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黄鬼異変 ストーリー(霧雨魔理沙ルート)



目次


ストーリー

 (出発点:魔法の森)
  • VS 人形少女達
 魔法の森を飛んでいたら、突然アリスの人形みたいなのに囲まれた。
 弾幕を飛ばして来たので応戦する。
 勝利条件:人形を全滅させる。
+ 負けた場合
 勝った場合、ボロボロになった人形の体から血が出てるのに気付く。
 (……どういう事なんだぜ?)
 人形(?)達はボロボロになりながらも立ち上がり、膝をガクガクと震わせながら、こちらに向き直り、
 荒い息遣いを聞こえさせる。
 魔理沙は、何だか気持ち悪いと思った。
 顔はどうみてもマネキン人形なのに、まるで生き物みたいに息をして、震えたりする。
 体はどうなってるのかよく分からないが、まるで生きている人間のように見える。
 (アリスの奴、とうとうこんなものにまで手を染めたのか……)
  • VS 黄鬼喫姫(謎の金色少女)
 そこに、金髪金眼の少女が現れた。
 こいつの身振り手振りに反応し、周りの人形達が動き始める。
 (アリスじゃない!? ……こいつが犯人か!)
 勝利条件:周りの人形達を全て倒す。
+ 負けた場合
 勝った場合、邪魔が入り、金髪金眼の少女は逃げる。
  • VS 黄鬼淋(謎のゴーレム使い)
 割って入ったのは、土でできたゴーレムだった。
 本体は……背後にいた。
 魔理沙が後ろを向いた隙に、金髪金眼の少女は姿を消していた。
 (逃げた? どういう事なんだぜ?)
 折角2対1で有利になるのに、わざわざ逃げる意味などあるのか。
 ゴーレム使いは、キョンシーのような恰好をした幼い少女だった。
 漆黒の吸い込まれるような目をした銀髪の女の子。
 (何か、やな感じだぜ。)
 虚ろな目をしていたその子は、急に何かを思い出したような顔となり、とても嬉しそうな笑みを浮かべ、
 馴れ馴れしい口調で話し始めた。
 「……霧雨店の子か。元気にしておるか?」
 (何だぁ? このガキ。)
 「私はお前なんか知らないぜ。誰だお前?」
 魔理沙は素っ気なく問い返す。
 それを聞いた幼い少女は、はっとした表情となり、慌てて取り繕う。
 「おっと……これは失礼した。儂は黄鬼淋と申すものじゃ。
 おぬしは霧雨魔理沙じゃな? 儂の顔に見覚えはないかの?」
 「ないな。」
 即答する魔理沙。幼い少女は残念そうな顔をする。
 魔理沙は目の前の少女の事など眼中にないとばかりに金髪金眼の逃げた先を目で追うが、
 すぐに追いつけるような距離ではなかった。
 そして、目の前と周りを取り囲むのは、ゴーレム使いと土のゴーレム軍団。
 (両方とも数攻め可能な操作能力者。一度に相手するのは無謀だな。)
 「……なら、1分で倒す!」
 勝利条件:1分以内にゴーレム軍団を全滅させる。
+ 負けた場合
 勝った場合、黄鬼淋が新しいゴーレムを召喚するまでの隙を突いて……
 「よっしゃ!! いっちょ上がり! ……行くぜ!!!」
 魔理沙は全速力でその場から離脱した。
 彗星「ブレイジングスター」
 黄鬼淋は、そのあまりの初速の大きさに吃驚仰天し、隙ができた所を爆風で飛ばされてしまう。
 空高くまで飛んで行った魔理沙は、ターゲットの金髪金眼少女の居場所を目視で確認する。
 どうやら霧の湖の近くにいるようだ。
 邪恋「実りやすいマスタースパーク」
 魔理沙の持つミニ八卦炉から、金髪金眼の少女に向け、一条のレーザーが発射される。
 背後から来るレーザー光に気付いた金髪金眼少女は、咄嗟に紙一重で避け、グレイズさせる。
 それを見た魔理沙はほくそ笑んだ。
 (……かかったぜ!)
 一条の細いレーザーは、突如極大レーザーへと変化し、金髪金眼少女を飲み込んだ。
 ……しかし、少女の燃えるような眼光が魔理沙の背筋を凍らせた次の瞬間……
 (あれ? 体が……動かない……んだぜ……!?)
 硬直する魔理沙の口から、彼女のものとは思えない言葉が発せられる。
 「初見殺しとは、無粋ね。……これはお返し。おあいこ『なんだぜ☆』」
 そして、魔理沙の手に握られてるミニ八卦炉が、彼女自身の顔に向けられる。
 (手が勝手に……おい、やめろ……)
 極大レーザーの軌道が180度変わり、魔理沙自身が光に飲み込まれる。
 気が付くと、魔理沙は魔法の森の木の上に墜落し、枝からぶら下がっていた。
 (しくじったぜ……)
 手元にミニ八卦炉は無い。吹っ飛ばされた衝撃で手から離れ、どこかに落としたのだろう。
 【能力制限】
 以後、霧雨魔理沙はミニ八卦炉の紛失により、「マスタースパーク」系スペル全般および、
 「ブレイジングスター」の使用が不可となります。
 解除条件:ミニ八卦炉の奪還または再入手。

 その頃……
  • 黄鬼喫姫(異変遂行予定者)
 金髪金眼の少女は首から下が無くなっていた。しかし、それでも生きており、
 まるで抜け首のように宙に浮いている。……いや、彼女は抜け首と呼ぶべき妖怪である。
 彼女の首から下は、霧の湖に浮いているのが発見された。
 所々服がボロボロになっており、全身焦げたような跡がある。死んでいるのだろうか。
 彼女の頭が首の上に繋がる。すると、体がビクンと動き、苦しそうに水を吐き出した。
 「ごぼっ!! がぼっ!! がはっ!!! ……い、痛い……」
 金髪金眼少女は涙目になっていた。
 「やってくれたわね……あの人間。」
 (妖怪じゃない、妖力を持たない奴からは力は吸えないし、たとえ吸えても、
 ただの魔法使いじゃ知識を持たない私には能力を使いこなせないから、
 戦う意味は無いと思って見逃してやったのに……。油断したわ。
 でも、思わぬ手土産が手に入った。
 狙撃手は間に合ってるけど、私自身も使えるのは大きい。)
 「……死ぬまで借りる事にするわ。」
 魔理沙のミニ八卦炉は、この少女の手元にあった。

 一方、魔理沙のほうは……
 ミニ八卦炉を探していた。
 しかし、飛んでいた辺りから墜落した木の周りまで、隈なく探したが、どこにも見当たらず、
 途方に暮れていた。
 (……盗まれたか……? しかし、取り返しに行くのは危険すぎるぜ。
 もしあいつにあれを使われたら、マスパ無しで勝つのは正直厳しいな。
 それに、持ってなかったら、とんだ無駄足だからな。)
 「どうするか……」
 魔理沙は一考した後、命連寺に向かう事にした。

 (中間地点1:命連寺)
  • 寅丸星(毘沙門天の代理)
 妖怪寺の鼠に探し物を頼むため、寺の住職に話を付けようとしたら、弟子の虎に通せんぼを喰らった。
 どうやら警戒されてるらしい。
 「今はそれどころじゃないのに……私はまだ何もやってないぜ。」
 「まだって事は、これからやるつもりだったんですね?
 ……油断も隙もありませんね。お引き取りを。」
 取り付く島もない状態である。
 (ん……待てよ?)
 魔理沙は、寅丸星に直接頼んでみることにした。
 「ミニ八卦炉? そんな大切なものを失くしたのですか? たるんでるわね。」
 「ああ……だが、お前にそれを言われると、何だか釈然としないんだぜ。」
 「……ほっといてください。」
 「すまん。」
 「……分かりました。ナズーリンに探させましょう。」
 ようやく話が成立したようで、魔理沙はほっと胸を撫で下ろす。
 ここで、寅丸が新しい話題を切り出す。
 「ところで、あなたが戦ったという相手の事ですが……」
 「あん? 何だぜ?」
 「もっと詳しく聞かせて貰いたいのです。失せ物捜しの見返りです。」
 「分かったぜ。」
 「ゴーレム使いのキョンシーっぽい女の子について、何か気付いた事はありませんか?」
 魔理沙は先刻戦ったゴーレム使いと金髪金眼少女について情報提供した。
  • 聖白蓮(命連寺の住職)
 「星、客人に何のお持て成しもせず、長話をさせるとは何事ですか。」
 住職のお出ましだ。(……もっと早く出て来て欲しかったぜ。)
 「は、すみません。聖。今すぐお茶の用意を……」
 「いや、お構いなくだぜ。私は忙しいからな。」
 「そうですか。魔理沙さん。何もお出しできなくて申し訳ございません……」
 「でも、喉が渇いたからお茶くらいならありがたくいただくぜ。」
 (聖は相変わらず、どんな相手にも優しいな……だが、そこが聖の慕われる所以だ。)
 いつの間にか王様状態になっている魔理沙と白蓮のやり取りに、星は心の中で突っ込む。
 「ところで、魔理沙さん。聞いた話ですが……」
 白蓮は、最近起きている妖怪同士の奇妙な抗争についての噂話をした。
 「……ろくろ首と抜け首の喧嘩?」
 「この辺一帯を荒らし回ってる妖怪がいるようです。
 それも、どうも妖怪ばかりを狙っているらしく、まるで辻斬りのようだと、妖怪達の間で噂になっています。
 ここも妖怪寺と呼ばれておりますし、そろそろ狙われるのではないかと。
 ……魔理沙さんも、十分身辺に気を付けてください。」
 (あいつか……。だが、忠告は少し遅すぎたようだぜ。)
 「……分かった。サンキュ。」
 一通り話が済んだ所で、魔理沙は命連寺を後にする。
 寅丸はナズーリンに用事を言い付けた後、白蓮に話があると言い、寺の一室に引っ込んだ。
 その様子を、どこかから見つめるものがいた。
 「……」

  • 八雲紫(スキマ妖怪)
 「……面倒臭い事になったわね。」
 扇子で口元を隠し、目を細めながら、どこかからスキマで様子を覗き見してる大妖怪がいた。
 その傍らにいる九尾の狐が何か言いたそうにしている。
 「ダメよ。あなたはじっとしていなさい。万が一という事もある。
 それに、その万が一で一転窮地に追い込まれるのよ。……分かるわよね?」
  • 八雲藍(大妖怪の式神)
 「……はい。」
 九尾はすんなりと奥へ引っ込んだ。
 (……こんな時にこそ、私が動けさえすれば……。
 こんな時になって、自分の能力が忌まわしい……!!)
 九尾は自分の無力さを呪いつつも、次はどうすべきかを驚くべき速さで弾き出していた。
 「橙。」
  • 橙(妖怪の式の式)
 「はい! 只今参りました。何ですか? 藍様。」
 九尾の目の前に、猫又のような尻尾が生えた少女が現れる。
 「一つ頼みたい事がある。失敗は許されない。いいか?」
 「任せてください、藍様! 何なりと。」
 九尾は橙と呼ばれる猫又少女に的確な作戦に基づいた指示を与え、少女は理解する。
 「では、行ってまいります!」
 橙がスキマからどこかに飛び出して行った後、九尾は目を閉じ、じっと一人で考え事をする。
 (……これでいい。この異変において私の能力が使えないばかりか、命取りになるだと?
 そんな事はあってたまるか。能力を最大限使い、この窮地を乗り切る。橙は私の能力だ。
 頼むぞ、橙。)
 その様子を眺めながら、八雲紫は思った。
 (いつもの事ながら、仕事が早くて助かるわ。さすが私の式神。
 ……でもね、あなたは一つ思い違いをしてる。
 あなたの能力が奪われ、あなた達2人が敵の手に落ちる事は致命的な問題ではないの。
 幻想郷が荒れるのは間違いないけど。
 一番あってはならないのは、私の能力が奪われ、幻想郷があいつのものになる事、
 それだけなのよ。それは幻想の消滅を意味する。それだけは、絶対にダメなのよ。)
 紫の表情は、藍のそれよりもさらに冷たく、暗く、悲しげで、虚無に満ちていた。
 (……そして、今回の異変では、敵に対する私の能力はほぼ封殺されるでしょう。
 そう……私は、彼女達に一切近づいてはいけない。見ても「見られても」いけないの。
 つまりは、何もできない……)

 (中間地点2:人里)
 魔理沙はミニ八卦炉の場所が分かるまでの間、人里で時間を潰す事にした。
 (この暑いのに、熱いほうじ茶なんか飲んだせいで、余計暑くなったぜ……
 お茶請けも無かったし、そろそろ冷たくて甘いものでも欲しいところだな。)
 とりあえず、情報収集も兼ねて、カフェに行く事にした。
 一人なのでカウンター席に座り、「蜂蜜アイスミルクコーヒー」を頼む。
 入店時に手に取っておいた文々。新聞を読むと、「竹林での妖怪同士の決闘」の記事が載っていた。
 (白蓮が言っていたアイツか……?)
 内容は、狼女が抜け首に挑まれ負けたというものだ。どこまで信じていいか分からないが。
 (後で本人にでも直接聞いてみるか。)
 注文した蜂蜜アイスミルクコーヒーが出され、お代分のコインを弾いて渡す。
 (ここはツケが一切利かない前払い方式の店だからな……店主怒らせたりしたら、
 コーヒー飲めなくなるから普通に払うしかないんだぜ。味までは盗めないしな。)
 魔理沙はキンキンに冷えた蜂蜜アイスミルクコーヒーを喉越しを味わいながら
 ストローで一気に飲み干す。
 そして、飲み干したグラスを置いた後、後ろを横目でチラ見する。
 グラスには、魔理沙の後ろのテーブル席に座った2人の少女達の姿が映っていた。
 後ろの席には、銀髪碧眼の男装少女と、……黄鬼淋が座っていた。
 黄鬼淋の目の前にはソフトクリームが乗った「アイスココア」、男装少女の目の前には
 「たっぷりアメリカンコーヒー」と「ホットサンド網焼きチキン」が出されていた。
 黄鬼淋はソフトクリームをつつきながら、アイスココアを美味しそうに飲んでいる。
 それを見て、男装少女が一言。
 「爺みたいだと思ってたけど、コーヒーも飲めないなんて、やっぱりガキだったんだな。」
 それに対し、黄鬼淋はムッとして反論する。
 「何じゃと? 儂のどこがガキだと言うんじゃ!?
 お前さんこそ、この暑いのに、よくそんな熱いのが飲めるの。
 しかも増量とか。信じられんわい。おまけにそんなゴツイもんを頼みおって。」
 男装少女は構わず熱いコーヒーを飲みながらホットサンドをパクつきつつ、言い返す。
 「コーヒーは熱々を飲むものなんだよ。火傷するくらいが旨いんだ。それ以外は認めねぇ。
 冷ましたら香りが逃げるし、氷なんか入れたら味が濁るだろう。
 そんなものを好んで飲む奴は、コーヒーを味わう気なんてさらさらないんだ。
 そんな奴は、ココアでもジュースでも飲んでりゃいいさ。
 それに、今はできるだけ熱いものをたらふく喰いたいんだよ。体冷やしちまったからな。」
 それに対し、黄鬼淋は、やれやれと言った感じで首を横に振った。
 しかし、唐突にテーブルを叩く音が響いた。隣のテーブル席にいる、羽の生えた少女だ。
 「……何よ。アイスのどこがいけないっていうの!?」
 三日月のような羽を持った少女が肩を怒らせ急に立ち上がるが、その向かいの席に座っている
 彼女の2人の友達が宥めようとする。
 「ねぇ……やめときなよ。ルナ。」
 しかし、男装少女はルナと呼ばれた少女を見るなり、氷のように冷たい目つきとなり、一言。
 「……何だ。大人になれない出来損ないの羽虫風情か。」
 一々棘のある言葉で煽る男装少女に対し、ルナは怒り心頭に達しながらも、冷静に言い返す。
 「熱いのしか認めないですって? 火傷するくらいの熱さなんて、辛さと同じで舌の痛みでしかないのよ。
 そんなのでコーヒーの風味を味わってるつもりだなんて、大人の振りして背伸びしたいだけのガキじゃないの。
 いい? アイスでもホットでも、腕のいいバリスタは飲む温度に合わせて淹れ方を変えるから、
 アイスだからと言って不味くなるとは限らないのよ。
 水や氷に気を遣えば味が濁るなんて事は起きないし、薄めた時の濃度を考えて濃い目に入れれば、
 味が薄くなる心配も無いのよ。
 こんな事も知らないでアイス否定するなんて、あなたは適当に淹れた不味いコーヒーしか飲んだ事が無い、
 無知で貧乏で世間知らずの可哀想なお子様なのね。」
 ぐうの音も出ないほどの言葉のルナティック弾幕に対し、周囲はしばし呆然とするが……
 男装少女の冷たい眼差しに怒気が宿り、自分のテーブルにある熱いコーヒーカップを掴む。
 そして……
 「その辺にしとくんだぜ。」
 魔理沙が、コーヒーカップを持って振り上げようとした男装少女の腕を掴んでいた。
 後ろにいる黄鬼淋も、とても気まずそうな表情で、男装少女を諌める。
 「……そうじゃな、止めておけ。今のはお前が悪い。」
 四面楚歌となった男装少女は、バツが悪くなったのか、悪態を突きながら店を出る。
 「ちっ! ガキばっか!」
 黄鬼淋は、頭を下げてから、男装少女の後に続いて店を出て行く。
 (えらいもん見ちまったぜ……さっき飲んだアイスコーヒーの味、もう覚えてないや。)
 魔理沙は口直しに、お替わりとデザートを追加注文する事にした。

 街角をフラフラとした足取りで彷徨う男装少女に、黄鬼淋が追い付き、呼び掛ける。
 「……お前さん、もうちっと言葉を選べ。いつもあの調子じゃ食事にも行けん。」
 しかし、男装少女は答えない。
 「儂は、お前さんとは目標を一つにする同志じゃと思っておる。
 じゃから、裏切るような事は絶対にせん。儂はいつでもお前さんの味方じゃ。
 しかしのう、儂らは人間じゃ。あくまで人間として戦うんじゃ。
 感情を殺し、心を鬼にし、冷徹になるのも、全ては戦いに勝つためじゃ。
 なのに、お前さんは棘のある言い方で無用な衝突を起こし、言い方が悪くてすまんが……
 ただの人でなしになっておるぞ。」
 黄鬼淋の説得に対し、男装少女は、氷の中に狂気を宿した目で見返し、反論する。
 「あんた、まだ自分が人間のつもりでいたのか。俺達はもう死人なんだ。
 死んでるのに生きてる振りした化生なんだよ。これから滅ぼす予定の連中に対し、
 人間の良識で紳士的に振る舞う意味などあるのか? どうせ皆滅びるのに。
 ルールのある試合じゃないんだ。そして、国際法のある戦争でもない。
 戦場以外で紳士的に振る舞う意味などないし、人間性を正しく保つ必要も無い。
 前線も銃後もここには無い。あるのは俺達と俺達の敵だけだ。
 復讐者である俺達に未来など無いし、必要も無い。
 ただ勝って、復讐すればそれで満足なんだ。
 そうやって満足する事でしか、妖怪に殺された俺達の魂を弔う事はできないんだ。」
 それを聞いた黄鬼淋は、男装少女の中に、手の届きそうにないくらいの奈落を見た。
 (そうじゃ、儂らにはもう復讐以外何も無い……じゃが、お前さんはそんなんで満足か?
 徒に自分を追いつめてどうする……。仮初の命でも、今を楽しまないのは損じゃろうに。)

