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栗田ミキオの家は府釜市の中央に位置する場所にある一戸建だ。
黄土色の外壁のこの家に、家族4人は住んでいた。

「学校はもう慣れた?」

ミキオの母、節子が朝食を食べているミキオにそう聞く。
父と弟はすでに家を出発したらしく、テーブルには二人だけが座っていた。
卵焼きを頬張ったミキオは「あ?高校昨日からなのに、その質問ありかよ」と口をもごつかせた。

「そう?」

のんきなことを言って自分の皿を下げる節子。
そのとき、玄関のベルが鳴った。

「ほら、ゆっくりご飯食べてるからナツキちゃん来ちゃったわよ?」

調子を変えないでそう言った節子に、ミキオは味噌汁を吹いた。
どうやら、彼女の中ではもうナツキが来るのは日常になってしまったらしい。

「もう行ったことにしてくれ」

玄関に向かった節子の背中に、ミキオはヒソヒソとそう頼む。
ドアを開けるなり「おはようございます」と威勢よくいうナツキに、節子は「ちょっと待っててね、ミキオならもうすぐ出るから」と告げた。

「かあちゃん!」

ミキオが「ハァ!?」と肩掛けカバンを片手に顔を出し、母を恨めしげに睨んだ。
が、彼の姿を発見したナツキが「あ、おはよ☆ミキオ!」と飛びついてくる。

「ミキオ」
「なんだよ?」

節子は、ナツキをどけながら靴を履くミキオを呼び止め、少し心配そうな顔をした。
何か真面目な話か、とミキオは身構える。

「ちゃんとしなさいよ。避妊」
「なに心配しとんじゃボケー!」

ミキオは勢い良く扉を閉めた。


第6(12)話 新生活と3人



「ひっつくな!」

ナツキの手を振りほどくミキオ。家を出てからもう何回目だろう。
彼女は学校でもこの調子だったので、二人の関係はたった1日で学年の大半の生徒が知ることとなった。

「えー、いいじゃん。ウチとミキオのことはみんな知ってるんだし☆」
「だから、いつそうなったんだよ。あと、朝から家に来るのやめろ」
「なんで?ガッコ行く途中に寄ってるだけだよ?」

と言いながら、今度はミキオの袖を小さくつかむナツキ。
どうやら彼女の家は――ミキオの家に比べて――学校から遠いらしい。
が、ミキオは彼女の家に行ったことはないし、行きたいと思わなかった。

そんなこんなで学校に着く。
制服を着た生徒で溢れる校門。
府釜高校の制服は紺色のブレザーに、男子はグレーのズボン、女子はカーキ色のチェック柄のスカートという風だった。

「今日もお熱いね~結婚式はいつだ?」

教室に入ると、すぐに男子生徒が声をかけてくる。ミキオよりも背が高く、坊主頭に釣り目の少年だ。
野球部によくいそうなタイプで見るからにスポーツマンであった。

「ヨシキお前、まさかこれから毎日その質問する気じゃないだろうな?」
「さぁ。お前らが毎日そうやって登校するなら、あるいは」

斉藤ヨシキはミキオの隣席の少年だった。
彼は伊達(M県の代表的な都市)のほうから来ているらしく、同じ中学校出身の生徒はこのクラスにいなかった。

それとは対照的に府釜中学は地元ということもあり、ミキオたちを含めかなりの人数が入学していた。
これもミキオとナツキの話が瞬く間に広がった要因のひとつである。

「ウチはいつでもいいんだけどね~結婚」

とはにかんだ笑みで言うナツキ。
この女はまた適当なことを、とミキオはナツキを彼女の席のほうに向けて、放す。

「お前ナツキちゃんにキツいよな。可愛いカノジョなんだから、大切にしろよ」

いそいそと鞄を置きに行ったナツキの後姿を見ながら、ヨシキはそう言う。
数秒間を空けて、「俺なんて生まれてこのかた、部活一筋だから彼女なんて…」とも続けた。

「部活一筋?よく言うぜ、パソコン部」

ミキオはハッと笑って席に着いた。
「パソコン部ナメんなよ?俺の…」などとパソコンの専門的な話し始めるヨシキ。ミキオはその話を聞き流しながら、片腕で頬杖をついてナツキのほうを見る。
彼女は近くの席の女子と話をしており、こっちに戻ってくる気配は無かった。
少し安心しながら、その横顔をしばし眺める。

