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#69 詩織とデートなの


あたしは緑のプリントが目立つ白いTシャツに袖を通しながら、テレビの天気予報を見る。「一日を通し晴れ」だって。ツイてる。
今日は詩織と買い物。たまの土曜日ぐらいパーっと遊ばないとね。

「今日の予定はー?」

デニムのショートパンツに着替えてハンガーから赤いチェックのシャツを手に取ったところで、洗面所で洗濯機を回している親父に言った。
今日の洗濯の当番は親父。

「特にナシだー」

親父はそう言って洗面所から出てくる。
案外早かったわね…って、まさか!
あたしは眉をひそめて洗面台に向かう。親父は「なんだ、忙しそうだな」とか言った。

案の定、分けておいたはずの洗濯物が全部”なくなっていた”。

「ちょっとー!」

親父は「朝から騒がしい」とでも言いたげな顔でリビングから顔を出した。
昨日の飲み会の酒が残ってるんじゃないの?

「白いのと色物とを一緒に洗わないでって何度言ったら…。ってか昨日の内にあたしが分別しといたじゃん!」
「おー悪いな。気付かなかった」

親父は眠たそうに頭をかいた。
あたしは、とりあえず洗濯機を一時停止して色物を再び分別する。
あーもう。これじゃ二度手間だっての!

時間はあっというまに過ぎ、あたしは「終わったらちゃんと色物洗ってねー!」と言って家を出た。


…家事の日替わり分担やめたほうが良いかもね。
あたしはそんなことを考えながら駅の駐輪所の料金シールを自転車の後ろの部分に貼って、駐輪場のおじいさんに「お願いしまーす」と会釈した。

詩織は、駐輪場を抜けたところで待っていた。
ボーダーのTシャツとデニムのスカート、黒いカーディガン姿だ。

「ゴメン、待った?」
「ううん。時間ぴったりだよ」

電車がホームに入る。あたしらの家から一番近い路線である、東北本線だ。強風で簡単に止まる以外はなかなか便利。
でも、公共の交通機関はあんまり好きじゃないってのが本音。だってさ、時間が拘束されるじゃん。
まあそんなこと言っても、町のほうの大学になったら否が応でも電車やバス使うことになるんだけどね…あ、進学すればの話。

「どしたの?難しい顔して」
「いんや。人生は難しいですねって話」

席が混んでいるわけではないけど、つり革につかまってみる。

電車は滞りなく各駅停車で伊達に着いた。
「足元に気をつけろ」だの「乗り換えは~」だのアナウンスされているホームを抜け、あたしたちは駅に出る。
そういやなかなか久しぶりかもね。伊達に来るの。


服を見たり雑貨屋さんでぶらぶらしたりと、あっという間に時間が過ぎた。
ウインドウショッピングっていうの?見てるだけで満足(笑)

「そろそろどっか食べに行く?」

プリクラの機械を出たところで、あたしは時計を見ながら言った。
11時56分。ちょうどお昼だね。

「うーん、少し待とうよ」
「どして?おなか減ってない?」

あたしは首をかしげながら、テーブルに備え付けてあったハサミを手に取った。

「お昼の時間だから、どこも混んでると思うんだ」

詩織は指を立てていった。
なるほど。おなか減ってたからそんなこと考えてなかったわ。

「その代わり、ちょっとスリーブ買いに行きたいんだ。お店わかる?」

詩織はプリクラの半分を手に、そう言った。
スリーブ?ああじゃあ前にブードラやったあの店でいいかな?近くだし。

「オッケー。ご飯前にスリーブ買って、時間ちょうどね」
「うん♪」

×××

前に来たときとほとんど変わらない店内。
カウンターの隣にある、白いラックにスリーブがメーカーごと、種類ごとにかけてある。

上の段から色とりどりのキャラクタースリーブに、定番のKMC、下の段にはスモールサイズのスリーブが陳列されていた。
あたしは肩越しに「ここね」と詩織のほうを見る。詩織は顔をほころばせ、あたしの隣に歩み出る。

