PM17:15 中央公園付近
「はぁ……はぁっ!」
「は、早く命李ちゃん!!」
彼女たちは逃げていた。
突如と現れた化け物から。恐怖に怯えた顔で必死に逃げていた。
たしかにあの場にいた化け物はすべて倒した。
だが、だがしかし。
『逃がスかぁぁァァァぁっ!!』
そこには化け物がいた、赤黒い翼を広げ、まるで燕を無理やり人間にしたような畏敬の化け物がいた。
もしここにギルティがいればこう呼ぶだろう『ネームレス・スワローA』と。
ソレは怒りをあらわにして追っていた。
当然だろう、突然現れた変な奴に手駒をあっさりと潰され蹴り飛ばされた一体は生きているというのに逃げたのだ。
以前自分が使えていた上位の命令は聞いていたというのに。これでは命令を無視して動いた意味が無い。
そしてばれれば死は逃れないだろう。
だから彼は焦っていた、今ここで精霊と契約している者を殺さなければ自分が消されるのだから当然だろう。
「きゃっ!」
そしてついに一人の少女、目もとが髪で隠れている少女。護矢 命李が転んでしまった。
寧ろ持った方だろう、彼女は華枝以上に体力が無い。だと言うのにここまで頑張れたのは単に生きたいという願いだったのだろうが。
転んでしまった時点で彼女の運命は決まっていたのかもしれない。
最も。
「命李ちゃんっ!!」
今のこの場にはもう一人の少女、華枝がいる。
逃げたいという思いに駆られるだけど体が動かなかった。
彼女は自分を恥じた、どうして体が動かないのか。もう少し兄や友人の兄のように友達を守るために動ける人になれないのか。
だが彼女のその葛藤もむなしく時は流れていく。
「華枝ちゃん……駄目、逃げてっ! 華枝ちゃんまであの化け物に……っ!!」
悲痛の顔で叫ぶ命李。
自分のせいで友達が傷ついてほしくなかった。
だから逃げるように急かす、例え時間が少し稼げれる程度でも彼女が逃げてくれればそれでいいと心の底から願った。
麗しく友情。
ソレを邪魔する者は恐ろしく無粋な奴だろう。
そして、
『ハッ! 纏めテ殺シてやるヨォっ!』
無粋な奴は翼を剣のように伸ばし二人へと襲いかかった。
それを見た華枝は思わず目をつむってしまった、純粋に怖かったからだ。
「あ……」
その時、華枝の顔を見た命李に一つの映像が浮かぶ。
恐怖に震える誰か
叫び嘆く人
血
倒れる人
黒く輝く人外のナニカ。
白ク輝く天使
ソシテ血に倒レル、大切ナ人
「だ、駄目ぇぇっ!」
命李の叫びと同時に光が二つを包み込んだ。
何事かと二人は慌てるが襲いかかる様子が無い事に安堵の息を漏らす。
『……貴方の友を護りたいと願う思い。確かに届きました』
「……誰?」
「え……命李ちゃん?」
声が聞こえた、だがそれは命李にしか聞こえなかったようだ。
体の震えが止まっていた、命李はゆっくりと立ち上がり空を見上げる。
そこには天使がいた。
『……そして酷な事ですが、私の力は未だ覚醒しきれていません……この結界もいつまで持つのかも分かりません……』
力が無い己を責めるように天使は眉を曲げ悲しい表情をする。
だが命李はそんな事は無いと思った。もし彼女が来てくれなければ今頃二人ともこの世にいなかっただろうからだ。
『……頼みがあります』
「……私…に?」
『……はい、あの化け物……ネームレスを倒すためにそして、貴方の友を助けるために』
ソレを聞いた命李はもう迷わなかった、彼女が選んだ選択は……。
一方ソロころ、突然展開された光の壁にネームレス・スワローAは臆することなく翼を叩きつけた。
その瞬間激痛が彼を襲った。
『グッ!? ……な、何ぃっ!?』
慌てて後ろに下がり己の翼が消失している事に気が付き驚愕した、ネームレス・スワローA。
だがここまで来て逃げるわけにもいかないので光の壁が消えるのを待つことにした。
……増援とかが来たらどうしようなどと考えないのだろうか?
