創世:基礎設定

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コンセプト:スタンド的な召喚型並列身体としての異能ロボ、物理法則、オントロジー、状態機械としての物理法則と世界、終末と次なる創世、無意味、永劫回帰、超人


世界について①:基本部分

 作中での呼称は主に『この世界』『いまの世界』『再始暦世界』など。世界そのものを表す固有名詞は存在しない。別の世界の存在は空想されてはいるものの、実在を裏付ける事象は(少なくとも、表向きには)確認されていない。

 ヒトが知覚する巨視的な世界としては、大枠としては地球(以降、西暦世界)に近しい。すなわち人間が存在し、その眼には光が映り、耳では音が聴こえ、鼻では微小粒子のいくらかを嗅ぎ分け、上には天があり、下には地があり、大気があり、重力がある。火は燃え、水は流れ、風が吹く。

 だが、微視的・根本的にはまったく異なる物理法則が適用されている。物質やエネルギーの最小構成単位は『元子(エレメント)』と呼ばれる粒子であり、これは量子力学的な波動性や不定性を有さない。その結合原理さえ、仮想光子の交換を介した電磁相互作用とは似ても似つかない。
 ほか、重力は時空間の歪みではなく、地面方向へ働く力学定数。
 熱は振動そのものではなく、振動などから生成される、『熱元子』というれっきとした粒子である。

 当然、その中に生きる〝ヒト〟の肉体が、地球人類と同一であるはずはない。
 その細胞構造、代謝機構、極微のあらゆるプロセスが、『元子』・『連子』の化学法則に準じたもの。原子・分子のそれとはまったく異なる。

 にも関わらず、容姿や身体能力、臓器の機能や配置、知覚系に精神性といった巨視的・抽象的な階層では、再始暦世界の住人は、異様なまでに地球人類と似通っている。


世界について②:ビジュアル的には?

  空は変化のない、果てなき曇天。
  地は灰と褐に枯れ果てた、不毛の荒野。血の汚濁に染まった海。それを覆い、霞み、たなびく、水ならざる虚ろの霧。
  世界の中心に立つ銀の直塔(バベル)。虚霧の中から現れる、鋼の巨獣たち。

  そして、終わりかけの世界の中で、その胎に人の営みを宿す超巨大居住構造物(メガストラクチュアル・アーコロジー)群と、その守り人たる機巨人(ネフィル)


ネフィル

 機なるヒト型。鋼の巨躯。
 再始暦世界において主力兵器として運用される、巨大人型機械の総称。
 『断絶(オブリヴィオン)』以前のロストテクノロジーの中でも群を抜いた高度技術の結晶であり、多くの知識が忘却された再始暦世界においての新造はまず不可能である、とされている。

 主な特徴として挙げられるのは、三つ。

一つ、異様なまでの多様性。

 ネフィルには、同型が一機たりとも存在しない。すなわち千機以上存在する、そのすべてが一点モノ(ワンオフ)である。
 肉眼で分かる、巨視的・ハードウェア的な領域では、全機が完全な独自仕様。同一素体のバージョン違い、のようなものさえ存在しない。
 筐体を構成するマシンセルや演算核の物理アーキテクチャ、その上に載る制御OSやサポートプログラムなどは、一応、系統だてて大別できる。とはいえ同一の機能を担うマシンセルでも百種以上あることは珍しくないうえ、それぞれの品種内でも細かな差異(カスタム)が存在し、その組み合わせも千差万別。やはり同一品は存在しない。

 強固な代謝・修復・再生能力を備えるネフィルは、完成さえすれば基本、メンテナンスは不要。整備性を考える必要はあまりない。
 だとしても、独自仕様の機械巨人が千種以上ともなれば、製造以前に設計だけでも気の遠くなるようなコストが掛かるはず。

