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SS第01話「無題」


4月の横浜はイギリスよりも肌寒いような気がした。
それは曇天模様の空のせいか、心の寂しさか、考えるのも馬鹿馬鹿しかった。

「今の季節は桜がとっても綺麗よ」

母が送り際に言った言葉を思い出してあたりを見回してみる。
整備された駅前には桜なんて無い、名も知らない広葉樹とビルばかりしか見えない。
少女はため息をついた。

「じゃあ何で桜木町駅って名前なの」

少女――月宮かぐやはコインロッカーに荷物を預けた。

12年間イギリスに滞在していた彼女にとって、日本は異国と同じ。
生まれは日本なのだが貿易関係の仕事をしている両親に連れられ、1歳の時にイギリスへ移住したのだった。

「13歳になったら日本に行きなさい、見聞を広げるんだ。お父さん達も数年内に帰国するから」
「おじいちゃんの家はね、とっても広いんだから。かぐやちゃんもきっと気に入るわ」

両親の言うことはいつも正しい。けど・・・
かぐやの脳裏に別れて来た友人達の顔が浮かぶ。
びゅうっと潮風が吹く、かぐやの意識をここに戻す。

「悩んでも仕方ない・・・か」

迎えに来てくれる祖父との待ち合わせ時間までもう少し。散歩でもしよう。
荷物が無くなり暇になった両手をコートのポケットに突っ込み、目に付いた1番高いビルの方へ歩く。
風に銀色の髪が揺れた。


※  ※  ※


開港150年記念祭りで連日イベント尽くしのみなとみらい地区
俺はひったくり犯を追いかけていた。犯人はナイフを振り回しながら駅のほうへ逃走。
相手は陸上でもやっていたのか?やたら早い。
一緒にいた後輩は俺にさえ追いつけていない、そんなんで刑事やってられるのかと呆れる。
そう、俺は刑事だ。

道行く市民は逃げ惑う、そうだ、犯人から離れてくれ。民間人の安全を杞憂しながら距離を詰めて行く。
駅が見えてきた、駅内に逃げ込まれると厄介だ。

駅前を見ると俺と犯人の走る方向に――逃げ遅れたのか1人の少女がいた。
このままじゃいけない、俺は大声で叫んだ。

「キミ!危険だから逃げなさい!」

少女は良く聞こえていないのかこっちを振り返っただけで動かない。犯人は目前だ。
危ない!そう思ったとき少女が信じられない行動に出た。


ナイフを持った犯人の右腕を掴み背中を向け懐にもぐりこみ投げる。刑事の俺から見ても見事な1本背負いだ。
走る勢いを投げるエネルギーに変えられた犯人は背中から地面に打ち付けられた。
彼女は腕を掴んだまま倒れこんだ犯人の右足外腿にトゥ・キックをお見舞いする。
いくら少女の蹴りといえどもこれだけ走った足にあの一激。しばらくは立てまい。
俺は犯人に飛びつき手錠を掛けた。


※  ※  ※


「君、大丈夫かい?協力を感謝するよ」

少女――俺の妹より少し年上か、綺麗な銀色のストレートヘアー、神秘的な雰囲気だ。

「せんぱーい」

気の抜けた声が俺を呼ぶ。やっと追いついたのか。

「須藤!お前体力無さすぎだぞ!」

須藤と呼ばれた女の後輩、まだタグが付いているんじゃないかと思うような真新しいスーツを着たピカピカの刑事1年生だ。
恐縮したような顔ですいませんという風に会釈する。

「先輩?さっきの娘は?」

ふと少女の方を振り向くともう彼女の姿は無かった。あたりを見渡してみたが特徴的な銀髪は見当たらない。
探そうとした・・・が犯人を連れて行くことが先決だった。
幸い駅前だ、タクシーは常駐している。その1つに三人で乗り込む。須藤が県警行きと伝えた。

「さっきの娘、まだ子供なのに勇敢だったな。護身術もマニュアル通りだ」

「私も・・・体力つけます、都築先輩。」


※  ※  ※


人の波はすぐに元に戻る、雑踏、工事の音。いつもの駅前だ。
少女はその中に祖父の顔を見つけた。今改札から出てきたばかりか、人を探してる。

「おじいちゃんただいま」

さっきまでどこか寂しげだった少女の顔が笑顔になる。お腹がすいたと告げてどこかに食べに行こうと誘う。

「あのね、飛行機がね」

かぐやは楽しそうに話す、祖父は優しい顔で少女の話を聞く。

新しい伝説が始まる数日前のことだった。


このSSでの設定について

都築保(たもつ)24歳、刑事
須藤恵理(えり)23歳、新米刑事
都築刑事は雪奈の兄というどうでもいい俺設定があったり・・・