第1章第15話「G.B.R.I.E.L」


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PM 13:30 ボード学園体育館


ガタン!

舞台の照明が落ちる。
部員達の緊張がその闇を通して伝わってくる。

秋に行われる演劇コンクール。その演目の通し練習が始まろうとしていた。
夏休みの間のブランクを取り戻し、大会間近という事を自覚してもらうための初めての通し練習。


照明を落とし、その中央に語り部が現れる冒頭部。
スポットライトを浴びて、注目を集める演出。
まだ背景も衣装も整ってはいないが、気持ちを盛り上げるために演出だけは本番に近い形で行う。


本番に近い雰囲気が、部員達の気持ちが高まるのを感じる。
私だってそうだ。

「いよいよだね。八枷くん。」
「はい。部長・・・。」
そこで、私と一緒に袖に控えていた、この劇の監督を勤める演劇部部長に声をかけられた。

「今回の劇は、高等部の先輩がたの御支援抜きで、君が一人で脚本、演出を手がける舞台だ。」
「君の才能が遂に花開く瞬間だよ!」

「はい、そうです、そうですね・・・!!」

今まで練習してきたもの、積み上げてきたものが一つの形になってその姿を見せる。
脚本と演出を手がけたものにとって、これほど興奮する瞬間もないだろう。

暗い舞台袖の中から、反対側の袖で控える部員達が動くのを待つ。

・・・やがて、一人の生徒が暗い舞台の中央に向かって歩き出した。

始まる・・・私達の舞台が・・・!







 
「い、いやあああ!!!きゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!」





「!!!?」
その時、反対側の袖から恐ろしい悲鳴が耳に飛び込んできた!

それに驚いた語り部の生徒は、あわてて袖を振り返る。

私のまわりに居た部長や裏方の生徒も、何事かと舞台の上に駆け出した。

「何よ・・・もうッ!」
私もそれにつられて舞台の反対側に向かうが、盛り上がる気分を害された気になり、おもわず苛立った声をあげていた。






「いいいい、いやだああああああっ!!!怖い!!!怖い!!!やめて、やめてよおおおおおおおおおおっ!!!!!」

部員達に囲まれるようにして声をあげるその主は、同じクラスの風瀬華枝さんだった。
何に怯えているのか、風瀬さんは狂ったように声をあげ、頭を抱え、床でのた打ち回っていた。
その様子に、誰もが言葉を失っており、誰も彼女を押さえようとはしていなかった。

・・・私だって、引いていた。


「は、華枝!どうしたの、ちょっと落ち着いて、華枝!」

そこへ、ようやく英琉さんが風瀬さんに向かって声をかけた。
彼女も風瀬さんの様子が異常に見えるのか、及び腰なのが見て取れた。

「ここここここここわいいいいっ!!!暗いの、、、怖いよおおおおおおおおおおおおっ!!!!!やだ、やだやだやだやだああああああああああああっ!!!!!!!」

「怖い・・・?暗いのが怖いの!?」

「あああああ・・・・!!!ああああ・・・やだああああああああああっ!!!!!」

「誰か!急いで早く袖に照明戻して!!早くッ!!!!」

「あ・・・は、はいいっ!!」
英琉さんの言葉に照明係の男子生徒が反応して、すぐに反対側の袖にある、舞台装置のほうへ駆け出した。


程なくして・・・・。


ガンッ!

照明が付く。
すると、風瀬さんはピタッと喚くのをやめた。

はぁ・・・・。

部員達の安堵の声が聞こえた。
私もまた、ほっと胸をなでおろす。

「華枝、もう大丈夫だよ?」
英琉さんが床に伏せたままの風瀬さんに優しく声をかけた。
大人しくなったのはいいが、彼女は今度はそこから動こうとはしなかったからだ。

「あれ?華枝・・・・?華枝?」
ゆさゆさと風瀬さんの体をゆする。

「華枝・・・・。」

「気絶、してるみたいです・・・。」



「えええ?!」



再び部員達がざわめき始める。
まさか気絶しているだなんて思わなかったのだろう、ただならぬ事にみんな不安を隠せない。
風瀬さん・・・。明るくなって安心したとたん、ぷっつりと意識が途絶えてしまったのだろうか。

「・・・とにかく、このままにはしておけないな。俺、風瀬さんを保健室に連れて行く。」
「あ・・・神歌も行きます!」

部長はそう申し出ると、風瀬さんをおぶり、保健室へ連れて行った。

・・・もはや通し練習なんて状態じゃない。
私は風瀬さんのことを心配しつつも、落胆を隠せなかった。


ざわざわ・・・ざわざわ・・・。


好きなように話を始める部員達。
もう彼らを注意する元気も失せた私は、舞台袖の階段に座り込んだ。



・・・彼女はどうしてしまったんだろう。
暗い舞台袖に入るなんて、彼女が入部した中学1年生の時からずっとやっている事だ。

何で突然あんな風になってしまったんだろう・・・。



(ほら、確か風瀬さんって、夏休みに入る前に・・・)
(あー!そうそう、誘拐されちゃったんだっけ!ニュースでもやってた!)

耳に飛び込んでくるのは、他の部員の会話。
その内容は、風瀬さんについてのものだった。

私もその内容は知っている。
当時、この学園内ですごく騒がれた事だ。




去る七月。
ボード学園に通う中等部の女の子が、行方不明になった。
当初誘拐かと思われたその事件は、目撃者も犯行声明も犯人の要求も一切なしの奇怪な事件だった。

学園ではその兄である風瀬列先輩と、生徒会を巻き込んで、町全体に目撃情報を求める運動が始まった。
しかし有力な情報はなく、みんなの間に諦めのムードが漂い始めた頃・・・。

事件は、突然解決する。


風瀬さんは町はずれの街灯の下で、膝を抱えて泣いていた所を警察に保護されたのだ。
兄妹が再会する様子は地元のニュースでも流されたので、よく知っている。

だが、風瀬さんは誘拐されていた間の記憶は一切なくなっていた。
夕暮れの街を歩いていた時から記憶が途絶え、気がついたときにはあの場所で座っていたのだという。
警察はこの事件の究明に向けて、今でも捜査を続けているはずなのだが・・・。

(あの事件ってさぁ、まだ犯人捕まってないんだっけ?)
(そうそう。それに、その時からこの街で行方不明になる人が増えたような・・・。)
(怖いよね~・・・。)

その成果は未だにゼロ。その上新たに行方不明者が増える始末だ。
捜査をする警察官側さえ行方不明になる事も多く、この現象は街を脅かしている。

・・・やや考えが逸れてしまったが、風瀬さんが突然暗闇を怖がるようになったのは、
その時の経験が原因なのだろうか・・・?