いや、考えていない。彼は『バカ』なのだから当然だろう。
『……ククク、出てコい……』
そんな彼の声を聞いたのか知らないが光の壁が消えていく。
そしてそこには二人の少女がいた。一人は尻もちをついてもう一人は顔を見せない様に俯きながら立ち上がった。
彼は笑う、やはり運は自分を見捨てていなかったと。
だがそんな彼の心を理解しているのかわからないが命李がどこからともなく一枚のカードを取り出した。
それは白い天使が描かれた幻想的な白いカード。
「……行こう、ネクシアス」
『えぇ、行きましょう新しく契約者『護矢 命李』
命李は……今この場では少女ではなく大切な友達を守ろうと決意を露わにした一人の戦士となっていた。
彼女の決意に答えるかのようにバラバラの破片が現れそれがベルトへと変換する。
純白のベルト、その横側には差し込む穴があった。
「……へ、変身っ!」
手に持っていたカードをそのスリットへと差し込む、カシュンっと空気が抜ける音と同時にベルトの二つの穴にそれぞれ『白』『騎士』と浮かびあがった。
ソレ等は一つとなり『白騎士』となり渦巻く、それは彼女の周りにまで覆い隠す。
次の瞬間彼女の周りに様々な物が現れた。
籠手、鎧、バイザー、羽衣。
ソレ等は意思があるように各々に飛びまわり命李へと重なっていく。
大きさが明らかにあわないそれを身にまとっている命李はどこか滑稽的だった。
『コード『仮面ライダーネクス』。スタートっ!』
ネクシアスがそう叫ぶと同時に重なった鎧が命李の体系へと変わっていく。。
そしてバイザーが彼女の頭へと重なり上へと上がりカチューシャのような姿となった時。
「……はっ!」
純白の騎士。
仮面ライダーネクスがそこにいた。
『なっ!?』
驚愕に震えるネームレス・スワローA。
当然だ、彼はアレを復活させないために動いていたのだ。
ところがアレ。仮面ライダーネクスは見事に復活して今目の前にいる。
これで驚くなと言うのが無理だろう。
『全能力安定を確認。戦い方は今貴方の心へと送りました。後は、貴方次第』
「うん、ありがとう……」
胸に手を当てネクスは眼を瞑る。
ソレは隙だらけだろう。だが……ネームレス・スワローAに攻撃はできなかった。
なぜならば彼女の羽衣がそれぞれ意思を持ってスワローAを彼女に近づけまいと動いていたのだ。
華枝は突然の親友の変貌にただ唖然としていた。だが恐怖は感じなかった、むしろ心地よさを感じたのだ。
『ここで戦えば華枝さんが危険に晒されるでしょう……。命李。ネームレスを出来るだけ遠くに遠ざけましょう!』
「うん。やってみる……」
そう言いネクスはいつの間にか握っている一枚のカードをバックルへと差し込む、
『コール・ネクスライダー……マテリアライズ』
ベルトから機械音が聞こえると
空間がねじ曲がりそこには白銀の騎馬のような大型バイクが鎮座していた。
ネクスはためらいも無くそれに乗りさらに取り出したカードを今度はバイクのスリットへと差し込む。
『スキル・ディバンドチェーン』
するとバイクの間という間から無数の光輝く鎖が現れ蛇の如くスワローAを縛りつける。
それを確認したネクスは華枝へと振り返り優しく微笑んだ。
「大丈夫華枝。私が護る、お兄ちゃんのように護りきれなくても……私が護れる分は絶対に護る……行こう、ネクシアスさん!」
『えぇ……ネクスライダー……汝の目覚めの時は今……我等の足となり駆け抜けよっ!』
ブルォンっとバイクが吠え駆け抜ける。
華枝はただ命李……ネクスがスワローAと共にその場を後にするのを見ていくだけだった。
「……命李ちゃん……」
そこで彼女はガクリっと膝を付く。
その直後に震えが一気に彼女を襲った、今になって化け物に襲われた恐怖。友達を目の前で殺される恐怖。そして友達が姿を変え助けてくれた安堵感が一気に押し寄せてきたのだ。
とてもじゃないが立てそうにも無かった。
「あ、あはは……私、生きてるんだ。よかった……」
ポロポロと涙がこぼれる、そしてその涙を手でぬぐおうとした時、質素な感じのハンカチが渡された。
「あ、ありがとうございます……え?」
ソレを感謝して受け取り顔をハンカチで拭う。そこで涙で見えなかった前が見えてきた。
