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Delusion


 高温多湿なこの国では、春から秋にかけて他国では見られない常緑樹が黄色い花をつける。城内から城下町まで、そこここに咲き乱れていることから、可憐な花は国花とされ、王家の紋章や騎士団の身に纏う甲冑にも花が刻まれるほど国中で愛されていた。


その花の名はアラマンダ――――――


 国を失った今の私に戻る場所も行き場もなく、辿り着いたこの国も平安とはいえる状況ではなかったが、それでも雇われ兵士として身をおけることになった。詳しい経歴を聞くこともなく、誰であろうと受け入れるというのが騎士団の方針だった。今は何よりも兵力が必要なのかもしれないが、些か無防備過ぎる気がした。それほどまでに急を要しているのだろう。

 水平線に太陽が沈むと闇は空を覆い尽くし、月の光と星の輝きがささやかに地面を照らしている。城内の一室、平行して並ぶベッドに、二人の男が横になっていた。窓側に寝ていた男は耳を欹て、隣で眠る男の寝息に男の熟睡を確かめる。物音を立てぬよう、そっと寝所から抜け出して、その身体に馴染む自身の武具を身につけた。先の戦争の功績で王から賜った剣と金を手にし、部屋を後にしようとしたその背中に、眠っていた男が声をかけた。

「もっちさん・・・こんな時間にどこへ・・・行くんですか・・・?」

もっちと呼ばれた男は、突然の呼び掛けに驚きもせず、おもむろに振り返って男の目を見た。

「今日の戦争、お前はどう思う?防ぐのが精一杯だっただろ。この国にはもう未来なんかねぇよ。あるのは滅亡だけだ。」

そう冷たく言い放ち、じっと男の目を見据えた。

「この国では稼がせてもらったよ。勢いのある国ってやつはいいな。」

そうだろう?と言わんばかりに、口の端だけをくいと上げて笑い、

「俺はただの雇われ傭兵だ。忠誠を誓ってここにいるわけじゃない。勝ち馬に乗って良い思いしたい、それだけだぜ。誰だってそうじゃねぇの?戦争しかけて、その国の財宝や女に酒、なんだって好き放題出来るんだぜ?最高じゃねぇか。攻めるのは好きだが攻められるのは嫌いなんだよ。忠誠心だの何だの言って絡んでくる奴は多いがな、俺から言わせりゃあんなもんは建前だろ。てめぇだって財宝を手にしたいが外聞が気になって出来ないから、やってのける俺に嫉妬してるんじゃねーの?俺はな、忠誠誓って負け戦の巻き添えで死ぬなんて真っ平御免だ。」

息切れる間もなく捲くし立てる様に言い、もっちは俯きながらベッドに腰掛ける男に近づいた。

「すまんな、これが俺の生き方なんだ。」

そう言うと男の口を布で押さえつけ、腰に差した剣を引き抜き一気にベッドへ突き刺した。
せめて苦しまぬようにと、突き刺された剣は男の急所を貫いていた。
男のくぐもったうめき声が布越しにもっちの手に伝わる。
それも長くは続かず、程なくして男は動かなくなった。
男の絶命を確認しもっちはサイドテーブルにある花瓶に手を伸ばし花を引き抜いた。
手に付いた血を花瓶の水で洗い落とし、引き抜いた花を花瓶に戻そうとしたが、
たった今自分に命絶たれた男の上へ添えることにした。
アラマンダの花びらがひらりと床へ落ちる。
そうしてもっちは亡命を果たし、敵対国の傭兵としてアラマンダ国滅亡へと導いた。
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