そういえば、この一連の行方不明事件で、生還しているのは風瀬さんただ一人だ。
一体彼女に、何があったんだろう・・・?







「心配だな。風瀬さん。」

「え?」
考え事を続ける私に話しかけてきたのは、同じクラスの方城くんだった。

「見学に来てたんだ。今日は英琉さんも部活に参加するようだし、ひょっとして大きな練習をするんじゃないかって思ってね。」
私が聞くよりも早く、彼は自分がここにいる理由を話してくれた。

「熱心ね。一体誰が目当てなのかしら?」
「茶化すなよ。俺は純粋にクラスメイトのことを心配してるんだぞ。」

「・・・どうだか。」
「八枷。お前はもうちょっと素直になれよ。キツイ事言ってたら、本当に男に相手してもらえなくなるぞ?」

「余計なお世話。・・・で、さっきの風瀬さんの事、見てたんでしょ?方城君はどう思う?」
「どう思うって・・・何?」

「私、段々風瀬さんに腹が立ってきて。暗い場所が怖いなら、早くそういってくれればいいのよ。」
「なのに本番になってあんなことになって、通し練習が台無しだわ!」
「やっぱり彼女、演劇の事なんてどうでもいいのよ!だからあんないい加減な・・・。」



「風瀬さん、演劇やりたかったんじゃないかな。俺はそう思うよ。」
「・・・え?何よ、それ。」

「もし部長や八枷にそんなこと話したら、劇に出さないようにするだろう?いや、お前なら間違いなくそうする。」
「言い方が気になるけど・・・。そりゃ、そうよ。ただでさえ上り症の風瀬さんなのに、これ以上・・・。」


「夏の間に一生懸命練習してきた事が全部無駄になってしまう。・・・自分のしてきたことを否定されるの、怖かったんじゃないかな。」
「・・・・・・・・。」

「風瀬さん、ああ見えて根性はあるから。そうじゃなかったら、あんな大人しい子が演劇なんてやらないよな。」

「・・・分かってるのね、方城君は。」
「でも。こうだと分かった以上、風瀬さんは役から降ろします。」
「毎回あんな騒ぎがあったら、たまらないわ。」

「おい、八枷・・・!」

「風瀬さんには悪いけど、私は今度のコンクールに全てをかけてるの。こんなことで躓くわけには行かないのよ・・・!」

「風瀬さん、がっかりするだろうな・・・・。」
「・・・・だって、しょうがないじゃない・・・・・。」





PM 15:28 ボード学園 玄関口



「あーあ気分悪ッ!こんな半端な時間に帰る羽目になるし、あの凡人は変なチビ二人にヘコヘコしてるし!」
「おまけに最後はあの変な転校生に・・・あーもうっ!!!」

こんなことになるんなら、始業式のあとのHRでとっとと帰ればよかったッ!

悪態をつきながら玄関を出る。
今日は2学期1日目。学校は午前で終わり、すぐに帰れるはずだったのだが・・・。

「・・・くたびれ儲け。無駄な時間を過ごしちゃったじゃない。」
「今日くらい部活に顔出すの休めばよかったぁ・・・。」

そうすれば、もう少し自由な時間ができたのに。
あんな不愉快な思いをしなくて済んだのに・・・。

「ウォーガッ!帰るわよ、出て来なさい!」

無人の玄関前で声をあげる。


ブルルルルル・・・。

『やれやれ・・・マスター。機嫌が悪いようだな。』

私の掛け声に反応して出てきたのは、フロントからリアにかけて丸いフードをかぶったフルカウルのオンロードバイク。
ただし、それを運転するものは誰もいない。
無人のバイクがゆっくりと私の元へ近づいてくる。私の声に応じるような、電子音声を発しながら。

『それに、予定していた時間よりも早い。何があった?マスター。』
「うっさいわね。そうなんでもかんでも予定通りになんて行かないわよ。」
そういって、私はその無人のバイクにぽんと手をかけた。

『マスターのことだ。またあの少年絡みか?レツとか言う・・・。』
「バラッバラに分解するわよ。」
殺気を込めた言葉で威嚇する。

『・・・なんだ、図星なのか?』
「う・・・うっさいわね!さっきも今日入った転校生に同じ事言われて、腹が立ってるのよ!!」
「大体アイツなんで教室に入ってくるのよ!あの凡人が部活終わるの、コッソリ待ってたって言うのにさっ。」
さっきのことを思い出して、また腹が立つ。

『またつまらない事で腹を立てて・・・もう少し素直になったらどうだ?』
「なによ。私の作ったバイク如きが、私に説教するわけ?」
『・・・やれやれ。今日は本当に手がつけられんな。』

「今日は不愉快だわ。ウォーガ。今日はカッ飛ばして。ストレス発散よ!」
バイクのメーター部に手をかけると、バイクを包むフードが開いて車体の後ろに納まる。

『スピード違反に無免許運転、さらには未成年となると、警察に見つかればただでは済まんぞ?』
シートに置かれたヘルメットをかぶり、バイクにまたがるとフードを再び閉じる。

「何言ってるのよ。私はただあんたに跨ってるだけ。あんた自身は人工知能を搭載したロボットバイク。」
「私は一切運転なんてしてないんだから。」

『そんな屁理屈、頭の固い警察には通じないと思うがな。』
「そん時は全力で逃げるだけよ。警察の白バイなんかじゃ、あんたには絶対に追いつけないわ。」
「何せ、あんたはこの天才少女の水野水美様が自ら手がけた、地上最強のバイクなんだからね!」

『・・・やれやれ。先ほど分解すると脅したかと思えば、地上最強と持ち上げてくるとは。』
『年頃の少女の心というのは度し難いな。』

「別にあんたを誉めた訳じゃないわよ?常に賞賛されるのはこの私。」
「私は私の才能が怖いってことよ!」

『・・・もう行くぞマスター。こんな人目につくところでは、バイク相手に話しかける危険な少女に見られ兼ねんからな。』

「え?ちょっとmうきゃああああっ!!?」

バルウウウウウンッ!!!

