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土曜の昼下り

  • 最初の事件後ぐらいだろーな、という感じ。
  • 目指せギャグ

 土曜日の昼下がり。
 ギリギリ午前中に蒲団を抜け出たしゃんどぅは、洗顔してから歯ブラシを無造作に動かしながら、時折寝癖のチェックなどをする。
 普段の休日だったらもう少し寝ているところだが、出掛ける予定があるのだから仕方がない。
 口を濯いで、適当に身支度をすると携帯端末で時間を確認し、それだけを持って部屋を出た。

 寮のエントランスはいつもの休日の昼とこれといって変化は無いように見えたが、普段とはあまりに違う奇妙な光景を目にし、まだ寝ているのだったかと首を捻った。
 バルコニーに面した窓辺で見慣れたツインテールが読書をしている。

 まあ、それ自体はそれほど珍しいことではなかったが、しゃんどぅの首を捻らせたのは、その周辺に食べ物の痕跡が全く見られなかったことだ。

(ドッペルゲンガーとかいうやつか?)
自分が夢を見ているわけでも無いのなら、そうとしか考えられないと、まあとに連絡をとってみようかとポケットを探った時、本物かどうか疑わしい人物が本から顔を上げ、視線がばっちり噛み合った。

「おはよー。早いねー」
 本を閉じて立ち上がり近付いてくる姿をまじまじと見詰めるが、本人としか思えない。

「……しずる、だよな?」
「そうだよ? まだ寝てんの?」
 しゃんどぅの頬を抓ろうと伸ばしてくる腕を払い

「ちゃんと起きてるから大丈夫」
と言うと、しずるは
「つまんなーい」と唇を尖らせる。
「つまんなーい、じゃねぇよ。少しは自分の握力を自覚しろ」
 こどもじみた微笑ましい行為に思えるかもしれないが、片手で林檎を潰すなんて箸持つり簡単じゃないという怪力にやられたら、万力で締められたほうがマシ、という結果になりかねない。
 どこから見ても、見知っているしずるであることを確認しながら、違和感の原因を口にする。

「何も食って無いなんて、珍しいな」
 その言葉に、先程の確認の意味を察したのか「ああ」と頷いた。

「今日はお昼に大食いにチャレンジするからねー。さっき軽く食べたし、ちょっとセーブしとこうかな、と」

「お前が出られるような店、まだあったのか」
 学生の多い街ならどこでも見掛ける"制限時間内に○皿食べたら無料"という手合いの企画がだ、この人工電脳島支店においては、どの店もしずるにより制覇されてしまい、大体3度目か4度目になると"永久チャンピオン"とか"免許皆伝"とかいう肩書がついて、参加ライセンスを剥奪されてしまうのだ。

 経営が傾くから仕方無いというのが周囲の一致した見解ではあるが、当の本人は「差別だ差別ー」とぼやいていることが多い。

 しかし、店側も鬼ではなく、免許皆伝割引の適用などをしてくれるので、不服そうではあるが一応納得はしているらしい。

「ほら、前蕎麦屋だったとこあったじゃん。あそこに入ったのがオープン企画でやるんだってー」
 これで後数回は無料食い出来ると喜びながらも、しずるはしゃんどぅの格好が"外向け"なのに気付いていた。

「どっか行くの?」
「うるに呼び出しされてる」
「……何やったの?」
「何も……って、なんだ、その疑ってますって眼差しは」
「素行不良で厳重注意とかじゃないのー?」
「違うわっ。"活動について"のミーティングみたいなもん、らしいけどな」
 公にされていないだけに、しゃんどぅの声が少し低くなる。
 しずるは、持っていた文庫本を尻ポケットに突っ込むと、しゃんどぅの手を取って引っぱった。

「じゃ、私も行く!」
「大食いチャレンジするんじゃなかったのかよ」
「ちらっと、ね。顔見たいじゃん」
 どうやら、しずるは鳳うるのことを相当気に入っているらしい。
 なんだかんだと理由をつけては、うるのところに出入りしているようだし、驚くべきことに、昨日などは、いつものように掠め取ったゆっくの仕込んでいた生ハムを、うるに分け与えたのだという。

「本当に気に入ってんのな」
「うん。だって面白いし」
 スキップ気味に目の前を飛び跳ねるツインテールに、ちょっとした疑問を一つ。

「で、蕎麦屋の後って何屋なんだ?」
「うっしっし、聞いて驚くな! なんとステーキ屋なんだよ、しゃんどぅ君!!」
「それはそれは……」
 道理で気合いが入っているわけだ。
 しゃんどぅは深々と頷いた。

  • IF分岐

A 約束通り、うるに会いに行く →そのまま下へ読み進む

B しずるの大食いチャレンジが気になる →-土曜日の昼下がり IFへ進む


  • 後編だぞ!

