、“タンタロス”から人類を守る“正義のヒロイン”を
目指しているとも宣言した。これなら絶対信じてもらえると思っていた。それはいぬみたちも自分と同じく
正義を志す仮面ライダーだと信じていたからだ。

だが、棗の思惑は完全に裏目に出た。いぬみは不信感を露わにし、始穂に至っては敵対心剥き出しだった。
騙そうというつもりは毛頭なかったのにこの結果だ。正直、棗はかなり参っていた。あの時の“暗殺者”の
言葉が脳裏によぎる。

(“正義の味方”になるのは大変だと思わない?)

今なら何度も首を縦に振ってしまいそうだ。どうすればいぬみたちの信用を得られるのか。暗がりの迷路の中を
手探りで出口を探すように、答えは一向に見えてこない。


「何をしている。」
「あ・・・始穂、ちゃん・・・」

棗は不意にかけられた声の方へと意識が戻される。声の主は相川始穂だった。始穂は鋭い視線で棗を真っ向から
見据えていた。その瞳が自分を責めているように感じられて、棗は危うく視線をわざと外しそうになる。

「えと・・・なに、かな・・・・・・」

なんとも歯切れの悪い返事しか返せない自分に、棗は自己嫌悪で心に罅が入ったような感覚に陥った。

「聞いているのは私だ。何をしている。」
「・・・ただ外を見てた。ほら、周り人がいっぱいいて凄いなーって。」
「そう。」

明らかにそれは嘘だと分かっただろうが、始穂は追及しない。

自分の正体を告白したあの夜、始穂は敵対するなら容赦しないと言った。それはその通りだと思う。
棗自身は彼女たちと敵対するつもりはないし、本心は同じ仮面ライダーとして“タンタロス”と戦って欲しいと
思っている。だが、自分の正体を、“騎士団”のエージェントであることまで明かしてはならないことぐらい
分かる。今、棗が揺れているのはその狭間だ。

極力正体は明かさない。しかし彼女たちと協力関係は築きたい。考えてみればかなり虫のいい話だ。

「・・・・・・ねぇ、始穂ちゃん・・・」
「なに。」

棗の表情に緊張が走る。どれだけ悩んでも自分では名案が出そうもない。だったらと、棗は大胆な行動に出る
ことにした。

「どうしたら始穂ちゃんたちは私のことを信じてくれる!?」

それは始穂たちの疑念を晴らす為に、信用してもらう術を彼女たちから直接聞こうというものだった。疑われて
いるのは百も承知だが、今の棗は形振り構っている余裕はない。

「私のこと怪しいっていうのは分かるよ!急に滅茶苦茶なこと言っちゃったし全然正体明かしてないし!
 でも、私は始穂ちゃんたちと戦いたいんじゃないの!力を合わせて敵と、“タンタロス”と戦っていきたいの!」

周囲に聞かれるのもお構いなしに棗は声を張り上げる。大半の生徒が“キャナ☆”を目当てに中等部3-Aに
集中していたのが幸いしてか、この会話を聞いている者はいなかった。今度は始穂から視線を外さない。
棗が真剣なことを始穂も察した。

「一番簡単なのはお前が正体を明かすこと。だが、それができない。」
「うん・・・ごめん。」

やはりこの一点が最大のネックだ。棗は話が得意な方ではない。うっかり“騎士団”の情報まで漏らしてしまう
恐れがある。それは何としても避けなければいけないが、それではいつまで経っても始穂たちは棗を信じない。

「だったら!私は“正義のヒロイン”を目指すライダーだっていうことなら信じてくれる!?」

棗の唯一の真実は、もはや“正義のヒロイン”に憧れていることしかない。信じるにはあまりに馬鹿馬鹿しい
話なのだが、もう棗が縋れるものはこれしかない。

始穂は棗をまっすぐ見据える。棗が胸の前で作った握り拳は小刻みに震えているのが見える。相手によっては
少しは同情を誘えたかもしれないが、相川始穂にはそんなものは通じない。