私がウォーガに言葉をかけるよりも早く、マフラーから爆音が鳴り響き、ロボットバイクのウォーガは急発進した!!

「な、なによウォーガ、文句言ってた割には飛ばすじゃない!」
『これ以上絡まれては敵わんからな。せいぜい振りとされないように捕まっているがいい・・・!』



ウォーガの速度はあっという間に跳ね上がり、バイクは首都高まで駆け上がると、私のイライラもどこかへすっ飛んでいった。

「うーん最高ッ!今日は暗くなるまで飛ばすわよーッ!」
『勘弁してくれ・・・。30分が限度だ。(燃料的な意味で)』





PM15:37 ボード学園保健室


「う・・・・ん・・・・。」

ゆっくりと、意識が戻る。
目を開く事で、自分が眠っていた事をようやく悟る。

ここ、どこだろう。私のうち?
・・・いや、ほんのりと消毒の匂いが漂うここは・・・きっと保健室。

だんだん、頭の中がハッキリしてくる。
そして、自分に何があったのかも・・・。

シャッ!

「お目覚め?華枝ちゃん。」

「あ・・・さくら先生。」
ベッドの周りにかけられていた白いカーテンを開き、保健室の若い女の先生が顔を出した。

「もう大丈夫?何があったか、覚えてる?」
「・・・はい。すみません。ご迷惑をかけて・・・。」

私は顔なじみである保健の先生である、橘さくら先生に頭を下げる。

「部長さんと、英琉さんがあなたをここに連れてきてくれたのよ。」
「華枝ちゃんの様子を見て、何があったのかすぐに分かった。」
「二人には戻ってもらったけど、明日ちゃんとお礼を言うのよ。」

神歌ちゃんと、部長さんが・・・。
ああ・・・。やっぱり私、我慢できなかったんだ・・・。



「今日の演劇、通し練習だったんですって?」
「華枝ちゃん、無理したんでしょう?演劇ってどうしても、暗くする場所ってできちゃうから。」



「・・・・・・・・・。」
さくら先生の言葉に、なんともいえない気分になる。

「華枝ちゃん、劇出たかったんだよね?でも、ちゃんと自分の事、部長さんに話さないとダメじゃない。」


・・・・・。


「私・・・怖くて、言えなかったんです。」
「今朝、夏休みに出てこなかった神歌ちゃんのこと、八枷さんがすごく怒ってて、そんな時に私のこの事を知ったら、もっと怒るんじゃないかって思って・・・。」
「それに・・・この事を知った部長さんが、私を役から降ろすかもって思って、怖くなったんです。」
「だから、何とか我慢しようって思って。暗いのが怖くても、我慢して我慢して乗り切ろうって・・・!」


はぁ・・・とさくら先生がため息を付くのが聞こえた。

「華枝ちゃん。あなたは病気なの。体の病気じゃなくて、心の病気ね。」
「心の痛みは、我慢なんかしてもだめなの。気長に取り組んで、治していかないといけないわ。」

「でも私!今日まで頑張った事、無駄にしたくないんです!」

「・・・・。」

ぽん。

さくら先生の両手が私の両肩に置かれ、先生はまっすぐ私を見つめた。

「焦らなくっていいの。あなたはまだ先があるんだから、今すぐじゃなくたっていいのよ?」
「そんなに無理をしたら、あなたの心が砕けてしまう。」

「七月にあなたは何者かに誘拐されて、その時のトラウマがあなたを暗闇への恐怖症に陥れてしまった。記憶も閉ざしてしまった。」
「私はね。あなたのお兄さんに頼まれているの。華枝の心を癒してあげてくださいって。」
「だから、私としてもこれ以上、あなたの無茶を見逃すわけには行かないわ。」

「部長さんには私が話しておくから、華枝ちゃんはしばらく部活を休む事。いいわね?」


「・・・・・・・・っ!」
その言葉を聞かされると、私は涙が零れそうになった。




・・・せっかく、せっかくがんばってきたのに。

秋に行われる、中学の演劇コンクール。
その大舞台で、私がその出演を許されて。

演劇部に入って3年。
それは私が頑張って頑張ってようやくもらえたセリフのある役だったのに。

ここまで来るのに、おにぃちゃんも、神歌ちゃんも、いっぱいいっぱい、応援してくれたのに・・・・!
私の、わたしのせいで・・・・・!!!


