「忍びが一人」(2008/11/29 (土) 01:49:03) の最新版変更点
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**忍びが一人
このばか騒ぎの会場となった島の南西部には大きな森が
広がっている。
その森の中を、凄まじい速さで走りぬける一つの影がある。
汚く、血が滲んですらいるボロボロの羽織と袴を身に着け、
腰にひと振りの刀を差した男だ。
顔も所々土や血で汚れており、
ボサボサの髪は『よもぎ』のようであった。
しかしそのバサと垂れ下った髪の下の顔は、
そのみすぼらしい風体とは似ても似つかぬ
若く美しいものであった。
その瞳は見る者を酔わせる精悍な光を放っており、
それでいて頬の線は少年のように純潔で初々しい。
一言でいえば青春美の結晶であった。
されども、その美しい表情は、
苦悩と憎しみと焦りに埋め尽くされ、
正に凄惨と言うほかない壮絶極まりない物であった。
青年の名前は笛吹城太郎。
伊賀の国鍔隠れ谷の生まれの
「伊賀者」、すなわち忍者であった。
(帰らねば・・・・帰らねば・・・一刻も早く、早く!)
森を音も無く駆け抜けながら、城太郎は歯ぎしりをする。
このばか騒ぎに偶然巻き込まれた彼には、
一刻も早く自分の世界に帰らねばならぬ理由があった。
(あの腐れ外道ども、七人の根来法師ども、そしてその主たる松永弾正・・・)
ぎりり、ぎりりと城太郎の歯が凄まじい音を上げる。
(一人の残らず討ちはたさねばならぬのだっ!俺の命に代えても!)
城太郎を突き動かす物、それは復讐であった。
◆
ここに連れてこられるほんの少し前まで、
城太郎は幸せの絶頂にあった。
一年前、忍びの掟、遊角の掟を互いに破って
駆け落ちをした恋人、篝火(かがりび)と
故郷伊賀に戻って主君服部半蔵に詫びを入れ、
祝言をいざ上げようという所であったのだ。
駆け落ちしていた一年間は、その為の準備に費やしてきた。
準備もなり、いざ伊賀へ、そう思った矢先、二人の幸せは唐突に破壊された。
破壊したのは七人の根来法師。
何れも、戦国随一の「幻術師」、果心居士(かしんこじ)
の直弟子の化け物忍者である。
この化け物忍者に、城太郎は愛しの篝火を攫われ、
輪姦された揚句に、彼らの主君、戦国の梟雄松永弾正の
所望する最高の媚薬「淫石」を作るための『材料』にされ、
殺されたのだ。
根来の「七天狗」の操る超常の技に為すすべもなく敗れた
城太郎は、半死半生となりながらも、生来の高い生命力で
何とか生き延びることは出来た。
しかし、彼が死の淵から生還した時には、
もはや全てが遅すぎた。
降り注ぐ雨の中、篝火の死に慟哭する城太郎は誓ったのだ。
命に代えても俺一人で奴らを討ち果たす、と!
城太郎がこの島に連れてこられたのは、
この誓いの直後であった。
◆
(早く・・・・早く・・・・)
城太郎は一刻も早くこの森から出て、
人のいる場所を探すべく疾走していた。
一刻も早く、彼はこの島から脱出する方法を見つけ出さねばならないのだ。
愛する篝火の為にも。
(しかし・・・・)
相手もバカではなかろう。
忍びである自分すらここに連れだした以上、
容易には逃げられるぬよう、手は打ってあるだろう。
はたして、脱出など叶うのか?
それよりも、もっと確実な・・・・
(バカな!)
城太郎は、脳裏に浮かんだその考えを、
頭を振ることで無理やりかき消した。
彼の頭の中には、実はすでにここから簡単に抜け出す方法が
考え付いていたのだ。
しかし、その方法を取ることは決して出来ない。
その方法とは、ゲームのルールに従い、
一刻も早く恋人を作り、ここから抜け出す事である。
彼は、忍者だ。
故に、相手を丸めこむ話術に長けているのは当然である。
また、彼は、自分の顔が、女性に魅力的に見えること、
それが武器として使えることを認識していた。
だから、自分がその気になれば、
頭の軽い、尻の軽い女ならば
たやすく手籠めにできる事も。
しかしその方法を取ることは、城太郎には絶対に出来なかった。
彼には篝火との誓いがあった。
『いつかの約束・・・笛吹城太郎は、篝火のほかに女を断つという誓いを忘れないで――』
篝火が残した最後の言葉。
この誓いが、城太郎を縛って離さないのだ。
彼は誓ったのだ、篝火だけを愛すと、それは彼女が死しても変わらないと。
故に、彼はそれが最良の手段であると解っていながら、それを行う事が出来ない。
だからこそ、探さねばならぬ。
他の脱出方法を。一刻も早く。
城太郎は、出口を求めて闇の中を疾走した。
【森/12月20日 午前1時】
【笛吹城太郎@伊賀忍法帖】
[状態]:健康、激しい焦り
[道具]:不明
[標的]:無し。「現状では」恋愛が出来ない
[思考]:森を抜けて、脱出方法を探る。
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