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1

前日までの雨が嘘のように晴れ、休日の土手には奇声を発しながらはしゃいでいる子供たちの姿があった。
春原友理奈はそんな光景を見ながら歩いていた。
彼女はこうして景色を見ながら散歩をするのが好きで、どこか目的地を決めるでもなく、暇さえあれば散歩を楽しんでいた。
そんな彼女に友人は「散歩のどこが楽しいわけ?」と質問するのだが、彼女は「そうねえ。風景かしら」などと答えていた。

彼女の向かい側から、赤いマウンテンバイクに乗った男が来る。
友理奈と男との距離はあっという間に縮まり、そしてすれ違う。
白いYシャツに黒いスーツを着て、短めに切りそろえた髪の毛をした男だった。
これから会社だろうか。と少しその男について考えたが、彼女は特に意味も無いなと思い視線を下の公園で遊ぶ子供たちに戻した。
「ウリィィイ」と奇声を発する小学生に目を向けた直後、軽いブレーキ音がすぐ後ろから聞こえた。
音がしたほうを見ると、さっきの男がマウンテンバイクを留め、こちらを振り返っていた。

「少し、いいかな」

男は数歩友理奈に歩み寄り、静かにそう言った。彼女がすこし小さめの身長であるということも助けてか、男はかなり大きく見えた。
白いYシャツに黒いスーツ、短めに切りそろえた髪の毛はとても不審者には見えなかったので、彼女は「はい、いいですよ」と答えた。
マウンテンバイクは暗い赤色の塗装で、フレームの脇にSから始まる英語が書かれていた。
友理奈は英語は苦手ではなかったが、その英語が男の素性を教えてくれるとも思えないので、彼女は特に意味も無いなと思い目を離した。

「この店を知らないか?」

男はそう言って懐から出した紙切れを見せてくる。それはA4サイズくらいのもので、住所がプリントアウトされていた。
友理奈はその紙切れを見て少し考えてから「たぶん、わかります」と答えた。どうやら土地勘のない外の人らしかった。
進んで案内役になる気もなかったが、困ってるこの人を無視するいわけにもいかないだろう。
と友理奈は頭の端っこで考えながら、その紙切れを男に返す。

「そうか。では、この人を見たことはあるか?」

男はそう言って、今度は写真を取り出した。金に近い色に染められた髪の女性の写真だ。
横顔の写真で、しかも長い髪のせいで顔がよく見えない。
この男はこんな写真で人探しできると思っているのかな。と友理奈は呆れたが、ひとまず「見たことありませんね」と答えた。
男は特に落胆した様子も無く「そうか」と答え、写真をしまった。この写真で「見たことあるよ」と言ってくれる人などいないだろうから、もう空振りにも慣れているのだろう。
そこまで考えて、友理奈には同情の念とまではいかないがそれに似た感情が沸いて、彼女は頭の中でさっきの住所を思い出す。

「さっきのお店、なんて名前でしたっけ?」

友理奈は確認するように口に出す。

「<シャイアン>だ。カードショップ<シャイアン>」

男は静かに答える。

「その<写真の女性>もこのお店に関係が?」
「…わからない。同じプレイヤーなら見たことがあるかもしれない、というだけだ」

曖昧な返事に友理奈は戸惑いながらも、頭の中で情報を整理した。
この男が何者か知らないが、カードゲームプレイヤーである<写真の女性>を捜してカードショップをまわっている。
こんなところだろうか。彼女は一拍置いて、道案内することを決めた。
今日の散歩は中止になりそうだ。

