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673 名前: リリーなみさまも  投稿日: 02/03/26 21:32 ID:593PonY1
    無謀にも挑んでみました。

    高校の卒業式を明日に控えた冬の日。
    式が終わったら、その足で岬はフランスに再び渡るつもりでいた。
    そのことは誰にも伝えていない。いつものこと。
    気付かれないようにそっと、いなくなる。そんな別れ方が岬は好きだった。
    否、好きと言うよりもそれしか知らなかった。笑顔でさよならなんか言えない。
    二月も今日で終わりだが、まだ吐く息は白い。
    この街から、あたりまえのように見える富士山も見事に山裾まで雪で真っ白だ。
    季節が何度も移り変わる程、一つの街に留まったことは今まで無かった。
    ふと、冷たい何かが柔らかく頬を掠めた。
    (風花・・・?)
    静岡では雪はほとんど降らない。
    灰色の空から踊るように落ちてくるそれを、岬はいつまでも見つめていた。

                      



674 名前: リリーなみさまも2 投稿日: 02/03/26 21:50 ID:593PonY1
    岬が買い物から戻ると、部屋の扉の前で井沢がたたずんでいた。厚手のコートの前をきっちり合わせて
    マフラーを鼻の所までぐるぐるにまいている。寒がりな彼らしかった。
     「借りていた本を返しにきたんだ。遅くなってごめん。」
     「いつからそこにいたのさ?」
    井沢の髪は少し濡れていた。さわると、ひどく冷たい。さっき降った風花のせいだと小さな声でつぶやいた。
     「本なんて学校で返してくれればよかったのに。」
    急いで部屋の暖房全てにスイッチを入れて、大きなタオルで乱暴気味に頭をこすってやった。
    時々思っていたことだが、井沢には妙に子供っぽいところがある。
    今日にみたいに、約束もなしに寒空の下、長時間人を待つとか。ちょっと考えて、本屋やコンビニで
    時間を潰そうとか 思い付かなかったんだろうか?
     「今日じゃなきゃ駄目なんだ。いっちゃうんだろ、明日。」
     「なんで知ってるの?」
    髪を乾かしてやっていた指の動きが止まった。誰にも言ってないはずなのに。スケッチ旅行から
    明日帰ってくる父親しか知らないはずだった。
     「なんとなく、そんな気がしただけ。ホントなんだな。」
     (変なところでカンが良い・・・。)
     「3年も一緒にいたんだから、少し位考えてることわかるさ。」
    少し怒ったふうにそう言った。それは、かなり小さな声だったが。




675 名前: リリーなみさまも3 投稿日: 02/03/26 22:07 ID:593PonY1
    改行とちってスマソ。
    岬の部屋はテーブルもカーテンもそのままで、とても明日出て行くようには見えなかった。
    ただ、トランクがひとつだけ隅に置いてあること以外は。
    旅慣れている岬らしく、荷作りは簡単なものだった。
    「荷物それだけ?」
    「父さんは日本に残るから。なんでも持っていくわけにはいかないんだ。」
    岬にしては珍しく歯切れの悪い物言いだった。なんだか言い訳をしているようだと自分でも思った。

    借りていた本は、きちんと背の高さをそろえて片付けられている本棚に戻っていた。
    外国のミステリー。正直、話の内容よりも熱心に薦める岬の姿の方が印象に残っている。
    普段は割と淡白なタイプなのに。意外な一面をその時知った。
    ハードカバーの本の背表紙を指でなぞりながら、井沢はそんなことを思い出していた。
     「置いていくモノが多いんだな。・・・、俺もこの本と一緒?」
     「そんなこと・・・!」
    弾かれるように顔を上げ、そんなことないと言いかけて口を噤む。
    事実はその通りだったから。


676 名前: リリーなみさまも4 投稿日: 02/03/26 22:14 ID:593PonY1
    「ごめん、つまらないこと言って。」
    井沢は淋しそうに少し笑って、目を伏せた。本当につまらないことを言ってしまった。
    これから、世界を目指そうとする岬に水をさしてしまった。
    大切な人たちが、旅立っていくのは慣れているはずだった。若林や翼が
    いなくなる時も笑って見送ることができたはずなのに。
    サッカーを続けていれば、道は交わると分かっていても常に喪失感はつきまとう。
    再会するたびに広がりを感じる、距離感や技術の差は井沢を苦しめた。
    握りしめた拳が小刻みに震えている。岬はそっと自分の手をそれに重ねた。
    手のひらの温もりが、長い時間で積り溜まった井沢の思いをゆっくりと
    溶かしてゆく。それは涙になって頬を伝い、再び岬の手の甲に染みていった。