  • 上白沢慧音(人里の寺子屋教師)
  • 藤原妹紅(竹林の助っ人)
 2人の人間がカフェの扉を開け、店内を見渡した後、青い服のほうが店主に話しかけた。
 「ここで言い争いが起きたと聞いたのだが……」
 店主は何も言わず、3人の妖精が座っているテーブル席のほうに目線を向けた。
 三日月羽根の少女は2杯目のアイスコーヒーを飲み、他の2人の少女達は、テーブルの真ん中に置かれた、
 ソフトクリームが乗っかったデニッシュをつついている。
 青服の女性が妖精達に話を聞こうとしている時、片割れの赤ズボンの女性は、
 隣のテーブルから、死人のような匂いと……知人によく似た匂いを感じ取った。
 (永遠亭のあいつと、寺の墓地にいる死体女が一緒に食事に来たのか?
 ……デートってわけでもないだろう。あいつは女に興味は無いからな。
 ……ってまさか、ネクロフィリアだったのか!?
 そういえば、あいつ首の無い女を拾って世話してたらしいし、案外そうなのかもな。)
 赤ズボンの女性は何やらとんでもない誤解をしている様子。
 その頃、竹林では狼女と戦っている最中、クシャミをする少女が一人。
  • 幼黄姫(永遠亭の因幡人間)
 (鼻に狼の毛でも入ったのかな……後で目薬でもさしておこう。)

 そして、黄鬼戒と黄鬼淋が人里を出てしばらくした頃、目の前には黒い少女が一人。
 (中間地点3:玄武の沢入口)
 「また会ったな。」
 魔理沙は出会い頭に、黄鬼淋に向けて星型弾幕を放った。
  • VS 黄鬼淋(幼きネクロマンサー)
 冥符「冥王幻朧呪(ラグナドライブ) - Practice -」
 黄鬼淋が地面に手を翳すと、そこら辺一帯に地面から、多数のゾンビが這い出て来た。
 皆ボロボロの服を纏っており、顔は虚ろで、知能が感じられない。
 それらが、フラフラとした動きで主人の盾となり、弾幕を防いだ。
 (まだダメじゃな……異界の閻魔の力を借りられるのは百年早いか。)
 魔理沙は自分の弾幕が全て遮られた上に、壁となったゾンビが全て健在な事に驚きと落胆を隠せずにいた。
 (私の弾幕はまだまだこんなものだったのか……パワーが圧倒的に足りてないぜ。)
 勝利条件:固いゾンビを全て撃破する。
+ 負けた場合
 勝った場合、魔理沙は前方に手を翳し、無防備となった黄鬼淋に対し必殺技の構えを取る。
 恋符「マスタースパーク」
 黄鬼淋はすかさず地面に手を翳し、ゴーレムを一列に何体も出し、鉄壁の防御を固める。
 「……のような懐中電灯」
 何体も連なったゴーレムに、何の変哲もない、ただの電灯の光が照射される。
 黄鬼淋は、それが何の攻撃力も持たないただのこけおどしである事に気付くのが遅れた。
 その隙を突き、魔理沙は相手目掛けて空中にビンを投げ、それは目標に吸い寄せられるように飛んで行く。
 相手からはゴーレムに遮られて死角となって見えずらい。
 「グラウンドスターダスト」※スキルカードでスペルではない。
 (ひらめきはパワーだぜ……これでもらった!!)
 黄鬼淋は背が低く頭も小さく、その分視野が低く狭いため、ゴーレムを飛び越えて上から何かが落ちてくるのに
 気付かなかった。
 そして、彼女の頭上で爆発音が響いた。……が、無傷だった。
 彼女の頭上には、ビンの爆発を体で遮った……レティがいた。
  • VS レティ・ホワイトロック(冬の忘れ物)
 魔理沙は突然の予想外の邪魔が入り、頭に沢山の「?」が浮かぶ。
 そして、レティに対し抗議した。
 「おい、レティ!!! 横からの乱入は反則なんだぜ!」
 しかし、レティは無表情のまま何も答えない。
 仮にも妖怪なら、スペルカードルールの決闘への乱入は禁止されているのを知らないはずがない。
 レティは新参ではないし、彼女も知らないはずはないのだが、悪びれもせず、
 ムスッとして黙ったままなのはあまりにも変であった。
 そこに、横から男装少女が口をはさむ。
 「え? 今の決闘だったのか。いきなり攻撃してきたから奇襲かと思ってた。
 まあいいや。じゃあ、今のはこいつ(黄鬼淋)の反則負けって事でどうだ?
 次は俺と勝負しろよ。もちろん、お前に拒否権なんかない。
 お前が一方的に仕掛けて来たんだからな。俺もお前に一方的に仕掛ける。」
  • VS 黄鬼戒(青い目の男装少女)
 そして、男装少女の合図で、レティも攻撃態勢となり、魔理沙に弾幕を撃ち始める。
 (うおっ!? 何なんだぜ!?)
 「2対1なんて聞いてないぜ!!」
 しかし、男装少女は悪びれもせずに正当化する。
 「あれ? こいつ(レティ)も俺の技なんだけど。
 寺の近くにいる仙人もキョンシーを使役して戦ってるし、
 スキマ妖怪も2匹の妖獣と一緒に戦ったりするから、ルール違反じゃないだろ。」
 魔理沙は事態が飲み込めず、戦うどころではなく防戦一方となる。
 (こいつ……もしかして式神使いか? レティは式神にされたのか……?)
 「というわけで、どうやらセーフみたいだし、俺はもう1体追加するぜ。」
 そう締めくくった男装少女の傍らに、もう一人妖怪が出現する。
 (今度は3対1……はは……絶望の足音が聞こえたきた……んだぜ……)
 勝利条件:黄鬼戒との接触を避けながら、レティともう1人の妖怪を倒す。
+ 負けた場合
 勝った場合、ボロボロになったレティともう一人の妖怪を蹴散らし、
 男装少女を箒で思いっ切りぶっ叩いて終わらせる。
 ……と思った矢先、また横から邪魔が入った。
 熱恋「燃え上がるヒートハートスパーク」
 魔理沙が慌てて飛び退いたすぐ目の前を、黄色い炎の奔流が迸る。
  • VS 黄鬼喫姫(異変の首謀者)
 彼女は、魔理沙から奪ったミニ八卦炉を翳し、マスパの姿勢を取っていた。
 (パクられたんだぜ……)
 「私のミニ八卦炉を返せ!! あと、真似するなだぜ!」
 それに対し、黄鬼喫姫は悪戯っぽく微笑みながら、切り返す。
 「あら、1%のひらめきがあれば、99%真似でも独創なのよ。天才が言ってたわ。」
 「パクリだけなら努力は要らないぜ……」
 呆れる魔理沙に対し、黄鬼は自分のペースで話を続ける。
 「あ、そうそう。うちの戒(青い目の男装少女)は反則負けでいいわよ。
 次は私と勝負しなさい。このミニ八卦炉と、あなたの命を掛けてね。」
 勝利条件:黄鬼喫姫から発射される黄色い炎の嵐を避け続けながら、
 3分以内に敵の体力を限界まで削る。
+ 負けた場合
 勝った場合、魔理沙は最後のスペル宣言を行い、撃ち合いを仕掛ける。
 黄鬼喫姫もそれに応じ、ミニ八卦炉から最大級の黄色い炎が発射される。
 絶恋「純度99%のファイナルヒートハートスパーク」
 恋符「マスタースパーク」
 (ん? ミニ八卦炉は一個だけじゃない? 予備を使ったのかしら?)
 黄鬼喫姫は違和感を覚えるが、仮にマスパがダミーだったとして、
 彼女のラストスペルに威力で太刀打ちできない以上、魔理沙自身が無防備になり、
 自滅する事になるのでありえないと思い、その可能性を考えるのを止め、発射に専念する。
 が、彼女の周囲から無数のミサイルが接近している事に気付き、直感的に嵌められたと気付く。
 だが、時すでに遅し。
 (やられた……)
 彼女は魔理沙の仕掛けたトリックに気付く間も無く、ミサイルの雨の中に消えた。
 戦いが終わった後、消えたマスパの発射位置に、魔理沙の姿は無く、そこからずっと下にある地上に、
 3人の妖精とともに魔理沙の姿があった。
  • サニーミルク(光の三妖精の作戦指揮担当)
  • ルナチャイルド(光の三妖精の作戦参謀担当)
  • スターサファイア(光の三妖精の情報担当)
 魔理沙は黄鬼戒と黄鬼淋を追い掛けて店を出る前に、追加注文の品を三妖精のいるテーブルに
 持って行くよう店主に頼み、アイスコーヒーのお替りとデザートの代わりに後で作戦に協力して欲しいと、
 三妖精に頼んでおいたのだ。
 デザートに夢中で遅れてやってきた三妖精は、丁度魔理沙と黄鬼喫姫が戦っている場面に出くわし、
 見付からないよう物陰に隠れながら、様子を伺っていたのだ。
 そして、ラストスペルの撃ち合いとなったタイミングで魔理沙から合図が出たので、
 サニーの能力で姿を隠し、ルナの能力で音を消し、スターの能力で双方の位置を確認しながら、
 魔理沙を素早く移動させつつ、サニーが光を曲げる事で、魔理沙が移動せずに、
 そこから攻撃を続けていると相手に錯覚させ、ルナが音を消す事で、魔理沙が次のミサイル攻撃に移り、
 無数のミサイルを発射した音を隠し、スターがミサイルの照準を合わせるための調整を手伝う事で、
 最後のミサイルの雨攻撃を成功に導いたのだ。
 ちなみに、魔理沙はラストスペル宣言で恋符「マスタースパークのようなマジックミサイル」と唱えたが、
 ルナの能力範囲に入ったため、後半は音が消え、前半のみとなった。
 なので、嘘のスペカ名を宣言したわけではなく、反則には当たらない。
 そして、三妖精は攻撃も防御も一切行わず、魔理沙にも相手にも一切触れておらず、
 魔理沙は自力で移動したため、勝負に割り込んだ事にはならず、自然現象を魔理沙が利用しただけと
 言い張る事が可能である。(実際に触れたかどうかは確認できないが。)
 または、食べ物で釣って手下にしたと言い張れば、加勢してもルール上問題は無くなる。
 魔理沙の高度な作戦勝ちであった。
 (作戦はパワーだぜ。)
 ボロボロに焼け焦げ、地面にうつ伏せで横たわる黄鬼喫姫の手からミニ八卦炉を奪い返した魔理沙は、
 その場を後にしようとするが、黄鬼喫姫が目を覚まし、呻き声を上げる。
 「……かっ……!! これで、勝ったと思うなよ……!」
 「もう勝負付いてるんだぜ。」
 魔理沙は今度こそ、その場を後にした。ちなみに三妖精はとっくに逃げている。

 黄鬼喫姫は……泣いていた。普通の人間に知略と力で完全に出し抜かれたのだ。
 もう一度戦えば勝てないわけではないが、心が折れていてもおかしくは無い。
  • 黄鬼羅羅(這い寄る紅蓮の何か)
 「……星の魔人ツィツィミトルの予言に従えば、あんたはまだする事が山ほどあるわ。」
 彼女の傍らには、いつの間にかもう一人の腹心が、這い寄るように寄り添っていた。
 しかし、彼女は悔しさを堪えるので精一杯で、下を向いて歯を食いしばっているのみ。
 「……予言では、あたしたちの勝利が約束されているわ。
 たとえ、その前に99回の負け戦が起こったとしても、最後に1回でも勝てば、
 予言に反しないから安心するといいわ。きゃは!」
 俯いてる首謀者の横で、赤目の少女はハイになって狂気の笑いを浮かべている。
 「それに、さっきのはあんたの本当の力じゃない。相手の褌を借りて相手の土俵に乗ってあげるなんて、
 とんだハンデ戦よね。あんたが本気で戦って負けるはずないじゃないの。
 あんたにはいつもの電波が届いてなかった。それだけよ。きゃはは!」
 黄鬼喫姫は俯いたまま黙っている。もう呻き声は上げていない。
 「……もうスペルカードルールなんて無視しちゃえばあ? 面倒臭いしさ。
 次からはあたしたち5人で一緒に戦いましょう。幻想郷相手に戦を仕掛けるんだから、
 何でもありにしたほうが面白いと思うわよ~。きゃははは!」
 危険な提案であった。が、黄鬼喫姫は、忘れていた事を思い出したかのように、
 顔を上げ、炎熱の籠った瞳を光らせ、頷き、そして立ち上がる。
 「八雲紫……見てるんでしょう?
 これから我等5人は、あなたの箱庭を燃やし尽くす。
 あなたはそこから見ているといいわ。何もできずに、自分の宝物が燃やされていくところを。
 そして、全てを失う悲しみを味わい、晴れる事の無い恨みを持って、
 我等5人の前に、その悪鬼のごとく歪んだ面を見せにくるといい。
 私は……私達は、生まれながらにして、自分を含めた全てを失う事を宿命付けられた。
 私には命が無かった。私の命には……私が無かった。双方とも、お前に奪われたんだ。
 そして、今度はお前の全てを奪ってやる番だ。首を洗って待っていろ。」

 その様子を、どこかから見ている者達がいた。
  • 犬走椛(山の哨戒天狗)
 「……」
 彼女の傍らには、橙と、ナズーリンがいる。
 2人は、椛の肩に手を置いたまま目を瞑り、何かを見ているようだった。
 橙の手がわずかに震えており、汗がにじんでいる。
 「怖い……紫様……こんな奴らに狙われて……」
  • ナズーリン(ダウザーの小さな大将)
 「しかし、こんなどえらい連中が妖怪に喧嘩売りまくってたとはね……
 これじゃあ夜もおちおち寝られないわね。命連寺が心配だよ。
 しかも、私は魔理沙のヘマのせいで、危うくこいつらに出くわす所だったんだ。
 橙に止められてなかったらどうなってた事か。肝が冷えるよ。全く。」
 そこに、もう一人の妖怪が現れた。
  • 風見幽香(四季のフラワーマスター)
 「へぇ……あんた達、幻想郷に喧嘩を売るような奴らから逃げてきたのね。
 ……面白いわね。私も喧嘩を売られてみたいものだわ。」
 穏やかな笑みを浮かべながら話しているが、彼女が言うと聞く者に戦慄が走る。
 (奴ら、幻想郷を燃やすとか言ってたけど、太陽の畑も込みなんですよね。
 ……幽香さんには絶対に言ってはいけないかも。)

 (中間地点4:命連寺)
 取り返したミニ八卦炉は、他人が変な使い方をしたせいなのか、過熱により動作不良を起こしたため、
 一旦香霖堂に預け、修理してもらう事にした。故障ではないため、軽く整備すれば数時間で直るとの事。
 その後、魔理沙はミニ八卦炉が見付かった事を報告するため、命連寺を再び訪れた。
 そして、寅丸に会い、一部始終を報告する。
 「そうですか。取り返したんですね。……おめでとうございます。」
 「ああ……結構危なかったけどな。」
 (それに、一度きりの一か八かの作戦だったしな。
 ……次は小細工なしで真正面から勝ちたいんだぜ。)
 その話を傍で聞いていた白蓮は、妖怪辻斬りが退治された事にほっとするも、一抹の不安を感じていた。
 (何でしょうか……何か大事なものを見落としているような。
 そもそも、彼女達3人はなぜ、辻斬りなどという真似を……。)

 丁度その時、どこかから見ている犬走椛は不吉な事に気付いてしまった。
 (「我等5人」……? 金髪、青目、子供、赤目……。……あと1人いる!!)
 そして、幻想郷中を隈なく見渡してみる。すると……
 「橙さん!!! 妖怪の山に、もう一人います!!!」
 妖怪の山では、天狗の縄張りが、ターミネーターのような1体の殺戮兵器によって、
 阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
 白狼天狗達は白い稲光によって薙ぎ払われ、近づく事さえできず、
 烏天狗達は自慢のスピードで翻弄しようとするが、全ての動きを目で追われ、
 しかも、両目から発射される正体不明のレーザーで的確に撃ち抜かれ、次々と撃墜されていく。
 さらに、屈強な白狼天狗の精鋭部隊が挑んだ所、突然姿を消し、その後、目に見えない刃物のような何かで
 全身を引き千切られ、何もできないまま全員血の海に沈んだ。
 遠巻きに見ていた報道担当の烏天狗の一人が、その姿を見て思わず口にした一言。
 「白虎……」
  • 黄鬼一発(無慈悲な人間砲台)
 そいつは、銀髪に眉の無いつるっとした白い顔、白黒反転した薄気味悪い眼、
 触覚の生えたイヤーマッフル、全身白と銀の縦縞模様のフード付き雨合羽を着込んだ、
 グラマーで筋肉質な大女の姿をしていた。
 戦える天狗が全滅し、撤退した後、彼女は山の渓谷を目指して飛び去って行く。
 その様子を見た犬走椛は、極高ランクのとんでもない胸騒ぎを感じていた。
 (……にとりが危ない!!!!!)
 「橙さん!!!」
 「はい!」
 橙は椛の肩から手を離し、即了解する。そして、空間の裂け目の中に消えた。

 命連寺の床の間の掛け軸の裏から勢いよく飛び出した橙は、忍者のような身のこなしで、
 天井裏へ行き、聞き耳を立てながら、魔理沙のいる部屋まで音も無く這うように進み、
 天井の板を外し、部屋の畳に勢いよく着地する。
 スキマ移動が敵に見付からないよう予め計算されたルートである。
 しかし、家中荒らされ、突然登場される側にとってはたまったものではない。
 白蓮は呆気に取られ、寅丸は完全に腰を抜かしていた。
 橙から妖怪の山の様子を聞かされた魔理沙は、黄鬼達がまだ退治されてはいないと知り、
 まだ勝負できると嬉しくなる半面、今までにない戦慄を感じていた。
 (あれ……? 何だろう、寒気がする……。何かがおかしい……。)
 魔理沙はすぐに出発し、箒に乗って全速力で妖怪の山まで飛んで行く。
 それを見送った橙は、寅丸と白蓮に、ナズーリンの所在と無事を伝えた後、
 すぐに床の間の掛け軸の所まで戻り、掛け軸をめくり、陰になってる壁に空いたスキマの中に入って行った。
 その様子の一部始終を陰から見ているものがいた。
 (……)