「っく、う、うぅぅぅぅ・・・・!!!!」
もう我慢できない。
嗚咽が喉の奥からあふれ出る。

悲しくて悲しくて。
悔しくて、情けなくて。

涙が、止まらなかった。



「うええええええ・・・ええ・・・っ!!」



「華枝ちゃん・・・・。」
泣き出す私を、先生はずっと頭を撫でてくれた。






・・・・・・・・・・・・・・・・。








「そういえば。あなたのクラスの方城君が、さっき来て行ったわよ。ほんの10分ほど前だったかしら?」
「方城、君・・・・?」

ひとしきり泣いた後、さくら先生が思い出したように話す。

「風瀬さんの事が心配だったんです。だって。」

方城君・・・?
なんで、私が倒れた事、知ってるんだろう。
あの場に、いたのかな・・・。

「隅に置けないわね、華枝ちゃん♪」
にやにやと私を見て笑う先生。
何を想像しているのかは、容易に想像がつく。
でも・・・・。


「方城君って、委員長、ですから・・・。」
・・・それに、私はとても地味で目立たない子だから。

方城君を囲む女の子の輪の中になんて、一度も入ったことがない。
まともにお話したこともないし・・・。

委員長の勤め。
それ以上の意味なんて、私に向けられるはずがないもの・・・・。

「じゃぁ先生。わたし・・・帰ります。ありがとうございました。」

「あ、うん。体大事にしてね。」
「はぃ・・・。では。」
わたしは・・・重い気持ちで保健室を後にした。


・・・・・・・。



おにぃちゃん、神歌ちゃんになんて言おう・・・。
演劇、もう出来なくなったって・・・。
ダメになっちゃったって・・・。


・・・おにぃちゃんは優しいから、きっとそれでも私の事、慰めてくれるよね。
でも・・・

きっとおにぃちゃんも、悲しむんだろうな・・・。
はぁ・・・・。




ため息交じりで、人気の無い校舎を歩く。

たどり着いた玄関で、私はすぐに高等部の下駄箱に入っていく。
目指すのは、おにぃちゃんの下駄箱。
もしもまだ校舎に残っていれば、一緒に帰ろうかと思ったけど・・・。

「内履き・・・。」

もう、帰った後だった。

中等部の下駄箱に行き、今度は神歌ちゃんの下駄箱を見たが。
「やっぱり、もういないょ・・・」

はぁ・・・・・と、また重いため息をつくと、私は自分の下駄箱から靴を取り出し、校舎をでた。



その後、帰り道で友達の命李ちゃんと合流し、一緒に帰る事になった。
でも。

まさかこの後、あんな目に遭うなんて、このときは予想もしていなかった。







PM16:13 住宅街



「っと、随分話し込んでしまったね。」
「え?あ・・・。」

俺と話す峠くんが、不意に話を打ち切った。

「・・・・・・。」
俺の横で退屈そうにする、神歌ちゃんが気になったんだと思う。

「人に読まれるような文を書いている人と直に話すのは貴重な体験だからね。つい思ってることをいっぱい話したくなっちゃったんだ。」
「英琉さん・・だっけ?ごめんね。風瀬君借りちゃって。」

「あ!・・・いえ・・・。」
峠君に笑顔で会釈されるが、神歌ちゃんはなぜか顔を背けていた。

「じゃあ、僕は帰るよ。買い物、途中だったしね。」
そういって、手にもつ買い物袋を差し出して見せた。

「いや、俺もごめん。俺の書いた文の事、熱心に話してくれる人、なかなか周りにいないからさ。」
俺もこの時間はそこそこ充実していたことを示す。

そういうと、彼は人懐っこい笑顔で応えた。

「また明日ね。風瀬君、それに英琉さん。」

「ああ。じゃあ、また明日・・・。」
手を挙げる峠君に、軽く手を振ると、彼はすらりとした身長を風に流すように、物音を立てずに去っていった。



・・・なんだ。いい奴じゃないか。
今日まで彼のことを気にもかけていなかった方がおかしい。
もっと早くに知り合っていれば、こうして俺の活動について熱く語れたろうになぁ・・・。

くい。

「・・・むぅ。」

「え?」
峠君の後姿を見送った後もその方を見ていた俺を、神歌ちゃんがくいと袖を引いた。

「何さわやかな笑顔浮かべてるんですか。神歌をほっぽり出して。」
その神歌ちゃんは頬を膨らませて、いかにも「私怒ってます」と誇示していた。

「いやごめん。俺のかいたものをあんなに熱心に語られちゃうと、俺も物書きとして素直に嬉しくてさ。」
「神歌だってさっき話していたじゃないですか~・・・。」

「もちろん神歌ちゃんもそうだけど、ほら、何か新たなファン発見って感じじゃない?」

「むぅ・・・。なんか神歌、あの人の事、気に入らないです。」
「ええ?!なんでだよ、あんなに熱心だったじゃないか。」

「そりゃ列さんにはそうなんでしょうけど・・・。なんというか・・・。」

「なんというか?」


「・・・神歌、初めてあの人を見たとき、女の人かと思って。」
「ええ?!そ、そりゃないでしょう神歌ちゃん。たしかに髪なんかサラサラの長髪できれいだとは思うけどさ。」
まあ、男にも女にも見える中性的な人物だとは言えるかも。

「声も顔もきれい過ぎて・・・なんだか人形みたいでした。」
「人形・・・?」

「はい。人に造られた、人に都合のいい人形・・・そう思いました。」
「・・・・・。」

神歌ちゃんのその歯に衣着せぬ物言いは昔からだが、それは言い得て妙だと思った。
確かにどこか妙な点はぬぐえない。
同じクラスで、しかもあんなに人当たりのいい人物なのに、何で今日まで忘れていたんだろう・・・とか。

「・・・。でも神歌ちゃん。今度峠君に会っても、そんなこと口走っちゃダメだからね。」
「人を人形呼ばわりなんて、失礼だよ?」

「むぅ・・・!列さんは、あの人の味方をするんですか?」
俺の言い方が気に入らなかったのか、神歌ちゃんはさらに機嫌を悪くする。

「そ、そうは言ってないでしょ!俺はいつだって、神歌ちゃんの味方だよ!」
「むぅ・・・本当ですか?」

「本当本当!ほ、ほら、早く帰ろうよ。またさっきの見たいなのが出るとも限らないしさ!」
「・・・そ、そうですね。またあんな目に遭うのも怖いですし・・・。行きましょう、列さん。」

俺に言われて、神歌ちゃんもさっきまでの出来事を思い出したのか、急に肩を潜める。
その場凌ぎのつもりの言葉だったが、思ったより効果があったようだ。

それに・・・俺だってもうあんな目はゴメンだ。

「あ・・・っ。そうだ、忘れてました!」
「ん?」

そこへ、急に神歌ちゃんが俺のほうを向き直る。
すると神歌ちゃんは上気した顔で、おずおずと俺を上目遣いで見つめた。


「さっきは・・・ありがとうございました!神歌、さっきすごい怖かったから・・・。」
「列さんに君は俺が守るって言われて・・・すっごい嬉しくて、列さんはかっこよくて・・・。」

「え!?あ、ああ。さっきの・・・。」
あのトラネコの怪物に襲われている時、とっさに彼女をかばって叫んだ言葉。

「いや、俺ももう夢中で・・・アハハ。」
思い出すのも恥ずかしいので、つい笑いがこみ上げてくる。

「ううん。神歌、あの時はもう心臓がドキドキしちゃって。今思い出しただけでもまた、ドキドキが止まらないんです。」
「もう、神歌・・・胸がいっぱいで・・・。列さん、やっぱり大好きですッ!」

がばっ!!!

