第2章第13話「八枷 庵という男」


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作者:空豆兄


AM 8:48 繁華街

朝の繁華街で、漆黒の異形たちと戦いを続ける三者。

次々と現れる際限なしの軍勢を、歓喜とも取れる感情を込めて排除する黒い仮面の戦士。
これまた歓喜・・・・というか本当に嬉しそうにぽこじゃか敵をなぎ倒す重装甲の仮面の戦士。

そしてあと一人。
黒いコートにその巨躯を隠し、ただ腕を振り回すだけで異形を粉砕する男。
動きは鈍重ながらも、その一撃必殺の攻撃に次々と異形は数を減らしていく。

だがその異形の軍勢は異常だった。
単体では敵わないと分かると、それ以上の数を以って対象を排除しようと襲い掛かる。
しかもその対象の攻撃が自分を一撃で葬り去ると分かっていても、なお愚直に前進を繰り返すのだ。

(一体一体ハ非力・・・。シカシコレデハキリガナイ。)

大男は思案をめぐらす。
この場に異形と敵対する勢力は自分含め三人。

しかし連中は他の事など眼中にない様子で、協力を申し出ても無駄な事が安易に予想できた。

(・・・・・・・・・・。)

大男は自身の右腕を見る。
この中に仕込まれた巨大な「破壊の力」を。
だが。

(撃ツ訳ニハイカナイ・・・。)

大男は躊躇う。その腕の力を使う事を。
なぜならその力はあまりに大きすぎ、この周囲をあっけなく巻き込んでしまうからだ。

商店は燃え、砕かれ、道路も抉られ、戦争でも始まったのかと思わせるような惨事が起こる。
無関係な人々の生活基盤が失われる。

・・・幸せが失われる。

それは・・・大男の「マスター」であるあの小さな少女が最も恐れる事。


大男はなおも戦いを続けた。
少女と交わした「約束」を守るために。



そして当然の結果として、バラバラに戦う三人は、その圧倒的な数の前に徐々に追い詰められていく・・・。




PM15:29 放課後、ボード学園 部活棟




「よかったの・・・?華枝ちゃん。」
「え?」

私の隣を歩く親友の命李ちゃんは、遠慮がちに話しかける。

「だって、キャナ☆さんの約束・・・。」
「ああ・・・。」

放課後、本当は私は、今日復学したアイドルの"キャナ☆"ちゃんと私の部活である演劇部に行く約束をしていた。

でも・・・・



・・・・数分前。



(ハナーーーー!さあ放課後だよ☆演劇部へ行こーーー!!)

私の隣の席に座ることになったキャナ☆ちゃんは今日の授業が終わると同時、そうして私を誘ってきた。
昼間に話していた、キャナ☆ちゃんは演劇部に入るという話。

それを本当に実行しようというのだろう。

でも私はもう演劇部にはいきたくなかった。
今度の大きな演劇から役を外され、内気な私が折角今まで頑張ってやってきた事が無駄になったばかりの今。

アイドルであり、既にドラマにも出演しているキャナ☆ちゃんと演劇部で同列に並ぶのは、あまりに私にとって重圧だった。

(あ、あの・・・私・・・。)

(んー?なになにどうしたのー?早く行こ?作戦は一刻を争う!(キリッ)

そんな私の気持ちを露知らず、それでもキャナ☆ちゃんは誘ってくる。
折角友達になろうといってくれた彼女の気持ちは嬉しいけど、でも私は・・・。

(うおおおおおっ!!いたぞーーーーっ!!)

(?!)
(ほえ?)

その時、朝に聞いた野太い声が教室の廊下から聞こえてきた。

(キャナ☆ちゃんだあああーーーっ!!!)
(キャナチャンハカワイイデスヨ!)
(放課後になったんだ!ヒャアがまんできねぇ!中等部3-Aにのりこめー^^)
(わぁい^^)

それはキャナ☆ちゃんの学園内のファンの男子生徒の群れだった。
放課後、学業から解放された彼らは我先にとキャナ☆ちゃんのいるこの教室に殺到してきたのだ・・・!!