「私、そのお店知ってるんで案内します。ちょうど時間ありますし」
「…助かる」

友理奈はそう言って、店の方角を指差して歩き出す。
唐突に言い出した彼女に男は少し眉を上げたが別段異論は無いようで、マウンテンバイクを押して彼女に並んだ。

「あ、自己紹介がまだでした」

数メートルも進まないうちに、友理奈は思い出したようにそう言った。
男は今度は少し困ったような顔をして「そう…だったな」と返した。

「私、春原友理奈っていいます」

友理奈は向き直って手を差し出す。
男は仕方ないという風に、ハンドルを握っていた手を離し彼女と握手を交わす。

「原西真定だ」




2

「ここ…ですね。<シャイアン>」

春原と名乗った女の子はそう言ってコンクリートの壁を見上げた。
肩の長さで切りそろえた黒髪を揺らし真定を見る彼女の顔はどこか達成感に満ちていたが、真定は別段思うところは無かった。
むしろ彼には、この物静かな女の子が唐突に「道案内しましょう」などと言い出したのかが疑問だった。
二人はガラス張りの入り口をくぐり、中に入る。
店内は休日のため客が多く、商品棚の間の通路も狭かった。友理奈はそれを見て立ち止まり「混んでますね」と真定を振り返る。
真定は静かに「そうだな」と言って、人ごみを押し分けてまっすぐカウンターに向かった。
店主は50歳くらいの太めの男で、カウンターに近寄ってきた真定に「何かお探しの商品でも?」と微笑んだ。
「この女を捜している?心当たりは?」
見当違いの質問に少々面食らいながらも、店主はその写真を手に取りじっくりと見る。
そこに、遠回りしてやっとカウンターにたどり着いた友理奈が少し疲れた声で「プレイヤーさんらしいですけど」と補足した。

「何のプレイヤーだい?」

店主は写真を返しながら意欲なさ気に質問した。
まるで、どのプレイヤーだといわれようが「知らないね」と答えるように。

「ガンダムウォーだ」
「うーん…知らないね」

店主は予想通りの返答をしてから、申し訳程度に「今あっちの対戦スペースにいる子達、ガンダムウォープレイヤーだから聞いてみるといいよ」と言った。
真定は礼を言ってカウンターを離れる。友理奈もそれに続く。

「どうするんですか?」
「あっちの対戦スペースの連中に聞いてみる」




「対戦スペース」と書かれていたわけではないが、友理奈は一目でそこが対戦スペースだとわかった。
4つのテーブルにそれぞれ4つのパイプ椅子が準備されており、そこに何人かの客がいてカードを広げていたからだ。
真定はさっそく少年に声をかけて、写真を見せる作業に入った。
道中一緒にいて、自分の質問には――真定の年齢と、<写真の女性>との関係を除いて――「ああ」とか「いや」とかテキトウにしか答えないクセにこの<写真の女性>探しだけは熱心にこなすものだな、と友理奈は思った。
最初のテーブルの子も、次のテーブルの子からも情報はなし。
次のテーブルは客がいないため、残りは最後のテーブルの中学生二人となった。
友理奈はその二人の内、片方の男の子に見覚えがあった。

「忠弘?」

小走りで最後のテーブルに行き、真定よりさきに口を開く。
突然の行動に少し真定が驚いていたが、それよりもこの弟のことである。

「げっ!姉ちゃんがなんでココに…!?」

忠弘と呼ばれた少年は手に持っていたカードを取りこぼし、信じられないという顔で口をパクパクさせた。
真定は状況が飲み込めず、しばし静観していた。

「午後から塾の集中講義だって言ってたじゃない。なんでこんなところにいるのよ?」

友理奈本人は精一杯怒っているつもりだったが、丸い性格のためかあまり怒っているようには聞こえない。

「勉強なんかしなくても僕はテンサイなんだよ姉ちゃん。わかってないなぁ」

忠弘は頭をかきながら友理奈から目をそらす。そこで真定と目が合った。
真定はやっと最後の一組に”事情聴取”できると踏んだのか、写真を出した。

「この女を捜して…」
「真定さん。私、まだ話中なんですよ」
「すなまい」

真定はそう言って手を引っ込める。
が、写真は忠弘の手に渡り、彼は姉の話を半分にその写真を眺めて何かを閃いた顔になり、真定を指差す。

「姉ちゃんのオトコ…?まあいいや。この女の人探してるんでしょ?」

質問の前半部分を否定しにかかる友理奈を無視して、真定は短く「あぁ。知っているのか?」と返す。

「えー…いいけど。あんたガンダムウォーするんでしょ?」

何を根拠にかは解らないが、忠弘はそう言って真定をプレイヤーだと決め付けてニヤリとする。

「姉ちゃん、こういうのどう?僕とこの人が勝負して、僕が勝ったら今日の塾は休む」
「負けたら?」
「塾にも行くし、<写真の女性>のことも知ってることを話すよ」

友理奈は思案する。
塾に行く行かないと、<写真の女性>の話を無関係のゲームに絡められた。
と気付くころには、真定は「いいだろう」と言って条件を快諾していた。

「勝てる見込みはあるの?」

荷物からカードの束の入ったと思しき缶ケースを取り出す真定の横顔に友理奈は聞いた。

「さあな。ゲームに”絶対”はない」
「…無責任な」
「だがここで止まるようであれば、俺は一生あの女には追いつくことなどできないだろう」

真定の声が1トーン重くなったのを友理奈は聞き逃さなかった。




3 

「僕の先攻だね」

忠弘はそう言って手札をチェックする。

「オーケーやれるよ」
「では、俺もチェックする」

真定も手札をチェックして短く「やれる」と言って、手で合図する。
先攻である忠弘の第1ターンは青基本Gを出しただけで終了。
後攻の真定のターンも茶基本Gとボルジャーノン《15》を出すだけで終了した。