「う、うわあああっ!!!?」
次の瞬間、神歌ちゃんは俺の首に腕を回して抱きついてきた!
急な事に俺は神歌ちゃんの体重を支えきれずに・・・。

どってーん!!

「うがあああああっ!?」
「きゃあんっ!!」

そのまま後ろに向かって倒れてしまった。
後頭部をしこたまぶつけ、痛む頭を手で押さえる。

「い、痛いよ。神歌ちゃん。」

「ご・・・ごめんなさい!・・・・ふふふ・・・っ」

「く、くくく・・・・。」


「「あはははははははははは!」」

なぜか笑いのこみ上げてきた俺達は、その場で一緒に笑いあった。
今ここに二人無事でいられていることを安心したのか、それとも俺達の今の様子があまりにおかしかったのか。

あまりにおかしな俺達は、まだ高い太陽の下。互いの無事を笑って確かめ合ったのだった。







PM 16:27 中央公園



「・・・華枝ちゃん、元気ない?」
「え・・・っ?」

一緒に歩く命李ちゃんがそう口にしたのは、大きな公園に差し掛かった辺りだった。

「今日・・・部活、何かあった・・・?」
「あ・・・うん。」

いつも一緒にいる友達の命李ちゃんには、私のほんの僅かな変化がわかるようだった。
だったら、隠していても仕方がない・・・。
私は今日の事を命李ちゃんに打ち明けることにした。

演劇部でのこと、私のこと、そして、演劇部を休部しなければならなくなった事・・・・。



・・・・・。



「・・・・・・。」
私の話に、命李ちゃんは言葉を失ってしまう。
特に、演劇部を休まなければならなくなった事について話すと、命李ちゃんまでも泣きそうな顔になってしまっていた。

「華枝ちゃん、あんなに頑張ってたのに・・・。私だって、華枝ちゃんのこと応援してたのに・・・。」
「うん・・・。でも、仕方ないよ。私が暗いところが怖いの、すぐに治るような事じゃないし。」

「心の病気って、無理をすると心が壊れちゃうこともあるんだって。」
「だから、もう私には・・・。」
「・・・・ごめん、ごめんね命李ちゃん。私の事、いっぱい応援してくれたの、全部無駄になっちゃった・・・・。」

・・・・・。

悲しい事実を思い出して、また涙を流しそうになる。
くっ・・と、嗚咽をこらえたのは、命李ちゃんに聞こえてしまっただろうか・・・?

「ううん・・・。誘拐、された時の怖さ・・・。私にも・・・わかるから。」
「あ・・・。」



そうだった。そういえば彼女も、昔に行方不明になった事があった。
まだ私達が出会って間もない頃・・・。晃輝さんから突然電話がかかってきて・・・・。
命李ちゃん、まだ帰ってないって・・・。


命李ちゃんのお兄ちゃんの晃輝さんが、必死になって捜してた。
私たちも手伝って、いっぱいいっぱい捜した。
その甲斐あって、その時はすぐに命李ちゃんは見つかったけど・・・。

でも、見知らぬ誰かに連れ去られ、見たことのない場所に一人で閉じ込められる恐怖は、十分に理解しているだろう・・・。


「・・・今度は、私が命李ちゃんを応援するよ!命李ちゃん、音楽やってるんだから、もっともっと上手になれるように!」
「あ・・・。うん・・・!華枝ちゃんが私の練習を見に来てくれたら、私・・・。きっと今より頑張れる・・・。」

私の提案に、悲しそうだった顔を綻ばせる命李ちゃん。
私もその笑顔を見て、すこしだけ救われたような気になれた。


「あはは・・・!」
「ふ、ふふふ・・・。」




ビュウウウウ・・・・・!!!











その時、ひとしきり強い風が吹いた。


「・・・ッ!!!」

・・・と同時に、私は背筋に冷たい感覚が通るのを感じたのである。

ドシャッ!

ドシャドシャドシャッ!!

次の瞬間には、今度は何か重いものが地上に落ちる音がした。

上から降ってきたそれは、重い「モノ」などというものではなく・・・。






『ハア・・ハアア・・・・』
『ニンゲン・・・コドモ・・・!!』
『オアアアアア・・・!!アアアア・・・!』
『タマラヌ・・・タベルゥゥゥ・・・!!!』





その全身に黄色と黒のストライプの入った、人間大の「虫」だった。

もっと具体的に言えば、それは蜘蛛。
八本の足をせわしなく動かし、大きな腹を蠢かせ、クチのような部分からはだらしなくよだれの様な物が垂れ落ちている。

それが4匹、私と命李ちゃんを取り囲んでいた。


「ひいいいいい・・・っ!!?な、なに、なんなの・・・!!!?」
喉を絞らせて細い声を絞り出す命李ちゃん。
この世ならざるその光景に、今にも失神しそうだ。

・・・いや、それは私だって同じ。
こうして淡々と状況を整理しなければ、正気を保っていられない。

だって、この状況は・・・

「や・・・やぁ、私たち、どうなるの・・・?!!」
命李ちゃんの声に、私は応える言葉が見つからない。

此の先に待ち構える事態は、あまりに容易に想像でき、最も想像したくない事だから・・・。


『ハアアアア・・・・!』
『ヒサビサノ・・・エサァァァァァ・・・!!!』
『モウ・・タベルゾ・・・タベルゾ・・・!!!』
『グハアアアア・・・・アアア・・・!!!!!』