 (中間地点5:妖怪の山と魔法の森の間)
 魔理沙は全速力で、河城にとりの棲む河童のラボを目指し飛んでいた。
 その時、奇妙な違和感を覚えた。
 (あれ? 山が……遠ざかってる?)
 一旦止まってみた後、もう一度進んでみたが、変わらず遠ざかっている。
 試しに後ろに方向転換し、命連寺のほうに戻ってみる。すると……
 (あれ? 今度は普通に進んでる……)
 もう一度方向転換してみると、また別の違和感を覚えた。
 (今、私は左に回ったんだよな? 何か右に回ったような気がするんだが……)
 「ぷっ」
 頭上から何だか不快な声が聞こえたような気がする。
 「あん? 何だ?」
 上を向いて見ようとすると、なぜか体全体が下につんのめり、ひっくり返ってしまう。
 「うわぁ!? 何なんだぜ!?」
 ひっくり返ったまま箒にしがみつき、顔を下(上)に向けたまま、下(上)を見ると、
 ……天邪鬼が笑っていた。堪え切れないと言った感じで。
  • VS 鬼人正邪(逆襲のあまのじゃく)
 「ぷっくくく……」
 魔理沙は頭に血が上る(下がる)のを感じながら、状況を整理していた。
 (こいつは人と逆の事をするのが好きだったな。そういえば。)
 「おい。」
 「何だ? 人間。 ……くくくっ」
 (相変わらずやな奴だが、こういう妖怪なんだから仕方ないな。さて……)
 「今度の目標は何だ? また反逆か?」
 「ん~……ノーコメントで。」
 「おや、それはまたどうして?」
 「教えない。」
 (コメント拒否か……やりづらいな……)
 「私は妖怪の山なんて行きたくないんだぜ。だから、ここで足止めしてくれてありがとう。」
 「……私がそんな嘘に引っ掛かると思うか? これだから人間は浅はかだと言うのだ。」
 「私は浅はかだぜ。憐れんでくれ。」
 「……こんな下らない問答に現を抜かしてて大丈夫か? 妖怪の山は大変な事になっているぞ。」
 「天狗もやられるような恐ろしい敵と戦うのは怖いし、本当は行きたくないんだぜ。」
 「……そうか。なら、お望み通り、ここでお前を思う存分足止めしてやる。くるくる回れ!」
 そう言うと、正邪は魔理沙の視界をグルグルと回し始めた。
 魔理沙は三半規管が狂う感覚に酔いそうになりながらも、状況整理を続けていた。
 (動かないと何も動かない……当たり前だが、今まさにそうなっているな。
 さて……どう動こうとも、私の意思とは真逆に動かされるのは確定か。
 こいつには嘘も真実も通用しない。演技も本音も全て私の意図と真逆にされる。
 が、動と静をひっくり返す事までは思い付くまい。そこまでやられたら、正直お手上げだ。
 動けば変わる……どこに動こうとも私の思い通りになる……まるで上下絵のような、
 夢みたいな……おっ?)
 突然止まった。
 鬼人正邪は、逆さになりながら、魔理沙の顔を見ながら怪訝な表情で問い詰める。
 「……何を考えてる?」
 「何でも考えてるぜ。森羅万象有象無象ありとあらゆる事をな。私は神だぜ。」
 「ああやだやだ……やっぱりお前はいけ好かない人間だ。何もかもが気に入らない。
 まどろっこしいのは止めだ。確実にお前を泣かせる手段を取ってやる。精々苦しめ!」
 「やっぱり最後はそうなるのか……何だ、つまらん。もっと頑張れよ。」
 「うるさい!」
 勝利条件:鬼人正邪を撃破する。
+ 負けた場合
 勝った場合、急に全身から力が抜け、地面に墜落する。何か起きたのか分からないまま、
 周りを見回すと、正邪は既に逃げたのか、姿が見当たらなかった。
 (どういう事なんだぜ? ……まさか、勝敗を逆さにしたとか?)
 どっちにしても、邪魔者は消えた。そして、結構な時間足止めを喰らった。
 (どっちに転んでも、こうなる運命だったってことか……)
 妖怪の山のほうから、雷鳴のような音が鳴り響く。誰かが戦ってるのだろうか。
 (私は、何を考えてる? こんなんでいいわけ、無いんだぜ……)
 そして、少し砂っぽさを感じた。目の前が霞んで見える。
 魔理沙は目を擦りながら、箒に乗って上まで飛んでみる。すると……
 魔法の森のほうから巨大な砂埃が風に乗って流れてくるのが見えた。
 耳を澄ませると、山のほうからの雷鳴に掻き消されながらも、幽かに地響きのような音が聞こえた。
 恐らく発生源は砂埃の出所と同じだろう。
 そして、砂埃は……命連寺のある方向へ伸びていた。
 魔理沙は、反射的に動いていた。砂埃の中心と恐らくぶつかるであろう場所へ。
 魔法の森と命連寺のちょうど中間あたりの、人里の手前へ全速力で飛んで行く。

 妖怪の山では、東風谷早苗と十六夜咲夜が黄鬼一発と戦っていた。
 奇跡を起こす能力と、時間操作能力のダブルパンチの前には、さしもの人間兵器も劣勢となり、
 撃破は時間の問題であった。

 そして、紅魔館の大広間には、館の主人であるレミリア・スカーレットを始めとして、
 八坂神奈子、洩矢諏訪子、四季映姫・ヤマザナドゥ、蓬莱山輝夜、古明地さとり、伊吹萃香と言った、
 各所の代表者達が一堂に会していた。
 さとり:「霊夢さんは来られませんでしたね……」
 萃香:「あいつは異変解決で忙しいからね。私が代理だよ。」
 神奈子:「仏教と道教の主も現場から手が離せないみたいだねえ。」
 輝夜:「人間は色々と駆り出されるから大変よね~。」
 四季映姫:「あなたも人間でしょう。」
 輝夜:「あら、私はエイリアンですわ。地球人ではございません事よ。ほほほ。」
 レミリア:「……さて、もうそろそろいいかしら。」
 さとり:「まあ……そんな事があったんですか。あ、すみません。続けてください……」
 レミリア:「魔法使いは魔法の森、迷いの竹林、人里、命連寺の辺りをカバーするよう、
 我々のほうで仕向けて置いた。戦力の過度の集中は隙を生むからな。」
 諏訪子:「ま、早苗にも活躍させとかないとね。」
 神奈子:「山の神の名が廃るってもんさ。」
 レミリア:「で、率直に言うと、あれは人間一人の手に負える相手ではないと判断し、
 うちから咲夜を向かわせた。あいつはフットワークが軽いし、しかもかなり頑丈だ。
 これからも好きに使ってくれて構わない。」
 神奈子:「そりゃどうも。お言葉に甘えさせてもらうとするよ。」
 四季映姫:「ところで、この会合の目的を聞かせて貰いたいのですが。私は忙しいのです。」
 輝夜:「そうそう。それよそれ。私も暇じゃないし、是非聞きたいわ~。」
 さとり:……ぷるぷる(震えている)
 レミリア:「あー……そうだな。一つは情報交換。二つ目は……避難だ。」
 四季映姫:「避難……ですって?」
 レミリア:「抑止力とも言うべきか。ここには能力が強力な強者を集める事にしている。
 私、妹のフラン、蓬莱山、四季、古明地、伊吹の鬼などだ。
 純粋に強い事と、敵に回ると極めて不都合な強い能力を持っている事がミソだ。」
 神奈子:「あら、私達の能力は大した事ないってことかい?」
 諏訪子:「そりゃ心外だねえ。」
 レミリア:「あなた達の能力は抽象的過ぎるのよ。神でなければ何の意味も成さない。
 それに、決して敵に回る事は無い。今回の異変の主は、神に触れる事すらかなわない。」
 輝夜:「もったいぶってないで早く言いなさいよ。スキマ妖怪じゃあるまいし。」
 レミリア:「相手は、妖怪の類から力を吸い取る事で能力を真似できる。
 今回の一連の戦闘から分かった事だ。妖精からの力のコピーも確認済だ。
 それに、妖怪や人間の心を吸い取る事で思いのままに操る事ができる者もいる。
 ただ、妖精から心を吸い取る事はできなかったようだ。精神構造も関係するのだろう。
 こちらも無制限というわけではないようだ。ある程度強ければ耐えられるかも知れない。」
 さとり:「つまり……将棋でいうところの、穴熊(守りを固める陣形)ですか。」
 レミリア:「そうだ。強者と言えど、万が一という事もある。
 プライドの問題もあるが、この期に及んで一匹狼に拘る必要も無いだろう。」
 さとり:「話は分かりました。……ですが、私にも守るべき場所があります。
 うちのペット達にも、敵の手に落ちて欲しくはありません。
 話が済んだら帰らせていただきますが、よろしいでしょうか。」
 レミリア:「構わない。というか、そもそも強制する筋合いも無いからな。」
 神奈子:「それじゃあ、私達も帰らせてもらうとするよ。」
 四季映姫:「少しよろしいですか?」
 レミリア:「何だ。」
 四季映姫:「ここには強い能力持ちで、純粋に力のある者を集めると言いましたが、
 強い能力持ちで、力の弱い者はどうするのでしょう。相手に力づくで能力を取られてしまったら、
 大変よろしくない事になると思いますが。」
 レミリア:「それも問題ない。今回の異変で守りの要となるのは、純粋に力が強く大した能力を持たない連中だ。
 能力を真似されても決して不利にならず、力を思う存分振るい続けられる特攻隊長を少数配置し、
 各拠点を守らせ、弱小妖怪を庇護下に置く。
 幻想郷全体を完全に統制下に置くとまでは行かないが、各勢力との連携を図りながら、
 自由になる拠点をしっかり守る形にすればいい。」
 四季映姫:「なるほど。分かりました。では、任せるとしましょう。
 私は明日仕事があるので帰らせてもらいます。」
 さとり:「……もう一つ目的があるのではないですか?」
 レミリア:「それは、今わざわざ言う事ではない。それに、もうじき片付く事だからな。」
 丁度その時、大広間のドアが音も無く開けられる。
 「入れ。」
 館の主がそういうと、背中を小さくした気弱な少女が震えながら恐る恐る入ってくる。
 「……人間の魔法使いの足止め、終わりました……。」
 「分かった。ご苦労だった。帰っていいぞ。」
 しかし、気弱な少女は立ち止まったまま動かない。
 「どうした? 帰れと言ってる。」
 「……どこへ、でしょうか?」
 「忘れたのか? 風見幽香の拠点だ。」
 しかし、気弱な少女は動けない。よく見ると顔面蒼白で、脂汗がにじんでいる。
 レミリアは満面の笑みで、少女を気遣う。
 「あいつの顔を忘れたのか? 仕方がない。じゃあ、ここにいろ。」
 そう言われた気弱な少女が周りを見渡すと、そこには恐怖の対象が犇めく地獄絵図があった。
 (ひぃぃぃっ!!!!!)
 「ああ……思い出しました。それでは、帰らせていただきます。失礼いたしました……」
 「分かった。安全のために、咲夜に送らせるとしよう。」
 (へっ?)
 レミリアが指をパチンと鳴らす。すると、いつの間にか十六夜咲夜が傍らにいた。
 「……いかがなさいましたか? お嬢様。」
 「こいつを太陽の畑まで送ってやれ。」
 「かしこまりました。」
 気弱な少女は、傍らに歩み寄ってくる咲夜を見て、この世の終わりみたいな顔をしている。
 「それでは、行ってまいります。」
 そう言った瞬間、咲夜と気弱な少女の姿は忽然と消え、ドアは閉まっていた。
 輝夜:「大丈夫かしら。あの子……」
 レミリア:「あれで中々、肝が据わってるというか、飼い馴らすのにも苦労したよ。
 命令通りに動かすだけでもいつ横道に逸れるか分からない怖さがある。
 だが、いくつか試してみて分かった事だが、まどろっこしいやり方をするより、
 力づくのほうがうまく行く。それも隙の無い形で強固なレールを敷いてやるんだ。」
 四季映姫:「そのために、皆をわざわざここへ呼んだのですか。」
 レミリア:「彼女を守るためでもある。面倒な能力を敵に渡さないため、ひいてはこの幻想郷のためでもある。
 間違いだとは思っていない。」
 四季映姫:「なるほど……」
 萃香:「とりあえず、私は好きにさせてもらうよ~。敵に見付かりさえしなければ大丈夫だって確証が得られたし。
 まあ、タイマンでも5対1でも負けるわけないけど。(……ここも絶対安全というわけではなさそうだしねぇ。)」
 さとり:(……早く帰らずにいて正解でした。見られただけで即死しかねない厄介な敵の情報を、
 本人に会わずして、「最後の切り札」に至るまで全て丸裸にできたのはラッキーかも知れません……。
 貴重な情報の数々、持って帰らせてもらいますよ。)
 輝夜:「私も帰るわね。無断外泊は禁止なのよ、ウチ。後で永琳に怒られちゃうし。
 それに、私も色々忙しいのよね~。」
 大広間に、館の主の溜息がかすかに響いたように聞こえた。

 (中間地点6:人里の近く)
 魔理沙は命連寺目掛けて侵攻中のゾンビ軍団のど真ん中に突っ込んだ。
 「総大将はど真ん中か後ろと、相場が決まってるんだぜ。」
 ゾンビのほとんどは突撃に集中してるのか、魔理沙には目もくれず前進するのみだが、
 何体かのゾンビは方向を変え、魔理沙に向かってフラフラと歩いてくる。
 しかし、別の進軍中のゾンビに激突して同士討ちになるなど、空回りしてる模様。
 (ここにはいない……か。)
 魔理沙はゾンビに囲まれないよう軽い身のこなしで不規則に蛇行しながら、陣形の後方に向かって進んでいく。
 すると、軍団からかなり離れた後方に、もう一塊のゴーレムの集団が見えた。
 (あっちか!)
 魔理沙は前方のゾンビ軍団を突っ切る形で、後方のゴーレム軍団の前に立ちはだかった。
  • VS 黄鬼淋(幼きネクロマンサー)
 「また、お前さんか。……そう何度もやられてたまるか。覚悟せい!!」
 黄鬼淋の今までになく虚ろで冷たい漆黒の瞳に吸い込まれそうになるが、気を取り直すため、
 魔理沙は虚勢を張って見せる。
 「なあ……首置いてけよ。大将首だろう? お前。」
 勝利条件:ゴーレム軍団を全滅させる。
+ 負けた場合
 勝った場合、ゴーレム軍団が全滅し、ようやく本人との直接対決が始まる。
 勝利条件:スペルカード戦に勝利する。
+ 負けた場合
 勝った場合、ボロボロになった相手をとうとう追い詰める。しかし……
 「私は、女子供の首や降参者の首までは取らないんだぜ。潔く諦めろ。」
 黄鬼淋は黙ったまま返事をしない。
 (儂が……諦める……じゃと? ようやくここまで来たというのに……)
 魔理沙は最後の脅しのため、止めのスペルを発動する。
 儀符「オーレリーズサン」
 魔理沙の周りに色分けされた4個の球体が現れ、相手に照準を合わせる。
 しかし、黄鬼淋は動じない。
 (諦めるくらいなら……儂は死を選ぶ。しかし……)
 魔理沙は相手が動くまで待っている様子。動いた瞬間、撃つつもりのようだ。
 そして、黄鬼淋は、懐から白い何かを取り出し、地面に落とした。
 (よし、撃つ!!!)
 オーレリーズサンの球体が火を噴き、4本のレーザーが一度に浴びせられる。
 だが、数秒後、唐突にレーザーが消え、周りでガラスが割れるような音がした。
 (何……だと……!?)
 黄鬼淋の前に、大人の男性がボロボロになりながら壁になるように立ち塞がっていた。
 そして、魔理沙の周囲にある球体は全て割られており、背後に謎の女性がいた。
 魔理沙は悪寒を覚え、反射的に横に避け、男女と相対する。人里に向かい合う形で。
 ラストワード 黄泉戻し「根の国からの里帰り」
 黄鬼淋は、男女の間に挟まる位置まで移動する。
 「……どうじゃ? 儂のお父様とお母様じゃ。」
 魔理沙は事情がよく飲み込めなかったが、一つだけ分かる事があった。
 (何なんだ? こいつら……何て悲しそうな……顔してるんだぜ。)
 黄鬼淋は話を続ける。
 「……妖怪に殺された。儂も一緒にな。」
 (!?)
 魔理沙は更に訳が分からなくなる。しかし、黄鬼淋は構わず続ける。
 「一人ぼっちになった儂のお爺様が、黄鬼殿に頼んで、儂を生き返らせて貰ったんじゃ。
 儂の遺骨と……お爺様の魂を使ってな。」
 (何……だと……)
 「じゃから、儂ら4人は妖怪に復讐するんじゃ。黄鬼殿や同志達と一緒にな。」
 魔理沙は、徐々に戦意が萎んでいくのを感じながら、何とか言葉を絞り出す。
 「や……止めろよ……。そんな事して何になる? どうせ最後は紫に殺されるだろうし、
 色んな人達の迷惑にもなる。暴れて、負けて、死んだら何にもならないんだぜ!?」
 しかし、黄鬼淋は、底無しの奈落のような、黒く虚ろな瞳を向け、笑う。
 「何にもならない? 何も変わらないなら……何をしてもええんじゃないかのう?」
 魔理沙は何も言えなかった。
 「儂らの命じゃ。どう使おうとお前さんにどうこう言われる筋合いは無いし、
 邪魔をされる覚えもないわい。死にたくなかったら、二度と付いてくるなよ。
 顔見知りの人間に手を掛けるのは忍びない。……さらばじゃ。また会えてよかった。」
 そう、別れの言葉を残し、黄鬼淋は人里のほうへ走り去って行った。
 (!! ……人里だと!?)
 魔理沙は我に返り、すぐに追い掛けるが、相手は男女2人のゾンビに抱えられており、
 今までと比べ物にならないくらい足が速く、徐々に引き離されていく。
 (くそっ!! ミニ八卦炉さえあれば……)
 しかも、人里の手前辺りで急に煙霧のようなものが立ち込め、姿を見失ってしまった。
 臭いからすると、爆竹か何かだろうか。何か特別な行事でもない限り、そんな事をする奴はいない。
 魔理沙は、何者かの手により罠が張られている事に気付いた。
 (一体誰かこんなことを……)

