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カジノ・ロワイヤル 牡牛、乙女、蟹、蠍 1/2 774チップ 2007/10/01(月)04:30

続きです。長いので、100まで行ったらSS投稿スレの新スレを立てようかと思ってます。



乙女は何日も眠っていなかった分を取り戻すように、自室のベッドでぐっすりと眠っている。
滑稽なことに山羊が夢に出なくなり、しばらくして思い出したように姿が横切ると涙が出るのだった。
あまりにもたくさんの混乱したイメージが夢の中に現れて震えていると、
山羊があのテラスで落ち着くまで抱いていてくれた記憶を思い出すのだ。
そして耳元でまるで映画のような愛の言葉を……

赤面しながらベッドの中で目を覚ますと、牛が一人で壁にもたれて恋愛映画を見ていた。
テレビから聞こえてくる台詞が夢の中で聞いたものと同じような気がする。頭がかっとなって
しばらくベッドから出られず、牛に背を向けて自分の精神状態を判別していた。
あれは愛の言葉などささやいたりはしなかった。ただ自分の名前と、
「船を下りたらすぐ日本に帰る」「自分の前にはもう現れない」ということしか言わなかったはずだ。
自分も、きっと日本以外のどこかへ行ってしまう。惚れた腫れたに道を踏み外す年齢ではないから。

頭がめちゃくちゃになりそうだった。

乙「……なあ。俺はどれぐらい寝ていた。今何時だ」
牛「ああ、起きたか。ゆうべ何時に寝たのか知らんが、12時間ぐらいは確実に寝たんじゃないのか。
  いま、夕方の五時だ」

山羊に寄り添われて甲板で二人明け方の海を見たのは何時だっただろう。
胸のくるしさを自覚しながら乙女は身を起こす。ひどく腹が減っていた。
牛がいる以上ルームサービスは呼べないので、シャワーで軽く汗を流すと私服に着替えて外出の準備をした。

牛「なあ、済まないが外に出るなら頼めないだろうか」
乙「何だ」
牛「天が買い出しに出たまま戻ってこない。探してもらえないか」
乙「またか。出たのは何分前だ」
牛「売店と往復なら15分ぐらいだろうが、もう30分以上経っている」
乙「泣くほど怖い思いをして懲りたんじゃなかったのか(苛立ちながらドアを見る)」
牛「いや、俺やお前の食事を買いに行くと言ってたんだ。すまん」
乙「お前が謝ることじゃない」
牛「ああ……もしかしたら外で何かあったのかもしれん。頼む」

外に出て動いていたほうが、気が紛れる。
乙女は部屋を出るとその足でビュッフェに向かい、サーディンサンドとコーヒーを立ち食いしながら
天秤の姿を探す。天秤の姿はなく、テレビでは既に決勝戦に向けての番組が始まっていた。
乙女は昨日に続いて蠍と水瓶が破産したことをここで初めて知った。

乙(どういうことだ。双子と羊が残ったのはわかるが、あとの二人は一般人じゃないか。
  プロの蠍と水瓶が素人を二人も残して脱落するとは信じられん)

画面いっぱいに山羊の渋い顔が映し出されて、胸の高鳴りと一緒に目をそむける。
コーヒーを飲み干すとかじりかけのサンドイッチを手にすぐビュッフェを出た。
食事を扱っている各店舗を回ったが天秤の姿はどこにもなく、乙女は念のため甲板を覗くと
すぐにとって返して他のプレイヤーたちの個室へと様子を見に行くことにした。

乙(射手か水瓶の部屋で油を売ってるのかもしれん。双子と羊の部屋も念のため行っておくか。
  ……賭博場は、ないとは思うが最後でいいか)

兄と同じように、弟にも中毒になりやすい素質は眠っているのかもしれない。
自分でもいやなことを考えているなと思う。だが家族である以上、兄を堕落させた要素に
拒絶なり興味なり使命感なり強い反応を起こすのは当然の成り行きだろう。
プレイヤーたちの宿泊している上客用の宿泊スペースの角を曲がると、部屋の前に人影が立っている。


乙女は、それが誰だかを判別するのに少々の時間を要した。
テレビの予想番組に出ていた苦労混じりの穏やかな表情とはあまりにもかけ離れた顔であったから。
蠍の部屋の前に立ち尽くしているその人物が蟹だと気づいたとき、ひどい寒気を感じた。
乙女は蟹に起きた悲劇を何も知らなかった。