(わー☆こんなにいっぱい来てくれるなんてキャナ☆幸せものだねっ♪でもでもー、私には放課後の用事が・・・)

(キャナアアアアアアアアアア!!!!)

ドドドドドドドド・・・!

(わきゃー!!?)

教室のドアをくぐって押し寄せる人の波に飲み込まれるキャナ☆ちゃん。
危険を察知して素早く避難していた私に隙はなく、このどさくさにまぎれて私は教室を出た。

(えっ、ちょ華枝やんどこいくの!?ハナーーーー!!?)

(いてっお前ら押すなよ!)
(おい誰かうつぶせに倒れてしかもキャナ☆ちゃんに踏まれてるぞ!?)
(我々の業界では御褒美です!)
(この程度の痛みでは我々は満足しない!罵倒と侮蔑を!罵倒と侮蔑を!)
(地球は太陽系の第3惑星に過ぎない!)



・・・・・・・・・。



その後、同じく教室を出ていた命李ちゃんと合流して、こうして彼女とも話していた吹奏楽部に行く事になったのだ。

「ううん、いいの。キャナ☆ちゃんはあの通りだし、それに・・・私も元々放課後は吹奏楽部に行こうって、思ってたから。」
「そっか・・・・。うん、ありがと・・・。」



私と命李ちゃんが歩くこの部活棟は、読んで字の如く学園の部室が連なる専用の棟。
1階は主に運動部の部室が集まり、そこから上の階は多種多様な文化部がひしめいている。

放課後にここを訪れれば、教室からさまざまな喧騒や、また音楽系部活動の演奏などが聞こえてくる。
廊下をジョギングするユニフォーム姿の生徒なども珍しくない。

私達が向かうのは、部活棟の中にある音楽室。
防音壁に固められた、放課後は主に吹奏楽部が使う実習の教室だ。
部活動で使う楽器などもそこに収められている。

「・・・・・?」
その道中、命李ちゃんが不意に首をかしげた。

「どうしたの?」
「あ・・・ううん。なんだか、今日はこの辺人が多いなって・・・。」

命李ちゃんに言われて、私も気がつく。
吹奏学部は特別この学園で注目されているような部活動ではなく、放課後もここは周囲と変わらない普通の場所のはず。
だけど今日に限っては、音楽室の前に人だかりが出来ていた。

しかもそれも、女の子が多いような気がする。

「音楽室の中に、何かあるのかな?」
「そうなのかな・・・?今日は特別何かあるとは聞いてないけど・・・・。」

私達はその人ごみを押しのけ、音楽室の重く厚いドアを開ける・・・。


・・・・・・・・・・・・。


そこから聞こえてきたのは、流暢なバイオリンの演奏だった。
音楽にほとんど興味の無い私にも分かる、まるでプロが演奏しているような音。
「上手・・・・。」
「うん・・・・・・。」

命李ちゃんもまたその演奏に聞き入っているようだった。
何より驚くのは、それを演奏しているのが一人の男子生徒だということ。

赤い髪に、まだ残暑の厳しいのに袖のゆったりとした服装を着ているためにものすごく目立っていた。
その上ものすごい美形で、目を閉じて演奏に没頭する姿はその容姿も相俟って、耽美な雰囲気をかもし出していた。

なるほど、廊下の人だかりはそういうことかと納得する。
美形の男子生徒がバイオリンを一人演奏する・・・。いかにも女子生徒に人気の出そうなシチュエーションだ。



「でも・・・。すごく、寂しい音・・・・。」
「え?」
命李ちゃんがそう漏らした。

「淡々として・・・抑揚も無くて・・・ただ楽譜の通りに演奏してる・・・。それはすごい事なんだけど・・・。」
「こんなに演奏が上手なのに・・・音楽を、楽しんでいないみたい・・・。」