「無理だな。」
「どうして!?」

短い否定は残酷に聞こえる。思わず棗の声も上ずる。

「お前の言動は浅い。今のお前が何を言っても誰も信じはしない。」
「そ・・・そんな・・・・・・」

それは棗が一番聞きたくない事実だった。転校してきたばかりの棗を始穂たちが知らないのは当たり前だが、
これを言われてしまっては何も言えなくなる。バンダナの下の瞳が、来た時の輝かしさからは想像もできない
ほどに光を失っている。

「勘違いするな。私は“今の”と言った。」
「・・・・・・え?」

絶望に覆われかけた棗だったが、始穂の言葉で何かに気づく。

「ここに来たばかりのお前が信用ならないことぐらい、誰でも分かる。だったら時を重ねる毎に信用して
 もらえるようにしていけ。お前にできるのはそれだけだ。」
「あ・・・・・・!」

言われて何故こんな単純なことに思い至らなかったのだろうか。自分に信用がないのなら、信用ある人間に
なればいいだけなのだ。それはとても単純で、しかしとても困難な道。

ようやく棗は“暗殺者”の言葉の意味が分かったような気がした。あの時の理想を追えというのは、今始穂が
言ったことと同じように、困難な道でも歩み続けろという含みもあったのではないか。それは棗の都合のいい
解釈なのかもしれないが、今はそう捉えることで前に進んでいけそうだった。

「ねぇ、始穂ちゃん。今日皆を集めてもらえっていいかな。“今の”私の精一杯を伝えたい・・・そして、
“これからの”私を伝えたいんだ!」
「・・・分かった。」

短い返事を残し、始穂は棗の前から去っていく。もう棗の瞳に迷いはない。トレードマークのバンダナを結び
直した時に見せた棗の瞳は、今までにない力強さが感じられた。

「やってやる・・・!どんなに大変でも諦めないのが、“正義のヒロイン”なんだから!!」





PM12:29 ボード学園中等部3-A


中等部3-Aの熱気は最高潮に達していた。雑誌やテレビでしかお目にかかれないと思われた国民的アイドル
“キャナ☆”がここにいる。それだけで3-Aには大勢の生徒が集まり、今や阿鼻叫喚の騒ぎだった。

当然、集まった生徒だけでなく3-Aのクラスメートたちとて大人しくしているはずがない。特に今は昼休み。
少しでも“キャナ☆”とお近づきになろうと、男女共に“キャナ☆”へと殺到する。


風瀬華枝はかつてなく困惑していた。周囲が今まで見たこともないほどの人垣で教室内が見渡せない。席を立つ
ことも困難になっているのは、全校生徒のお目当ての“キャナ☆”がどうしてか自分の隣にいるのだ。
華枝は内気な方で、人から注目されるということを得意としていない。生徒たちの目的が隣のアイドルなのは
分かっているが、この周囲を囲まれている状況では否応なく意識してしまうのは無理もない。こうなる前に
席を離れればよかったのだが、華枝は完全にそのタイミングを逃していた。

こんなに昼休みが長いと感じたのもそうそうない。ただでさえ最近は嫌なこと続きなのだ。これ以上ここに
留まるのは辛すぎる。無理やりでも席を立とうとした時だった。

「ねぇ、お隣のおにゃのこちゃん♪」
「・・・ふえ・・・?わ、私・・・!?」

“キャナ☆”本人がいきなり話しかけてくるとは、流石に華枝も思っていなかったようだ。華枝はここで初めて
“キャナ☆”を真正面から見た。アイドルらしく茶髪で、色んな動物の髪飾りをたくさん付けている。校則に
触れるような気がしたが、これも彼女が国民的アイドルだから許されているのだろうか。
それにしても、なんて澄んだ瞳をしているのだろうと華枝は思った。どこまでも真っ直ぐで、水のような
透明感がある。

「そいえばミーって、ユーのネームしらねーんだよベイベー☆だから教えてちくり♪」
「あ、あの、えと・・・」

そして何て聞きとり難い言葉を使うんだろう、と。そういえば、“ キャナ☆”はその時々で口調がコロコロ
変わると何かで聞いたか見たかした。実際に体験してみると、これは会話のキャッチボールも大変だ。

