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「デストロイモードがないー!?」

ナツキは言った直後に慌てて口をつぐむが、時既に遅し。自分が箱にしたかったカードが何なのか、そしてそれが無理になったことが相手にバレた。
この宣言自体も嘘だと勘ぐってくれる可能性はあったが、そこまでのナツキの”まっすがプレイ”はそれが真実だと裏付けてしまっている。

「っ…デストロイモードがウチの全てじゃないしっ!」

ナツキは10枚ちょっとの捨て山を恨めしげに見るが、頭を切り替えようと残りの本国から箱の候補を探す。
程なく見つかる1枚のカード。「及第点かな」とナツキはそのカードをユニコーンガンダムに裏向きでセットする。

「箱はシーブック・アノー《17》!ユニコーンにセット」

賢明な判断だった。アルヴァトーレがいる以上、身を守る手段が無ければ粒子コインの餌食だ。
相手は長い髪を指でくるくると巻きながらその光景を見つめる。


第45(51)話 真の力



「たとえ話で…」

ナツキの対戦相手は、手元に4枚目のGカードを並べながらそう口を開く。
場のユニットはフレイがセットされたコロニーと奪われたMk-II(エル機)、そしてディアゴの効果で出たアルヴァトーレ。
アルヴァトーレは、ナツキのターンにユニコーンが出撃しないのを確認した後、粒子コインを2枚得ていた。

「君はブースタードラフトに参加したとき…」

ナツキは相手の言葉に、素直にブースタードラフトに参加したときのことを思い出す。
強化合宿での1回しかやったことはないが、丁寧に教えてもらったことや、順調に勝てた記憶は残っている。

「開封したパックからカードを1枚とって隣にまわすわけだが…君はどちら側のプレイヤーにパックを渡す? 向って『左』か?『右』か?」

手札のカードを裏向きで場に並べ、ブースタードラフトのカードに見立てる相手。
両手で「左側のプレイヤーか、それとも右側のプレイヤーかね?」と自分の左右を指した。

「えーと、最初は…右隣に渡す…だっけ?」

ナツキは少し得意になって笑う。ミキオに教わった部分であるから鮮明に覚えていたのだ。
「フム」と鼻を鳴らす相手。

「それも公式ルール的には正解だ。だが、この『社会』においては違う。…『宇宙』においてはと言い換えてもいいだろう」
「…は?宇宙?」

そこでナツキは我に返ったように眉をひそめる。何言ってんのコイツ?と相手を覗う。
堂々とした対戦相手からは遅延しようという雰囲気は感じられないし、現に時間はまだまだある。

「正解は『最初にまわした者に従う』…だ。誰かが最初にパックを右に回したら、全員が右に”まわさざるを得ない”」
「…んにゃ?」
「もし左なら、全員がパックを左にだ。”そうせざるを得ない”。これが『社会』だ」

ビッと戦闘エリアを指差す相手。

「シングルカードの値段は一体誰が最初に決めている?」
「カードの価値を最初に決めている者がいるはずだ。それは誰だ?」
「民主主義だからみんなで決めている?それとも自由競争か?」

早口でまくし立て、ナツキが口をあける前に勢い良く肘を卓にのせる。
しかし、音は立たない。無音だ。

「違う!!”最初にパックをまわすことの出来る者”が決めている!」

身を乗り出して熱弁する相手。
観戦していた真理は、思わず一歩前に出て身構える。
この奇妙な男がナツキに危害を加えそうになれば、即座にねじ伏せる気だ。

「この世のルールとは『右か左か』。ブースタードラフトのように均衡している状態で一度動いたら全員が従わざるおえない」
「いつの時代だろうと…この世はブースタードラフトのように動いている!」

アルヴァトーレのコインを2枚増やし、4枚とする相手。
戦闘フェイズに入ったことを示していた。

「そして、”最初にパックをまわすことの出来る者”は万人から尊敬されていなければならない」
「誰でもいいわけではない。無礼者や暴君ではハジかれる。それは『敗者』だ」