うぅ・・・・!!
虫たちのうめきにも似た声に、その内容に、遂に私も恐怖に理性を失う・・・。


「あああ・・・やだぁ・・・・!!!」
「誰か・・・助けてぇぇぇぇぇぇェェっ!!!!!!!!!!!!!!!!」






PM16:25 中央公園付近IC




「あーすっきりした♪やっぱりストレス解消には、ツーリングが一番よね~。」
『それはよかった。おかげで私の燃料タンクは空っぽだ。できればすぐに給油を願いたいところだが。』

「・・・む。折角私がいい余韻に浸ってるところに、そんな現実的な話をしないの。」
首都高で思う様に走りを楽しんだというのに、相変わらずウォーガは空気を読めない。
一般道、法定速度で軽く流しながら、このロボットバイクの話を聞いてやる。

『マスターにとっては些末事かも知れんが、私にとっては死活問題だ。それにもしもこんな時に、「例の奴ら」が現れたらどうする気だ?』
「ウォーガ。「例の奴ら」、なんて勿体ぶった言い方しないの。私は相手が「怪人」であればそれでいいんだから。」

『・・・私としてはなんでもいいが。とにかく、もし戦闘なんて事態になったら・・・。』
「もう、手遅れみたいよ?ウォーガ。」
『何・・・?』

私は視線を下に落とすと、速度計の一つに目をやる。
「異常な生体反応を計測してるわ。あんたに内蔵した「ライブ・センサー」がビンビン反応してるわよ。」
『・・・む。人間であるマスターのほうがそれに早く気づくとは。どうやら私の空腹がそういった感覚までもダウンさせているようだな。』

「付近に5つ。この位置は・・・あの公園にいるようね。」
見上げた先にあるのは、市民の憩いの場である緑化公園。

『ああ。私も感知した。ついでに襲われている人間もいるようだ。微弱な反応を2つ捉えている。』
「人間のレベルの反応ね。」
『そのようだ。・・・行くのか?マスター。』

「・・・ハッ!愚問でしょう、ウォーガ!」
『全くだ。無駄な声を発するだけ燃料が減る。いくぞ、マスター!』

バルウウウウウウウウウウウウンッ!!!

ウォーガはスロットルを引き絞り、爆音とともにその道順を中央公園へと変える!



「ドキドキするぅ・・・!こんな気持ち、「コレ」が完成して以来じゃない?!」
『ああ。「ソレ」が完成して以来、初めての人前のお披露目だ。』
『君の「もう一つの顔」を、世間に認知させる初めての機会だ!』

ウォーガの速度で、あっという間にその眼前にその公園を捉えた!

バウンッ!

走行状態のまま大きくジャンプし、公園内の歩道に乗り入れ、目標に向けてスピードをさらに上げる!


「行くわよ・・・ウォーガ!」
『ああ・・・!システム「G.B.R.I.E.L」起動!』


ガシャンッ!!

システムは起動を確認。
ウォーガのシートから銀色のベルトが展開し、私の腰に巻きつけられた!

「へへ・・・いくわよ!」




「変身ッ!!!」





バイクに跨ったままに、その音声コードを発する!

すると、ベルトから青い光の線が全身に走り、私の姿を包み込んでいく!


そしてバイクは、2人の人影と4体の「異形」の眼前に迫った!!

『見えたッ!目標だ!マスター!』
「オッケー!ウォーガ、このまま私をあそこまで放り出してッ!!」

『転ぶなよ・・・・ッ!!!!』


ギャキキキキキキッ!!!!

ウォーガを包むフードは車体後部に収納され、バイクをひねって急ブレーキをかけた反動は、
青い光に包まれた私を襲われている二人の下へ放り出した!!!




「とああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」



『ア・・・・アアア・・!!?』
『ナ・・ナンダ・・・・!!?』

けたたましいバイクのブレーキ音に、あの不恰好な虫どももこちらに気づく。

だが・・・もう遅いのだ。
連中が私に気づいた時にはもう・・・

地上最強、無敵の正義の使者が、奴らの前に降臨するのだからッ!!!!





ドシイイイイッ!!!


『グアアア・・・アアア・・・・?』

「へ・・・・?」
「何、今度は何・・・・・?」

見事に着地に成功。
ゆっくりと立ち上がる私に、その場にいる6名の視線が突き刺さるのを感じる。
・・・快感よね!この感覚・・・♪

さあ、この私の超天才的頭脳が生み出したこの神々しい姿にひれ伏すがいいわッ!!!



「その姿・・・神の御業か悪魔の智慧か。」
「我が名は仮面ライダーガブリエル!下界を跋扈す有象無象の凡愚共、天の裁きを享受せよッ!!」

びしいいいいっ!!!




毎日練りに練り上げて完成した口上を挙げ、腰に手を当て指差しポーズ!
決まってる・・・これ以上ないほどに決まっているわ・・・・!!!

全身を覆う青いスーツはボディラインにしっかりフィット!おまけに伸縮自在の超強化服!
水色のプロテクターは武装と一体化した見た目重視のデザイン!金のラインが周囲の視線を釘付けよ!
マスクは顔をしっかり覆っているから、周囲から私の正体がばれる心配もなし!
内側から見ればマスクは全て透明になっている、視界が狭まるなんて欠陥もありはしないわ!

フ、フフフ・・・完璧よ。完璧だわ。
私の設計、開発した仮面ライダー、ガブリエル。

そこの哀れな凡人二人!私の活躍、しっかりその目に焼き付けるのよッ!




『アアア・・・アア・・・?カメン・・・ライダー・・・・?』
『ライダー・・・テキ・・テキィィィィ・・・!!!』

『グウウウウオオアアアアアアアッ!!!!』



バッ!!!

凡人2人を囲む蜘蛛の一匹が、こちらに向かって飛び掛ってきた!
フッ・・・そんなもの、このわたしにかかれば止まっているのと一緒よ!

迫る蜘蛛に対して、スッ・・・と身をかわすと、その背中に肘を落とし、地面に叩き伏せた!!!

ドガアアッ!!!