「僕のターン、ドロー!」

勢いのいい声でカードを手札に加える忠弘。
手を止めることなく、手札から2枚目の青基本Gを出す。

「引きも強さも実力の内、だよ!」

力強く台詞を吐きコマンドカードを出す姿を、真定は黙って見守る。
友理奈はいったいどういう状況になっているのかもわからずとりあえず成り行きを見守った。

「V作戦。このカードをプレイ、テキストは…」
「大丈夫だ」

確認を取る忠弘に、真定は手で合図する。
V作戦は次にプレイされるカードの合計国力を-2するカード。
現在忠弘の場には青2Gがあるため、合計国力4のカードならば次にプレイすることができる状態になった。

「うん。普通すぎてつまらないけど、今日は塾は休みたいんだよ…謙信ガンダム!このカードを合計国力2でプレイするよ、戦闘配備だ」

そう言って、謙信ガンダムのカードをリロール状態で場に出す忠弘。
謙信ガンダムは敵軍本国にダメージを与えるたびにユニットコインを生成できる強力なユニットである。

「許可だ。なかなかいいユニットを使っている」
「へへん。戦闘フェイズ、攻撃規定。謙信ガンダムを宇宙に出撃!」
「…了解だ」
「じゃあ4ダメージ」

指を四本立てて、攻撃を宣言する忠弘。その顔は勝ちをものにした少年の顔そのものであった。
しかし、少年の高揚感を打ち砕くように、真定が静かに「いや」と言った。

「防御ステップ、カプル(コレン機)をプレイ。さらにテキストを宣言し謙信ガンダムのいる宇宙エリアに移動、謙信を配備エリアに返す」
「っ…」

忠弘に対抗策はないようで、彼は謙信ガンダムをおとなしく配備エリアに移す。
友理奈は行われている攻防がどのようなものなのかさっぱりわからず首をかしげた。




どうもまずいことになった。
忠弘は内心で地団太を踏みながら、真定とかいう男にターンを渡した。
確かにブースト系はコレンカプル1枚で急激に動きが鈍くなる。それにこのまま対策カードを引けなければ――いやそんなこと滅多にないのだが――負けることになる。

「茶基本Gを配備。戦闘フェイズに入る」
「りょ…了解」

真定はコレンカプルの特殊兵装を宣言した後、前のターンで配備したボルジャーノンを宇宙に出撃させてきた。
攻撃力はたったの2。戦闘力だけを比べるなら、忠弘の配備エリアにある謙信ガンダムの敵ではなかったが、真定の配備エリアにいるコレンカプルによってまともな交戦に持っていくことができない。

「受けるよ、2点だしね」

少し強がって本国のカードを捨て山に送る。
真定は何か違うことを考えているんじゃないかと思うほど、しれっとターンを終了した。
ドローで手札にカードを加える忠弘。

「破壊も移動もされない特殊基本G、地球連邦を配備するよ」

許可を出す真定。
忠弘がこのターンに使えるのはこのカードだけのようで、相手に1資源を払わせるだけの意味だったが、謙信を攻撃に出撃させる。
真定は先ほどと同じように、コレンカプルのテキストで謙信を弾き飛ばした。
いつもならとっくに謙信で場を制圧しきっているのに。と忠弘は歯噛みしながら「ターン終了」と宣言する。
あれこれ対策に考えをめぐらせる忠弘を尻目に、真定は「ドロー」と言って手札にカードを加える。
配備フェイズは22弾の特殊茶G、ギンガナム軍を配備。

「攻撃ステップ規定でボルジャーノンを地球に出撃」
「うん」

特殊兵装を宣言して捨て山を見た後、これも先程と同様にボルジャーノンを戦闘エリアに移した。
捨て山をソースとするカードを多く内包する勢力である茶色にとっては、捨て山を定期的に確認できる特殊兵装は有効なテキストだ。
その兵装がデッキに入っていなかったとしても、だ。
忠弘の本国にダメージを与えたボルジャーノンが帰還し、真定はターン終了を宣言した。