命李ちゃんの感覚なのだろう。
音楽に興味の無い私には、あまりピンと来ない表現だった。
吹奏楽部に属し、音楽を嗜んでいる命李ちゃんならではというのだろうか・・・。

・・・でも、それは演劇にも通じるのかもしれない。
劇中の台詞も、ただ読むだけでは棒読みになるし、感情がこもらなければ演技にならない。

【台詞を読むのは上手、演技も出来る、しかしマニュアルから外に出ない。】
彼の演奏を私なりに表現するには、そういう言い方が適切なのかも知れない。

「・・・・・・・・・・・・。」

1曲終えると、生徒は手にしたバイオリンを下ろし、その目を開いた。
眼光鋭い目。
まるで野生の獣を思わせるそれ。

「ひ・・・っ!」
私は一瞥されただけで思わずすくんでしまった。

「・・・フン。」

そう一度だけ鼻を鳴らすと、彼はバイオリンをケースにしまい、そのまま音楽室の一番後ろの席に座り込み、その長い脚を机の上に乗せた。

「いつまでも見てるなよ。・・・部活、あるんだろ?」

機嫌の悪そうに彼は言葉を吐く。
自分が注目を集めているとわかり、目立たない場所に移動した・・・のだろうか?
彼は自分の事など気にせず、吹奏楽部員にいつもどおりにやれと促した。

「なんなんだろう・・・?あの人・・・。」
「うん・・・。なんだか・・・怖いね・・・。」

私達は、その様子を教室の入り口でずっと見ていた。



「ハナーーーー!!!」

「!?」
「えっ!?」

次の瞬間、重厚な音楽室のドアが開かれ、そこから元気よくあのアイドルの女の子が飛び出してきた!

「見つけたよハナ☆この私から逃れようなんて浅はかさも愚かしい!」
「え・・・?え・・・・?なんで、この場所が・・・?」

「ふっふーん!このキャナ☆ちゃんを甘く見ないほうが身のためなのですぞ?」
「私が敷いた学園内情報ネットワークに隙は無かった!ファンのみんな!アリガトー☆」

(イヤッホオオオオオオオオウ!キャナ☆ちゃん最高ー!!)

廊下から、多数の男子生徒たちの野太い声が聞こえてくる。
どうやらキャナ☆ちゃんは学園のファンを使って私を探させたらしい・・・。
さすがアイドル・・・人の使い方も心得ている。


「さあさあ、観念するのよミス華枝!ともに演劇部へ赴き、ともに演技を磨くのデス!」
「めざせブロードウェイの星ー!」

「え、きゃ、あ、にゃああああああああああああああああああああ!!!?」

キャナ☆ちゃんに腕を引かれ、強制連行される私。
今度は周囲をファンの男の子達に囲まれ、全く逃げ場がない。

命李ちゃんも、それを呆然と見送るだけで・・・。

「は、華枝ちゃーーーん・・・・?」



さようなら命李ちゃん、また明日・・・・・・・。




PM15:40 放課後、ボード学園新聞部



「あ・・・あの・・・風瀬先輩・・・?」
「ん?」

新聞部に正式に入部した中等部のユリウス君、イオちゃんにデジタルカメラの使い方を指導していると、
その合間を縫って、ユリウス君が声をかけてきた。

「どうしたの?何か分からない事があった?そういうのはどんどん質問してほしいな。」
「あ、いえ、そうでは、ないんですけど・・・・・・・・。」

俺の返事に、ユリウス君は視線を逸らして罰が悪そうに口ごもる。
この二人が遠慮がちなのはここ数日で分かったつもりだけど、それにしては少し様子がおかしいように思えた。

「何か言い辛いことでもあった?ほら、怖がらないで話してみて。」
俺は小さな子供に言い聞かせるような優しい口調で二人に話す。
臆病な性格の妹を持つと、こういったスキルも自然と上がるもので、
それに二人はようやく安心したのか、互いに顔を見合わせるとその重い口を開いた。