「・・・風瀬、華枝・・・です。」
「ハナエ・・・はなえ・・・ん~!なんたる可愛らしいヒビキ~!こりゃ惚れるか~!?」
「は、はぁ・・・」

どうやら“キャナ☆”は気に入ってくれたらしい。嬉しくはあるが、華枝はそれどころではない。“キャナ☆”が
話しかけてきたことで、周囲の生徒たちの視線が自分へと注がれているのだ。演劇でもここまでの注目は記憶に
なかったはずだ。かつてない緊張で華枝の視線は右往左往し、口の中から一気に水分が失われる。
正直、逃げ出したくてたまらなかったが、今それは叶わない。

「ほむぅ・・・」
「!?・・・・・・え・・・えと・・・な、なん・・・です・・・か・・・?」

いつの間にか“キャナ☆”の顔が華枝の真正面にあった。間近で見ると“キャナ☆”の愛らしさがよく分かる。
もっとも、国民的アイドルが目と鼻の先にいるというプレッシャーの方が大きくてそんなことを考えている
余裕もないのだが。

「ハナーって可愛いよなー。アイドルとしてもガガガンいけんッペよ!」
「・・・ええ!?わ、私が・・・あ、あああアイドル・・・・・・!?」

自分がアイドルなど、想像したこともない世界の話をされても華枝は困惑するしかない。これが彼女なりの
ジョークなことを分からない華枝ではないが、引っ込み思案な彼女にはかなり動揺を誘う話題である。
そして、この冗談すら可愛く思える最大の爆弾が投下された。

「決めた!華枝やんはあーしの復学してからの友達一号ダス!よろペコ!!」

一瞬の静寂を置いて、


「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?」


教室内の窓ガラスを全て割るのではというほどの大絶叫が3-Aを包み込んだ。続いて生徒たちの驚きや羨望など
様々な感情を宿した会話があちこちから漏れた。

「風瀬さんいいなー!」
「えー!俺、友達一号狙ってたのにー!」
「じゃあじゃあ!私二号がいいー!」
「お前らにV3は任せらんねー!俺に任せろ!」
「お前一人にいい恰好はさせねぇぜ!」
「もういい!もうたくさんだ!風瀬さんを破壊する!」
「いい友達だ。感動的だな。だが無意味だ。」

教室内が今まで以上に混沌と化す。だが、華枝の脳内に比べれば幾分かマシかもしれない。

“キャナ☆”の友達、第一号。どうして自分なんかが、ただ隣なだけなのに、何か裏があるのか、他に相応しい
人がいくらでもいるじゃないか。主にマイナス方面の考えばかりが一瞬で頭を過っては消えてを繰り返し、
華枝は脳がパンクする寸前に陥っていた。

それから“キャナ☆”は華枝の混乱を余所に、矢継ぎ早に話を進めていた。今後の学校生活のことや芸能
活動について、特に目出度く友達一号になった華枝とは今後とも深いお付き合いをしたいなど、とにかく会話が
途切れることを知らない。“キャナ☆”の高速テンポな喋りと頭の混乱とで華枝は話に付いていけない。

だが、この話題だけはしっかりと耳朶を打った。

「そんでねー、“キャナ☆”は演劇部に入るんじゃえ!なんしぇまいどりーむいず、演技もできるアイドルサ!」
「!!」

演劇。学生生活における風瀬華枝の一番の悩み。

部で次回予定されていた演劇からは外されたのは、内気な華枝が精一杯の勇気で始めたものだっただけに落胆は
相当なものだった。自分は何をしても駄目、そういう現実を突きつけられたに等しい。そこに“キャナ☆”が
入ってくるというのだ。

“キャナ☆”は元々、役者としても幅広く活躍していきたいと公言していた。だから学校の演劇部に入るのも
納得できる。だが、ただでさえ隣に“キャナ☆”がいることは華枝にとってプレッシャーなのだ。“キャナ☆”が
演劇部に入れば、ますます自分の居場所がなくなるかもしれない。華枝はその光景を嫌に鮮明にイメージできた。





AM8:28 繁華街

朝の繁華街は会社へと向かう者、学校へと向かう者など、多くの人間の往来で賑わう。その中に目立つ二人組が
人波に交じっている。一人はまだ暑いこの時期なのに黒いドレスを着こんだ紫のロングヘアーの麗人。
もう一人は女にしては馬鹿みたいに背の高い、薄水色の髪をおさげにした女。麗人の方もモデル並の身長だが、
薄水色の髪の女が190近くあるので、比べると巨人と小人ぐらいの差があった。

