737 名前: 風と木の名無しさん 投稿日: 02/08/24 10:26 ID:FNiGZ+7B
体育用具倉庫の片隅、浦辺反次は埃まみれのマットの上に寝転がったまま、
岸田猛の肩を抱いた。
「さっきはいきなりあんなことして、悪かった」
「いや、俺もびっくりして暴れたけど……」
岸田は乱れたシャツを胸元でかき寄せながら、瞼を閉じた。
倉庫の外では何も知らないチームメイト達が、練習に励む声がする。
性急な行為。自分の衝動が押さえきれなかった浦辺は、心地よい疲労感と
後悔の淵に沈みながら、岸田の長い前髪を梳いた。
「反次って、呼んでもいい?」
「ああ……俺も、猛って呼ぶからよ」
「部活んときは普通で」
「ったりめえだろが」
「そろそろ戻ろう。皆にサボりとか思われたら、シャクだ」
岸田はマットの上に起きあがり、身支度を整える。
その背中に、つい先刻までの痴態をなぞらせてしまい、浦辺は頬が熱くなるのを感じた。
「一緒にいったらやべえかな」
「じゃ、反次先に行きな。俺、先生に捕まって手伝いしてたとかいうから」
さらりと名前で呼ばれ、また浦辺は顔を火照らせる。バタバタ慌ただしく服を着る。
「そん、そんじゃ。あの、あの、猛」
浦辺は喉に詰まった言葉を押し出すべく、咳払いをした。
「いいかげんな気持ちで、あんな事したんじゃねえから。ずっと好きだった」
岸田はクスリと笑い、浦辺の眉間の傷に軽く口づける。
「知ってた」
「なんだ……そうならそうと、とっとと言え!」
照れて支離滅裂な事を口走りながら、浦辺は体育倉庫を後にする。
一度だけ扉の手前で振り返った。
高い位置にある小さな窓から日光が差し込んできていて、岸田の艶やかな髪を照らす。
(……綺麗だよ、猛)
荒っぽい仕草で岸田に手を振り、浦辺は外に出た。
そして恋の余韻を振り切るように大きく伸びをして、グラウンドに走り出した。
最終更新:2009年05月02日 10:46