「あ・・・あのぅ・・・風瀬先輩には、あ、きょ、兄弟とか、いるんですか?」

そう聞いたのは、イオちゃんのほうだった。
なんだ、そんな質問なのかと拍子抜けする。

「ああ、いるよ。華枝って言う妹がね。・・・そっか。ちょうど君達と同じ年かな。」

「あ・・・。へ、へぇ、そうなんですか。」
「妹さんですか、妹さん・・・・。」

俺の返事に、二人はまた顔を見合わせると、それぞれ二様の反応を示した。
なんだかそれほど驚いてないようにも見えるが・・・。

「じゃ、あの、その妹さんの事とか、お、教えて欲しいかなって・・・・」
イオちゃんがそう続ける。

ひょっとして、華枝に興味を持ってくれたのだろうか。
同じ年で同じ学年、しかも同性のイオちゃんがそう言ってくれるのはかなり嬉しい。
引っ込み思案なもの同士、気が合うのかも・・・!

「・・・・・・・。」

でも、二人の様子は友達になりたいという雰囲気ではないような気がした。
相変わらず二人は俺から視線を逸らしているし、どんどん暗い表情になっていっている。

二人の真意は分からないが、俺はそのまま華枝のことを話そうとした。

そこへ・・・・。



バァン!!

勢いよく新聞部の教室の扉が開き、

「みんな聞いてッ!!!」
そして新聞部の部長、"熱血お嬢様"こと桐島ふゆみ先輩が威勢のいい声を発しながら飛び込んできた!

「許可を取ったの・・・許可を取ったんですのよーッ!!!」


「許可?なにそれ?」 
「外人?」
「歌?」

「部長。・・・それだけでは部員達に伝わりません。みんなが混乱しているようなのでもっと分かりやすく説明するべきです。」
部長の主語のない日本語に、副部長・町崎先輩のツッコミが入る。

「・・・おほん。これは失礼。あまりの興奮に少々、取り乱してしまいましたわ。」
咳払いをして姿勢を正すと、ふゆみ先輩は部室の黒板の前にある教壇に陣取る。

その姿に他の部員達も席に着き、その言葉を静かに待った。
部長があの場に立つだけでこんなに部員がまとまるんだから、やはりあの人にはカリスマみたいなものがあるんだろうなぁ・・・。

そこで、はたと気がつく。
俺の隣にはユリウス君とイオちゃんがちょこんと座っているが、いつも俺にちょっかいをかけてくるクラスメイトの水野水美がいない。

そういえば・・・3日前から新聞部には顔を出していないんじゃないだろうか?
それに教室でも、なんとなく俺を避けているような気がするし・・・。
あいつ、何かあったのかな・・・。

「私の取った許可とは・・・。」

「っ!おっとと。」
物思いに耽る俺を、部長の声が呼び戻す。
部長の発表に再び耳を傾ける・・・。


「あの超絶人気アイドル、"キャナ☆"ちゃんの独占インタビュー記事の掲載許可なのよッッ!!!!」




「な、なんだってえええええええええええええええええええっ!!!?」

まるで某漫画の名物シーンを髣髴させる部員達の驚愕が、部室内にこだました。


「それは本当なのかキリシマ!」
「すごい・・・胸が熱くなるな・・・。」
「さすがは熱血部長である^^」

わいわいがやがやと騒がしくなる部室。
それを遮るように、部長の言葉が続く。

「学園側・・・つまり生徒会の許可、そしてキャナ☆ちゃんの事務所の許可も頂きました。」
「一部検閲が入るようですが、それでもわたくし達の生の声を人気アイドルに届けるチャンスです!」

「インタビュー内容は今後話し合って決めるとして・・・まず決めたいと思うのは、肝心のインタビュアー。」
「キャナ☆ちゃんと向かい合わせて直接話を聞く大事な大事な役です。これを今日は決めたいの思いますわッ!」

「おおおおおおお・・・・・・!」

「hai!やるます!」
「何を言ってるんだ?率先して手を上げる奴は心が醜い」
「謙虚だなー憧れちゃうなー」
「それほどでもない」

「キャナ☆ちゃんにあんな質問やこんな質問をして罵倒されたいです^^」
「お前絶対紳士だろ・・・社会的に抹殺されるのは確定的に明らか」

「キャナチャンハカワイイデスヨ!」
「インタビューをしたいからするんじゃないしてしまう者が俺」
「あんた私をディスる気!?だったらもう氏ね!」



更に騒然とする教室。
まあ、あの超人気アイドルと1対1で面と向かって会話できる機会なんて一生にあるかないかだろう。
そんな権利が自分に回ってくるのかもしれないんだから、盛り上がるのは当然で・・・。
つーか実際俺だってその役をやりたい!憧れのアイドルと向かい合いたい!