 待ち合わせ場所の東屋で、うるは目を閉じて竹の葉が風で擦れる音を聞いていた。
 この島に来て、一番最初に訪れた場所なだけに、思い入れが深い。

 ほんの数日前のことなのに、随分前のことのように感じるのは、それだけここの生活に馴染んでいるということなんだろう。

 今日ここにしゃんどぅを呼び出したのは、「先生、あなたのことが知りたいの」に尽きる。
 先日の、顧問に就任早々に発生した事件や、ここ数日の付き合いで、他のメンバーのことはなんなく受け入れることができた。

 顧問に就くことを決めた時、校長から聞いたメンバーの情報(それはとても想像を絶するような!)からは、想像できないぐらいに素直で含羞のある様は、自分が高校時代に過した仲間を思い出させるほどに、ありふれた高校生の姿だった。

 しかし、しゃんどぅからは大人びた……背伸びしているというよりは、達観してしまったような……妙に余裕があるように感じるため、なんとなく気後れしてしまう。

 そんなことでは駄目だ! と思いつつも、これといった良案が浮ばず「ならば、本人に直接訊くのがいいんじゃないか」というやぶれかぶれの戦法だったりもする。

「どうも」
 高い位置からの声に目を開けると、待合せの相手であるしゃんどぅと、SDFのメンバーの一人であるしずるの姿があった。

「顔を見にね!」
 はい、お土産と渡されたのは、コンビニ袋。
 なんだろうと思って見てみればアポロが3箱入っている。

「手土産、手土産!」
「ありがとーう!」
「えへへー。いいっていいって、気にすんなって!」
 照れながら、ツインテールの先を弄るしずるを、純粋に可愛いと思う。
 教師の喜びなんてものを語れるほどの教師生活を送っているわけでは無いけれど、こうして慕ってくれるのは本当に嬉しい。

「それじゃ、私は戦いの舞台へ行ってきます!」
 ビシッと敬礼して宣言すると、しずるはバイバーイと手を降って、小径を颯爽と走り去っていった。

「戦いの舞台?」
 剣呑な言葉をしゃんどぅに確認すると、軽く伸びをしながら「大食いの」と言う。

「大食いチャンレジだそうで」
「ああ、だから」
 だからの先はコンビニの袋への視線に変る。
 いつもだったら、もっと大きな袋に入っているのだ。しずるの手土産は。

「餌付けされてるみたい」
「まあ、そういうことだろうな」
 そう言うしゃんどぅの目が細められるのを見て、うるは昨日のしずるの言葉を思い出した。

『しゃんどぅはねー、なんか企んでる時は目が、こう、線みたいになんのよ』

「何企んでるの?」
 思わず溢れた含み笑いに、しゃんどぅが目を瞬く。
「そんな風に見えた?」
「ふふふ。センセイだって大人だから、それぐらいはねー」
 うるの言葉に、しゃんどぅは正体の知れない笑みを返してきた。

「で、休日にこんな場所に呼び出しって、なんですか? センセイ」
「顧問としての面接、といったところかしら」
「どうぞ。わかることならなんでも」
 しれ、と言う様は小憎らしいほどだ。

「この間の事件で、皆の特殊能力を見せてもらったけど……」
「特殊能力なんて、大袈裟な」
「じゃあ、特性、かな」
「うん」
「貴方の特性は何なのかな、って」
 校長は、しゃんどぅには"特別な能力"というのは無いと言っていた。
 ただ"情報を分析することと状況判断が優れている"と。

 しかし、それは表面上に見えていないだけで、本当な何か特別な能力があるのではないか……そんなことを思わせる雰囲気がある。

「特性……そうだなぁ……」
 自分の内を探っているというよりは、うるが何を求めているかを考えているといった様子で暫し沈黙する。

「"特殊能力"なんて、人に言われるようなものは何も無いな。極めて一般的な高校生じゃないかと思うよ」
 学力診断テストや体力診断テストの結果を見ても、確かにこの島内では「平均レベル」だ。