「どんなんがいいの?」

あたしは一番上に並んでいた、水色のキャラクタースリーブをひっくり返しながら言った。
見たことの無いキャラクターだ。…と言ってもキャラスリになるような作品全然知らないんだけどね。

「うーん、あんまりハデなのじゃないほうがいいな」

詩織はあたしが手に取ったキャラスリを見て言った。
言うと思った。質素なのがいいんだよね、君は。

「じゃあ、金色とかにしなよ?」

あたしは舌を出して笑って、少し下の段の無地の金色のスリーブを指差す。
詩織は「うーん…」と口に手をあてて悩む。あたしは手に取ったスリーブを元に戻し、店内を見渡す。
確か売り場の角に…あった。対戦スペース。

今日は土曜日だけど大会はないのか――それとも午前中で終わってしまったのか――対戦スペースには数人の人しかいなかった。

別に対戦しようってわけじゃない。デッキなんて持ってきてないし。ただ、ガンダムウォーしてる人がいるなら少し見てみようかと思っただけ。

少し対戦スペースのほうに注意を向けてみると、距離も離れていないせいか、人の声が耳に入る。「~ステップいい?」や「エンド」などといった具合に。この用語がガンダムウォーだけの物なのかあたしには判断できないけど、少し見てみようかな。

「選んでて。ちょっと見てくる」

あたしは、スリーブを選んでいる詩織の背中をトントンと叩き言った。
詩織は小さく振り返り、手で「了解です」の合図を出す。いったいスリーブの何にそんなに迷ってるんだろ?この娘は。

「うっし」

あたしは肩掛けバックを意味もなく反対にまわし、対戦スペースに向かった。
近づくにつれ、そこにいるのはおじさんと中学生くらいの子だとわかる。あたしの見立てだけど。

「ワシのターンじゃな?」

声が明瞭に聞き取れる距離まで来たところで、あたしはやっと「ガンキャノンのテキスト~」という単語を聞き、ガンダムウォーであることを確信した。
対戦スペースは2つのテーブルに12の椅子といった形で、カキヨの空き家よりもずいぶん狭い感じ。前にブードラで来た時もこんな感じだったっけか?

「じゃあ…僕は攻撃規定後、試作ケンプファーをガンダムに投げたいな!」
「何じゃと?」

対戦スペースではガンダムデッキと…デュナメスデッキ(?)の戦いが繰り広げられてるみたい。場を見ての判断だけど。
おじさんは一人称が『ワシ』だけど、後姿はそんなに老けてないよ?…あぁ、鳥のほうの『鷲』かな?

あたしは、その『ワシ』と対戦してる中学生くらいの子の顔を見て「あ」と、二人には聞こえないくらいの小さい声を上げる。
前ここで参加したブードラのときに負けた子だ。たしか名前は…そう、じゅん。
ここにはよく来るのかな?大会でもない日にこんなとこで遊んでるってことは常連?

そうこうしてる間に、『ワシ』のガンダムが試作ケンプファーで破壊され、場のデュナメスがGNデュナメスに換装。それで勝負は終わってしまった。

「オレンジにしたよ、京ちゃん」

詩織が袋に入ったスリーブを手に後ろから来る。
あたしが対戦スペースを見ていたのに気付いてか、「誰か知ってる人いたの?」と聞く詩織。

「まぁそんなとこ。でも、今のはおじさん側のミスね。あそこは相手が緑片の時点で、出撃前にガンキャノンのシールドテキストを…」
「京ちゃん」
「ん?」

あたしは詩織が小さく指差したほうを見ると、『ワシ』があたしを凝視していた。。
解説に力が入りすぎたせいか、いつの間にか声が大きくなってしまっていたらしい。
…しまった。

「ワシが無策じゃと?」
「あ、はい。…じゃなかった。そんなこと言ってませんよ~」

あたしは身振り手振りごまかす。
立ち上がると『ワシ』は案外大きく、結構な威圧感だ。見る限り年齢は公旗よりもちょっと上?