部長・・・キャナ☆ちゃんと話がしたいです・・・・。


「部長・・・これでは収拾が着きません。どうする気ですか?」
部員達が盛り上がる中、町崎先輩が桐島先輩に話しかける。

「そうねぇ・・・。この状態じゃ、誰がやっても角が立ちそうだし・・・。」
「私的な意見ですが、部長がやるのが一番適しているのではないですか?今回のために一番尽力したのは部長ですし。」

「そうかしら・・・。」



「部長がやるの?」
「ふむ・・・部長なら仕方ないな」
「俺も部長がやるなら文句はないぜ!」

「そんな部長に踏まれて罵倒されたいです^^」
「おいバカやめろ部長なら本当にやりかねないからsYレならんしょ・・・」


副部長の言葉が、次々と部員達に伝染する。
そして誰もが部長ならいいよと納得していく。

部長を初めとした新聞部の一体感は本当にすごいなぁ・・・。

「う~ん。反対意見もないようだし・・・じゃあ私がやっちゃって、よろしいのかしら?」


「いいともーーーーーー!!!!」


某お昼の番組並みにぴたり揃った部員達の返事が返る。

「では決まりですね。じゃあ今度は具体的なインタビューの内容を・・・」






「ちょっと待ってもらおうかな?」


「え?」

その流れを遮る声が、部室の入り口から聞こえた。
部員達の注目が一手に集まる。

そこに立っていたのは、見慣れない人物。
高等部の制服に身を包んだ、男子生徒。
少なくともそれは新聞部員ではなかった。


「話は聞かせてもらったよ、新聞部部長、桐島ふゆみクン?」
「む・・・・。」

ゆったりとした足取りで、その生徒は部長に近づいていき、馴れ馴れしい態度で部長に話しかける。
部長はその生徒を知っているらしく、彼の顔を見て明らかに不機嫌になった。

「生徒会副会長、八枷 庵・・・。一体この新聞部に何の用でしょうか?」

部長が話すよりも先に、副部長の町崎先輩がその生徒に返事を返す。
副部長の顔もまた、不機嫌だった。

っていうか・・・副会長!?生徒会の!?
生徒会は、幼馴染の草加 雅菜くらいしか馴染みがないものだから、他の役員の顔なんて気にした事もなかった。
あと、この学園の副会長といえば女子生徒、というイメージがあったんだけど・・・。
そういえば、副会長は2人いたかもしれない。


「そう怖い顔で睨まないで欲しいな、僕としては。」
「この時代遅れの新聞部を存続させているのは、この僕なんだからね。」

「そこは・・・感謝していますわ。」
「そうそう、そういう態度でいてくれればいいんだよ。」
「僕も気持ちよく君達に高い予算を許せるってモノだね。ははは・・・。」

・・・・・。

あまりの上から目線の話し口調に、初対面だというのにイライラしてきた・・・。
生徒会長にも関わらず、親しみやすい雅菜と違って、こいつはあまりにも・・・。


「あぁ、今月の新聞の「今月の美少女」の記事、良かったよ~?アイドルを目指す二人の少女、素晴らしいね!」
「それは・・・どうも・・・。」

「でもさぁ、もっとページを増やせないかな?他の記事なんておまけなんだから、写真をもっとどーんとさあ!」
「その方が読者を増やせるって思うんだよね。」

「こんな素人が書いたようなコラムなんて、誰も読まないでしょ?あるだけ無駄無駄!」

・・・っ!!