『グオオアアアエエエエッ!!!?』

「フフフ・・・!」

ガシイイッ!

『グエッ!?』
その地に伏せた哀れな姿に対し、その頭を思いっきり踏んでやる。
うふふふふふふ・・・いい気味・・・!

『オ・・・オノレエエエエエ・・・!!!』
『グウウウアアア・・・!!!!』

その姿を見るや否や、残りの3匹は私に大して包囲を囲む。

「・・・計算通り。バカねぇ、あんた達。」

『ナニ・・・イイ・・・!!?』

「ほら!あんた達、さっさと逃げなさい!!」



「ふぇ!?」
「あ、は・・・はいいいいいっ!!!」

だだだだだだっ!!!

私の戦う様子にほうけていた二人の女の子を、この場から逃がす。
なるべく派手に連中を痛めつけ、こちらに注意を向ける、という私の企みは成功だったようね!

『オノレ・・・ニガサンンンンン・・ッ!!!!』

それを見た一匹が、この場から離れようとするッ!!
・・・だが、そうはさせない。

ガチンッ!ガチン!

私は両腕、両足からその外側を走る金色の線になっているパーツを外し、それらを繋げていく。

「アクア・ランスッ!!!」
「たあああああああああああああっ!!!!!」

ビュウウンッ!!!

そして完成したその一振りの槍を、二人を追おうとする蜘蛛に向かって投げつけた!!!


ドシュウウウウウウウウウウッ!!!!!

『ゴアアアア・・・ア・・・・・!!!!!』

ズゴオオオオオオオオオオンッ!!!

投擲した槍は見事に命中。その蜘蛛の怪物を葬り去った。

「・・・フン。」
そこで私は右手を投げつけた槍に向かってかざすと、それは一人で勝手に私の手元に戻って来ようとする。

バシッ!!

ヒュンヒュン・・・ガッ!

右手で飛来した槍を受け取ると、回転させ、最後には両手で構える!

「もう終わり?情けないわね~。」
『グアアアアアアアアアアッ!!!!オ・・・ノレエエエエエッ!!』

バッ!!

私の安い挑発に怪物の一匹が乗ってくる。
全身を使って跳躍し、この私に飛び掛ろうとする。

・・・・なんという低脳。
なんという単純さ。
私の高潔な頭脳を使う価値もないわね・・・ッ!

「やああああっ!!!」

私は全く臆せず、その飛び掛る蜘蛛に向かってアクア・ランスを突き出した!!

ドスッ!!

『グエ・・・・・!!!』
「無策・・・・!!」

ブンッ!!

突き刺したそれを、そのまま空に向かって放り投げる!!!

『グウウアアア・・・ウアアア・・・アアアアアアアアアアア・・・!!!!?』

右手をかざし、槍の追従機能を使ってこちらの真上に戻るように指示を出す。
勢いよく戻ってくる槍と蜘蛛に向かって、距離とタイミングを計り・・・。

「はああああ・・・・・。」

呼吸を整え、その一撃への気合を高める・・・!!

「アクア・ハーケンッ!!」

ガシイイイイイイイイッ!!!

天高く振り上げた直上ハイキックが突き刺さった槍の尾に命中し、蜘蛛を両断する・・・!!!

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

足を振り上げた姿勢のまま、蜘蛛はその位置で爆発する!



ああ・・・気持ちイイ・・・・!!♪




シャアアッ!!!


「んっ!?」

シュルルルルルルルルルルッ!

怪物を撃破したその余韻に浸っている時に、どこからか糸が吐き出され、この体を縛りつける!

『グハアア、ハア・・・ツカマエ、タ・・・!!!』
まだ残っていた蜘蛛の怪物の一匹が、その口から糸を吐き出して拘束したのだ。

嬉しそうに声を出すその怪物の様子に、また腹が立ってきた。
人が折角心地いい余韻に浸ってる時に・・・・。

「空気読めないわねぇ、あんた・・・。」

捕らえられてもなお、私は強気の姿勢を崩さない。

『ホザケ・・・!コレデ・・・ウゴケマイ・・・・!!』

「・・・無策ね。」




「ウォーガッ!」
『!!!』

『了解だ、マスター。』

私の呼びかけに、先ほどブレーキをかけた私のバイクが変形し、人型に変わった!

『動くなよマスター。あなたに当たるかも分からない。』
ウォーガはその手にした槍状の武器を構える。

バババババババババッ!!!!

ブツッ!

『ウオ・・・!!!』
ウォーガの斉射した弾幕は、正確に私を縛る糸を切り離した!

ギュイイイイイ・・・!!!

直後、ウォーガは地面をすべるように怪物に近づき、肩を突き出す!
『この獲物は貰うぞ、マスター・・・!』

ドガアアアアアアアアアアッ!!!

『グエエエエエエエエエッ!!!?』

ウォーガはそのまま体当たりし、怪物を吹き飛ばした!!
さらに地面に叩きつけられる蜘蛛に、その槍状の武器を突き出し、突き立てる!

ガスウウッ!

『スピア・ビュレット。』

ドガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!

武器を突き立てたままに引き金を引き、零距離で弾丸を浴びる怪物はたまらず爆発四散する・・・!!

ズゴオオオオオオオオンッ!!!!





「まあまあね、ウォーガ。あなたも初陣にしては見事な手並みよ。」
『・・・ったく。私は燃料が残り少ないといっただろう。』

敵の殲滅を確認すると、私はウォーガに近づき、その大きな機械の体に手をかけた。

ガシィン!