 人里の入り口まで到着するが、どこか様子が変だ。
  • 上白沢慧音(人里の守護者)
 「……霧雨か。
 今は……戒厳令が敷かれてるんだ。店はどこも閉まってるし、外出してる者は見回り以外誰もいない。
 ここの所あちこちで人妖問わず襲撃事件が多発しているからな。だから……済まない。帰ってくれ。」
 魔理沙は、慧音が嘘を言っているようには見えなかったが、何かを隠していると感じ、
 上空まで飛び上がって里を見下ろした。
 (……たしかに、見回り以外、誰もいないな。まるで牢屋か何かだぜ。)
 そして、鼻をくすぐるようなキナ臭いものを感じた。
 (ん? この臭いは……)
 すぐに地上に降りた後、慧音に構わず入口から入ろうとする。が、門番の男に止められる。
 慧音が慌てて間に入り、魔理沙に注意する。
 「おい、何をしてるんだ! 今すぐ引き返せ!」
 魔理沙は門番の男を見て、顔を近付けてから、一言。
 「……この臭いは、嘘をついてる臭いだぜ。」
 魔理沙は反射的に箒の柄で男の顎を殴り、一撃でノックアウトさせた。
 中から門の様子を伺ってた見回り達がこちらへ数人走ってくるのが見える。
 「お前……何てことをしてくれたんだ!」
 「ああ……悪かったぜ。お前の顔に泥を塗ってな。」
 「そうじゃない! お前は……里の人間に手を出したんだ。取り返しが付かない事になるぞ。」
 「……出禁になるのはやだな。蜂蜜アイスコーヒーが飲めなくなる。」
 「そんな簡単な話で済む問題じゃないだろう……退治されるぞ。」
 「霊夢にか? 上等だぜ!」
 「ほう……上等ねぇ。」
 魔理沙の背後から声がする。……と同時に、棒で思いっ切り頭を引っぱたかれた。
  • VS 博麗霊夢(楽園の素敵な巫女)
 盛大に転んだ後、起き上がり魔理沙は一言。
 「いてて……もう退治されたんだぜ。呆気なかったな。」
 「その割には反省の色が見えないわね。まだ退治し足りなかったかしら。」
 「そんな事ないぜ。反省してるぜ。もうしないんだぜ。」
 魔理沙の小馬鹿にしたような返事に青筋立てながらも、霊夢は冷静に対応する。
 「……で、何の用?」
 「お前こそ、何の用だ?」
 「……聞いてるのはこっちよ。答えなさい。」
 「お前と同じ用事だと思うぜ、多分な。」
 「何よそれ。」
 霊夢は呆れ返るが、気を取り直し、話を本筋に戻す。
 「……とにかく、これ以上あんたの好きにさせるわけには行かない。ここで止めるわ。」
 霊夢は本気だった。魔理沙は仕方なく応戦する事にした。
 勝利条件:ラストワード発動まで負けない事。
+ 負けた場合
 勝った場合、ラストワード発動後に霊夢は唐突に勝負を中断する。
 「……? 何で止めるんだ?」
 「あんた、もう行きなさい。」
 霊夢は魔理沙に人里へ入る事を認めた。しかし、慧音が抗議する。
 「おい、博麗! どういう事だ? 霧雨はたった今……」
 「そいつ……異変に加担してるわよ。」
 霊夢が倒れている門番を目線で指し示し言った。
 彼は目が覚めたようで、地面を這いずりながら、里の中へ逃げようとしていた。
 魔理沙も霊夢に続けて言う。
 「ああ……そいつが臭かったから、退治しただけなんだぜ。」
 「何……だと……」
 あまりの予想外の事態に呆気に取られている慧音を置き去りにし、
 霊夢と魔理沙は門番をねじ伏せた後、人里に突入する。
 慧音が呼び止めようとするが2人には届かない。
 先頭を走る霊夢が魔理沙に釘を刺す。
 「あんたはもう、里の人間に手を出しちゃダメよ。敵だけに集中しなさい。」
 「そりゃ助かるぜ。あいつは私の獲物だ。誰にも手出しはさせないぜ。」
 (……さっきはあんな湿気た面見せて、戦えるのかどうか心配だったけど、
 嘘のようにいい顔になったわね。これならもう大丈夫かしらね。)
 「結構。私は加担者どもを片っ端から片付けるわ。」
 そういうと、霊夢は勘で一軒の民家に突っ込んでいった。
 すると、見回りのうち何人かが、慌てて霊夢のほうを追い掛けて行く。
 魔理沙は箒にまたがって一気に上空へ飛び上がり、里全体を上から見下ろす。
 家々の竈から立ち上る煙の匂いなどを嗅いでいると、嗅ぎなれた匂いが混ざっている事に気付く。
 魔法の森の土の匂いだ。
 その匂いがする方面へ行ってみると、民家の裏口から数人の男たちに囲まれ、
 笠をかぶった小さな子供が飛び出し、里の外へと走って行くのが見えた。
 (ここで盛大にやるのはまずいな。外に出るまで待つか……)
 と思ってたら、裏口から霊夢が飛び出し、男たちを片っ端から蹴散らしていき、
 笠を被った子供をお祓い棒で思いっ切り上に叩き上げる。
 魔理沙は即座に反応し、空中に上がった子供……黄鬼淋を、箒をバット代わりにして、
 里の外まで叩き飛ばした。
 「魔理沙選手、場外サヨナラ満塁ホームランだぜ!!」
 魔理沙は、相手が体勢を立て直す前にケリを付けるため、飛んで行った方向に全速力で追い掛ける。
 (土の無い空中戦なら、あいつは手も足も出ない。やっつけるなら今しかないぜ。)
 相手が着地する前に畳み掛けるため、魔理沙は追撃の手を緩めない。が……
 下から何者かが迫って来るのに気付き、反射的に避けたため、一瞬の隙ができる。
 (!! ……そんな馬鹿な! こいつら……)
 追ってきていたのは、黄鬼淋の両親のゾンビだった。いや、アンデッドとでも言うべきか。
 (そうか! あれだけは、地面に直接触れる必要は無かったっけ……)
 魔理沙が2人のアンデッド達に気を取られてる間に、黄鬼淋は着地し体勢を整えていた。
  • VS 黄鬼淋(怨念の人の形) 最終戦
 勝利条件:2人のアンデッドを全て破壊し、黄鬼淋の体力を限界まで削る。
 なお、アンデッドが動いている間も、黄鬼淋はゾンビやゴーレムを出し続ける。
+ 負けた場合
 勝った場合、満身創痍となり、妖力の尽きた黄鬼淋の前に、魔理沙は最後のスペルを発動する。
 天儀「オーレリーズソーラーシステム」
 魔理沙の周りに、6個の球体が出現し、黄鬼淋に向けて6本のレーザーが一斉に発射された。
 土煙が晴れた後、着弾地点には6つ重なった大きな焦げ跡が出来ていた。
 そして、中心部分には子供一人入れるくらいの穴が開いており、黄鬼淋の姿は無かった。
 (まさか……逃げられたのか……?)
 魔理沙は一つの戦いが終わったような気がした。

 ……その時、どこかから心の中を見透かしたような声が聞こえた。
 「終わった……とでも思ってたのかぁ~?」
 魔理沙は背筋に凍えるような寒気を感じた。と同時に、全身の毛穴という毛穴に、
 痛くない棘を差し込まれたかのような、全身の血管の中を毛虫が這いずりまわるような、
 名状し難く、嫌で嫌でたまらない生理的嫌悪感に襲われる事になる。
 悲鳴を上げたいが、声が出ない。顔から血の気が引いていた。
  • VS 黄鬼羅羅(名状し難き紅の水)
 貞子ヘアのような銀髪に、真紅の狂気を孕んだ眼を持つ、気が触れてそうな少女が目の前にいた。
 (何だ……この、心に入り込んで来るような気持ち悪さは……フランとは違う……
 あいつは環境でああなっただけで、それが本質じゃない。あくまで生き物……というか、存在だ。
 でもこいつは…………一体何なんだ!? 狂ってるだけじゃない。理解できない……何かだ。)
 「あんた……もうころしていい?」
 (え?)
 少女の頭が奇妙な形に歪み、赤い粘土か何かのように変色・変形して伸びた後、槍のようになり、
 魔理沙の胸を貫いた。……ように見えた。
 胸と背中の部分が赤くにじみ、背中から赤い槍の先端が突き出ているので、どこからどうみても即死である。
 そして次の瞬間、赤い槍は爆発した。
 イベントバトル。自動敗北なので、負けても先へ進む。
 魔理沙は……完全に白目を剥いており、地面に仰向けになったまま、ピクリとも動かなかった。
 胸の部分は……服が破れており、火傷のような跡が見えた。貫かれてはいないようだった。
 紅の少女は腹を抱えてケタケタ笑っている。
 「悪趣味ね。攻撃も……能力も……あなた自身も。」
 紅の少女の後ろには、七色の人形使いが立っていた。
  • アリス・マーガトロイド(七色の人形使い)
 紅の少女は、首だけを後ろに向け、アリスのほうを見る。
 「あらぁ、あんたは……キッキちゃんに人形作りを教えてくれた子ね。ご・ぶ・さ・た~~~♪」
 軽い調子でおどけてみせるが、アリスの表情は氷のように冷たい。
 「あの子が……過去を水に流すために、どれだけ苦しみ抜いたと思ってるのよ。」
 「へ?」
 「辛い過去を忘れ、恨みを乗り越え、皆と仲良くなって、普通に幸せになるために、
 どれだけ苦しみを抱える事に耐え続けたか……あんたは近くから見てたでしょうに。」
 「あー……」
 「今回、あんた達が異変を起こした後、一度だけ引き返せるチャンスがあった。」
 「……」
 「魔理沙に退治された時よ。私は人形を使って遠くから様子を見てたわ。
 だから、その後何があったかも、全部知ってるわよ。」
 「うえ~……覗きぃ~? きんも~☆」
 「……あんたは、たった一度のチャンスを、最悪の方向に持って行った。……確信したわ。
 あんたは、己の欲望のために何も知らない者を利用する、吐き気を催すほどの邪悪よ!
 あんた、一体何者なの!? 自分の片割れと呼べる子を、救いの無い道へ追いやるなんて……」
 アリスは、一人の新しい友人になれるはずだった少女のために激昂していた。
 そして、目の前にいるもう一人の少女が異質な何かであると見抜いていた。
 「……過去を……恨みを……忘れるですって……? 全部あたしに押し付けたくせに……」
 (?)
 「あたしは……あたしこそが、キッキちゃんの過去であり、恨みなのよっ! きゃは!
 そして、あたしはキッキちゃんの分身で、キッキちゃんはあたしなの! きゃはは!」
 アリスは、言ってる事の意味が分からず呆然とするが、紅の少女は構わず続ける。
 「キッキちゃん言ってたわ……恨みは過去に置きっぱなしにしても、いつの間にか戻ってくるって……。
 まるで指定日以外に出されたゴミみたい。きゃははは!
 それに、恨みは可燃物でも不燃物でも資源物でも粗大ごみでもないから、指定日は無いのよね~。
 捨てられる日が無いの。だから、溜め込むか、散らかすか、他所に押し付けるしか無いのよ……。
 まるで放射性廃棄物みたい! きゃはははは!」
 「何を……言ってるの……?」
 「つまりぃ~……あたしが放射性廃棄物ってこと。キッキちゃんと一緒に、思う存分放射能をばら撒いてあげるから。
 きゃはははははははははは……!!!!!!!!!!!」
 狂気が音に変わったような笑い声を聞き、アリスは諦めと戦慄のようなものを感じた。
 「……可哀想な子供の戯言を一々真に受けるなよ、アリス。」
 紅い少女の笑いが引きつる。アリスの目の前、紅い少女の後ろには、魔理沙が立っていた。
 「魔理沙……!! そんな状態ですぐに立ち上がるなんて、危険よ! 寝たふりしなきゃ!」
 魔理沙の胸元には、小さな人形がピッタリくっついていた。AED機能付きなのだろうか。
 「ははっ……さすがにビビったけどな。心臓止まったし。
 でも、人間一人殺せないようなガキ相手に、そこまで身構える必要無いと思うぜ。
 ましてや吐き気を催す……ぷぷっ」
 激昂した際の台詞を笑われ、アリスは顔が真っ赤になる。
 「第一、異変を起こしたのも、異変を続けているのも、そいつのリーダーの一存だろ?
 悪いのは親玉なんだぜ。何も知らない人間を一番利用してるのもあいつだしな。
 大体、アリスは肩入れし過ぎだ。
 あんな奴にも、お前に好かれる一面があったなんて意外だし、何だかちょっぴり妬けるぜ。」
 アリスは思わず俯いてしまう。顔がさらに赤みを増したように見える。
 「というわけだ。大人のお姉さんが、可哀想な子供のオイタにお仕置きしてあげるんだぜ。」
  • VS 黄鬼羅羅(恨みの放射能少女)
 変則ルール:アリスとの共闘(2対1)を行う。3人のバトルロイヤル形式。
 アリスや人形にも被弾判定があり、弾幕や人形に接触判定があるので、同士討ちに注意。
 勝利条件:アリスを脱落させずに、黄鬼羅羅の体力を限界まで削る。
+ アリスが負けた場合
+ 魔理沙が負けた場合
 勝った場合、アリスと魔理沙の合体技「マリス砲」が発動し、黄鬼羅羅の本体は跡形も無く消し飛んだ。
 ……かに見えた。
 黄鬼羅羅は強力な技のダメージを軽減するため、本体である頭を液状化し、自分の体の血管内に無理やり押し込め、
 体を肉壁にすると同時に、血管を強化する事で体を強靭化していたのだ。
 「……まるで化け物ね。」
 「今まで化け物じゃないと思ってたのか?」
 そこに、霊夢が後から追いついてきた。人里のほうは片付いたらしい。
 「遅かったわね。」
 「今終わった所だぜ。」
 その時、禍々しいオーラを発し、全身真っ赤になっている首なし少女のどこかから、くぐもったような声が発せられる。
 「……とでも、思ってたのかぁ~!?」
 霊夢は冷静にそいつを見て、バッサリと一言で言い切る。
 「そいつが異変の妖怪ね。今から私が退治するわ。」
 霊夢が構えたのを見て取った全身赤の妖怪は、まるで赤ん坊のように四つん這いとなり、
 首の断面の部分をこちらに向けてくる。
 そこには目のような何かが張り付いていたが、変形して穴のようになる。そして……
 霊夢が即座に結界を張った次の瞬間、赤の妖怪の首から激しい爆炎が噴射され、
 体がロケットのように遠くへ飛んで行った。
 「信じられない奴ね……自分の体を砲身に使うなんて。普通木端微塵になるわよ。」
 「火薬を飲み込んで死ぬ奴なんて聞いた事ないわ。誰もそんな事しないから。」
 「あいつもミニ八卦炉の力をパクるのか……あれは私の技なんだぜ。」
 リアクションもそこそこに、3人は赤妖怪が飛んで行った方向へ一斉に飛び立った。

 (中間地点7:妖怪の山の背)
 赤妖怪は、妖怪の山のどこかに着地した後も、人間離れしたスピードで山の斜面を駆け上がり、
 木々の間を縫って逃げ続けていた。
 その間、3人は相手を見失わないように、なおかつ追い付かないよう、スピードを加減しながら追い掛けていた。
 相手の根城に辿り着くためである。
 相手のほうもそれは分かっているようで、こちらの様子を伺いながら逃げ続けている。
 なぜ分かるのか? 今、黄鬼羅羅の首の上には二口女のように、前後両面に顔があるからだ。
 追い掛けている間、アリスは自分と黄鬼喫姫との関係や、マネキンの頭部を作った事などをかいつまんで説明した。
 霊夢はアリスが黄鬼に協力した事を責めるでもなく、ただ黙って聞いていた。
 「……霊夢。」
 「何?」
 「私を責めないの?」
 「……誰かが人を包丁で刺し殺したら、包丁を作った職人が罪に問われるのかしら?
 辻斬りが人を殺したら、刀の扱い方を教えた師匠が罪に問われるのかしら?
 放火魔が火を放ったら、火を起こす道具を作った職人が罪に問われるのかしら?
 悪いのは道具でも作った人でもない。使い方を教えた人でもない。悪用する奴が悪いのよ。」
 「そうなのかー」
 「……火を起こす道具を人に向けて使う奴もいるけど、そいつが悪いのよ。
 そんな使い方ばかりするから、変な付喪神になるのよ。」
 「そりゃないぜー」
 それからしばらく追い掛けていると、妖怪の山の尾瀬を飛び越え、裏手に差し掛かる。
 地形や角度のせいで、一瞬だけ木の陰に隠れ、姿を見失うが、すぐに見えるようになる。
 (?)
 霊夢は一瞬違和感を覚えたが、構わず追い続けた。
 程なく、終着点に着いた模様。そこは、大きな養豚場の跡のようだった。
 アリスは顔をしかめながら、口を抑えている。敏感な人は、これを異臭と感じるのだ。
 使われなくなって久しいにも関わらず、飼育された獣と、消毒液の臭いが微かに残ってる。
 だが、中に入ってみると、豚舎や牛舎のように仕切るものが無く、人が腰掛けたり、
 寝そべるような、洋風の家具らしき器具が手付かずのまま置き去りにされていた。
 アリスは……たまらず外に出て行った。霊夢も、器具を見ながら悲しそうな顔をしている。
 魔理沙には、この施設が一体何なのか、いまいちよく分からないままだった。
 そして、建物の裏へ行くと、そこには慰霊碑のようなものが建てられていた。
 アリスはそっぽを向いたまま顔を伏せており、見ようともしていない。
 霊夢は、真剣な表情で石碑をじっと見つめている。
 こればかりは、魔理沙も理解できた。そこには、悲しみのような何かが集まっているのが分かる。
 魔理沙は石碑を見ているうちに、何か血のようなシミが徐々に浮き出て来るように見えた。
 「……おい、何だか血みたいなのが出てないか? 私の目の錯覚なのかな?」
 「趣味悪いわね。……下らない事してないで、出てきなさい。」
 霊夢が冷たい目をしながら石碑に向かって声を荒げる。すると、血のシミから何か出て来た。
 石碑の前面に黄鬼羅羅の顔が張り付いている。それは上に引っ張られるように移動し、石碑の天辺に乗り上げた後、
 向こう側にストンと落ちていき、その直後、石碑の後ろから黄鬼羅羅が体と一緒に出て来た。
 「そんなに怒んないでよ……感度の鈍いお友達にも分かりやすくしてあげただけよ~。」
 魔理沙はこの時、黄鬼羅羅の恰好に違和感のようなものを覚えた。
 (さっきまでレーザーで丸焦げになったり、山道を泥んこになって走り続けてたのに……
 いつの間に風呂に入って着替えたんだろう……そういう妖怪なのか?)
 その時、アリスが奇妙な質問をした。
 「あなた……誰? さっきまでのじゃないわね。」
 その質問に黄鬼羅羅は一瞬だけ真顔になるが、すぐに狂気じみた顔に戻る。
 アリスはさらに続けた。
 「……服のサイズが合ってない。背丈も少し違う。何より、匂いが変わってる。
 ……別人ね。頭のほうの血生臭さは……相変わらずだけど。」
 それに、霊夢も付け加える。
 「声も同じになるよう作ってるけど、微妙に誤魔化せてないわね。
 体が出来てないのか、無理してるのが分かるわ。体形もか細いし、オーラも弱い。」
 (何より、体の霊が透けて見えてるわよ。本物にはそれが無い。)
 魔理沙は呆気に取られ、ただ頷くしかなかった。
 「そう……なのか……」
 (体と服を替えただけなのか……まあ、そうなるか。)
 黄鬼羅羅は狂気じみた笑顔のままだが、目は笑うのを止めていた。
 「後先考えずに、真実をありのまま述べるのは、愚者って呼ぶのさ!!
 あんた達、要らない事言わないほうが身のためだったと後悔しても知らないよ!!
 気付かなければ、手加減してあげたものを……」
 どうやら触れられたくなかったらしい。
 魔理沙は目をジトっとした感じにして、彼女をおちょくった。
 「よく分からんが……あんまり強い言葉を使うなよ。……弱く見えるぜ。」
 黄鬼羅羅の顔が引きつる。……空気が変わったようだ。
 だが……
 「3対3の団体戦よ……これで恨みっこなしね。きゃは!」
 「きゃはは!」
 「きゃははは!」
 「「「きゃははははははははははははは!!!!!!!」」」
 石碑の陰から、もう2人の黄鬼羅羅が出て来た。3人の狂気じみた笑い声が重なる。
 (今度はフランのパクリかよ。もう負ける気がしないんだぜ……)
  • VS 黄鬼羅羅(過去より這い寄る恨みの一片)×3 最終戦
 変則ルール:3対3の団体戦。魔理沙、アリス(NPC)、霊夢(NPC)は自機サイド。
 NPCが途中で脱落しても負けにはならない。魔理沙が脱落した場合のみ、負けとなる。
 黄鬼羅羅の1体あたりのゲージの長さと戦闘の強さは8割程度にダウンしているが、スペカは同時発動可能。
 ラストワードは使用しない。
 勝利条件:黄鬼羅羅×3体を全滅させる。
+ NPCを残して負けた場合
+ 全滅した場合
 勝った場合、3体に分かれていた黄鬼羅羅はそれぞれの体を切り捨て1体に戻り、どこかへ姿を消してしまう。
 ……どうやら囮に足止めを喰らっていたようだ。
 (今度こそ……本当に終わったんだぜ…………だよな?)