「だからねー“キャナ☆”ちゃんがね!復学したんだって!ほらほらほら!見てよこの写真!!」
「それ何度目だったかしら。」

長身の女、沖島八雲はしきりにデジカメのディスプレイに映る“キャナ☆”の画像を顔に押しつけんばかりに
隣の麗人に見せびらかす。黒いドレスの麗人、“暗殺者”の異名を持つミシェル・フェオニールは少し辟易した
感じでそれを払いのける。

「そうやって女の子に現を抜かして痛い目に遭ったの、もう忘れたのかしら?」
「う・・・で、でもでも!これは仕方ないことなの!“キャナ☆”ちゃんの可愛らしさは、例えるなら15歳以上
 推奨なのにどう見ても18歳以上対象の某可動フィギュアぐらいにスンゲーのよ!?だから仕方ないの!」
「例えがさっぱりな上に何がどう仕方ないのか分からないわ。」

“暗殺者”は珍しく疲れたような溜息を吐いた。沖島八雲は自分からからかう分にはまだいいが、行動を共に
する時は疲れが溜まる一方だ。戦闘以外では碌に役に立たないし、その戦闘も目的より私欲優先で行動する為、
扱いに困ることこの上ない。

「今日はライダーシステムの故障なんて馬鹿な真似はやらかさないでしょうね?」
「大丈夫ダイジョーブ!ちゃーんと修理に出したからね!」

“暗殺者”の遥か上から、満面の笑みを作り八雲は槍型のネックレスを見せびらかす。この能天気さを見ると、
その内落として失くしましたとか言いそうな気がしてならない。


突如、街中に悲鳴が木霊した。

「これは・・・」
「ん?なになに?」

それまで賑やかだが平和だった街並みは一変していた。大勢の人間たちが何かを急くように、そして皆同じ
方向へと走り出している。人間たちの表情も、何かを恐れている。それは悲鳴と怒号の合間から漏れる“怪物”
という単語や、それによって齎される命の危険のどちらかだ。誰も彼もが我先にと駆けるその光景は、目を
瞑りたくなる。

「なんなんだろうね、この人波・・・どうしよっか?」
「どうするもこうするも、行くしか・・・いえ、“槍使い”。これはあなた一人で行ってもらえる?」
「ええ!?“暗殺者”はどーすんのさ!?」

“暗殺者”の視線が人波とは別の方向へ向いた。ただでさえ人気のない、特にこんな状況では誰も気に留めない
路地裏へと続く道。しかし、“暗殺者”はそこから漂う不快な敵意を察知していた。

「いるわね。“タンタロス”が。」
「ありゃ?よく気づくねー。」

“騎士団”の宿敵とも言える“タンタロス”の話を聞いても、八雲はどこ吹く風だ。今に始まったことでは
 ないので“暗殺者”も気にはしないが、溜息の一つぐらいは吐きたくなる。

「私は“タンタロス”を追う。“槍使い”はこの異変を調査、場合によっては戦闘に及んでも構わない。」
「えー・・・なんか気が乗らないんですけど。」

この長身の女は本当に秩序を守ろうとする“騎士団”の一員だろうか。しかし、“暗殺者”はこういう時の
“槍使い”をその気にさせる魔法の言葉を知っていた。

「上手く任務を達成できたら、ボード学園の女の子一人をあなたのものにしてもいいわよ。」
「やるます!!」

さっきまでの不平不満はどこかへ去り、“槍使い”は細胞の隅々までやる気の炎に満ちだした。

「誰でもいい?じゃあじゃあ、任務一つこなすごとに女の子一人とかでもいい!?」
「いいわよ。」
「しゃあっ!任務を百こなせば百人の女の子が私のもの!やる気出てきたーーーー!!」

“槍使い”は気合を入れ、人波に逆らうように駆けだす。途中、何人かを弾き飛ばしていたが、間違った方向へ
熱意が傾いている今の彼女には、全く眼中にないことだった。ともかく、これで“槍使い”は動いた。

「さて・・・私の方も行きましょうかね。」

髪を払う仕草を取りながら、“暗殺者”の方も優雅な足取りで自ら魔境へと踏み出していった。





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