そして彼女は驚く、目の前にいるのは少女だった。
だがその服装があり得なかった。
革製の紐付き首輪、腕輪。それだけならまだしもいたるところに拘束するかのごとく鎖がチャラチャラと彼女の服の上からなっていた。
顔も無表情というよりは眠たそうな表情で全てを見抜くような眼で華枝を見る。
その首には目を覆いたくなるような傷跡もある、異常でしかなかった。
「……」
「あ、これ……スケッチ・ブック?」
目の前の少女は無言で一つのスケッチブックを手渡す。
華枝は不気味に感じながらも見ないわけにはいかないと恐る恐るページをめくる。
白紙、白紙……そしてある程度捲ったところで……
「え……これって」
そこには絵があった。
杜撰に描かれて辛うじて人間が分かる絵。
どうやら場面があるようで男性と女性が大きな猫に襲われる場面、黒い姿をした人と銀色の姿をした人が異型の何かと対立するシーン。
学校らしく部分を背景にして銃を握る人とそれに追いかけられる長身の人。
そして……純白の人が華枝らしき人物を守る場面。
更にページをめくると……二人の少女が立っていた。しかも一人は半分が異形の化け物になっている。
「なに……これ?」
「……」
震えた声だった、同時に今見た物を忘れろと脳が訴える。頭痛が走った。
少女は不思議そうに首をかしげる、そんなとき。靴を鳴らす音が聞こえた。
その先にはまさに女優と言わないばかりのプロポーションの女性が立っていた、息を切らせながら周りを見渡し彼女達に近づき走ってくる。
「探しましたよ……。今回の貴方の行動は彼は知らないのですからあまり不用意な行動は……」
「……」
女性に気づいたのか少女は無言で女性を見上げる。
何かを伝えたいのか、そしてそれは女性に届き女性は驚愕の表情となった。
「え? この人に……ですか? いいのですか? もし彼に知られれば怒られますけど……」
「…………」
「わ、分かりました。そんな怖い顔をしないでください……」
ブツブツと「あの人にが怒ると何時も無言でブレードを構えてくるんですからね……怖いのに」と呟きながら女性は華枝へと近寄る。
突然の出来事が連続で続いたせいで彼女は混乱をしていた。
「えっと、風瀬 華枝さんですよね?」
「…………あ、はい」
「……彼女『シンガー』からの一言です『変わらなくちゃ死ぬだけ』。これって明らかに干渉行為ですけどね」
フフっと楽しそうに笑い女性は少女と手をつなぎ華枝から背を向ける。
硬直する彼女だったがその意味が気になり問いただそうと女性の肩を掴むのだが、
「あの、まって! それってどういう……」
「華枝さん。それはいずれわかります。今の私はあくまで『シンガー(歌い手)』の『メッセンジャー』でしかないですから。それでは、願わくば貴方が真実を知った時に又……」
自分の肩を掴んでいる手を優しく撫で女性は肩から華枝の手をどける。
そして再び頭を下げ少女と共にその場を後にした。
その場にいるのは唖然とした少女のみ。
PM17:27 人気が少ない道路
『アガガガががっ!!!』
「……っ」
なるべく人目に付かない様にバイクを動かす……ただしくはバイクが勝手に動く。
そして、人気が無いに近いほどの道路についたときバイクはスライドしながら停止をした。
ソレに引っ張られるようにスワーロAは宙を舞った。
『ここなら……ネクスライダー! スキルカット、ディバインド!!』
『スキル・カット ディバインド・チェーン』
ネクシアスの命令にしたがいネクスライダーは己から生えていた輝く鎖を全て切り離す。
『ぎゃぐがぁぁぁぁっ! ……キ……貴様。よクも……』
当然縛られていたスワーロAは慣性法則にしたがい己を削りながら転がっていく、だがそのあり得ない生命力で足を震わせながらも立ち上がった。
「……」
命李は一瞬その姿に戸惑うが直ぐに目の前のは敵と認識し一枚のカードを虚空から出現させそれを手で掴む。
そこに描かれたのは剣だ、剣そして反対側には銃がありXを描いていた。
「来て、ディス・ブレード!」
クルンっとカードを一回転させ絵柄を自分に向ける、
そしてバックルのスリットへ差し込む