「気に入らんな。ガンダムウォープレイヤーか?」

値踏みするような顔であたしたちを見る『ワシ』。
あたしは自然と詩織を守るような立ち位置に回り、「ええ、まあ」と言った。
最近なんかこういうの多いな…まあ剣治とかはそんなに変な奴でもなかったけど。

「ならば勝負だ。おぬしの言う”ヘボプレイヤー”の実力を見せてやるわい」

腕組をしながら『ワシ』はまた椅子に座る。
誰も”ヘボプレイヤー”とは言ってないでしょうが…。
その時、じゅんがやっとこっちに気付いたようで「あ!」と声を上げた。

「よっ」

あたしはじゅんの顔を見て、軽く手を上げる。
それを見た『ワシ』は「知っておるのか?この娘を」と言いたげな疑問顔でじゅんを見る。

「えーと…だれだっけ?」

じゅんは困った顔でそう言った。
そこであたしはずっこけた。

「あたしよ。あたし。本田京子!ブードラで当たった」
「あ~髪切ってたからわからなかったや♪」

じゅんは椅子から立ち上がり、あたしたちのほうに来る。
『ワシ』はそれを横で見ながらデッキをシャッフルし始めるた。

「今日は?大会なら午前中で終わっちゃったよ?」
「ううん、今日は違うの。連れがスリーブ欲しいって言うからね」

あたしはスッと左に避け、詩織を手で紹介する。
詩織は中学生相手でも礼儀正しく頭を上げて「古田詩織です。よろしく」と言った。

「僕は塚木淳。じゅんじゅんでいいよ。詩織さん」

じゅんはそう言ってカウンターのほうに走っていった。

「ほれ、本田とかいうの。勝負じゃ」

話の区切れを待っていたかのように、『ワシ』が言った。
あたしはあっけに取られる。そのためのシャッフルだったのか…。

「え?マジで言ってたんですか?」

あたしは露骨にいやな顔で「いやいや」と手を振る。
それに…。

「あたしデッキなんか持って来てませんよ」

嘘に聞こえたかな?でもマジで今日は持ってないんだよね。
詩織と出かけるのに、んなもん持って歩くわけないじゃん。

「…しかたないか」

『ワシ』は少しげんなりして、カウンターのじゅんのほうを見た。
そうそう。じゅんと引き続き対戦してね。

「京ちゃん」
「ん?」

詩織が指でトントンとあたしの肩を叩く。
どうしたんだろ?「もうここを出よう」とかかな?

「私、デッキあるよ?貸す?」
「…」

目を丸くするあたしに、詩織は小さな鞄からデッキを取り出した。

「はあ!?」
「よし、しょうがない。そっちの女子(おなご)と勝負しようかの」

納得したように『ワシ』がそう言った。
詩織は「えっと…」とどもる。だから言わんこっちゃない…まあデッキがあるって言った以上、やりますか。

「いいわ。貸して?あたしが戦うわ」
「え?いいの?」

詩織は「はい」とデッキをあたしに手渡す。
あたしはそのまま『ワシ』の向かい側にどっしり座る。

「色は?」

詩織の顔を見ないであたしは聞いた。

「赤色だよ」

あたしは一瞬固まり、そして席を立ち詩織の後ろに回る。
「どうしたの?」と言う詩織の肩を押して、一瞬前まであたしが座っていた椅子へと押す。

…つまり。あたしは赤は使えないのだよ。ふはは。

「ゴメン。詩織が赤だってこと忘れてたわ」
「それじゃ…?」

あたしはビシッと指を立て、向かい側に座った『ワシ』を指差した。
それに気付いた『ワシ』は顔を上げる。

「うちの古田詩織が代わりに相手よ!」
「え~」

詩織は困ったような顔であたしを見る。
でも、この顔はそこまで嫌がってない。「しかたないわね」の顔。

さー行きなさい!詩織!


つづく


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txt:Y256

初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:09.04.17
更新日:10.04.14