席に深く座りなおし、相手は息をつく。

「ブースタードラフトの場合、年長者か…ブードラの主催者に従ってカードをまわす…。尊敬する気持ちが全員にあるからだ」

強化合宿で、発案者の藤野武志が音頭を取っていただろうか?
ナツキは思い出そうとするが、思い出せない。そもそも、誰か一人が仕切っていたということはなかった気がした。

「もし仮に、そのブースタードラフトにシャア・アズナブルが参加しているとしたら…どんな人間だろうと、たとえ統一王者だろうとシャア総帥の後にパックを”まわさざるを得ない”」
「シャア…あずなぶる?」

難解な問題を前にしたような顔で首をかしげるナツキ。「誰それ?」と続けた。

「たとえ話だよ。敬意を払うものが必要と言うことだ。それはゆるぎない確かなもの、圧倒的な引き」
「それが『真の力』だ。その力の下には味方しかいない」

場に展開されたカードと伏せられた手札にチラリと目配せする。
4ターン目にしては揃いすぎたカードたち。

「私は最初にパックをまわすことの出来る人間になる!そのブードラの席に、この『晴田 員』が着く事になるのだ!」

音が立つほど荒っぽい仕草で、伏せてあったカードを取る相手…晴田。
しかし、音は立たない。無音だ。

「ディアゴの効果を使用、地球エリアにアカツキ(オオワシ装備)を展開しディアゴを移す…ドジャ~ン」
「まだいた…」
「いともたやすく行われるえげつない行為」

さらに、晴田はMk-II(エル機)とアルヴァトーレで部隊を組み、宇宙エリアに出撃させた。
フレイの効果を使用すれば、双方の部隊戦闘力は共に9。残り16枚のナツキの本国は、どちらかを防御しなければ致死する。
そのためのユニコーン。シーブックがセットされているため、確実に防衛は可能だ。

「ウチは最初、ミキオがやってるから始めたんだ。ガンダムウォー」

鼻歌でも歌いだしそうなくらい気分いい晴田を前に、おもむろにそう言うナツキ。
彼女は、綺麗にマニュキュアが塗られた自分の指…そして、握っているカードを見る。一方的な恋心から、ミキオと少しでも一緒にいたくて始めたカードゲーム、そのカードたちを。
晴田はミキオなる人物を知らないというよりも、ナツキの言葉自体に興味が無さそうにユニコーンガンダムを見た。

「でも、今は違う」

瞼を閉じるナツキ。

 振り向いてくれないミキオ…その彼が憧れていた姉さんにひたすら嫉妬した。
 でも、あの日。ミキオが少しだけ振り向いてくれたあの日。

 「いつものより、今日のほうがいいぜ」

 そこから見えてきたウチの独りよがり。
 姉さんは気取ってるけど悪い奴じゃない。もちろん、ミキオをたぶらかそうとしてるわけでも…ない。
 それに、ミキオの傍にいたい口実として始めたカードも、いつの間にか「もっと強くなりたい」と思うようになってたんだ。

そこで彼女は瞼を開く。
その強い瞳の中に、晴田は自分が敗北する”可能性”を見た。

「ウチは、あんたなんかよりずっとずーっと強い白プレイヤーを知ってる」

いつかそいつと…恋敵なんかじゃなくて、ちゃんとした対戦相手として向き合いたい。
ナツキは手札のカードを1枚抜き出しながらそう思う。

「だから、あんたなんかに負けてらんないんだって!」
「…?」

晴田はナツキの次のアクションを瞬時に予測する。
換装が無いことは先刻の”告白”で承知。追加ユニットだとしても粒子コインの敵ではない。

「ユニコーンガンダムに…NT-Dっ!!」

表にされたのは、強力なレアなどではない。
しかし、力強い1枚…NT-Dのカード。

「なん…だと?」


つづく


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txt:Y256

初出:mixi(10.07.22)
掲載日:10.07.22
更新日:10.07.22