・・・それは。
俺が毎月考えに考えて書いている記事で。
部長から任せられた、俺の意見を自由に書いていいスペースで・・・。


その時、ちらりと部長が俺の方を見た。
眉をひそめて、申し訳ないような顔をしている。

部長のあんな表情・・・俺は見たことがない。
いつも自信に満ちた部長にあんな顔をされたら・・・。

・・・爆発しそうな気持ちを、俺はぐっと押さえ込んだ。


「副会長。今はそんな話をしにきたわけじゃないでしょう?早く用件を言っていただけるかしら?」
まだまだ続きそうなあの生徒の話に割って入る部長。
これ以上不愉快な思いをしたくないんだろう・・・。彼の話を遮る。

「あぁ。そうだったね。」
「実はね・・・さっき話していたキャナ☆ちゃんのインタビューさ。」

「僕がやる事になったんだよねぇ。これが。」


「え・・・・え!?」

部長の顔が驚愕に染まる。
副部長もまた、動揺を隠せない。

「そもそも君達新聞部にインタビューの許可が出るように、生徒会に口を利いてやったのはこの僕なんだよ?」
「それに、あのキャナ☆にインタビューを行うんだ・・・。その辺の生徒になんか任せられないだろう?」
「そこで生徒会副会長を務める、品行方正の模範的生徒であるこの僕に、生徒会直々の白羽が立ったという訳さ。」

「そんな・・・!だってこれは私達が始めた・・・」

「僕がいなきゃこの話は初めからなかったんだよ?だったら僕が一番の功労者で、インタビュアーの座を頂くのは当然じゃないかな?」
「さっきの話し合いの結論からすれば・・・ね?」

「・・・・・・・・・・・・。」

「言いたい事はそれだけさ。まあ安心しなよ。実際のインタビューの内容はちゃんと君達に渡すさ。」
「ただし、インタビューでの質問内容、記事の公正や検閲は全部僕がやる事になっているからね。勝手に決定稿を出さないでくれたまえよ?」

「それじゃ・・・この記事は・・・。」

全部アイツの言いなり、という事になってしまう。
個人の意思のままに書かれた文章なんて、公平な記事になんてなり得ない・・・・。


「じゃあね。インタビューの話は僕らから彼女に通すから。君達は僕の報告をゆっくり待っててね。ははは・・・・。」

格好つけて、後ろ向きのまま手を振って部室から出て行く。

不快な思いに苛まれていたのは部員みんなが同じで、彼が去った事で一様にため息をついた。



・・・・・・・・・・・。



「部長、あんな奴の言いなりでいいんですか!?」
部員の一人が、桐島先輩に噛み付く。
多分ここにいる全員が同じ気持ちだろう。

「・・・仕方ありませんのよ。アイツの言うとおり、新聞部が今活動できるのはアイツのおかげなのだから・・・。」
無念そうな声。
いつもの部長のイメージとはかけ離れたそれは、彼女の心労を物語る・・・。

「彼は、当事潰れかけていた僕らを前に、予算と引き換えのある条件を出しました。それが、「今月の美少女」です。」
「こんなスポーツ新聞のような記事、僕らとしても不本意だったのですが・・・。」

続けて語る副部長の言葉に、ざわざわと騒ぎ始める部員達。


・・・確かに「今月の美少女」はファンが多い。
これを始めたおかげで学園新聞の読者は飛躍的に増えたし、部員の数も一気に増えた。
今の新聞部があるのは、「今月の美少女」の功績といっても過言ではない。

でも、俺はこの記事自体は嫌だった。
新聞の価値って、そういうところじゃないって思うし・・・。

それにしても、あの記事が新聞部の本意でないことは知っていたけど、
アイツがそれを命じた張本人だった事は、今日初めて知った。


それにしてもアイツ・・・八枷 庵って言ったっけ。
あんなにはらの立つ人間、俺は初めて見た。
生徒会やその選挙の時には猫をかぶっていたのか、その本性はものすごい利己的な人間じゃないか・・・!