 アリスは、養豚場の敷地の出入口みたいな門の所にいた。
 そこから先へ続く細い道に向けて、微かに血溜りの臭いが続いている。
 その臭いを辿って来たのだ。
 敷地の出入口の辺り一帯の地面が、灰色のセメントのようなもので塗り固められている。
 「石畳……じゃないわね。……ザラザラしてる。灰色……の粘土? これは……ビチウメン(瀝青)ね。」
 出入口から外の道に掛け、そしてその先ずっと続く道が全て、アスファルトで舗装されている。
 「こんなので舗装された道なんて、ここ(幻想郷)には他に無いわ。外の技術ね。」
 アリスの手から、幽かに魔力の糸が伸びている。それは、この道の先へと続いていた。
 そこに、魔理沙と霊夢がやってきた。
 「ここにいたのか。……何見てるんだ?」
 「……異界へ続く道よ。」
 「えっ。なにそれこわい。」
 「怖いのよ。可哀想な仔牛の歌を思い出す程度にね。」
 「それじゃあ、差し詰め……あいつらは牛の首ってとこね。」
 「……それだと真相は藪の中って事じゃないの……そんなんでどうするのよ。」
 アリス達がそんな言葉遊びに興じつつ、魔力の糸を辿りながら道なりに歩いていると、
 後ろから轟音が鳴り響いた。
 振り向くと、既に……施設は跡形も無くなっていた。
 「……あ~あ。あんたがそういう事言うから……」
 「生憎、私には言霊信仰は無いわよ。……恐らく、爆薬でも仕掛けてあったんでしょうね。」
 「まさに、真相は藪の中ってことだな。うん。めでたしめでたし。」
 (そうね……不都合な真実は藪の中に隠しておくほうが、人は幸せになれるもの。)

 (中間地点8:幻想郷北部の山岳地帯)
 魔理沙達一行は、霧が立ち込める狭い視界の中、果てしなく続く灰色の道を進んでいた。
 「何だか空が狭く感じるな……山の向こうの空は青いのに、こっちは真っ白なんだぜ。」
 「それ以上深く考えては駄目よ。……金魚鉢の縁を気にしてもいいことなんて何も無いわ。」
 「そうか……もしかしたら、私達、外から見られてるのかもな。」
 「それ以上いけない。」
 霊夢と魔理沙のギリギリな漫才を尻目に、魔力の糸に集中していたアリスが突然歩を止める。
 「どうした? アリス。」
 「……糸の方向が道を逸れたわ。これ以上道なりに行っても奴らはいない。」
 「どうするんだ?」
 (糸の方向転換の角速度と、考えられる移動速度から逆算すると、おそらく奴らは異界の門の手前で落ち合ったはず。
 そこから南に移動すると……考えられるのは……)
 「奴らの行先の見当が付いたわ。このまま道なりに進んでもいいけど、遠回りになるわね。」
 「じゃあ、空を飛んで行こうぜ。敵に気付かれないようにな。」
 「……恐らくそれに気付かれる事は無いわ。ただ、魔力の糸に気付かれる可能性のほうが高い。
 あの子、少しだけ人形の心得があるのよ。」
 「お前が教えたんだろ?」
 「ええ。私にしか見えないよう、ギリギリまで細くしてカモフラージュしてあるから、
 生半可な知識と腕じゃ気付かないでしょうけど、絶対とは言い切れないわ。」
 「……ところで、奴らの目的地はどこなのかしら?」
 「霊夢。あなたならもう気付いてるんでしょう?」
 「多分ね……」
 「……なら、私から伝える事じゃないわ。
 あなたの勘が外れるなんて、私の推理が外れるよりずっとあり得ないもの。」
 「そう……」
 そして、魔理沙達は北部の山岳地帯を山の斜面に沿って、南東方向に飛んで行く。
 すると、間欠泉地下センターのずっと上の辺りに、山肌が剥き出しになった斜面が見え、
 そのすぐ下に土砂が溜まった箇所があった。そこの近くに石碑が立っている。
 「あれは……何だろう。」
 「……寄ってみる?」
 アリスは何か知ってると言った感じだった。

 魔理沙一行が立ち寄った場所には、遠目からは気付かなかったが、既に先客がいた。
 魔理沙は初めて見る人間だった。鈴仙みたいな服に、兎の付け耳をした黒髪の少女。
 そして、一番印象的なのが、くっきりとした濃い眉と力強い目つきである。
 (何か……目力が強すぎる。まるで男みたいだな。もしかして……)
 「……お久しぶり。元気そうね。」
 「お久しぶりです。ご無沙汰してました。そちらこそ、お元気そうでなによりです。
 その節は大変お世話になりました。」
 どうやら、アリスとは顔見知りのようだ。しかも……見かけによらず、声が超可愛い。
 (何なんだぜ……)
 魔理沙は何だかもやもやしたものを感じていた。
 アリスは幼黄姫がここにいる事に何やら違和感を覚えたようで、質問を投げかける。
 「ところで……何でまたこんな場所に?」
 「それはですね……もうすぐ『この人』の月命日なんです。
 ですから、毎月この時期にお参りする事に決めてるんです。
 いつもは仕事の合間だったり、暇を貰ってるんですけど、今は異変の調査を命じられてて、
 仕事が無くてある程度自由に外出できるので……」
 「そう……でも、それでいいの? だって、あなた……」
 「……関係ないんじゃないですか? 死んだ命ですから……祈ってあげないと、可哀想です。」
 一瞬だけ、彼女の目つきが変わり、声が上擦る。何やら地雷を踏み掛けたようだ。
 「そう……すまないわね。そうだったわね。」
 (彼の体だって、生きてたんですものね。たとえ頭が離れてても、命に変わりないのね。)
 アリスは自分の迂闊な物言いを反省し、それ以上の言及を避ける。
 しかし、魔理沙は何が何だか、まるで訳が分からないと言った顔をする。
 (何で、月命日でもないのにお参りするんだ? それに、もうすぐ月命日だから?
 まるで、月命日をわざと避けてるように聞こえるぜ。おまけにアリスも変だぜ。
 死んだ人にお参りする事のどこがおかしいんだ? ……分からない事だらけだぜ。)
 「……おい、アリス。私にこいつを紹介しろ!
 ……っていうか、私の知らない話をゴチャゴチャ聞かされても、まるで訳が分からないんだぜ!
 ってわけで、おいお前! まずは名を名乗れ!!」
 「え……あっ、はい。私は幼黄姫(よう・きき)です。どうぞよろしく。」
 「私は、霧雨魔理沙(きりさめ・まりさ)だ! これから、お前の事を聞かせて貰う!
 ……私が勝ったらな! いざ、尋常に……勝負!!」
 (はぁ……また、この子は……全く。)
 アリスは、またいつもの魔理沙の悪い癖が出たとばかりに、溜息をついた。
  • VS 幼黄姫(変幻自在のニコイチ少女)
 幼黄姫は、手を上げ、とても言いづらそうに切り出した。
 「あの……」
 「何だぜ?」
 「ここではお墓が荒れてしまいますし、今は異変解決の真っ最中ですから、
 無暗に音を立てて、敵に気付かれると色々とマズイと思うんです。」
 「墓場での戦闘は幻想郷ではよくある事なんだぜ。
 それに、敵が来たら返り討ちにするだけだから、心配いらないぜ。」
 「……私が嫌です。ここはとても大切な場所ですから。」
 「じゃあどうするんだ? 私はお前の大事な場所をネタに脅しを掛けて、
 不戦勝に持って行こうとするつもりはさらさらない。だから、戦う。
 我儘は戦闘で勝ち取るのがルールなんだぜ。」
 「……じゃあ、あなたのさっきの要求は飲みます。私の事、何でも聞いて下さい。
 その代わり、別の戦利品を用意しますので、日と場所を改めて勝負する事にしましょう。
 これでいいですよね?」
 (……ん~。何なんだぜ……!? これじゃあまるで私が子供みたいじゃないか。
 それに、こいつ……何者なんだ? 人間……だよな? 私とそう年の変わらない。)
 魔理沙は興が削がれたのか、戦闘態勢を解いた。勝負はお預け。

 魔理沙一行は幼黄姫を加え石碑のある場所を後にし、玄武の沢を目指して歩いている。
 アリスの冷たい視線に堪えきれなくなった魔理沙は、意地を張るのを止めた。
 「その……さっきはすまなかったな。」
 「はい?」
 「私も大人げなかった。お前の事知りたかっただけなのに。」
 「もう気にしてませんよ。」
 「そうか…………」
 しかし、ここで魔理沙は唐突にある興味が湧いて来る。
 「……もし、あの時私が引き下がらずに攻撃したら、お前はどうした?」
 「えっ」
 「もしもの話。分からなかったら別にいいや。」
 「……多分、あなたが撃つ前に、動いてたでしょう。動く前に仕留めるつもりで。」
 (……へ!?)
 その時、一瞬だけ、幼黄姫の目が紅く光ったように見えた。
 はったりや嘘を言ってるようには見えなかった。
 魔理沙は、幼黄姫の目の奥に、底知れない危険な何かが潜んでいるような気がした。
 (あの場所に私がいる事自体、広く露見してはいけないのよ。
 だから、何があっても、たとえ閻魔様に叱られても、それだけは絶対に止める。)
 (こいつ……見掛けによらず……何だか……)
 魔理沙はまた何か思い付いたのか、話を続ける。
 「……やっぱり聞くのは止めだ。」
 「え?」
 「別の戦利品なんて思い付かないし、お前から力づくで何かを取ろうなんて、
 私はそんな人でなしじゃない。だから、戦利品はお前の話だけでいい。
 後日改めて勝負だ! 本気のお前を負かして、思う存分聞かせて貰うぜ。
 お前の言いたい事も、言いたくない事も、洗いざらい根掘り葉掘り全てな!」
 「……そうですか。では、私が勝ったら、あなたの事を聞かせてくださいね。」
 「……いいぜ。私は心が広大だからな。何でも答えてやる。」
 ここで、霊夢が幼黄姫に呼び掛ける。
 「ちょっと、いいかしら?」
 「はい。何でしょう?」
 霊夢は、魔理沙とアリスに先に行くよう伝える。霊夢は一度神社に戻るらしい。
 幼黄姫にも用事があるので、それを済ませ、後から追い付くとの事。
 そして、魔理沙も用事があるため、それを済ませてからアリスと落ち合う事にした。
 【能力制限解除】
 魔理沙はミニ八卦炉を取り戻したので、「マスタースパーク」系スペル全般および
 「ブレイジングスター」の使用が可能となります。

 (中間地点9:地底の洞穴入口)
 地底へ続く洞穴の前に、魔理沙達6人が集合していた。
 魔理沙、アリス、霊夢、早苗、咲夜、幼黄姫の6人である。
 アリスは魔法使いで妖怪に区分されるため、本来なら地底へ行く事は禁じられているが、
 今回は非常事態であり、案内役が必要なので、例外的に同行を許される事になった。
 ただし、地底への事情説明などで手間取るため、幼黄姫の能力で、姿を隠す事になる。
 幼黄姫は契約や同意などで他の人妖から、その能力を借用する事ができるらしく、
 今は鈴仙の能力を借りて使っているらしい。
 ただし、発動中は他の能力を使えず、姿は鈴仙に似た感じのまま固定される事となる。
 また、他のメンバーとの会話用に、魔理沙の傍らに通信人形を飛ばす。
 魔理沙一行が洞穴に入ってしばらく進むと、向こうに何やら白い壁のようなものが見えてきた。
  • 水橋パルスィ(橋姫)
 パルスィは魔理沙達の足音が聞こえた瞬間、耳を澄まし始めた。
 そして、指からBB弾くらいの小さな緑色の弾を射出し、斜め後ろの一点を見もせずに打ち抜く。
 そこには蜘蛛の糸が張られていたが、パルスィの一発の弾で焼き切られる。
 彼女の背後には、巨大な蜘蛛の糸が隙間なく張られ、さながら繭のような白い壁となっていた。
 「……ごくろうさん。ここは行き止まりよ。お帰りはあちらです。」
 パルスィは魔理沙達を一瞥した後、気怠そうに来た道を指差し、追い払うような仕草をする。
 目の前が行き止まりになっている状況に、一同唖然とするが、アリスは目の前の状況が受け入れられないようで、
 通信人形を介して抗議する。
 「ちょっと……これっておかしいわよ。だって魔力の糸はここを通って旧都に向かってるのよ。
 それが今になって行き止まりだなんて。……黄姫、あいつの言ってる事、確かめられる?」
 「ちょっと待ってて……」
 幼黄姫が目を赤く光らせ、パルスィの波長を読み取る。……が、正気であり、嘘ではなかった。
 「どう?」
 「……本当みたいです。至って正気です。……この先ずっと塞がれています。…………」
 幼黄姫はまだ何かを探っている。
 「どうしたの?」
 「……変なんです。この先に、動いているものがあります。道は塞がってるのに……土の中?」
 その時、彼女はうなされるように頭を抱え始める。悪いものでも見たのだろうか。
 「うっ……」
 「おい大丈夫か?」
 魔理沙が彼女に寄り添う。
 「の……脳虫……」
 (脳虫? それって……まさか……)
 アリスは何かに気付いた様子。幼黄姫は気を取り直し、説明を続ける。
 「土の中を、虫のようなものが這っているのが見えました……周りに……何か粘液のような……」
 「……まんまとやられたわ。」
 「アリス?」
 「あいつ……私の魔力の糸が付けられてるのに気付いて……その箇所ごと体から切り取って、
 遠隔操作か何かで移動させてるのよ。奴らはもうここにはいないわ。別のルートね。」
 「それじゃあ……手掛かりは無くなった……のか……?」
 「ええ……完全に途絶えたわ……」
 その様子を見ていたパルスィは、いい加減うざったくなったのか、帰るよう促すために切り出す。
 「ねえ……途方に暮れてる所悪いんだけど……そろそろ帰ってくれない? 私ら忙しいのよ。」
 しかし、彼女が忙しいようには見えない。暇だと顔に書いてある。
 「忙しい? ……とてもそうは見えないけどな。何に忙しいんだ?」
 「あ? まあ……あんたらにも関係無いとは言えないか……教えてあげる。敵襲に備えてるの。」
 「敵襲? それって……異変を起こしてる連中って事よね?」
 「そうだけど。……でも、おかしいのよ。そろそろ来るはずだと思ってたのに、いつまで経っても、
 影も姿も、足音すら見せないのよ。ここが行き止まりだなんて、一度来ないと分からないのに。」
 その時、早苗が何かを思い出したかのように話し始めた。
 「そういえば……敵のサイボーグにはX線による透視能力があるらしいです。
 それで洞穴の内部を透かし見たのかも知れません。」
 ほぼ一同が「な、なんだって~!?」と心の中で反応している横で、無反応な巫女が一人。
 霊夢は落ち着いた様子で早苗に素朴な質問を投げ掛ける。
 「その……X線とかいうのはよく分からないけど、それって千里眼みたく何でも見通せるのかしら。」
 「いえ……何でもというわけではありませんが、人体内部とか、密閉された箱の中身とかが、
 断面図や透かしみたいに分かるというものです。スイカを叩いて中身の詰まり具合を見るような
 のと似てるかも知れません。」
 「そう……じゃあ、地面の下にある空洞やら水脈やらを探し当てる事もできるってわけね。」
 「私にもそこまで詳しい事は分からないんです……ごめんなさい。」
 「つまり……どういう事なんだぜ?」
 霊夢の質問の意図が読めない魔理沙は、質問を質問で返して見せる。
 「あー……つまり、奴らはここ以外のどこかに地底への通路を作るか見付けるかして、
 奇襲をかける事もできるんじゃないかって事よ。」
 「そうなのかー」
 「あんた……人に聞いてばかりで何も考えないと、そのうち宵闇の妖怪みたくなるわよ……」
 「あいつは色々考えてるぜ……聖者が張り付けにされた形とか、十進法を採用した事とかな。」
 「まったく、ああ言えばこう言う……」
 その時、幼黄姫が唐突にこんな事を口ずさむ。
 「空洞……妖怪の山……大空洞……。噂で聞いた事があります。妖怪の山の内部に大空洞があるって。
 それは、河童や天狗の秘密基地があるとか、未来都市があるとか、地底へ続いてるとか、
 底なしなのにも関わらず太陽の光が常に届いているとか、色々な話が里の人達の間で
 まことしやかに語られているようです。」
 「それは私も妖怪の山の天狗や河童から聞いた事があります。ですが、あくまで都市伝説だと……」
 「もしかして、都市伝説というのが嘘なんじゃないのか? 天狗や河童の言う事だしな。」
 その時、痺れを切らしたのか、パルスィが口を挟む。
 「あー……あんた達は知らないのか……。まあ、この期に及んで秘密にしてる場合でも無いか。
 あるよ。大空洞。敵さんはそっちに行ったかも知れないわね。ここと、間欠泉地下センターは、
 ほぼ完全封鎖だから。地下センターのほうは古明地んとこの馬鹿カラスが守ってるし。」
 「えっ」
 「だからほら、さっさと行った行った。今は非常事態だから我慢してるけど、
 あんたらいい加減妬ましいのよ。これ以上見せ付けないでくれる? 一人じゃないところ。」