678 名前: リリーなみさまも5  投稿日: 02/03/26 22:55 ID:1DUSpAaO
    「井沢、こっちむいて。」
    両手で顔を包み込み顔を上げ、こぼれる涙を指で拭う。
    泣かないで、とは言えなかった。
    きつく噛み締められ、うっ血した井沢の唇は赤い果実の様だ。
    指先で輪郭をなぞり、熟れたそれに岬は唇を重ねた。

    井沢は自分の為に泣いてくれているのだろうか?
    自惚れてもいいのかな。
    感情を素直にぶつけてくる井沢がとても愛おしくて、少し羨ましい。
    自分はずいぶん長く、そんなこと忘れていたから。

    触れるだけのキスを何度も繰り返している内に、お互いの躯が熱を帯びてゆくのが
    唇を通じてわかる。
    やがて、深く差し込まれた舌の動きに呼吸は乱れ、思考は少しづつ奪われてゆく。
    岬のシャツをきつく握り、遠のいてゆく意識に縋った。
    白くなる程強く握りしめられた指は、やがて岬に戒めを解かれ絡めあう。そしてお互い
    床に崩れ落ちた。

687 名前: リリーなみさまも6  投稿日: 02/03/27 20:44 ID:c+2GtWv5
    ストーブの上のやかんが、しゅんしゅんと湯気をたてる音が部屋に響く。
    井沢の細い腰をかき抱き、胸の突起を口に含む。
    「んっ、ん・・・。」
    長身ではあるが逞しいとは言い難い躯。
    栄養が全部、縦方向にいってしまうんだといつか嘆いていた。
    喉が灼けるように熱い。カラカラだった。
    目の縁を紅く染めて、吐息を漏らす井沢が欲しくて堪らない。

    岬の指と舌は確実に、井沢を高みへと誘ってゆく。
    自分の躯をを蝕んでゆく熱に追い立てられるように井沢を責める。
    脚を大きく開かせ肩に掛けると、勃ちあがり先端を濡らす先走りの露を
    わざと大きな音をたてて、吸い上げた。
     「ああっ!・・・。んっ。」
    生暖かい感触と強烈な刺激に、たまらず井沢は岬の口の中に精を吐き出してしまった。
     「ごっごめん、俺・・・。」
    無言で井沢が放った物を飲み下し、口の端から溢れる雫をを無造作にシャツの袖で拭った。
     「いいんだ。ボクがこうしたかったから。」
    謝らないで、と言うように井沢の唇に自分の人さし指を押し当てた。
    岬の躯は自分以上に熱く張り詰めているというのに。こんな時にまで優しくされるのは
    なんだか切ない。身体を起こして両腕を背中に回す。そして、早口で耳許に囁いた。
     「岬、好きにして構わないから。」

692 名前: リリーなみさまも7  投稿日: 02/03/28 02:16 ID:JeG0hLhI
    岬は湿らせた指で井沢の後ろを少しづつ広げてゆく。抜き差しする指が1本から2本に
    増やされ、中をかき回される。一度は果てたはずの欲望がさらに強い刺激を求め、鎌首を
    擡げるのには時間は掛からなかった。
     「力抜かなきゃダメだよ、井沢。」
    岬の声もどこか遠くから聞こえる。指先から与えられる快感だけを追い、淫らに腰が震えた。
     「も、もう入れて、岬。」
    食いちぎらんばかりに喰わえていた指を抜くと、新たな蹂躙を求め妖しくひくついた。
    井沢の脚を高く持ち上げ、自分の昂りをそこにあてがい体重をかけて身を沈めてゆく。
    自分の躯が熱いのか、井沢の中が熱いのか、繋がったままでは分からない。
    きつく締めつけられ、内壁が先端を擦りあげる。そして欲するままに、何度も激しく
    突き上げた。



693 名前: リリーなみさまもラスト 投稿日: 02/03/28 02:35 ID:JeG0hLhI
    疲れ果てて寝息をたてる井沢の瞼に、岬はそっと口付けた。
       「う・・・ん。」
    小さく寝返りを打つ井沢の唇が微かに動き、声にならない言葉を紡いだ。
      「オイテイカナイデ・・・。」
    井沢はこの言葉をどんな場面で何度飲みこんだのだろう?
    その度、どんな想いを胸にしまいこんだのだろうか?
    岬はそれを考えると切なくなった。
    自分が街を去っても、昨日まで友達だった人達の日常は何も変わらない。
    朝が来て夜が来て、季節が変わって、いつか忘れられる。
    いつまでも思い出にしがみついているのは自分だけだと思っていた。
    だから井沢の傷に触れた時、癒された気がした。
    井沢も同じなら良いと思う。そう思うのはエゴだろうか?
    だから祈らずにはいられない。彼がこれ以上、傷付かないように、
    せめて、夜は辛い夢を見ないように。
     「一緒に行きたいよ。」
    囁いても、井沢には聞こえない。
    岬は明日、日本を発つ。