そういえば、アイツの顔ってなんだか最近見たような気が・・・。


あの・・・いやらしい笑み・・・・。


そうか!
今朝、キャナ☆ちゃんを見に行った帰り、偶然すれ違った男子生徒!
階段の踊り場で、他の生徒をいじめていた・・・。

アイツが・・・アイツが八枷 庵。
その名前は、最悪の印象とともに俺の中に刻まれた。



部活はその後も八枷の話題で持ちきり、まともな活動など出来ないまま、放課後は暮れていった・・・・。






PM17:02 放課後、新聞部部室前



「メール・・・?」

帰宅しようと部室を出た俺の携帯が振動し、メールの着信を知らせる。
背面ディスプレイに見えた配信元の名前は、「華枝」。

(華枝から・・・?)

わずかに不安が襲うが、あまりに神経質になりすぎだろうと大きく息を吐き出した。
長い吐息の後、改めて携帯を開いてその内容を見る。


『今日は部活が遅くなりそうなので、もし待っているなら先に帰っていいよ。』
『帰りは神歌ちゃんと帰ります。』


なんだ・・・と二度目の大きなため息。
心配したような事もない。
妹は単に部活動に忙しくて遅くなる・・・ただそれだけのようだ。

でも・・・華枝は今度の演劇には出られなくなったはずだ。
この前華枝が話してくれた事・・・。

(ごめんなさい・・・。部の演劇に出られなくなっちゃった・・・。)

あの涙と落胆振りは忘れられない。
消極的な妹が、唯一つ打ち込んできた演劇。
それがダメになってしまうというのは、華枝にとって相当のショックだった様に思う。

なのにまた部活に出て、しかもそれが忙しい・・・。
なんだか、それはそれで気になる。


・・・いやいや。
どうして俺はこう物騒な事と結び付けようと思うんだ。
詳しい事情は後で聞けばいい。
華枝は親友の神歌ちゃんと帰るといっているし、何の問題もない。
むしろ、あの落ち込み振りから立ち直ろうとしていると思えば、喜ばしい事じゃないか。

俺は自分の過保護ぶりに笑うと、携帯電話を閉じて再び歩き出した。



PM17:02 ボード学園 玄関先



「もう、5時過ぎてるじゃない・・・。何もたもたしてんのよ、アイツ・・・!」

そう一人機嫌の悪そうにつぶやくのは、金の髪をポニーテールにまとめた幼い外見の美少女。
腕を組み、片足で地面を叩き、眉毛を釣り上げて、いかにも「私イラついてるんですけど」とアピールする。


玄関の昇降口の脇、玄関の中からは見えないような影の部分に立つ彼女は、誰かを待っているように見えた。

『そう怒るようなら、君の方から迎えに行くべきだと思うがな?』
『マスター・水美。』

そんな彼女に語りかける声。
周囲に彼女以外に誰もいない玄関先。

そこに発せられた電子音声のそれは、彼女の立つ玄関の脇のその裏、茂みの部分から聞こえてくる。

「・・・うっさいわねウォーガ。この天才の私がそんな凡人みたいな事、出来るわけないじゃない。」
学園の天才少女・水美はその自ら作り上げたロボットバイク、ウォーガに返事を返した。

『やれやれ。私にこの間助け出したボード学園の生徒二人の身元を調べろと言い出したのはマスターだろう?』
それに対し、機械の彼はまるで人間のようにため息をついた。

『君の「仮面ライダーガブリエル」としての初陣で助けた二人、その無事は既に確認された。』
『しかもその一人が君のクラスメイト、「風瀬列」の妹だと分かって、君は何とかしてそれを彼に伝えたいと思った。』

『だがそれは今日に至るまで何も伝えられていない。今日もこうして放課後まで待ちぼうけだ。』
『昼間に教室でも、なんなら部室ででも彼に伝えれば済む事だと思うがね?』

「ハッ!何言ってるのウォーガ。私がライダーだってことは誰にも秘密よ?昼間の学園内でなんておおっぴらに話せる事じゃないでしょう?」

『でも彼にはそれを教えたくてしょうがないのだろう?「この間の事は私がやったんだ」と。』

「あいつは!・・・凡人の癖に天才である私をちっとも敬おうとしないからよ。だから教えてやるのよ。」
「アンタの哀れな妹は、この私の超絶科学が生み出したライダーシステムによって救われたんだってね!」