 魔理沙達が洞穴から引き返し、妖怪の山の大空洞を目指し始めた頃……
 (中間地点10:妖怪の山・大空洞前)
 黄鬼達は眼下に広がる巨大な空洞を見下ろしたまま、出撃の時を待ち、静かに佇んでいた。
 リーダーである黄鬼喫姫を中心に、他の4人は脇を固め寄り添うように、身を低くしている。
 喫姫の足元には、黒い水たまりのようなものが広がっており、中で何かが蠢いているようだ。
 そして、夜10時くらいを回り、里のほぼ全てが寝静まった頃、彼女達は音も無く飛び降りた。
 黄鬼喫姫の背中には、ルーミアがしがみついていた。暗くてよく見えないが、目は虚ろだ。
 そして、先程まで黄鬼達がいた場所は地面が掘られており、中には、全身をロープで縛られ、
 さるぐつわを噛まされたルナチャイルドが、目尻に涙の跡を付けて疲れて眠っていた。
 そのすぐ近くに、今まで出るチャンスを伺ってたように、陽炎のような風景の歪みが現れる。
 黄鬼達は落下中、周囲を真っ黒な何かで覆われ、大きな黒い球体となり闇へ溶け込む。
 そして、かなり長い滞空時間の後、地霊殿の裏手に、音も無くゆっくりと着地した。
 かなりの砂埃が立ったように見えるが、全く音がしない。そして、黒い球体が消えた後には、
 クレーター状に凹んだ地面の上に総立ちする黄鬼達とルーミアの姿があった。
 その様子は何者かによって偶然目撃されていたが、他の誰かに伝えられる事は無かった。
 そして、目撃者の存在を黄鬼達は知る事は無かった。一人を除いて。
 黄鬼一発はレーダーにより、不審人物の接近を感知していたが、隠密行動中のため、
 騒音や衝撃、光源となる火器類一切の使用はできず、接近戦のための集団からの離脱もできず、
 周囲一帯が無音となっているため、不審者の存在をリーダーに報告する事もできなかった。
 そのため、無反応を貫く以外の選択肢が無かった。予め暗号を決めて置いて、接触により、
 モールス符号で伝える方法もあったのだが。当人の機転の無さと、リーダーの作戦ミスである。
 しかし、そのおかげで、不審者との戦闘は避けられたのかも知れない。結果オーライだった。
  • 古明地こいし(無意識を操る妖怪)
 (……)
 怪しげな集団を目撃したにも関わらず、この呑気な妖怪は何をするでもなく、何も考えず、
 ただ様子を見て楽しんでるだけだった。
 無意識に動くからだろうか。インスピレーションに従っているからだろうか。
 結果的に彼女は危険な敵と戦わずに済んだ。

 (最終決戦開始)
 黄鬼達は最後の準備を整え、作戦で決めて置いた陣形を取り、突撃体勢となる。
 黄鬼喫姫は、全身に痺れのようなものを感じ、心臓の鼓動が高鳴っていた。
 緊張のせいか、武者震いなのか分からないが、平常心ではなく浮かれているように見える。
 (……しまらないわね。無音の中じゃ、勝鬨の声も聞こえないのだから仕方がないけど。)
 しばらく呼吸を整え、目を瞑る。周囲は彼女の内心を汲んだかのように、周りを確認しながら、
 彼女が落ち着くまで待ってあげている様子。
 ……そして、リーダーが目を開いた。
 直後、黄鬼淋が地面に手を翳すと、周囲が大きな球状の土壁で包まれ、斜め後ろ下のみ、
 人一人の頭が出せる程度の穴が開く。そこから黄鬼一発が顔を出し、ルーミアの闇に包まれる。
 何かが噴射したのだろう。
 大きな黒玉はそこから砲弾のように飛び立ち、旧都の中心部へ向かって綺麗な弾道を描きながら、
 音も無く飛んで行く。
 旧都の上空を飛行し、最後は旧都の中心部目掛けて落下し、音も無く着弾した。
 そして黒玉は土壁に戻り、崩れ落ちた後、中から黄鬼達5人とルーミアの姿が現れた。
 天蓋の中心部で、その様子を伺う者がいた。黒谷ヤマメである。
  • 黒谷ヤマメ(暗い洞窟の明るい綱)
 彼女は、旧都周辺に張り巡らした蜘蛛の糸の何本かが大きな黒玉によって切られたのを確認し、
 侵入者を目視した後、手元にある太いロープを何度かクイッと引っ張る動作をした。
  • 古明地さとり(怨霊も恐れ怯む少女)
 地霊殿では、主のさとりが眠らずに待機していた。
 近くにあるロープに繋がれたベルが数回鳴るのを確認した後、
 周りにいるペット達に状況を伝え、指示を出し始める。
  • 火焔猫燐(死体ツアーコンダクター)
 その頃、間欠泉地下センターで防衛の補佐の任に就いていたお燐は、
 地霊殿から洩れる明りが不自然に明滅するのを確認し、旧都への襲撃を知る。
 その事をお空に知らせた後、猫の姿となり、全速力で旧都まで駆けて行った。

  • 星熊勇儀(怪力乱神を持つ地底の鬼) VS 黄鬼一派&ルーミア
 天蓋の中心部から、黄鬼達の頭上目掛けて、鬼が落ちて来た。
 レーダーで直前に感知した黄鬼一発は何とか回避に成功するが、真ん中に陣取っていた黄鬼喫姫は回避が間に合わず、
 頭上に重い一撃を喰らい、まるで釘打ち機に掛けられたかのように、棒立ちのまま全身を地面にめり込ませた。
 体はおそらく骨も内蔵もズタズタだろう。
 「リーダーがやられた!?」
 ルーミアを除く残り4人のうち、3人は総崩れとなるが、黄鬼一発のみ無反応のまま次の行動を淡々と弾き出す。
 そして光学迷彩と、ルナチャイルドの音を消す能力を同時に発動し、夜の闇の中に消えた。
 次の瞬間、勇儀の左肩に歯型のようなものが浮かび上がり出血するが、それはすぐに止まり、
 勇儀は目の前の見えない何かを両腕でガッチリ抱擁する。
 直後、勇儀の左肩から大量の血飛沫が流れ出て、目の前の地面が音も無く土埃を巻き上げて、
 人の形をした部分を残しその周囲に血溜りを作り、その中に黄鬼一発の姿が再び現れた。
 ベアハッグによる脊椎損壊と内臓破裂で、おそらく長くは持たないだろう。
 その間に体勢を立て直した他の3人は、地面に埋まっているリーダーが白目を剥いたまま、
 完全に動かなくなっているのを確認した後、何と見捨てて敗走し始めた。
 しかし、鬼は敵前逃亡しようとする輩をそのまま逃がす程甘くは無かった。
 「人間……お前たちは負けそうになるとそうやって逃げ、懲りずにまた攻めて来るんだろう?
 ……だったら、今狩る!!!」
 四天王奥義「三歩必殺」
 勇儀が歩を進める毎に、その周囲をより強い衝撃が襲い破壊し尽くす。
 それを確認した3人は逃げられないと分かり、それぞれの最大防御を固め衝撃に耐える。
 周囲一帯が瓦礫の山と化した後、その場に残っているのは、勇儀と、近くにいる黄鬼一発、
 地面に埋まっている黄鬼喫姫、そして、遠くには2人のアンデッドを壁にしていた黄鬼淋、
 衝撃をまともに喰らいながらも赤い液状の本体を全身に流し込んで強靭化した黄鬼羅羅、
 ……操っているルーミアと、もう一人の妖怪を盾にしてダメージを軽減した黄鬼戒の、
 ほぼ全員であった。
 ルーミアは虚ろな顔のまま口から血反吐を吐き、力なく崩れ落ちる。
 もう一人の妖怪は全身ボロボロになりながらも、虚ろな顔のまま踏ん張り続けている。
 しかし、もう限界が近いようで膝が笑っていた。
 ……勇儀は、動ける3人のうち一番「人間臭い」輩を最初の標的に決めた。
 黄鬼戒は、驚異的な歩幅で迫って来る鬼からの攻撃を防ぐため、そばで立っている妖怪に指示を出すが、
 彼女の意思とは裏腹に、膝が崩れそのまま転んで動けなくなる。
 ルーミアも這いつくばりながら動こうとするが、もがく力すら残っていない模様。
 もはや万策尽きたかに見えたが、ここで黄鬼戒は氷の眼差しで容赦ない指示を送る。
 すると、ルーミアは全身から闇を放出し、周り一帯を闇で覆い隠した。
 だが、そんな非道な戦術に対し、勇儀は怒るよりも呆れ返るように笑い飛ばす。
 「ふんっ! 下種な人間の浅知恵だねぇ。反吐を通り越して笑い声しか出ないよ。」
 次の瞬間、耳をつんざくような鬼の叫び声が地底に鳴り響く。
 鬼声「壊滅の咆哮」
 辺り一帯を高周波と低周波が乱雑に入り乱れた大気の震えが襲い、
 黄鬼戒は頭をテニスのラリーの如く金棒で数十回叩かれ続けシェイクされたような感覚に襲われ、
 意識が別世界まで飛んだ。ルーミアともう一人の妖怪も、そのまま動かなくなる。
 黄鬼淋は耳を塞ぐのが間に合わなかったが、両脇にいる2人のアンデッドが咄嗟に彼女の両耳を塞いだため、
 ギリギリで意識を保つ事ができた。
 しかし、アンデッドのほうはダメージを受け過ぎたためか、体が徐々に灰のようになり、
 最期は崩れ落ちて地底の風の中に消えていった……。
 (お父様……お母様……いままで一緒に戦ってくれてありがとう……さようなら……)
 地面に埋まったままの黄鬼喫姫も咆哮の射程範囲内にいたが、
 すぐそばまで這ってきた黄鬼一発が周囲の音を消す能力を発動したため、共に難を逃れた。
 そして、黄鬼羅羅は頭である本体を液状化し体内に押し込めていたので、聴覚を遮断でき、
 意識を失う事無く、この攻撃に耐えた。
 (そもそも常に自身の本体を爆破に使う彼女に、常人と同じ聴覚が備わってるのかどうかすら疑問なのだが……)
 ここで、黄鬼羅羅は他の4人が動ける隙を作るために、自ら捨石となる戦術を取る事にした。
 このままジリ貧になって全滅するよりは、最小限の犠牲で済むと判断したのだ。
 体の中から本体を出し、空中に撒き散らして見えない導火線を張り巡らせた後、一気に爆発させる。
 強烈な爆炎と熱風に目を奪われ、足元への注意が疎かになっていた勇儀の下駄の裏に、
 黄鬼羅羅の本体の一部である赤い液体生物が付着し爆発して、足を掬い上げる。
 すかさず、勇儀の全身に赤い液体が巻き付くと同時に、振り払う間も無く爆発する。
 だが、苦し紛れの連続爆破など、鬼にとってはねずみ花火程度のものらしい。
 勇儀は宙に浮いた体勢のまま体を大きく捻り、地面に向けて剛腕の拳をぶつけた。
 すると地面が大きくひび割れ、岩盤が抉られて周囲一帯の地形が凸凹に変わる。
 ……それが誤算だった。勇儀の視界が岩盤の欠片と土煙に奪われている間に、
 黄鬼羅羅は他の4人の退路を確保し、地面から体が抜けた黄鬼喫姫は黄鬼一発により、
 安全な場所へ避難させられていた。
 気を失っている黄鬼戒もまた、黄鬼淋によって他の場所へ運ばれている。
 その場にいたのは、黄鬼羅羅と星熊勇儀だけである。
 しかし、それも計算済みとばかりに勇儀は黄鬼羅羅の体を見付け、岩盤の隙間を縫って、
 あっという間に黄鬼羅羅の眼前に肉薄し、本体が元に戻ろうとするも間に合わず、
 無防備な体に勇儀の拳がまともに叩き込まれ、衝撃で全身の血管と内臓が破裂する。
 本体も爆破の撃ち過ぎで徐々に力が抜けて来たため、逆転の一手となりうる攻撃が全く出せず、体は瀕死の状態。
 黄鬼羅羅は怪力乱神の前に倒れ伏していた。
 その時、勇儀の目の前が真っ暗になった。
 勇儀は訳も分からず目を擦ったり、顔の周りを撫でてみたりするが、暗闇が晴れる事は無い。
 「おい……お前ら、一体何をしたんだい!?」
 勇儀の頭のまわりだけが、真っ黒な球体に包まれ全ての光を遮っていた。
 そして、あちこち拳を振り回したり足を振り回したりするが、全て空振りに終わる。
 「目晦ましのつもりかい……上等だ。この程度の小細工で鬼を倒せるとは思わない事だ!!!」
 勇儀は怒りに任せて、あたり一帯全てを弾幕の嵐の中に飲み込んだ。
 力業「大江山颪」
 巨大な球状の弾幕が物凄い密度で容赦なく降り注ぎ、凸凹になっていた旧都の地面をさらに、
 容赦なく平らになるまで削って均していく。
 もちろん、そんなものの中にいる生き物は全て、命が持つとは到底考えられない。
 (!? ……まさか……何でそんな所に……)
 勇儀は足元に違和感を覚えた。幽霊かゾンビのように冷たい何かが縋り付いているような感触。
 (しまった……いくら私が怒りに任せて力業を放ったとしても、自爆するような真似はしない。
 最小限、自分専用の安全地帯は確保する。……そこに入られた……のか……。
 これは弾幕勝負じゃない……接触してもノーミス……。今ここで中断したら、さらに隙が生まれる。
 目の前が真っ暗なままじゃ、こいつを振りほどく事も……)
 その時、勇儀の視界が突然晴れ、自分に何が起きてるのか……彼女自身にも理解できた。
 (え? ……何……しまっ)
 足元に縋り付く黄鬼一発の頭から閃光が閃き…………大爆発を起こした。
 旧都の中心街が、轟音と共に真っ白な球体に飲み込まれていく。
 そこから離れた場所に土壁で作られたシェルターがあり、中に黄鬼達4人が隠れていた。
 「きゃはは……はは……やったわ~! 大ボス撃破~☆ いっちゃん、グッジョ~ブ!」
 「自爆スイッチは、ロマンだって……科学者が言ってたわ。」
 その様子を、少し離れた場所から見つめるものがいた。

  • 火焔猫燐(地獄の輪禍) VS 黄鬼一派
 (勇儀姐さん……貴女の喧嘩にあたいがちょっかい出す謂れは無いけど、
 やっぱり、間に合わなかったのは悔しいよ……。
 姐さんからすれば、こんな汚い結果でも負けは負けに違いないんだろうけど……
 こんな勝ち方されるくらいなら、あたいは姐さんが反対しても、乱入して阻止したかった。)
 巨大爆発が収まった後、爆心地を見た者達は言葉を失った。
 旧都のど真ん中に、巨大な半球状のクレーターがポッカリ開いており、街はほぼ壊滅である。
 星熊勇儀の姿はどこにも見当たらない。
 そして、シェルターの中に隠れていた黄鬼達もほぼ満身創痍だった。
 黄鬼喫姫は全身ズタズタで生きてるのが不思議だったが、体内に黄鬼羅羅の本体である紅い液体生物を充填される事で、
 治癒力を強化されつつ、無理やり生かされているようだ。
 黄鬼淋はほぼ無傷だが、ラストワード発動のために使っていた両親の遺骨を失ったため、二度と発動できない。
 その上、体力と妖力をかなり消耗しているため、満身創痍に近い。
 黄鬼戒は、大音声で頭をシェイクされた脳の損傷と心的外傷により、戦意を喪失していた。
 今まで操っていたルーミアともう一人の妖怪も爆発に巻き込まれ、行方不明になった。
 黄鬼一発に至っては、自爆により完全に消滅した。
 そして、黄鬼羅羅は力の使い過ぎで弱体化しており、体も無理が祟りボロボロだった。
 とても、これ以上戦い続けられる状態ではない。
 彼女達の様子を見て取ったお燐は、猫車の中に積まれているルーミアともう一人の妖怪の体を物陰に隠した後、
 シェルターに隠れている敵の眼前に現れた。
 「あんた達のような腐った死体に興味は無いけれど、このまま野放しってわけにもいかないし、
 ここはあたいの手で焼却させてもらうよ。骨も残さずにね!」
 黄鬼喫姫は応戦しようとするが、体が思うように動かない。
 「ちくしょう……こんな時にまた敵だなんて……羅羅は大丈夫?」
 「う~ん……もうダメかも知んない。もう笑えないし~。ってか、何だか力が抜けるのよね~。」
 黄鬼羅羅も、もう限界の様子。
 「おや? あんた達……怨霊だったのかい。あたいは怨霊を喰らう事で力が増すのさ。
 残念だったね! あんた達の力も、多分もう喰らっちゃってると思うよ。残り少ないけど。」
 「へ~へ~へ~」
 「そうなんだー。もうダメですわこの戦い。何だか気持ちよくなってきた……」
 黄鬼喫姫達には、もはや異変を続ける力は残っていないようだった。
 魔理沙達の到着を待たずして、異変は解決するのだろうか?
 その時……
 「……え?」
 お燐の体が黄鬼喫姫のちょうど手の届く所に移動していた。本人も気付かないうちに。
 「……はい。タッチ。」
 黄鬼喫姫の手がお燐の腕を掴む。すると、そこからお燐の妖力が吸われ、能力がコピーされる。
 (え? ……なんで……?)
 お燐の足元の部分だけ、他の場所と土の色や雑草の生え方が違う。
 そして、お燐がさっきまでいた場所の地面からは雑草が無くなり、土の色が変わっていた。
 そこから少し離れた場所で、黄鬼淋が地面に手を翳しながら、お燐のほうを見ていた。
 土のゴーレム召喚の応用技、地面移動である。お燐を足場ごと移動させたのだ。
 「おや? あなたの能力……死体を持ち去る程度の能力だったのね。
 てっきり、怨霊を喰らう程度の能力かと思ってたわ。
 でも、私の力が戻って来たみたいだから、こっちのほうの能力もコピーできたのかな。
 能力は自己申告制だから、さっきあなたが私に言った能力も有効と見なされたのかも。
 死体を持ち去るほうは……うちの仲間の能力と相性良さそうね。有効利用させてもらうわ。」
 (しまった……あたいとした事が……ごめんなさい……さとり様……お空……)
 ちょうとそれに追い打ちを掛けるように、封鎖された地下洞穴のほうから、
 虫のような生物がカタツムリかナメクジのように粘液を地面に這いずらせながら、
 滑るようなスピードで黄鬼達の所にやってきた。
 黄鬼羅羅がそれを見て、楽しみにしていたプレゼントが届いた時のような笑顔を浮かべる。
 その名状し難き虫のような生物は、黄鬼羅羅の首の部分に入り込んだ後、体と一体化する。
 すると黄鬼羅羅からさっきまでの弱気なオーラが消え、人里の前で魔理沙達に見せたような禍々しいオーラを纏い、
 狂気に満ち満ちた顔となった。
 「きゃははははは!!!!! あたしあたしあたしの電波ぁ~☆ バリ3復活ぅ~!!!」
 そして、赤い粘液のようなものを手から滴らせ、そこから……黄鬼一発のスペアの頭部とスペアの体を取り出し、
 繋ぎ合わせ、まるで手品のように消えたはずの者を呼び戻した。
 さらに彼女の狂気が伝染したかのように、それまで戦意を喪失して呆然自失状態だった黄鬼戒の顔に生気が戻り、
 氷のような眼光を取り戻し、さらに狂気がプラスされる。
 そして、お燐の後ろで寝てた一人の名も無き妖怪が徐に立ち上がり、虚ろな顔のまま、
 それでいて体は生気が戻ったかのようにオーラを発し、主の傍らに戻った。
 黄鬼淋の調子も戻ったようで、体力と妖力をいつの間にか回復させていた。
 リーダーである黄鬼喫姫も、さっきの戦いで鬼の一撃に沈んで全身ズタズタになったのが嘘のように全快していた。
 その様子をまるで早送り映像のように目の前でまざまざと見せつけられたお燐は、すでに戦意を喪失していた。
 「あ……あんた達……それでも人間!? あたいの知ってる人間とは違う……反則だよ……」
 そんなお燐に対し、黄鬼羅羅は狂気の笑みを浮かべながら、意味不明な挑発を行う。
 「ただの人間……だと、思ってたのかぁ~!? あたし達はこれから妖怪より強くなるのよ。
 アセンションするのよ~!!! 星の魔人ツィツィミトルはそう予言しているわ。
 だから、あたし達は選ばれた新次元人なの!! あんたはハズレた罰として死刑ねっ!」
 両者ともに戦闘態勢に入った、その時であった。
 黄鬼一発が遠方からの熱源反応を感知し、冷淡な声で「MS(エムエス)確認8」と呟く。
 それを聞いた他の4人が一斉に退避準備に入り、後方から飛んでくる攻撃を避けた。
 (MSとは「マスタースパーク」の頭文字で、初見殺しの大型弾幕という意味の暗号。
 そして、数字は先天八卦図の方位を表す。8は八卦の8番目である「坤(北)」を意味する。
 これを前後左右の方向に当てはめた場合、後方正面を指す。
 全て黄鬼喫姫が作戦行動のために考え、黄鬼一発に学習させたのだ。)