「ちょっといい?」

ターン終了時が区切りだと判断したのか、友理奈が二人を見比べながら口を開く。
さっきから目立った動きもないこの攻防に「どちらが勝ってるの?」と我慢しきれなくなって聞いた。
塾に行かないための時間稼ぎ工作なのでは?という疑問も少なからずあった。

「いや、それはなんとも言えないな」

真定が少し困った顔をして答える。
忠弘も同感だったが、コレンカプルで動きを封殺しているこの男が先に言うのはどういうものか。

「姉ちゃんは静かに観戦しててよ」
「はいはい」

友理奈は「どうぞ続けて」と両手でジェスチャーして下がった。
仕切りなおしでターンを開始した忠弘は、地球連邦を配備した後、手札のコマンドカードをプレイする。

「急ごしらえをプレイ。手札が2枚なので2ドロー!」

手札に加わったカードに忠弘は内心ガッカリする。
が、顔にはできるだけ出さず、先程のターンと同じ攻防――謙信の出撃とコレンカプルのテキスト起動――を済ませてターン終了を宣言する。




友理奈は少しむすっとして、だが顔にはほとんどそれとわからない表情で、二人の対戦を見守っていた。
対戦中の弟は生き生きとしており、とっても楽しそうなものだ。
しかし、それが勉強をしなくていい理由にはならない。
対する真定は大きな表情の変化も見せずに対戦をこなしていた。

「配備フェイズ、茶基本Gを配備。さらにオペレーション、ニュータイプの排除もプレイ」

真定はそう言ってスルスルと手札からカードを場に出す。
その滑らかな手つきに、じっと見ていた友理奈は息を呑む。

「ニュータイプの排除を起動。手札からGを廃棄して、捨て山のカードをハンガーに送る」

送られたカードはコマンドカード、出土品だ。。前の忠弘のターンでテキストの資源1を払っているのだから確認していないカードだろう。
そして、先程のターンと同じ行動のくり返し。
友理奈は、すごく地味なゲームなのかも。と思い始めていた。

「ターン終了だ」
「オーケー。僕のターン!」

手札にカードを加えながら、すでにユニットの出撃準備をする忠弘。

「攻撃規定、謙信ガンダムを地球に!」

勢いがいい宣言。これにはいかにルールを知らないといえど、友理奈にも変化はわかった。
何かいいカードを引けたのだろう。

「…防御ステップ。コレンカプルのテキストをプレイする」
「戦いに戻る理由!このカードで謙信ガンダムは移動しない」

ユニットが敵軍効果で移動しなくなるコマンド。
そう説明され友理奈は半分も理解できずに「はぁ」と相槌をうつ。
どうやらこの1枚で流れが忠弘に傾いたらしかった。

「では、コレンカプルは防御規定で謙信ガンダムのいる地球に出撃しよう」
「耐久1でこの強襲4点の謙信ガンダムの攻撃を防げる?」
「…無理だろうな。ダメージ判定ステップ、強襲の3点が貫通する」
「出土品がハンガーにあるからって1点減殺するための防御かぁ」

軍勢コインが3枚発生し、忠弘は謙信ガンダムを帰還させターンを終了した。




「俺の第5ターンだ」

真定はカードをドローしながらそう告げる。
場には4枚のGカードとボルジャーノン、ニュータイプの排除がある。
ハンガーの茶基本Gと3枚の手札で行うこのターンの行動は決まっていた。

「配備フェイズ、ニュータイプの排除を起動」

真定は手際よく手札の国力を廃棄、ハンガーに捨て山の上のカードを送る。茶基本Gだ。
これはさっきの強襲分。

「さらに宝物没収をプレイ」
「ドローが進むね」

忠弘は気軽に許可を出す。
真定が欲しかったのは捨て山の上から2番目。特殊兵装の資源で払ったカード。
回収しようとすればさっきのターンでもできたが、さらに下の1枚はいらないので、攻防が終わるこのターンを待ったのだった。

「配備フェイズ、ボルジャーノンのテキスト、解体をプレイ。解体コインを乗せ、このカードは茶特殊Gになる」

真定はケースからコインを出しボルジャーノンに乗せ、国力の隣に移動させる。

「戦闘フェイズに入る」
「いいよ。でも、そっちにユニットはいないよね?」

忠弘は安心した顔でそう告げる。
MFユニットが場に出てリングから攻撃されるようなことがあれば、リングに防御に出ることができない軍勢コインのせいで彼の手札にある2枚目の謙信ガンダムがリングハンデスにさらされていたのだから。