「まあとクンみたいな、数値に出来ないこともあるじゃない」
「そうだなぁ……金縛りに合うとか、そういうことなら無いわけじゃないけど、それぐらいは"よくあること"じゃねーかなー」
 シラを切ってるのか、それとも本当に何も無いのか。
うるは、少し苛ついて、ちょっとだけ意地悪をしたくなった。

「じゃあ、平々凡々の万年平社員みたいだってこと?」
 ムキになって暴露すればいい、と、エリートと呼ばれる部類に入る高校生にはキツイと思われる言葉をぶつけてみると、しゃんどぅは意外にも叱られてしょんぼりしたような表情で
「そうだなー」
と呟いた。

「うん、そう。たぶん、そうなんだと、自分でも思ってんだよね」
「あ……ご、ごめんなさい」
 予想に反して……否、予想以上に、だろうか。傷つけたのがわかり、うるは焦った。

「いや、謝ってもらうことじゃねーし、わかってることだから」
 苦笑する姿が痛々しくて、うるは思わず視線を逸らし、自分の爪先をじっと見詰めた。
 なんてことをしたんだろう、という後悔ばかりが、ぐるぐると脳内を旋回する。

「いやいや、あの連中みたいなののほうが少数なんだから、恐縮することねーって」
 それでも顔を上げ無いうるをちょっと見詰めてから溜息をつき、背凭れに寄りかかって、しゃんどぅは言葉を紡いだ。

「たぶんなー、うるが言うような"特殊能力"みたいなのは無いけど、自分の特性を述べよ、というんなら、ちょっとばかり五感が優れてんだと思う」
 ぽんぽんと頭を軽く叩かれて、うるはノロノロと顔を上げた。
 これではどっちが教師だか、全くわからない。

「五感が?」
「そ。ズバ抜けて耳がいいとか、嗅覚が発達してる、ってわけじゃなくて、平均的に少しだけ五感が発達してるから、勘っていうか、分析力がいいんじゃねーかなー」
 しゃんどぅのほうは、すでにいつものペースをとり戻したようで、余裕のある表情に戻っている。
 けれど、うるの目には、どこか幼いように感じられた。
 結局は見る側の気持ち一つなだけで、しゃんどぅは何も変ら無いのだろう。

「しずるみたいな身体能力も無いし、ゆっくみたいな専門知識も無いし、ちあいみたいなズバ抜けた記憶力も無ければ、まあとみたいな神秘的な能力も無い。ってのは、もうどうにもならないことだから、ってわかっちゃいるけど、まあ、羨しいなーってのは無いわけじゃねー……かな……とは思うけど、まあ、それはもう諦めてはいるし」
 サラっと、しかし高校生らしい羨望を覗かせて、しゃんどぅが言う。

 なんとか元気付けなくちゃ、という姿勢が見られて、うるは胸に痺れが走るのを感じた。

(こ……これは……)

 ついさっきまで落ち込んでいたことを忘れて、うるの脳裏にぶわっと甘い色が広がる。
 おいしい、これは実においしい状況なのでは無いか。
 相手を慮てなんでも無いように、精一杯虚勢を張っている、実に健気な高校生にしか見えない。

(これは……………萌えっ!!)

 就職活動に専念するために封じ篭めてきた、甘いパッションが炸裂する。
 ああ、この胸のトキメキ。
 漲る高揚感。
 これぞ本来のアタシの生きる活力では無かったか!

「しゃんどぅクンっ!!」
 がばぁっ
 抱き締めたい衝動に駆られるままに、うるはしゃんどうの頭を腕で胸へ抱き入れた。

「ちょ……まっ……なん!?」
 何が起ったのか状況判断できないしゃんどぅが、腕の中で何か言っている。
 なんでも知っているような大人びた顔の高校生でも、萌えの心はわからなかったらしい。

(ああ!! やっぱり高校教師になって良かった!!)
 とり戻した萌えを胸に、これからの教師生活が薔薇色に輝くのを感じ、更に腕に力を篭める。

「な……ちょっ……ギブギブ……!!」
 活力を取り戻したうるの目には、全てが美しく煌めいて見えた。

END