  • 霊烏路空(熱かい悩む神の火) VS 黄鬼一派
 旧都の中心部上空、爆心地の真上に、お空がいた。
 お空は……怒っていた。物凄く怒っていた。
 「許さない……お前達……街をこんなに滅茶苦茶にして……お燐にまで酷いことするなんて……」
 黄鬼喫姫は……それを真正面から見据えていた。黄鬼羅羅は黄鬼喫姫にいくつか確認する。
 「ねぇ……キッキちゃんは、あいつをどう思う?」
 「……次元が違うわね。」
 「勝てそうかしら?」
 「……無理ね。」
 「そう……じゃあ、降参する~?」
 「……そうね。降参するわ。」
 そして、そんなやり取りの直後、黄鬼達5人は一斉に土下座をした。
 「「「「「すみませんでした。」」」」」
 突然の降参宣言と謝罪の土下座に、お空の顔には「?」が浮かぶ。
 「……へぁ?」
 そして、彼女の動きが止まった一瞬の後、お燐が大声で叫んだ。
 「お空っ!!!!! 聞いちゃダメだ!!!!! こいつらは……」
 そして次の瞬間、お燐の足元から土と氷の混じったゴーレムが召喚され、
 お燐の体を自身の中に埋め込み、ガッチリと固定してしまった。
 「あっ!! お燐!!! どうして!?」
 お空が狼狽えている間に、土下座していた5人はそれが無かった事であるかのように、
 何食わぬ顔で立ち上がり、再び目の前の相手を見据える。
 そして黄鬼戒がお燐の頭を鷲掴みにし、そのままの姿勢となる。すると……
 「あ……」
 お燐はまるで心臓を鷲掴みにでもされたかのような表情となり、そのまま固まってしまう。
 「おいっ! お燐に何するの!? 止めてよ!!」
 次の瞬間、黄鬼戒はお燐の頭から何かを引っこ抜く動作をし、お燐の目から光が消える。
 「お燐! どうしたの!? 何か言ってよ!」
 お空の呼び掛けにも全く反応せず、お燐は黙ったままである。
 「……この子から、心を頂いたわ。戻して欲しければ、代わりにあなたの心を頂戴。」
 「え!? 心……!? そんな……お燐が……」
 あまりにも残酷な目の前の出来事に、お空は泣きそうになる。
 だが……さらに追い打ちを掛けるように、黄鬼羅羅が紅い液体生物をお燐の口の中に入れる。
 すると、お燐の目に怪しい光が宿り、顔が狂気に満ちたものへと変わる。
 「お空……あたいだよ……さあ、この人達のいう事を聞くんだ。あたいは元に戻りたい。
 だから、あたいの代わりにお空の心を上げなよ。お願いだからさ。」
 お空は今にも心を押し潰されそうになっていた。その時……
 「……そこまでです。うちのペットにそれ以上の悪戯は許しませんよ。」

  • 古明地さとり(怨霊も恐れ怯む少女)
 お燐とお空の主人であるさとり妖怪の少女が現れた。
 「……もはや、何も言う事はありません。出て行ってください。……この世から。」
 ……さとりも怒っていた。本気で。
 想起「マスタースパークのようなマジックミサイル」
 想起「オーレリーズソーラーシステム」
 想起「ザ・ワールド」
 想起「客星の明るすぎる夜」
 想起「殺人ドール」
 想起「マリス砲」
 ……突然のトラウマ想起スペル6重発動に、黄鬼達5人は反撃の暇さえ与えられず……
 想起「実りやすいマスタースパーク」
 想起「ブレイジングスター」
 想起「ジャック・ザ・ルドビレ」
 想起「モーゼの奇跡」
 想起「ソウルスカルプチュア」
 想起「夢想封印」
 ……ただ避け続けるか、防御するので精一杯だった。
 想起「純度99%のファイナルヒートハートスパーク」
 想起「古明地選手の逆転サヨナラホームラン」
 想起「デフレーションワールド」
 想起「九字刺し」
 想起「トンネルエフェクト」
 想起「夢想天生」
 ……5人は自身が最も苦戦した、または嫌な思いをした、忘れたいトラウマスペルを矢継ぎ早に出され、
 あっという間に心身共に打ちのめされてしまっていた。
 「これが……妖怪です。本気で勝とうなんて千年早い。」
 丁度その時、後ろから魔理沙達一行が飛んで来る音が聞こえ、目でも確認できた。
 「……まずは、人間相手に勝てないようでは、妖怪への復讐など夢のまた夢ですよ。
 私との勝負の続きはそれからです。」
 さとりは背中を向けるが、背後から襲えるような気力や度胸は、誰一人残っていなかった。
 「あ、そうそう。もしも、勝負の最中にお燐にまたおかしな事をしたら、どうなるか……
 また体に叩き込んであげる事になりますよ。それではまた後ほど。」

 黄鬼喫姫は、さっきまでの弱気な自分を恥じた。
 勇儀に初っ端から一撃でKOされたのが響いていたようだった。
 だが、たとえ無様で見っともない邪道な戦いでも、そのおかげで血路を開く事ができたのもまた事実だった。
 (私達の……妖怪への恨みは……こんなものじゃないはず。
 霊烏路空相手に戦わずして勝とうだなんて、小手先の策に走ってしまったけど、
 さとり妖怪に阻止され、コテンパンにやられて目が覚めたわ。
 実力で勝てなければ、妖怪への復讐などできるわけがない。
 ましてや、八雲紫を倒そうなどと絵空事もいい所だわ。
 もっと力を溜めてからのほうがよかったけど、それは今だから言える事で、今更言っても遅い。
 既に回り始めてしまった運命の歯車、最後まで回し切って見せる。
 たとえその後どうなろうとも、その時はその時だわ。私達はもう……止まらない。)

 魔理沙は、半球状のクレーターがポッカリ開いている旧都だった場所を見下ろす黄鬼達を一目見て、
 強敵だと思った。
 「あいつら……パワーが半端ないな。」
 「でも……見て。あいつら、トゲトゲしさが無くなってるみたいよ。一体何があったのかしら。」
 「……どうでもいいわ。とにかく異変は退治するのみよ。」
 霊夢は、黄鬼羅羅目掛けて突っ込んで行った。
 魔理沙は……まだ一度も戦っていない黄鬼一発に向けて、マジックミサイルを放った。
 それが最終決戦・終盤戦の火蓋を切って落とした。
  • 博麗霊夢 VS 黄鬼羅羅(名状し難き紅い異変)
 霊夢は、妖怪の山の背で戦ったのが囮だったという事もあり、本体を退治しなければ終わらないと考えていた。
 そして、それは自分の役目であると直感していた。
  • 東風谷早苗 VS 黄鬼戒(魂を吸う女)&名も無き妖怪(魂を吸われた妖怪)
 魔理沙に黄鬼一発を取られてしまったため、相手を物色していた所、何か外来人っぽい雰囲気を感じたので、
 話し掛けてみようとした。
 しかし、外来人だと分かったものの、妖怪への憎しみに囚われている非常識な人間だと分かり、
 神職として見過ごすわけには行かないと考え、教育的指導(物理)を行う事にした。
  • 十六夜咲夜 VS 黄鬼淋(幼きネクロマンサー)
 同じく魔理沙に黄鬼一発を取られてしまい、相手がいなくなる。
 どういうわけか、彼女には親近感を覚えていたので、戦えなくて残念に思っていた所、
 同じように一人取り残されている子供を発見し、話し掛けてみようとした。
 幼い子供の外見なのに老人の言動と雰囲気を持ち、それでいて年相応の子供っぽさを兼ね備えている事に、
 心のどこかでときめきのようなものを覚え、戦ってみたいと思った。
  • 幼黄姫 VS 黄鬼喫姫(一人でも百人力な妖怪)
 お互い因縁のある相手らしく、幼黄姫は自ら相手を彼女に決めていた。
 魔理沙としては、一度負かした相手に拘るつもりも無かったので、何も言わなかった。
 でも、もし彼女が幼黄姫に勝って生き残ったら、次に戦うのは自分だと思っている。
  • 霧雨魔理沙&アリスの通信人形 VS 黄鬼一発(無慈悲な人間砲台)
 彼女が妖怪の山で暴れていた時に、倒しに行けなかったのが心残りだったので、
 この最後のチャンスに是非戦いたいと思い、他の人に取られる前に先制を仕掛けた。
 噂では、レーザー系のスペルが得意らしい。また、河童の技術の粋が集められてるらしく、
 光学迷彩やら色んな機能が詰め込まれているという話だ。興味が湧かないはずはない。
 修理したてのミニ八卦炉の試し撃ち相手としても申し分無かった。
+ 負けた場合
 勝った場合、魔砲「ファイナルマスタースパーク」で相手を木端微塵に破壊し、満足した後、
 次の相手を探していたら、他の敵は全滅し、リーダーは既に幼黄姫に倒されてしまっていた。
 それじゃあ、次は幼黄姫と後日戦うという事で、魔理沙の気が済んだ。
 異変は解決され、グッドエンド。

 (異変解決後)
  • 黄鬼一発
 魔理沙の手により木端微塵にされ完全消滅したと思われていたが、スペアの頭部が多数残されている事が発覚し、
 そのまま潰すのも勿体ないので何とか有効活用できないか、という話になる。
 その後、危険な武装(自爆装置含む)を外され、マイナーチェンジしたものがお手伝いロボットの頭部として流用され、
 残された首無し少女達の何人かはこの頭部を繋げて、メイドロボとして紅魔館や守矢神社などあちこちで働く事となる。
 (それじゃあ、私の活躍は一体なんだったんだ?
 他の連中を全て倒さない限り、何度でもコンティニューできるなんて、まるで雑魚妖精と変わらないじゃないか。)
  • 黄鬼羅羅
 霊夢により、異変を裏から操る危険な妖怪と見なされていたため、完膚無きまでに退治され、
 穢れが祓われた事で存在を保てなくなり、この世界から消滅する。
 未だに彼女の正体は誰にも掴めてないが、アリスが言うには、この世の存在の振りをした、
 得体の知れない何かだという事らしい。
 (アリスはまたそんな大袈裟な事を言ってるのか……幾らなんでも考え過ぎだぜ。……だよな?)
  • 黄鬼喫姫
 幼黄姫との戦いの最中、全力を出し過ぎたのか、力尽きて消滅してしまったらしい。
 その後の戦いは、残された首無し少女達が引き継いだとの事。
 しかし、彼女はバラバラになっただけで、心の断片のようなものが首無し少女達の中に散らばって、
 残っているため、完全にいなくなったわけではないらしい。
 (まるで星の欠片みたいだな。ロマンチックだぜ……)
 しかし、結果的に彼女は一個の妖怪として存在する事ができなくなったため、死んだと見なされ、
 異変のリーダーがいなくなった事で、異変解決となった。
 後の裁きなどは閻魔の仕事であり、これ以上霊夢達にできる事は何もなかった。
 そして、魔理沙は彼女と再戦できなかった事を残念がっていたが、
 彼女を倒した幼黄姫本人が一番悲しそうな顔をしているのを見て、
 これは自分が立ち入る事のできる戦いではなかったと諦め、それ以上何も言わなかった。
 魔理沙は後で、幼黄姫から彼女の事について色々聞かせて貰おうと思った。約束した勝負の後に。
  • 黄鬼戒
 早苗の教育的指導(物理)により、自分の間違いに気付いた彼女は、妖怪への憎しみから解放された事で、
 現世への未練が断たれ、そのまま魂だけ成仏してしまった。
 抜け殻となった彼女は早苗の手で永遠亭へ運ばれ蘇生治療を受けた後、奇跡的に息を吹き返す。
 生き返った彼女は人が変わったように心優しい少女へ変貌し、能力を失う。
 その後、永遠亭で働く事となり、幼黄姫の妹分に収まる事となった。
 彼女に心を抜かれていた妖怪達は幼黄姫の手により、生きている者だけ全て元通りになった。
 既に死んでしまった者に関しては、魂を見付けるしか元に戻す方法は無いらしく、現状打つ手なしとの事。
  • 戒に操られていた妖怪達
 お燐は、心を抜かれている間に赤い液体生物に乗っ取られ、
 お空を追いつめるような言葉を口にしてしまった事を覚えていたため、
 トラウマで衰弱し、しばらく寝込む事となる。
 ルーミアは、操られている間の事は全く覚えておらず、ダメージも全快したため、後遺症も残らず、
 以前と変わらず元気なままである。霊夢曰く、馬鹿は風邪引かないとの事。
 レティは、操られている時間が短かったのと、ある程度古い妖怪だったため、心の傷は残らなかった。
 そして、自分のために怒って敵と戦ってくれたチルノに感謝していた。
 そして……かなり前に心を抜かれ、黄鬼戒の右腕のように扱き使われていた名も無き妖怪は、
 黄鬼戒が妖怪化する前の姿である外来人を食い殺した事、黄鬼戒からその事で恨まれていた事、
 復讐という名目で扱き使われた事を、ほとんど全て覚えていた。
 今は、人間を襲うという自らの妖怪としての本分を恨まれ、その報いとして、
 自分の命そのものが誰かの操り人形として、作り変えられてしまったという現実を目の前にして、
 自らの存在意義が分からなくなり、……自殺を考えていた。
 妖怪は精神的な生命体である。精神が壊れてしまえば、元より死んだも同然である。
 彼女は、心を抜かれてから操られている時間があまりにも長すぎたため、
 もはや、自分の意思で妖怪らしく生きる妖怪とは呼べなくなり、人の思いのままに操られる、
 心を持たない妖怪の体を持った人形と呼んだほうが相応しい存在に成り果てていた。
 そして操り主がいなくなった事で、誰かに操られる妖怪人形として生き続けるという在り方すらも否定されてしまったのだ。
 もはや、主に捨てられた人形そのものである。
 永遠亭で体の治療の他、カウンセリングも受けてみたが、心の整理が付かない状況のままだ。
 永琳からは、これからの長い妖怪としての一生の中で、自分の在り方を変えていけばいいというアドバイスを貰ったが、
 それで操られていた過去が消えるわけではない。
 彼女は悔しかった。食べ物だと思っていた人間ごときに自分の心を食われ、いいように操られていた事が。
 それは永遠の不覚、一生の屈辱として残り続けるだろう。
  • 黄鬼淋
 異変が失敗し、同じ元人間だった黄鬼戒が成仏して抜け殻となってしまった事で、
 彼女は生きる目的を失った上に一人ぼっちになったと感じ、後を追って死のうとする。
 しかし、咲夜に止められ、命の大切さを滔々と説かれ、孫娘の命を大事にしろと言われ、
 何とか思いとどまった。
 地底で行った破壊行為の代償として、巨大クレーターの穴埋めや整地作業を担わされ、
 建築用資材の確保や運搬などの手伝いもさせられる。もちろん全てゴーレムを使って。
 その働きぶりと、真面目な態度が認められ、唯一生き残った異変中心人物であるにも関わらず、
 地底妖怪達から許され、無事地上に帰る事ができた。
 人里では、主義者とつるんでいた事を非難されるが、理由が理由なため御咎めなしとなる。
 その後、すんなりと人里で受け入れてもらえる事となり、普通の子供と一緒に寺子屋に通う事も認められた。
 ただ、生活能力は大人と同じくらいあるので、学費と生活費は自腹である。
 最近は、ゴーレムを作る能力を活かし、ゴーレム職人として開業し、動く案山子などを売っているらしい。
  • その他の人妖
 星熊勇儀は、天蓋に張られていた蜘蛛の糸に引っ掛かっているのをヤマメに発見され、
 すぐに地霊殿に運ばれて応急処置を受けた後、永遠亭から医師が呼ばれ、後遺症が残らない程度まで回復したらしい。
 黄鬼一発が自爆する直前、視界が晴れたため、強引に足で相手を振りほどき、蹴飛ばしたおかげで、
 足に大火傷を負ったりした他は、気絶する程度で済んだとの事。
 また、視界が晴れたのが却って裏目に出たのか、強烈な光で目を焼かれ、現在失明したままである。
 このまま治療を続ければ完全に治るらしいが……。
 耳のほうは、自分の大音声で平気でいられるくらいなので、爆音程度では何とも無かったとの事。
 大好きなお酒が飲めないのは我慢できないらしく、見舞いに来てくれる萃香から、お酒を注いでもらっている。
 古明地さとりは、事前に敵の能力についての全貌を知らされていたにも関わらず、ペットが敵の手に落ち、
 傷ついてしまうという失態に、内心凹んでいた。
 あの時お燐をそのまま行かせたせいで、お空までも危険に晒した上、自ら出向く羽目となり、
 危険な能力を幾つもコピーされるリスクを冒してしまったのは、大きな反省点となった。
 勇儀との戦いの後、わざわざ動かなくても人間が到着すれば、それで解決したはずなのだ。
 怒りに任せてトラウマスペルを連発し、敵の目の前でエネルギー切れを起こしそうになったのが、
 今となってはトラウマのように、自身に恥ずかしい記憶として襲い掛かってくる。
 (何をやっているのでしょう……まったく、駄目ですね。)
 その後、妹のこいしから、連中を目撃していた事を聞かされ、何も(報告すら)しなかった事に腹を立てるが、
 そのおかげで妹に危険が及ばなかった事に思い至り、怒る気も失せた。
 お空は、自分が異変の犯人達による土下座にまんまと騙され、攻撃態勢を緩めたせいで、
 お燐が危険な目に遭わされたと思い、人間の嘘に対し警戒するようになり、人間不信に陥った。
 しかし寝込んでいるお燐から、狡い人間ばかりじゃないと聞かされ、魔理沙達のような明るい人間もいる事を思い出し、
 徐々にではあるが、トラウマを克服しつつある。
 ルナチャイルドは、黄鬼達の監禁から逃れた後、眠っているところを仲間の妖精達に救助され事なきを得る。
 縛られている間、黄鬼戒から好き放題されると思っていたが、彼女自身からは何もされず何も言われる事も無かった。
 目すら合わせず、口すらも利いてもらえなかったが。
 見るのも嫌だったらしく、必要な事だけをルーミアの口から聞かされるのみだった。
 相手が異変を起こしている真っ最中で、自分を監禁した犯人の一味だったという事もあり、
 仲直りするチャンスはとうとう訪れる事は無かった。
 異変解決後、黄鬼戒が目を覚ましたと聞き、一度会って話してみたが、まるで別人にでもすり替わったかのように、
 過去の非礼を詫びられ、彼女はもういない事を悟った。
 それからは、黄鬼戒を顔と名前が一緒なだけの別人と見なすようになり、興味を失くす。
 今でも、人里のカフェで火傷するくらい熱々のコーヒーを飲む人を見かける度、彼女の事を思い出しているらしい。


ストーリー(EXTRA)

 異変が解決してから月日が流れていた。
 黄鬼淋が地底の修復作業を終えてからようやく帰還を許され、今では人里のゴーレム職人として評判となっており、
 黄鬼戒は永遠亭での仕事も板に付いてきた。
 キノコ人間騒動とか、スズラン畑でのゾンビ徘徊事件とか、幼黄姫が霊夢に喧嘩売った話とか、
 色々な事があったが、一つだけ未解決の事案が残っている。
 それを片付けるため、魔理沙は約束の場所へ向かっていた。
 ※待ち合わせ時間まで残り30分

 (出発点:魔法の森)
 ※0分経過
 そう、約束していた決闘の場所と日時がようやく決まり、先方から手紙が届いたのだ。
 (……しかし、何だってあんな所を決闘場所に選んだんだ?
 そりゃ、それなりに広いし、人目に付かない辺鄙な所だから誰にも邪魔されず存分に戦えるが、
 視界が悪い上に空も狭く感じるから、私はあんまり好きじゃないんだぜ。それに……)
 魔理沙には気になる事が余計に増えた。
 (……どうしてあいつが、あの場所を知ってるんだ?)