「それは大丈夫だ。攻撃ステップ、このカードをプレイする。破滅の終幕」
「…え」




4

忠弘の場は移動しないテキストを持った地球連邦2枚だけが残り、手札の謙信共々場のカードは捨て山に埋まった。
対する真定は手札も場のカードも全て捨て山にリセットされたが、ニュータイプの排除によってハンガー…破滅の終幕を逃れられる場所に、カードが2枚。
お互いの本国はゲーム開始時の半分を切っている。

「ヒドイ事するなぁ。ドロー…今引きの青基本Gを配備。ターン終了」

忠弘は頭をくしゃくしゃとしてカードを出す。V作戦のようなブーストカードを使わない限り、彼のデッキのユニットは4国力以上のを必要とするカードばかり。
リセット後のこの状況ではGを引いてこれるのが最良だった。

「俺のターンだ。ドロー後、ハンガーの茶基本Gを配備、ターン終了」
「うん」

そして、次のターンも幸いGを引くことができた忠弘。
真定はハンガーの出土品でコレンカプルを回収し、場に出すことを宣言し、ターンを貰った。

「リロール、ドロー。戦闘フェイズに入る」
「Gはなし?」

真定は頷いて、特殊兵装で捨て山を見た後にコレンカプルを出撃させる。手札が無い忠弘はこの3点を通すしかない。
次のターンも忠弘は規定ドローだけでターンを終えた。
デッキの中核である謙信ガンダムは3枚中、1枚は本国の下で、もう1枚は捨て山の中。こうなったらサポートで入れていたカードでどうにかあのカプルを止めなければいけないのだ。
正直なところかなり辛い状況だ。

「コレンカプルを地球に出撃させる」

このターンは、今引いたのであろうGを出した後に先程と同じ攻撃。これも通しだ。




数ターン経ち、忠弘の手札は増え、真定の場にはボルジャーノンが追加されたが、動き自体は同じだった。
つまり、コレンカプルの3点だけである。

「ターン終了」

コレンカプルを帰還させる真定。
もしかしたら、本当にコレンカプルの攻撃だけで本国を削られるかもしれない。
この時点になると忠弘はそんな光景すら現実になりうるかもしれないと思い始めていた。

「ドロー…政治特権!」

この限界状態、ドローカードで本国を薄くするのは自殺行為かもしれない。
だが、引かなきゃ負ける!ユニットを引かなきゃ!
そんな想いに答えるように手札に舞い込んだのはユニットカード。

「2ドロー後にアムロ・レイ《20》を切るよ」

先程から手札で乗るユニットが無く持て余していたカードを切る忠弘。

「そして、ガンダム(ラストユーティング)をプレイ!」
「…了解だ」

真定は許可を口にする。
彼の本国は18、ジャンクヤードは5枚。ラストシューティングなら2回攻撃するだけで真定の本国を0にすることが可能だ。
こうなってしまっては、デッキ内唯一の回復カードであるディアナ帰還を引いても意味は無い。完璧な死が待っている。

「ターン終了。僕の本国は10枚、あと2ターンで削りきれるかな?」

少し露骨過ぎる挑発に、真定は少しだけ眉を上げる。
コレンカプルとボルジャーノン、地球と宇宙の両面で攻撃すれば毎ターン5点のダメージで、ラストシューティングが2撃入れる前に勝つことが可能だ。
これは場に出ている公開情報で解るはず。それにコレンカプルで抑えられるラストシューティングは決め手にはならない。そう、1枚では。
となると、忠弘は手札に状況を打開するカードを握っている可能性が高い。
そこまで考え、真定は口を開いた。

「俺のターンだ」

ドローして手札に加えたカードを軽く確認し、「戦闘フェイズに入る」と宣言をする真定。
その間にも青単色がこのタイミングで用意できるカードに考えをめぐらせていたのは言うまでもない。