「はいはい。ご苦労様。ウォーガ。」
『もう燃料は家に戻るギリギリしかない。いよいよ補給しないとまずいぞ。』

「わかったわかった。でも・・・うふふふふ・・・あははははははっ!」


私は自然と笑いがこみ上げてきた。
人前の披露、戦闘の勝利、そして自らの開発した変身システムの優秀さに。

「やっぱり私は天才よね!」
私はその喜びを、自らを称えるその言葉一つに集約した。

「これで私という仮面ライダーが本当に存在するってことが、いよいよ具体性を持つ!」
「あの凡人ども、びっくりして私のところに来るわよ!街の平和を守る私の元にね!」

「あああ・・・もう興奮が止まらないわ!私という伝説が、今日この時から始まるのよ!」


『・・・・・・・・・・・。』

「ん?なによウォーガ。嬉しくないの?」

『いや、それはもちろん喜ばしい事だ、だが・・・。』
『我々がここに来たとき、蜘蛛の怪物は4体いた。だが・・・マスターが撃破したのは2匹。私が1匹。』

『マスター。あなたが足蹴にした怪物はどこに行った?』

「・・・・え。」

『それだけじゃない。確かここに来る前にライブ・センサーが捕らえた強力な生体反応は5つだった。』
『だがここにいたのは4匹・・・。』

「・・・やばいっ!!?ウォーガ、さっきの二人、すぐに追跡!!」
『先ほども言ったとおり、私ももうこれ以上無駄には動けない。最高速など以ての外だ。』

「うああああ・・・!ちょっと調子に乗りすぎたあっ!!」
「ウォーガ!あんたって奴はこんな肝心な時にいつも・・・!」

『首都高での暴走、それに戦闘形態の変形はあなたの指示だぞ?』




「ああああああああ・・・!!!!やばいやばい、やばいよおおおっ!!!?」









PM21:40 繁華街




街。

そこを徘徊する、一人の女性・・・・。
背はすらりと伸び、輝く金の髪は、ただそれだけで街の人間の注目を集めていた。

そこかしこから、その女を噂する声が聞こえてくる。
うらやむ声、はやす声。

そして・・・。

「ねえねえ、そこのきれいな彼女、俺と遊ばない?」
一人の軽薄そうな男が、彼女に声をかけてきた。

「うふふ。いいわよ。じゃ、こっちにいらっしゃいな。」
それを快諾する金の髪の女性。

「うほ!ほんと!?いや、やってみるもんだな!」
「ふふふ・・・・。さ、こっちに。」
彼女は手招きし、繁華街から離れた路地裏へと男を誘い込む。



「へへ・・・・。こんなところに誘ったりして、キミ結構あそんでるんだね?」
この後予想される展開に、胸躍らせる男。

「うふふ・・・。私ね、いつも満たされないの。あなたみたいな人が、いつもほしくてしょうがないの・・・・。」
適当な箱に座り、熱っぽく挑発的な視線を向ける女性。


大きく胸の開いた服、短いスカート。
男の欲情を扇動する、あやしの女・・・・。

「へへへへへへへ・・・・。」

男は、ゆっくりとその女性に近づいていく。
「じゃ、俺が満たしてやるよ!」
そして、女性の服に手を伸ばそうとした。



・・・その時。

ボゴッ!!

「!!!!?」
その男の背後から、地面が割れる音がした。
男は振り返る。
「な、なんだぁ!!!!?」
そこには、泥でできた人のような形をした・・・。そう、人形が立っていた。

ズヒュルッ!!!

男が対応する暇もなく、その人形はその口から触手のようなモノをのばし、その口に入れていく。
「んガッ!!!!?」
それを・・・。じっと見つめる女性。

しゅる・・・。

やがてそれは引き抜かれる。
「ゲホゲホ・・・!な、なんなんだよ!!?」
体の中を何かいじられたような気がしたが、意外と彼の体はなんともなかった。

「・・・・・・・・。」

メキメキメキ・・・!!

その時、その泥人形が変化を始めた!
それは目の前に立つ、その男性そっくりな姿に変わっていく・・・!!

「ひ、ひいいっ!!?」
その不気味なほどの再現度に、腰を抜かす男。
自分とは別の、もう一人の自分が立っているようにしか見えなかったことだろう。

「泥人形(ゴーレム)の人体模写完了。あなたは闇にご招待。」
「ひ、ひいいっ!!!?」
腰を抜かしたその男の足元に、闇が広がる。
そこから無数の手が湧き出し、男をそこへ引き込んでいく・・・!!!

「うわああああっ!!!?離せ!離せえええええっ!!!」
そんな男の抵抗など気にするでもなく、無数の手は男の足をつかんで引き寄せ、倒し、そのまま足から、闇の中へとゆっくりと取り込んでいく・・・。

「た、助けて、助けて・・・!!!!」
自分の目の前に座るその女性に、必死に助けを求める男。
だが、彼をそこへ引き込んだ金髪の女性は・・・・。

「ご安心なさい。あなたの代わりはこいつが立派に果たしてくれるわ。あなたの記憶、経験、能力をそっくりそのままコピーした、このゴーレムがね。」
「だからあなたは、安心して第二の人生を歩みなさい。」

「第二の、人生・・・?!」

「そう。・・・それがバラ色か地獄かは、おばあさまの腕次第だけどね。んふふふふふ・・・。」

「・・・・!!!」
その言葉にただならぬものを感じたのか、男性は狂ったように声を上げ始める。

「い、嫌だ、いやだああああああああ!!!死にたくないいいいいいいいっ!!!!返して、返して・・・!!!!」

「ごめんなさい。これも仕事なの。」
「それじゃ、運がよければまた逢いましょう。さよなら~。」

楽しげに手を振る金髪の女性・・・。

「うわああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・。」

やがて、闇はその男性をすっかり飲み込んでしまった。

「これで今夜のノルマは達成かしら・・・。」
肩の荷が下りたといった風に、女性はたちあがる。
「ほら、あなたは自分の役を果たしなさい。」
彼女が促すと、その泥人形だったもの・・・・二人目のその男性は、何事もなかったように街の雑踏へと戻っていった。



「ゴーレムは、決して人間にはその正体を見破ることは出来ない。そしてゴーレムが死なない限りは、それが偽者だと気づくものもいない・・・・。」
「おばあさまのゴーレムは、芸術よね・・・。」

こうやって町の人間は、誰にも知られることなく偽者とすりかえられ、それを本物と疑うこともなく毎日を過ごす・・・。
「今にこの町はゴーレムで満たされる。そして、おばあさまの目的は・・・・。」



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