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第6話 放課後の教室


受験を控えた3年生の教室のはずだが、そんなことはお構いなしの賑わいだ。

「にしても昨日は惜しかったよなァ~」

羽鳥タンサンがそう言いながらミキオの前の座席に座り鞄をあける。
中には教科書の代わりに漫画本数冊とカード、携帯ゲーム機などが覗く。
それを見てため息をつきながら、栗田ミキオは「そうか?全然だったろ、アレ」と答えた。

”まだまだね”

前日の対戦後の姐さんの台詞を思い出しながらミキオは唸った。
結局、あのターンに切り開く力で新たなユニットのプレイを阻害され攻めきれず、返しで負けてしまったのであった。

「デッキ持ってきてるか?」

羽鳥は意気揚々と自分のデッキを取り出した。
週末の大会に向けて特訓!とでも言いたそうだ。
「おう」と返しながら、ミキオも自分のデッキケースを取り出す。

「ミキオー☆ケッコンしよー」

ミキオたちがカードをシャッフルし始めたときに、教室の反対側から女の子が走ってくる。
真っ黒な髪をピンクのリボンでポニーテールに纏めた、背の小さい子だ。
彼女の名前は射勢ナツキ。近頃のミキオの頭痛の種である。

「…っ」

ミキオはカードを10シャッフルする手を止め、眉間にしわを寄せて彼女を睨む。
ナツキはミキオの反応などお構いなしに、彼の肩に抱きついた。

「タンちゃん、ウチのミキオは最近どう?調子いい?」

ナツキはそう言って、羽鳥にグイと顔を近づける。
リボンの端がミキオの首元で踊り、それでついにミキオは怒った。

「お前このゲームのルールわかんねぇだろ!」

一瞬の静寂。
教室にいた生徒の何人かも「またか」という目で彼らのほうを見た。

「あーゴメンゴメン☆くすぐったかったね」
「いいなーミキオちゃんは。ナッちゃんみたいな彼女いてさー」

取り巻く二人は口々にそう言って、ミキオをなだめた(?)。
「ちゃかすなアホ!」と言い、ミキオは肩からナツキの手を剥がす。
彼女は「えー」と小さく抗議しつつも、隣の席に移った。

「ワリー。さ、勝負だぜ」

デッキを切り終えた羽鳥は、ミキオの手元を指す。
ゴッドガンダムがプリントされた黄色いスリーブは、未だ10の束に分けられたままだった。

「ナツキ、お前もう帰れよ」
「いーや」

ミキオはカードをまとめながら、隣で熱っぽい視線を送ってくるナツキに言った。
ナツキは斜め上を見て、何か考えるような顔をした後、閃いたようにポンと手を叩く。

「…あ、そうだ☆」

悪戯っ子のような彼女の微笑みに、ミキオは背筋が冷たくなるのを感じた。
頼むからこのまま黙って帰ってくれ、と。
だがそうはならなかった。なるわけもなかった。

「ウチにも教えてよ!ガンダムウォー」

ナツキはそう言って、再びミキオの肩に抱きついた。




初出:mixi (12月23日掲載分)