整った顔つきに大きい目。彼女の目力はこの目の大きさからくるのだろう、決してマスカラのせいじゃない。
目線を下げる…胸は全く、ない。胸があれば言いワケでもないんだが。とミキオは考える。

「聞いてるのかよ?」
「ん、あぁ。日本語で話すなら聞いてやるよ」

その頃、ナツキはクラスメイトの女子生徒とメイクの話をしていた。
ナツキは、美への探求に余念がない。この教室、いや学年で一番気を使っていると自負していた。
おまけに彼女は器用だった。5段階評価でいうところの5。

パパに見つかるとまたあーだこーだ言われるから、髪だけは染めない。でも、それ以外はいつだって完璧にしてたい。
と、彼女がそう意気込むのには「可愛くキメればミキオが振り向いてくれる。ミキオは大人の女性が好きだから」そう思うところがあったからだ。

それなのに…。
「若いんだからさ、そんなにメイク頑張らなくてもいいんじゃない?」この前の”奴”の台詞が脳内で再生され、思わずしかめっ面になる。

「どうしたの?」
「ううん。なんでもない」

と言ってナツキはミキオをチラリと見る。

目が合った、感激。
胸の奥あたりが熱くなり、「ミキオー!」と思わず声を張り上げて呼ぶ。
しまったと目をそらすミキオ。

「いいなーラブラブ」
「でしょ?」

本鈴がなる。ホームルームの時間だ。
短髪に切れ長の目、淵の無い眼鏡をかけた女性教師が本鈴と共に教室に入ってくる。
ひと目見て「厳しそうだな」とクラスの大半が悟った。

「昨日は用事で外していたが、私がこのクラスの担任、真根木香子だ」

教団に立った教師はそう言った。
前日は代理で「副担任の森本です」と名乗る小太りの教師が来たが、どうもこの女性教師が担任らしい。

「では…」と、ホームルームをはじめる真根木。
そのとき、ガラガラと扉が開いた。

「スイマセン、遅れました~」

茶色の髪とだらしなく出したシャツの少年―羽鳥タンサンが、遅刻のくせに堂々と前方のドアから入ってきた。
そこに教師の鉄拳が飛んだ。
タンサンはよろけて、転ぶ。

「遅刻ならもっと静かに入って来い」
「な…ぶつこたぁ」

タンサンはぶたれた頬を押さえて、真根木を見上げる。
彼女の顔を見るなり、目を見開いて、口をぽかんと開けた。
そして、こう思った「いい女じゃないか」と。

「遅刻して申し訳ありません、真根木先生!!」

そう元気よく言って自分の席に戻るタンサン。
ミキオは不思議そうに、その目を輝かせた少年を見た。

ホームルームが終わって、1間目が始まる前の休み時間。
タンサンの席に行って「ぶたれて頭のネジでも飛んだか?」と一応心配するミキオ。

「惚れたぜ」

「は?」と呆れるミキオ。だめだ、頭のネジが完全に飛んでる。
タンサンはそんな彼を無視して、「そうだ」と手を叩く。
ミキオはいやな予感がした。こいつの提案に、あまりいい思い出が無い。

「ナッちゃんが早くゲームに慣れるように、今週遠征しようよ。ミキオちゃん」

やはり今回もろくな提案じゃなかったな、とため息をつくミキオ。
タンサンはひとり納得顔で「今週はカキヨで大会もないし」と続けた。

「いいよ!3人でお出かけしよ☆」

タンサンの提案に答えたのは、いつの間にかミキオの後ろに”迫っていた”ナツキだった。
もちろん、直後にミキオの肩に抱きつき、ミキオはそれを振りほどく。お決まりの流れが起こったのは言うまでもない。

「遠征なんかしなくても、そのうち馴れるだろ」
「ミキオちゃん。おれたちの為でもあるんだぜ?」
「あ?」
「場数だよ、場数。前の地区予選じゃ散々な結果だったろ?」

ミキオは言葉に詰まる。確かにそうだ。
前回の地区予選で、タンサンは3回戦を全敗で抜け、ミキオもタンサンとの対戦を制した以外は全敗だった。
そういう意味では、対戦回数を増やして次の地区予選までにはレベルアップはしたかった。

「…仕方ねぇな」

ミキオもしぶしぶ賛成した。


つづく


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初出:mixi(10.03.15)
掲載日:10.03.15
更新日:10.04.01