『だったら屋上でも何でも、人目につかないところに呼び出してそう言えばいい。何も毎日暗くなるまで彼を待たなくても・・・。』

ウォーガがそう言葉を発すると、水美はなにやら考えるような仕草を取った。
そして・・・その顔がだんだん真っ赤に染まっていき・・・。

「なっ!!!バババババババババババカじゃないのっ!?それじゃ!それじゃまるで私が!!」
「誰にも聞かれたくない事をこっそり伝えたくて、それであいつを呼び出すみたいに思われるじゃないっ!!!」
そう、大声でまくし立てた。

『・・・違うのか?』

「違うわよッ!!全然全くちっとも一つとして正しくないわよっ!!!」
『私には、理解しかねるが・・・・・。』

「あああああーっ!それもこれも、みんなあの凡人が悪いのよッ!さっさと部活切り上げて降りてきなさいっての!!」

『マスター・・・。生徒が一人、建物の中からこちらに接近してきている。微弱な人間レベルの生体反応をセンサーで感知した。』
「えっ!?ああ、そっか。アンタにはそういう機能もあったんだっけ。」

『・・・まさかこの数日、私にそう尋ねなかったのはそういうことなのか?』
「私にも忘れる事だってあるわよ。アンタももう少し気を遣いなさいよね。空気読みなさいよ、空気!」

『やれやれ・・・話題を変えたかっただけなのだがね・・・。』



・・・・・・・・。



学園の玄関が近づく。
ひょっとしたらまた神歌ちゃんが現れるかとも思ったが、華枝のメールにあったとおり、今日は部活なのだろう。
一人で帰るついで、どこかに寄ろうかと考えたとき・・・。

「よう!列。」
下駄箱の陰から、一人の男子生徒が姿を現した。

「八代。」
それは先日転入してきたクラスメイト。
水色の髪をした、おおよそ日本人とは思えないきれいな風貌をした少年だった。
しかしそれとは裏腹に人懐っこい性格の彼と俺とは、既に友人同士である。

「どうした?こんな時間まで。っていうかお前って部活入ってたっけ?」
「別に入ってないよ。俺の用があるのは、お前だよ列。」

「俺に用事?」
「よかったら一緒に帰らないか?二人だけで話す機会って言うのは、あまり無かったし。」

言われてみれば、そうだな。
学園ではよく話しているけど、大体が雅菜だったり晃輝だったりを交えての会話だったしな。
今後も長い付き合いになるだろうし、それも悪くない。

「分かった。どうせ一人で帰るところだったしな。」
「そういってもらえて嬉しいよ。待ってた時間が無駄にならなくてさ。」
俺が快諾すると、八代もまたその顔に笑みを浮かべた。

「じゃあ、行くか。八代の家って、薬局だっけ?この前そう言っていたような・・・。」
「ああ。よかったら寄っていくか?」

「えっ?いいのか・・・?こんな時間にお邪魔して、お前の家族とか・・・。」
「気にすんなよ。俺もそうだけど、うちの家族はここに越してきたばかりでまだ顔見知りが少ないんだ。」
「一人でも気軽に尋ねてくれる人間が増える事、喜びこそすれ嫌がりはしないさ。」

熱心に勧める八代。
ここまで言われたら、俺としても断る理由も無かった。

「分かった、じゃあちょっとだけお邪魔するな。」
「おう!へへへ。楽しみだな。みんなどんな顔するか・・・。」



・・・・・・・・・・・・。



(ちょ!?)
その後、玄関の陰で待ち構える水美が見たのは、あの不愉快な転校生と楽しげに帰る列の姿だった。

(ああああ・・・何よアイツ!あんなに楽しそうな顔して!!)
『だから早く声をかけろというのだ・・・。』





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