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今にも雨が降りそうな雲の下、3人は姉さんの家に向かって歩みを進めていた。
ミキオとタンサンが昨日のテレビ番組『金曜映画劇場』の話題で盛り上がり、その後に白いヘッドホンをしたナツキが続くといったふうだ。

「道わかるの…?」

迷う様子もなく肉屋の角を曲がったミキオを見て、ナツキがふとそう聞いた。
ミキオは今更か、という表情で振り返り「姉さんの家行ったことあるしな」と返す。
ナツキは納得した表情になるが、すぐにギョッとする。

「うわー不潔ー!」

そう言いながらミキオの背中をばしばし叩いた。
タンサンも調子に乗って「ミキオちゃん不潔ー」と続ける。

「うっせー!弟子なんだからいいじゃねーか」

ミキオは2人の罵声から逃れるように早歩きになった。


第3(9)話 突入!あたしんち



「ここだぜ」

ミキオは灰色のアパートを見上げてそう言った。
『~A棟』とあったが、まわりにB棟なる建物は見当たらなかった。

「なんか庶民っぽいわね」

ナツキは階段を昇りながら、品定めするように言う。
白いヘッドホンは、すでに首に下ろしていた。

「おめーどこの貴族だよ」

先頭を歩いていたミキオが、2階の右側の部屋で止まる。
扉の横には『本田』と書かれたプラスチックの表札があった。

「本田って苗字なんだだ。案外フツーね」
「姉さんにイチャモンつけねーと気が済まないのかよ…」

呆れ顔でミキオはインターホンを押す。
壁を隔てた向こう側でピンポーンと小さい音が聞こえた。

パタパタと足音がドアの前迫ってきて、止まる。
覗き穴からこちらを見たのであろう数秒の間を空けて、鍵がガチャリと開いた。

「いらっしゃい」

ドアを開けたのは黒茶色の髪の女性、姉さんだ。
靴を脱ぎながら「お邪魔します」というタンサンの後ろで、ナツキがぽかんとする。

「え…あんたウチのガッコだったの?」

姉さんの格好は、上が白いプリントTシャツで、下は白いラインと府釜高校のマークが入った紺色のハーフパンツ。
そのハーフパンツは、ナツキも数日前に購入したばかりだった。

「言ってなかったか?」

ミキオは頭をかいて「卒業したばっかだぜ」と続けた。

「あれ?フガコウに決まったんだ、進路」
「オレたち3人ともね」

ミキオがそう言った後に、「おれっちはかなりギリギリだったけどな!」とタンサンが無駄に偉そうにに付け加えた。

フガコウ…府釜高校は府釜市の山沿いにある高校だ。
普通科6クラスの男女共学校で、レベルは中の下くらいだったがそれなりに人気があった。

最初にここを受験すると決めたのはミキオだった。
それを追うようにナツキが、そして「じゃあおれっちも」とタンサンが受験し、見事に3人とも合格。春から通うことになっていた。

「どうぞどうぞ」

と言って姉さんは3人を部屋に通す。

彼女の部屋は、中央に折りたたみ式のテーブル、壁に隣接するように木製のタンスと本棚が配置されていた。
急いで片付けたのか、部屋の隅に雑誌が山になっていた。

「うちの高校あんまり厳しくないけど、その髪の色どうよ?」

扉を閉めた姉さんがミキオの金髪を指して言った。
いつの間にか手にはおぼんを持っており、お茶の入ったグラスが4つ載っていた。

「指導の先生と対決してやりますよ」

姉さんは「そ」と言って、おぼんをテーブルの上に置いた。

「さてと、本題ね。こっちで余ってたプレスタのハーフは、青2つと黒1つなんだけど…どうする?」

ガンダムTR-6[ウーンドウォート・ラー]とフルアーマーガンダムMk-2をそれぞれ表にした束がテーブルに出される。

「じゃあその青セット2つ貰ってあげる」

ナツキが「はい、白セット」といいながら荷物からカードを取り出す。
これで青セットが3つ。十分な枚数のカードが揃った。 ウチの色は青で決定だね。
ナツキはそう考えて少しほっとした。少なくとも白デッキを使わずにすむのだから。

