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地底。そこは忌み嫌われ、封印された妖怪が住む場所。
旧地獄、旧都ともよばれる。
間欠泉から温泉とともに妖怪があらわれたりした異変などで幻想郷の話題をにぎわせたのは記憶に新しい。
地底には地上の妖怪は行くことはできないとされる。
では人間ならどうだろうか?
今回のお話は地底に行ったある一人の人間の短いお話。
幻想郷は全てを受け入れる。それはとても残酷なことで――
でも――同時にその残酷さは――
美しさを生む。
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――地霊殿
「おねーちゃん?」
「こいし、またお小遣いですか?」
「いやそうじゃないんだけど」
古明地姉妹。
姉のさとりは心を読む程度の能力を持った小五――いや、地霊殿の主。
妹のこいしは無意識を操る程度の能力を持つグリ――風来坊。
彼女らは地霊殿に置いて多くのペット達と共に過ごしている。
最近では地上の人間が来たりして色々あったがそれも過ぎたもの。
今まで通りの生活が続いていた。
「ならなんです?別に用事がないならば――その人間、どうしたんですか?」
「あーいやーこの人間のことなんだけど……」
こいしの右手には目を回した少年が襟首を掴まれていた。
年のころは15ぐらいだろうか?
普通のどこにでもいるような少年である。
服が多少焦げているのが気になるところだが他に特筆するようなところはない。
「さっき上に遊びに行ってたんだけどこの人間が夜雀に襲われてて」
「それで助けたと、珍しい」
「いや、いい感じの死体になったから持って帰ってきたんだけどなんか生きてるみたいで」
少年は地上の夜雀。つまりミスティア=ローレライに襲われていた。
そして死ぬ寸前でこいしがそこを通りがかり幸運にも良い死体だと勘違いされて地霊殿にまで連れてこられたのだ。
「それで私にどうしろと?」
「さっきからさとりん……こいし……とかずっとうわ言で言ってるからおねーちゃんの知り合いかなと思って
私にはこんな知り合いいないしね」
なるほど納得。
さきほどから少年は気絶しながらもうわごとでずっとさとりとこいしの名前を呟き続けていた。
なにこの軽いホラー。
「私に心当たりはありませんがとりあえず客としてもてなしましょう。
人里に帰すのもおりんに任せるのもそれからです」
「はあくしたー」
まぁそんなゆるい感じで、少年をとりあえず地霊殿に置いてことが決まった。
気絶していて何も考えていないことが原因なのか少年の心はさとりでも読むことはできない。
「あ、それとこいし」
「なに?」
「皆に伝えてください、この少年は襲ってはいけないと」
「えーめんどうくさーい」
「私もこの少年をどこかに寝かせてからそうしますから」
少年はさとりん……こいし……とホラー的にうわごとを繰り返しながら眠り続ける。
忌み嫌われたものが封印される地底にて――
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