 (中間地点1:妖怪の山)
 ※5分経過
  • VS 鬼人正邪(逆襲のあまのじゃく)
 (……またお前か。今度は何の邪魔だ。私は忙しいんだぜ。)
 「やあ。しばらくぶり。」
 「……何なんだぜ?」
 「今日は、個人的な用事でね。」
 「私も、個人的な用事でお前に構ってる暇は無いんだがな。
 ……って、この前のは個人的じゃなかったのか。」
 「うるさい。そこは触れるな。……今日こそは純粋に楽しみたいんだ。」
 「私も、純粋に楽しみたいからな。そこをどいてくれ。」
 「嫌だねっ! この鬼人正邪が最も好きな事のひとつは、自分で強いと思ってるやつにノーと断ってやる事だ。」
 勝利条件:10分以内に鬼人正邪を撃破する。10分経過した時点で自動敗北。
+ 負けた場合
 勝った場合、勝負に掛かった時間に応じて、目的地への到着が遅れる。
 5分以内に勝った場合:遅れ時間+0分
 10分以内に勝った場合:遅れ時間+5分

 (中間地点2:妖怪の山の背・首無塚神社)
 ※15分経過
 豚舎が無くなった跡には、神社が建っていた。
 (……守矢か?)
 そこに、竹箒を持った……首の無い巫女がいた。
 「うわぁ!? 巫女のお化け!!!」
 魔理沙は思わず悲鳴を上げてしまい、そのまま引き返そうとする。
 が、箒を掴まれ、逃げられない! そして、背後からくぐもった声で囁きかけてくる。
 「拝観料……二千円……外のお札は禁止で。」
 「そ、そんなに取るのかよ……チラ見しただけなのに、ぼったくり過ぎるぞ。」
 「ここは高級路線なのよ。神社に首無の実物って豪勢だと思わない?」
 「高級素材でも合食禁は体に悪いぜ……」
 「そうそう。この先の道路は通行料一万円よ。通る人いないけど。」
 「おお、そうだった。そこを通してくれ。」
 「何よ。逃げたり向かって来たりで忙しいわね。」
 「私は忙しいんだぜ。人気者だからな。」
 「……締めて一万二千円也。」
 「博麗神社にツケといてくれ。私も巫女なんだ。箒持ってるしな。」
 「お前のような巫女がいるか!」
 勝利条件:10分以内に首無し巫女を撃破する。10分経過した時点で自動敗北。
+ 負けた場合
 5分以内に勝った場合:遅れ時間+0分
 10分以内に勝った場合:遅れ時間+5分

 (目的地:妖怪の山の背・異界の門)
 ※30分経過
 この時点で、経過時間+遅れ時間の合計が実際の経過時間となり、残り時間をオーバーしていた場合、
 待ち合わせ時間に遅れます。
 実際の遅れ時間=実際の経過時間-残り時間=(経過時間+遅れ時間)-残り時間
 (これは後々勝負に影響する。)

+ 実際の遅れ時間が0分の場合
+ 実際の遅れ時間が5分の場合
+ 実際の遅れ時間が10分以上の場合
 ※決闘残り時間:30分-実際の遅れ時間
 勝利条件:決闘残り時間以内に全てのスペルを終了する。
+ 全スペル終了前に負けた場合
+ 決闘残り時間が0になった場合
 決闘残り時間が5分を切る前に全スペル終了した場合、ラストワード発動。
 全スペル(+ラストワード)終了時点で、勝利。トゥルーエンド。
 (ここから、読み飛ばし可)
 魔理沙:「……大丈夫か?」
 幼黄姫:「ん……はい……何とか……」
 魔理沙:「ゆっくり話ができるような感じじゃないな。また今度にするか。」
 幼黄姫:「……今日、ここに呼び出したのには、理由があるんです。」
 魔理沙:「ん?」
 幼黄姫:「それは…………」
 魔理沙:「どうした?」
 ここで、幼黄姫は付け耳を外す。
 幼黄姫:「……何でもありません。それじゃあ続けましょうか……」
 魔理沙:「? ……ああ。」
 幼黄姫は、言いづらそうに切り出した。
 「魔理沙さんは、その……最初に私を一目見て、どう思いましたか?」
 「どう……って……」
 「率直に言って貰って結構です。これから何でも話すんですから、少々の事では気にしませんよ。
 これでも自分を客観視できてるつもりです。」
 「そうか……」
 魔理沙は、最初は言い出せなかったが、何だか今は言えるような気がした。
 「すまん……最初は男じゃないかと思ってた。気を悪くしないでくれ。」
 その言葉に、幼黄姫は無意識のうちに悲しそうに目を潤ませた。
 (あれ……? 何で……自分でも分かってるし、言われて当然の事なのに……)
 「どうした? やっぱりまずかったか? ごめん……」
 「……い……い、いいえぇっ! 気にしてないんですよ! 慣れてますからっ!」
 幼黄姫はあわてて取り繕うが、どうも滑舌が回らなくなってる。
 (あ……そうか……私が嫌がってる…………ごめん。でも、知って貰わなきゃ……
 私は、魔理沙さんに一生隠し事し続ける……本当の友達になれないから……
 ごめん。本当にごめん。でも、私の……首に付いてるのは……そういうのだから。
 いい加減、自覚してよ……自分を客観視できないと……何も始まらないじゃない。)
 幼黄姫の様子がおかしい。一人で考え込んでいるようなので、魔理沙が呼び掛ける。
 「おい……どうした?」
 すると、幼黄姫の考えがまとまったのか、スッキリした表情となり、魔理沙のほうをまっすぐと見据える。
 (うおっ……やっぱり、男みたいな目だな……一瞬見とれちまった……)
 「魔理沙さん……人の中心って、どこにあると思いますか?」
 いきなりの予想外の質問に、魔理沙は一瞬呆気に取られる。
 「へ……えっ? 中心?」
 「はい。脳か、心臓か、体か、それとも魂か……」
 「それは……魂かな。体や臓器があっても、それが無いと人にはなれないからな。」
 「……そうですね。半分くらい正解だと思います。」
 「半分? じゃあ、まだ何かあるのか?」
 「……人は考える葦であると、偉い人が言ってました。我考える故に我ありと。」
 「まあ……な。」
 「例えば、一つの体に魂が2つある人間がいたとすると、その人はどこで物を考えるんでしょう?」
 「頭……だろ? だよな。」
 「では、その人はどっちの魂を自分だと感じるんでしょうね。」
 「……どっちなんだろうな。……話がよく見えないぜ。」
 「……そうですね。話が抽象的過ぎました。今のは私の実体験に基づく話なんです。」
 「実体験?」
 「……私の首から下には、少女の魂が入ってます。そして、首から上には、ある人間の魂が入ってます。」
 「えっ……」
 「私は、どっちか自分の魂なのか、よく分かりません。最初は、首から上が自分なのだと思ってました。
 でも、どうやらそうじゃないみたいで……」
 「つまり……どういう事なんだぜ?」
 「私は……生まれた時から、ある事情で首から上の無い首無し人間にされてしまい、そのまま生きてきました。」
 「首無し人間? それって……」
 「はい。黄鬼達と一緒です。あの子達と同じ境遇で、体のみで、生かされてきたんです。」
 「そう……なのか……」
 「と言っても、ただの首無し人間なので、妖怪変化みたく自分で物を考えて話す事などできません。
 頭が無いんですから、私は私じゃなかった。それに、どうやら魂も抜けていたらしく、空っぽの抜け殻で、
 ただ生きているだけの血肉の塊だったんです……」
 「……それで? まだ続きがあるんだろ? 今のお前には頭があるんだからな。」
 「はい。そんな私が、ある事故に巻き込まれて、山中で倒れていたそうなんです。
 それは、出荷中の事故らしく、ここへ続く道路を車で走っている時、落雷に遭ったと聞いています。
 それで、私は助かったのですが……
 そのまま行き倒れて餓死する所を、山中に一人で住むある人間が偶然見付けて拾ったんです。」
 「……でも、その時のお前は首無しだったんだろ? 随分物好きな奴もいたもんだな。」
 「ほっといてください……その人は、なぜか見捨てられなかっただけなんです。理由はよく分かりませんが……」
 (ん? 何だ、その言い方は。まるで……)
 「その人は私を担いで家まで運んだあと、冷静になり、首も無いのに生きてる人間がいるわけがない、
 と恐ろしくなって、私を妖怪変化か何かだと思い、しばらく怯えてたんです。」
 「ははっ……何だそれ……抜けてる奴だな~」
 「それから、私の機嫌を損ねないようにして、介抱した後帰ってもらうつもりでいたんです。
 ですが、私は頭が無かったので、自分では何もできず……その……色々と粗相を重ねてしまい……
 彼は、そんな私のお世話をしようとしたところ、私の首に植え付けられていた体調管理用の小さな虫が騒ぎ始めて、
 私は彼の首を凄い力で絞めてしまったんです。
 自分の意思じゃないので、何かそうさせたのか……未だに分かりませんが。」
 (それって、虫が動かしたんじゃないのか?
 アリスも言ってたけど、別の生き物同士を繋げて動かすキメラとか、フレッシュゴーレムとかいうのがあるらしいし……)
 「それから、彼は命の危険を感じて、私を思いっ切り振りほどいて、壁にぶつけたんです。
 そしたら、私は痛みか何かで動けなくなって、震えていたそうです。」
 「そうか……女子供相手に暴力は酷いが……妖怪相手に身を守るためなら仕方無いかもな。」
 「ええ……その私の様子を見て、彼はようやく、私が妖怪ではなく、首の無いただの人間だと分かったようで、
 すごく……反省して、それからは、その……親身になって、私のお世話をしてくれたんです。」
 「そうか……そいつはいい奴だったんだな。お前、運がよかったな。」
 「…………それから、しばらくして、……彼は突然胸が痛み出し、倒れたんです。」
 「えっ」
 「そこからは、後で聞いた話なんですが、彼の家は山崩れの下敷きになり、中から……
 遺体で発見されました。」
 「なにそれひどい」
 「彼の遺体と、一緒にいた私の体は、山岳救助隊に中から運び出されて、永遠亭に運ばれたんです。」
 「あー……あそこね……」
 「彼の体は、生存が絶望的なくらい、見るも無残にバラバラになっていたそうで、顔も原型を留めておらず、
 永遠亭の医師は、あれを私の頭と間違えて、蘇生手術を行ったんです。……本人はそう言ってましたが……」
 「……で、もしかして、彼ってお前の事だったのか?」
 「……はい。」
 「そうか……お前男だったのか……どうりで……」
 「……魔理沙さん。今、私が頭でなく体の視点で話した意味が分かりますか?」
 「ん? どういう事なんだぜ?」
 「確かに、人間は頭で考えます。ですから、頭がその人自身を決めると言っていいのかも知れません。」
 「まあそうなるな。」
 「ですが、いくら頭が男でも、私は男にはなれません。声も、姿形も、仕草も、立場も、女なんです。」
 「それもそうかもな。」
 「……私は、幼黄姫という女です。首から上は、男の人から貰いましたが、その人には決してなれません。
 私の生き方も、運命も、宿命も、全て、体のものです。それに……」
 「それに?」
 「私には、元々体のものだった女の子の魂が宿ってます。頭には頭の魂が宿ってますけど。
 私は……一体どっちなんでしょうね。」
 「それがさっきの話と繋がるのか……そうだな~……魂って混ざるのかな?」
 「!!」
 「……もし、その人のものではない魂が体に入れば、それは憑依現象だぜ? 霊媒師に祓われちまう。
 お前の体は、首の無い女の子のものでも、頭だけの男のものでもない。お前だけのものだ。
 だから、魂も2つ混ざり合って、お前自身になってると考えられるんじゃないか?
 だってそうだろ? 体が一つながりなのに、魂だけが綺麗に分かれてるなんておかしいじゃないか。」
 「……」
 「私……何か変な事言ったか?」
 「いいえ……そう……ですね……私は私ですよね。」
 「面白そうな話してるわね。私も混ぜてよ。」
  • 八雲紫(スキマ妖怪)
 「うおっ!!!」
 「何よ。そんなに驚かなくてもいいじゃない。」
 「そんな所から出たら、誰だって驚くぜ。私だって驚く。」
 「ふふ。そうねぇ……魔理沙、あんたいい事言うじゃない。綺麗に分かれてるなんておかしいって。」
 「? それがどうした?」
 「綺麗に分かれてるなんてあり得ないわ。綺麗に混ざり合ってるのと綺麗に分かれてるのが、
 綺麗に分かれてるわけないじゃないの。その子の体だって、そうなんだから。魂だってそうよ。」
 (相変わらず、綺麗にまとめた話を綺麗じゃなく混ぜっ返すのが得意な●●●だな。)
 「……三毛猫みたいな、モザイクと言ったほうが分かりやすいわね。
 ……本当はそんなに不恰好じゃないけど。」
 「どういう事なんだぜ?」
 「その子の体……と魂は……プディングケーキみたいなものなのよ。
 スポンジとプディングの層が綺麗に分かれてるわけじゃないけど、完全に混ざってはいない。」
 「ああ、やっと分かったぜ。」
 「それに、徐々にではあるけど、男の部分が内面に秘められつつあるわね。
 そして、男の中にある女らしさの部分が、体によって外面に押し出されつつある。
 だから、そのうち、芯に男らしさを持った、女らしい女になるでしょうね。」
 「つまり……私は……このまま、普通の女の子になれるんですね。」
 「ん~……普通の基準にもよるけど……そうねぇ~……何が起こるか分からないから、
 はっきりとは言えないけど……女として生きていく分には不自由しないと思うわよ。ただ……」
 「?」
 「あなたはどうあがいても、男だった記憶と過去を持つ事に変わりはないわ。
 だから、宿命や、運命は、女のものだけではないと、覚悟しておいてね。
 あなたの男としての人生は、まだ終わってないわ。」
 「!!!」
 (ん……幼黄姫の顔つきが変わった……?)
 「それは、これからのあなた次第よ。
 選択次第では、あなたは大変不自由な男としての人生に戻らなくてはならなくなるかもね。」
 「私の……人生は、幼黄姫のものだけです。あの人の人生はもう、終わりました……。
 この記憶も、過去も、貰っただけです。私は、私として生きていくだけです。」
 「そう……でも、記憶を、過去を持つというのは、宿命を背負うという事よ。
 今のあなただって、宿命に追われてるじゃない。
 そのせいで、今のあなたとしての道を誤りかねないほどに。」
 (記憶は……宿命? ああ……そうか……私……まだ、幼黄姫になりきれてなかったんだ。
 だから、あの人の墓参りを……知られたくなくて……)
 「ん~……まあ……どうするかはあなたが決めればいい事よ。
 男としての人生を終わらせ、女に生まれ変わるか、それとも、女でありながら、
 男としての人生に引き戻されるか……どっちつかずというのは長続きしないものなのよ。
 いつかは白黒付ける時が来ると思うわ。それまでに、覚悟を固めておきなさい。
 ただ、流されるのは……辛いわよ。一度でいいから、自分のために選択しなさい。
 あなたは、あなたの人生の主役なのだから。」
 「……そうですね……分かりました。」

 長々と話し込んだせいで、気付いた時には周りが大分暗くなっていた。
 山の陰になっているせいでよく見えないが、幻想郷は夕焼けに包まれているだろう。
 その時、幼黄姫の後ろには、目を真っ赤に光らせた兎耳の少女が仁王立ちしていた。
 魔理沙がそれに気付き、ゆっくりと後ずさる。スキマもいつの間にか消えていた。
 「くぉら!!!」
 ゴツン!! 鈴仙の拳骨が幼黄姫の脳天にクリーンヒットした。
 「きゃん!」
 「こんなとこで、通信にも出ず、いつまで油売ってるかと思って来てみれば……
 ホント信じられないわ……あんたがサボるなんて……ところで、魔理……」
 「アリーヴェデルチ!」
 魔理沙はかっこよくポーズを決めた後、一瞬でどこかへ飛んで行った。
 「あんにゃろ……」

 「いやー今日は面白い話が色々と聞けて、とても満足したぜ。
 全部聞けたわけじゃないけど、分からない事の一つや二つくらいあったほうが面白いし、
 全部分かったら飽きてしまうからな。これからゆっくり聞けばいいし。
 あいつの弾幕も興味あるしな。また勝負しようかな。」
 トゥルーエンド。