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続きです。ちょっと余計に語らせすぎて長くなりました。水瓶がトンデモですいません。
絵板[113]姐さん、その他読んでくださっている皆様、ありがとうございます。



戦いが始まる。羊は黙って獅子の前に座ると場に参加料のチップを投げ、
じっと獅子の顔を見据えながらカードを手にする。
魚が脱落するまでの戦いで相手のプレースタイルは飲み込めたつもりだ。
この男は思い切り良くカードを追加し、必要があれば豪胆にチップのせり上げに応じる。
先にどちらが音を上げるか度胸試しを楽しんでいる節すらある。
いずれにも羊は正面から戦いを挑む。自分に対し勝負で一歩も引かない羊の気迫を
獅子はひどく気に入ったようだった。

獅「そうだよなあ。こうでなければ面白くない」
羊「随分と腹ペコだったみたいだな。あんた」
獅「ん?」
羊「賭けにさ。腹が減って、腹が減って仕方なかったみたいだ」
獅「(嬉しそうに目を細める)ああ。どうも偉くなると身一つで戦う機会ってのが減るからな」
羊「だが自分の地位が揺るがされることは絶対に許さない」
獅「(驚きながら)当たりだ。そういう奴は圧倒的な力で血祭りにすると楽しいが……
  ……まあいつもそれじゃつまらん。
  相手の力が上の場合、ほぼ対等の場合、相手の力が下の場合。
  闘争はこの三種類をある程度バランスをとりながら食うのが望ましい。
  面白いなお前。俺の配下にならないか、歓迎するぞ」
羊「(笑いながら)ギャンブラーは誰の下にもつかないよ」
獅「そうか。残念だ」

カードオープン。羊の手札は21。獅子の手札は20。羊の勝ち。
どんなに和やかに取り繕ってもごっそりチップが持っていかれる瞬間にその人間の本性が透ける。
獅子の眼が一瞬不機嫌そうに細められ、またしたたかに戦力差を分析し、
どう相手に牙を突きたてようかと算段にかかる。一瞬も気が抜けなかった。


卓を見下ろすバーでは、勝負を終えた水瓶と山羊がアルコールの低いカクテルを片手に
羊と獅子の戦いを見守っている。羊と獅子の戦いは半日以上にもわたる長丁場だったが、
それは決してプレイヤー二人の臆病さを示すものではなかった。
激しいチップの削りあい。どちらもギリギリのところで休んでは踏みとどまり、
また勢いを盛り返してくるので見ていて飽きることがない。
山羊は獅子がぎらぎらと羊に牙を剥いているのを見て、独り言ともつかぬ言葉をぽつりと漏らした。

山「戦いに飢えているな。あの男は」
水「……(山羊を見てから卓に目を戻す)そうだね。獅子のこと?」
山「(うなずいて)好敵手がいないと恐怖政治に傾くか、心臓発作を起こして倒れる典型だ。
  そのくせ終わりなく続く血の臭いに逃げ場所を探してもいる。
  自分自身は血の無い場所に安住できないたちなのにな」
水「不幸な心性だな。人の上に立とうとするからだ」
山「(水瓶の言い草に苦笑して)あの手の男から闘争と支配を取ったら何も残らない。
  お前はひどいことを言うな」
水「そうだろうか?」
山「その言い方だと俺の立場もなくなる」
水「君も人の上に立つために屍を積み重ねてきたのか? あの男のように?」
山「……(黙って苦く微笑する)」

卓に目を戻す。山羊の言葉を黙考していた水瓶が、少しすると眉を曇らせた。
羊の様子がおかしい。ゲームの途中で卓に肘をつき、急に冷や汗をかきながら背中を息で上下させている。
山羊も羊の不調に気づく。卓の獅子も気づかないわけはないだろう。

山「乙女のときと同じだ。こういうとき一匹狼は悲しいな」
水「……(疑惑の目で山羊を見る)そちらには何かあるというのか」
山「主体的に何かしているわけじゃない。だがこちらにはこちらのやり方がある。
  ……お前はどう読む。俺もずっと考えてきたがあれのからくりがわからん」

水瓶は卓を見下ろす。どうやら羊は自らの意志でゲームを中断させたようだ。
不調の身でなおも獅子を執念深く睨みつけ、何か言い置いている。

水「椅子だ」
山「椅子?」
水「椅子に何種類かのギミックが入ってる。クッションの隙間から即効性の薬物を打てる
  ごく小さな針と、人体に悪い周波数の振動を出すギミックまではわかった。
  乙女はカードやボードやディーラーの不正を見抜く力は僕より上だが、
  あの椅子は僕も初めて見た特別製だ。あれは指示側の電気系統を落とすか
  椅子に指示を出す電波を遮断しないと停止させられない」

今もどこかでこの戦いを見下ろしている主催者の、意のままに。
羊はよろめきながらバーまで戻ってくる。水瓶と山羊が羊を出迎えると、
カウンターにもたれかかった羊の顔は真っ青になっていた。

羊「氷水をくれ! ……(出されたグラスの氷を噛み砕きながら)ああ! 気持ち悪りぃ」
水「大丈夫か」
羊「……多分ちょっと休めば……」
水「僕が代打で出ようか。つなぎぐらいなら引き受けるが」

カウンターにもたれながらこちらを見上げた羊の刃物のような目に閉口する。
次の瞬間、片腕で襟を掴み上げられた。具合が悪いとは思えない腕の力だった。

羊「手を出すな」
水「……」
羊「一対一だ。最初にそう決めたんだ。邪魔しないでくれ」