「そうだ、これもあげるわ」

と姉さんはおもむろにデッキケースを渡した。
ナツキがケースからカードを取り出し、ぱらぱらと確認する。それを横から覗くミキオ。
政治特権に急ごしらえ…基礎カードばかりだった。

「姉さん、これ…」
「タケシのとこから持ってきといたから、使って」

タケシ先輩のところから”搾取”してきたのか…とミキオは苦笑した。
聞きなれない名前に首をかしげているナツキに、タンサンが「タケシってのは姉さんの幼馴染でカレシ」と小さい声で補足した。

「でも、姉さん…いいっすよ、こんなにあげたらこいつ自分で集める気なくしますし」

ミキオはカードを全部見終わる前にナツキからデッキケースごと取り上げて、テーブルの上に戻す。
戻されたデッキケースを見つめ、姉さんは納得したように「ちゃんと彼女のこと考えてあげてんだ」と言った。
ミキオからすれば「タケシ先輩に申し訳ねぇな」くらいの気持ちだったのだが、姉さんの言った「彼女」が気になった。

「いや、カノジョじゃ…」
「お似合いよ?」

姉さんはクスクスと笑って「でも、あげる」とデッキケースを再びナツキに渡す。
ぽんと手渡されたデッキケースを、今度はしげしげと見つめるナツキ。
素直に「ありがとう」と言いそうになったが、言葉を飲み込んで顔を上げる。

「あんたに言われなくても、ウチとミキオはお似合いなんだってば!」
「ちょっとまて!オレは姉さんのおっぱいのが…」
「うがー!ミキオのばかー!!」
「そうだぜミキオちゃん、おっぱいのおっきい女はバカって言うだろ?」

3人が口々に言う。
それを見ながら、姉さんはお茶を飲み「夕飯は何を作ろうか」などと考えていた。

「こうなったら、どっちが強いか決めればいいじゃんよ~!」

あーだこーだ言い合った末、タンサンがそう言った。
部屋の中が静まり返る。

「あたしと…ナツキちゃんで?」

姉さんは意表を突かれて自分を指差す。

「オレが両方のを揉んで決めるってのは?」
「っ…あんたが触りたいだけでしょ」

鈍い音。
胸を揉むポーズをするミキオに、間髪入れずに姉さん鉄拳が飛ぶ。

「ウチのはいつでも触っていいんだよ?」

頭を抱えて痛がるミキオに、今度はナツキが上目使いでそう言い寄る。
胸を強調するようなポーズだったが、残念ながら強調するほどのバストサイズはなかった。

「やっぱ、おめーのはいいや」
「うがー!!」

タンサンは輪から離れ、本棚の漫画本を読みだした。
ミキオとナツキの問答にはもう慣れたといわんばかりの態度。

姉さんはふうと息をついて、空になったグラスを下げてテーブルを拭く。

「1回だけよ?」

姉さんの言葉に、言い合いをしていた2人は顔を見合わせる。

「今デッキ作るからまってなさいよ!」

姉さんにキツイ視線を向けた後、すぐにミキオに向き直り「教えて☆」とウインクしてみせるナツキ。
ミキオのアドバイスを元に、姉さんから受け取った束とプレリュードスターターのカードからデッキを作ることになった。

タンサンは3人に桃色の背表紙を向け、黙々と漫画を読み続けている。
姉さんは彼に、「少女マンガだけど、面白い?」と伺うように聞いた。

「おれっち的にはこういうのもアリだね」
「ふぅん。あ、羽鳥にはこれがあったわ」

姉さんは思い出したように『Shop Championship』の箔が押されたジンクス3(コーラサワー機)を3枚差し出す。
タンサンはあざっす、あざっす!と頭を振った。

「やるわよ!」

ナツキがカードの束を手にそう叫ぶ。
随分簡単に出来たんだな、と少し姉さんは心配になった。が、本人がそう言うのだからお節介はやめだと考え直し、「じゃあ、やりますか」と手首にしてあったゴムで髪を結った。

ベランダに雨音が響く。どうやら降り始めたようだ。


つづく


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txt:Y256

初出:mixi(10.03.04-05)
掲載日:10.03.05
更新日:10.04.01