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引越しを巡る顛末

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reki-kita

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「みんなで暮らしているから、家もちょっと狭くなりましたね。」
 松岡の台詞から全てが始まった。
「そうですね。確かに、夏の残りのそうめんで圧迫されてますし、新しいダイエットマシーンも欲しいし。」
「松岡の兄貴が本をまた買ってくるし。」
「戸田の兄さんだって、虻とロニックとか、なんだけ、あのわんもあせ、って奴とか、
 筋肉増量マシンを集めてるじゃないか。」
「駄菓子ばっか食ってるお前に言われたくない。」
 後ろを振り向けば、家族それぞれが買い集めたものが山と積まれている。ぴしん、と床板が軋む回数も、不気味に増えていた。
「どうじゃ、この家をリホームしてみてはどうかと思うんじゃが。」
 松岡が差し出した小さな手拭で顔を拭きながら、目玉おやじは神妙な顔をした。
「それはいいですね。どうせなら、大きく改築しましょうよ。」
「物置増設でいいんじゃないかな。」
「高山、そんなみみっちいことしてらんないぞ。男はでっかく、一戸建てだよ。」
「でもさ、ここじゃちょっと無理なんじゃない?」
 野沢は窓から下を見下ろす。周りをぐるり池で囲まれたここは、家があるところ以外は、ぬかるんだ湿地なのだ。
「じゃあここを引っ越して、家を建てるのにいい土地を探しましょうか。」
「「「さんせーい!」」」
 こうして、彼らの引越しが始まったのだった。

「でもこの森を出たら、僕達『ゲゲゲの鬼太郎』じゃなくなっちゃいますよ」
高山は顎に手を添えながら言った。
「引っ越しをしよう♪タダでもらった住宅情報タウンズで♪」
『引っ越し』という言葉を聞いた野沢はかなり上機嫌だ。
「タダでもらったタダでもらった住宅情報タウンズで~♪」
「お前は少し黙ってろって」
ペタン!
戸田は野沢を捕まえると、口にバッテンシールを貼った。
「もごもご」
「高山の言う通りだね、森から完全に出るのはちょっと難しいかも…」
腕を組みながら松岡が言った。

「そういえば、ずいぶんと前にこの森を探検した時によさげな場所を幾つか見つけたような気がする。」
「戸田、なんだよその『ような』ってのは。」
「なにしろ探検したのがだいぶ昔で……そうだよな、野沢。」
「ふが!うぐ!ぼが!」
 しかし野沢の口に貼られたバッテンシールは取れそうに無い!
「……まあ、いいや。とにかく、そのよさそうな場所に行ってみよう。望み薄だけどね。」
「ほら、野沢、行くぞ。」
 戸田はぺちん、とシールと奮闘している野沢の頭を叩いた。
「がむ!ぐーぐ!ぐぐ!」
「ほら、はがれたぞ。」
「……ふーぅ、ありがとう高山。」

「まずはここなんだけど。」
「へーえ、栗に団栗にあけびがなってるな。」
「水もきれいだし、家を建てるのにいい木もある。」
「しかもこの蔓はターザンごっこをするのにちょうどいいんだ。」
 野沢は太目の蔓に捕まる。
「でもちょっと横町から離れちゃうな。買い物するのには苦労するかもな。」
「そうそう、特に家には大食らいが二人もいるから……。」
「なんだよ高山、こっちみながらいうな!」
「みんな、少し静かに!」
 松岡はそういいながらオカリナを取り出した戸田の顔を抑える。
 視線の先の茂みの奥から、声が聞こえた。 

「ぬらりひょんさま~どうです、ここ~。空気もいいし、水もいいし、何より隠れ場所が多いでしょ~。」
「まあ、確かにこれほどの土地は今の日本には珍しいな。」
「そうでしょう?ぬらりひょん様の別荘はここにしましょうよ~。」

「「「「げぇ、ぬらりひょん!」」」」
「げえ、鬼太郎!朱の盆、これはどういうことだ!」
「あれ?間違った地図を不動産屋からもらったかな?」
「そんなことはどうでもいい!ここはゲゲゲの森だ!問答無用で帰ってもらうぞ!オカリナロープ!」
 鞭が空気を切ってぬらりひょんに向かっていく。しかしそれはぬらりひょん様危ない、と前に出た朱の盆の顔に当たっただけだった。
「言われなくても帰るわい!朱の盆、いくぞ!」
「あぁ、まってくださ~い、ぬらりひょん様~!」


「環境はいいけど、ここはやめたほうがいいな。」
 松岡は地図にそっと、罰点をつけた。ついでに、ある意味要注意、とも付け加えた。

兄弟は再び森の中を歩き出した。
「ねえ、松兄はオススメの場所ってある?」
ぽつりと野沢が喋った。
「あると言えば、あるかな」
松岡は地図を見ながら答えた。
「静かだし横丁からそれ程離れてないよ」
「何だ、最初から言ってくれれば良かったのに」
少し前を歩いていた戸田が振り返った。
「…でもねぇ」
地図から目線を上げると、松岡は困った様に笑った。
「青木ヶ原と繋がってるから、時々見つかるんだ」
「何がですか?」
「それはね」

「たいへん!高兄が倒れた!」
「そこも却下決定だね」
「当たり前だって!」

「なに、引越し先をさがしとるじゃと?」
 あの後森の中を駆けずり回った鬼太郎一家は、疲れを癒すために横町の砂かけ婆のところへ来ていた。
「戸田の紹介したところなんて、たけし城みたいですごかったよ。あんなとこ暮らせないよ。」
「高山が体力ないだけじゃない?」
「父さんもいるんだ。僕達だけの家じゃない。」
 出されたお茶と豆菓子をもって喧々諤々騒がしく話し合う。
「それならわしのところにくればいいじゃろ。丁度部屋も空いとるしのう。」
「お婆それは無理だよ。五人じゃぎゅうぎゅうになっちゃうし、それに荷物がものすっごくあるんだ。」
「物は一つ買ったら一つ処分するのが基本じゃ。松岡や高山は物持ちがいいから、売ればそれなりになるじゃろうて。」
 三期砂かけはおやじが入った茶碗にお湯を入れる。戸田と野沢は影に隠れてこそこそと小突きあった。
「それなら、以前使っていたアパートを貸してやろうか。あそこは森の中にあるし、しかも部屋も多い。
 きちんと掃除すれば結構使えるぞ。」
「あー、えー、うん、お婆、それは無理。」
 はっきりしない言葉を吐いた後、高山は頭を掻いた。
「なぜじゃ?ここから少し離れるからか?」
「いやね、その。あそこ、べリアルが襲ってきた時、ななめっちょになったでしょ。」
「おお、ねずみ男に直させようとしたが、結局斜めのままじゃった。」
「あそこ、ねずみ男が『日本のピサの斜塔』とか言って、観光地にしてたんだよね。」
「なにぃ!」
 突然襲った揺れのせいでおやじは茶碗から落ちた。更に不運なことに、跳ね上がった茶碗が彼を閉じ込めてしまった。
 松岡は茶碗を持ち上げてティッシュを白い頭にかける。
「よくもわしの持ち家を!三期や、ねずみ男をとっちめに行くぞ!」
「はいよ、姉さん!」
 ばたばたとホコリを経たせて二人は出て行った。
 それから少しして、高木ねずみの雑巾を裂いた悲鳴が聞こえた。
「野沢、おまえねずみ男はねずみ男でも、千葉だって付け忘れただろ。」
「あ、うっかりしてた。」



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