SS > Yuk > 小六の春(脇)


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しゃんどぅと会ったあとのゆっく(ちび)の様です

  • 派生の切っ掛けがないと何も書けんのか俺は。



 どたどたと響いた無遠慮な足音に、そうかもう隠れんぼの時間は終わりなんだな、と思った。
「こんなところに居たのか、ロン」現れたスーツの男が、呆れた声で探したぞと呟く。「何をしていた?」
「空を見ていたよ。ずっと」もうすぐ完全に日が落ちるだろう空を、九龍は目線で示した。「最近この時間に外に居るようなこと、無かったからね」
 なんとなく。
 ほんとうになんとなく感じたことだったけれど、先程までの時間を大事にしておきたかった。少なくとも、この目の前の男に台無しにされることは避けたかった。
 もしすでにバレてたんだとしても、知るもんか。
 そう思って九龍はしれっと嘘を吐いたのだが、僥倖な事に男はそれ以上の追求はしてこなかった。内心安堵して、逆に問う。
「もう戻る?」
「まだだ。ロン、そもそもお前はどうしてここに連れてこられた?」
「お前達の理由はしらないよ。我が連れてこられた理由にも興味ない。けど金集めかなんかだろ」言下に即答してから、漸く九龍は男を見た。「でもそれは我の仕事じゃないよ。だから我はもう戻っていいでしょ」
 大人達に連れてこられた“パーティ”とかいうものは、どうにも面白くなかった。大体からして、普段あれほど大勢の人間と顔と場を合わせるようなことは滅多にないし、その上ここで交わされる言葉の殆どは、今だ未習得という方が近い言葉だ。不快感の方が大きかった。
 尤も、今ここでこの男と母語を喋り続けたところで早々解消されるものではなかったが、それでも戻りながらの会話にするよりはずっとマシだ。
「誤解があるようだが」ごほんと、男はわざとらしく咳払いをする。「今日の理由は、お前をある人に会わせる為だ」
「へえ? 我に?」
「お前に、じゃない。お前を、だ」
「どっちでもいいよ」まったく興味のない口振りで、投げやりに宣言した。「さっきも云ったよ。我はもう戻るから、そこ、どいて」
「ロン」
 歩き出した九龍の腕を、男は慌てて掴む。
「我の仕事は」
 掴まれた腕を振り解くでもなく甘受するでもなく、九龍はただ歩だけ止めて男に目を合わせた。
「我の今の仕事は、お前達に頼まれた独自CSSの開発だよ。そして、ここに来る前に、中で走らせるSMTPとPOPについて負荷テストを仕掛けてきてる。もうすぐそれが全パターン終わる頃なんだ。お前達の事情は有るんだろうけど、今の我にはテスト結果の方が大事だし、最終的にお前達にも必要なものだろ? だからお前達の仕事は、お前達で片付けて」
 一息に喋って、さあ、と付け加えた。
「離して。それから車を出して」
「ロン」
「気分が悪いんだよ。人を見過ぎて。…頼むよ」
 疲れは事実溜まっていた。今日は普段しないことばかりさせられて、起きないような事ばかり起きて、心も体も疲れている。
 実際、そうだ。疲れ果てて、外の空気を吸いに来たのだ。このテラスには。
 ただそこには先客がいた。さらにそれは同い年か少し上くらいのこどもで、どうやら何かを堪えていた。堪えることに慣れすぎていて、堰を切りそうな物を許すことが出来ないようなしかめ面が横顔からでもわかって―――なんだか自分の代わりにその子がそこにいたような気がして、人の気配を知ったとき浮かんだ場所を他に移そうという考えは、綺麗さっぱり消えていた。思わず声を掛けてしまうほどに。
 人と居て時間が瞬く間に過ぎていく様な経験、いったいいつぶりだったろうと思う。
 くらりと目眩を感じて、九龍の足下が少し覚束なくなった。11歳のこどもが、ずっと立ったまま数時間―――しかも殊更体力がある方ではない九龍だから、それは先程の言に信憑性を齎した。
「…わかった。今日の所はそれでいい。人を呼ぶ」
「うん。ありがとう」
 応えた側から、脇で体を支えられ抱え直される。ぼんやりと顔を上げた先に空が見えた。
 日が落ちかかった、夕暮れと宵闇の丁度中間の。
「あのこ」
 ぽつりと漏れた声は、しかし正確には届かなかったようだ。
「どうした」
「ううん」
 ここで会ったあの子はちょうど、あんなような髪の色をしていた。深くて、どこか寂しくて、けれど優しい色だ。
 連絡、くれるだろうか。
 くれなくても、それはそれで構わないやとも思う。巡り合わせを恨もうとは思わない。

 ただ、待つことの、楽しくなれる何かを外に手に入れたことに、なぜだか奇妙な誇らしさを覚えた。



  • だれだこのスーツ(想定皆無)
  • ボクだの俺だのの概念は日本語独特のもんだし、と、翻訳母語一人称は我っておいた。