「攻撃ステップ、特殊兵装を宣言。捨て山を見る」
「この土壇場で捨て山の確認…?」

声音からは、「資源の無駄じゃないか」という忠弘の考えが読み取れた。
それに答えるように、真定はあえて口を開く。

「確認ではない。…本当に探していたのさ、特殊兵装を」

そう言って、見た捨て山のカードから兵装カード、ロケットパンチをコレンカプルにセットする。

「ろ…ロケットパンチ!?」
「攻撃規定に入る」

真定は地球にコレンカプル、宇宙にボルジャーノンを出撃させた。




やはりラストシューティングの存在が効いているのだ。
忠弘は確信して手札を確認する。
3枚もある彼の手札を恐れにずにコレンカプルまで出撃させてきた真定。
忠弘はその時点で勝ちを確信した。
政治特権のもう1枚はガンダムF91(ハリソン機)だ。
プレイ制限を無視して場に出ることができるこのユニットが、今の忠弘の切り札。
迂闊に出撃してきたコレンカプルを血祭りにあげることができる。
破滅の終幕前のようにコレンカプルを牽制に使って、ボルジャーノンで攻撃を刻むのが確実な方法だろうが、ラストシューティングのプレッシャーがそれをさせなかったのだ。
そこまで考えてから、忠弘はハリソン機を場に出しながら宣言した。
実際はラストシューティングのプレッシャーはどないのだが、そうとは露知らず。

「ロケットパンチは計算外だったけど、これで終わり。ハリソン機をコレンカプルのいる地球に。リターンはトップを宣言」
「では、ダメージ判定ステップ」
「うん」

思ったよりも真定の反応が落ち着いていたことに忠弘は少し違和感を覚えるも、ゲーム開始からの彼の無表情具合を考えて「そういう人なのだ」と判断する。

「グラビトンハンマー。このカードでコレンカプルの格闘を+3する」
「…な」
「そして…ロケット・パンチ」

静かに兵装を廃棄する真定。これでコレンカプルの格闘値ぶん…6点のダメージをハリソン機に与えた。
特殊シールドを持つハリソン機もこのダメージには耐えられず、規定前に破壊されてしまう。
ダメージ判定ステップ規定の応酬では、ボルジャーノンが本国に2点を通したのみで終わった。
しかし、これが決定打になったのか、それともラストシューティングが決定打にならないことに気付いたのか、忠弘は次のターンで投了した。

「塾に行く話は君たち姉弟の問題だ。だがあの女の情報は逃すわけにはいかない」

真定はそう言い放った。




5

「<写真の女>の情報は?」

カードを一通り片付け終わった真定が忠弘に聞く。
ただし、声音は「期待していない」と言っているような感じで、友理奈は不思議に思い彼の横顔を見た。
催促された忠弘はばつが悪そうに目をそらし、ややあって口を開く。

「ごめん。情報なんて無いんだ。塾を賭けた対戦にあんたを引っ張り込むための口実」
「ちょっと、忠弘」

友理奈は呆れたという声音で弟を見る。
塾に行かないための時間稼ぎ工作なのでは?という彼女の疑問が確信を突いていたワケだ。

「約束だからね。行ってくるよ!」

忠弘は振り返りながらそう言って、対戦スペースを逃げるように後にした。

「すみません。弟がつまらないこと言って付き合わせて」

友理奈が頭を下げる。

「弟君の嘘は最初に感ずいてた」
「え?じゃあどうして…」
「<ルール>1:挑まれた対戦は断らない。だ」
「は、はぁ」

彼はそう言って、「それが、彼女に追いつくために決めた<ルール>だ」と続けた。
わざわざ<ルール>”1”と言うのだから、”2以降”もあるのか。と友理奈は率直な疑問が浮かんだが、彼女は特に意味も無いな。と思い質問するのは止めた。
二人はそれ以上店にも用はないので、出ることになった。
店の中は来たとき同様込み合っていた。

「収穫はあったかい?」

出口へ向かう途中、対戦スペースでの流れを一部始終見ていたのであろう店主が真定を呼び止めた。
弟が<写真の女性>について何か知っていたのか、そこに少しだけ興味があったのだろう。

「いや。”また”空振りだ」
「そうかい」

二人の会話はそれきりで、真定は店の出口に向かい、友理奈もそれに続く。
出口を出たところで、少し思案顔で友理奈が話を切り出した。

「ご飯。食べていきません?」

思ってもいなかった台詞に真定は首をひねる。
例えるなら、「何か探しの商品でも?」と聞いたのに、「人を探している」と返された店主のような顔だ。

「君とはそんな間柄ではないと思うんだが?それに、俺は”ロリコン趣味”は無い」
「あ、私のこと身長で判断してますね。こう見えても21ですよ?」

真定はため息をついて「仕方ない。道案内の礼はしなければな」と小さく言ってマウンテンバイクの鍵を取り出した。



END