『コール・ディスブレード』
バックルからそのような声が聞こえると空間がねじ曲がり一つの剣が現れた。
純白の剣、だから刀身の黒い部分は余計に目立った。
片刃の片手剣……ただしくはバスタードと呼ばれる武器をネクスは握り一気に接近する。
「っく! やぁぁぁっ!」
最もその振り下ろしは隙だらけだった、スワローAは思わず笑う。
それが命取りになるというのに……
『ハッ! 素人……な、なニ!?』
体が動かなかった、慌てて前を見ると羽衣がスワローAを彼に気づかれずに縛っていた。
だが気づいた時には遅かった、ネクスの刃が彼を切り裂いたのだ。
さらにそのまま連続で斬る、斬る、斬る、斬る。動きは出鱈目だったが動きを止められているのだ彼はどうしようもなかった。
「まだ……まだっ!」
息を切らしながらネクスはスワーロAの頭に刃を叩きつける。
『今……ネクス! 彼に止めをっ!』
「……っ!!」
一瞬ためらうが左手にカードを形成し剣の峯に当たる部分にある溝……スリットへと差し込んだ。
『スキル ブースト』
剣から聞こえた声と同時に本来は峰である部分から火が噴き出る。
それはさながらブースト『加速』した一撃だ。スワローAが耐えれる一撃では無かった。
『加速』はなおも続く、地面が割れ、大気がうねりながらもまだまだ続く。
そして、スワローAの頭にひびが入ったと同時に『加速』はラスト・スパートへと入った。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『ぎ、ぎやぁぁぁぁァァ……』
ズガン、地面を打ち砕く音と共にスワローAは寸断された。
余りにも呆気いない最後、彼が最後に見たのは……涙を流しながら刃を振り下ろした……少女。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
カランっと剣を落とす。その手は震えていた。
怖かった、自分が別人のように剣を振りまわし躊躇う事も無く化け物にしろ殺した自分が、そう思うと化け物の最後の断末魔とその姿を思い出してしまった。
「……っう……」
思い出したが最後だった、彼女を戦いの興奮が冷めた途端に吐き気が襲ってきた。
それに耐えきれなくなり彼女は胃の中の物を戻していく。
「……はぁ……はぁ」
『……お疲れ様、戻りましょう。家まではネクスライダーが送ってくれますから』
だがネクス……命李は首を横へ振り家とは逆の方向へ歩き始める。
「……まだ、華枝ちゃんが心配。迎えに、行かないと」
『分かりました、ただ人がいる可能性があります。ネクスライダーでいけるのは恐らく少し遠い場所……。それからは変身を解除しての歩きですが……大丈夫ですか?」
「うん……華枝ちゃんをあんな暗い場所に一人っきりには出来ない……だって、華枝ちゃんは私の友達だから」
その願いは純粋な願い。
全身に痛みが走ろうとも彼女はネクスライダーに乗り込む。
『……わかりました。場所は今送りました……お願いネクスライダー』
説得は無意味と判断したネクシアスはせめて彼女が楽になるようにとネクスライダーに極力負担をかけない動きをしてもらうように頼みこむ。
ソレを了承したのかは不明だがネクスライダーはブォンっとエンジンを吹かせ走り出した。
「……」
奔るネクスライダー。その座席はまるで揺りかごのようだった。
徐々に、徐々にネクスの瞼が閉じ始め。こっくりこっくりと首が船を漕ぎ始めていた。
『少し寝た方がいいですよ、着くまでは寝ていても大丈夫ですから』
「……う、うん……それじゃぁ……お休み……なさい」
ネクスはほほ笑みながらゆっくりと目を閉じて寝息を立てる。
ソレはまるで眠り姫のようだった。彼女を乗せてバイクは目的地へと走っていく。
『……これが運命、これからが……本当の始まり……どうして、こんな子供に私達は未来を託すという過大な使命を……』
ネクシアスは嘆く。これから彼女や彼女の周りに来る災厄に対して。
そして自分はその災厄に対しては無力に等しい事に。
だからこそ彼女は今寝ているネクス……命李のサポートはやり遂げようと……心に誓った。
最終更新:2009年06月28日 05:54