 多様であることが、様々な事態への対応力を高めるとしても、あまりに過剰。量産効果を投げ捨てすぎている。少なくとも、まともな工業製品ではありえない。

 いったいなぜ、このようなものが造られたのかは不明である。『断絶(オブリヴィオン)』以前に何が起こったのかを、再始暦世界の人間はほとんど解き明かせていない。

二つ、絶大な戦闘能力。

 確かなのは、ネフィルが極めて有用であること。強力無比な、兵器たりえること。

 大質量の筐体は、しかし鈍重を意味しない。おおむね30メートル弱~40メートルほど、人間の二十倍前後の縮尺を以てなお、見かけ上ですら(・・・・・・・)アスリート並み~それ以上の動作を容易く行える。
 それだけの絶大な馬力、緻密な姿勢制御能、慣性や反作用の負荷に耐えうる強度を、ネフィルは持つ。

 ただ、その巨体をもって走り、殴り、蹴る────それだけで、再始暦世界で新造されたあらゆる銃砲を凌駕する破壊力を発揮可能。もちろん同類よりの打撃を受け止めることも、両者の格闘技能に余程の差がない限りは当然できる。
 それがマシンセルの代謝により再生さえするのだから、再始暦製の兵器では、撃破は不可能といってよい。

 しかし、実のところ。ネフィルという技術体系において最重要なのは、物理性能(フィジカル)ではない。いかに強力で高機能であっても、あくまで筐体。容れ物に過ぎない。
 その中枢、本体は、脳にして心臓たる演算核。それがもたらす絶大な計算資源による、大規模述式(※)の高速実行こそが真価である。

(※述式→平たくいえば今作における魔法的サムシング。虚霧を介して物理世界を記述する変数を書き換え、無から物質やエネルギーを引っ張り出す。莫大な計算資源を要する。詳しくは後述)

 わずかコンマ数秒で、虚空から音速の鉄塊を、熱そのものを凝固させた熔刃を、天裂く雷撃を、高密度の爆薬塊を────その他、あらゆる高エネルギー現象を確率の海から引き出す攻性述式の脅威は、言うに及ばず。

 無から物質を取り出せるという特性による、即席の工作能力、
 自身の運動量の部分改変になどによる高い機動力、
 無から有を生み出す述式と、有を有のまま加工するマシンセルを組み合わせることにより、総質量をごっそり失うような損傷すら、外部からの資材供給を受けることなくスタンドアロンに復元可能。

 さらに一部のネフィルは物理量/変数の改変に留まらず、物理法則そのものの改竄すら可能とする。

 ファンタジー的に表現するなら、頑強さと機敏さを兼ね備えた鋼巨人にして、並ぶものなき最高位魔導師。

三つ、並列型第二身体。

 再始暦世界において最強の座に坐すネフィルだが、ひとつ決定的な弱点が存在する。これはネフィルの操縦(?)方式と密接に関連する。

 ネフィルは適性のある、というより〝相性〟がいい人間との同調(ペアリング)を経ない限り、起動すらできない。そのくせ解体しようとすれば自動で暴れ出すため、同調できる人間が見出されるまでは格納庫に眠らせるほかない。保有数の30%が実働しているなら、かなり運のいい方。
 十機あっても一機も(自勢力の中からは)同調者が見つからない────ということすら、そう珍しいことではない。なぜ著しく使い手を選ぶ仕様なのかは、そのワンオフ性と並んで謎。やはりまともな工業製品ではない。

 では、同調できた人間──同調者(テスタメンタ)と呼ばれる極めて稀少、特別、必然的に特権階級に据えられる人間たちは、いかにしてネフィルを操作するのか?
 その答えは、まったく自分自身の体として。自然体かつ自在に。
 増設された第二の人体、並列する身体性として、ネフィルは制御される。一応、主体は脳の側にある(ネフィルが破壊されてもテスタメンタは死にはしないが、テスタメンタが死ねばネフィルは停止し、新たな同調者が現れるまで再びスリープモードに入る)ものの、単なるマスタースレイブとは程遠い。
 脳髄と情報的に接合され、ひとつの複雑系、対なす精神の器として機能する主演算核は、もはや補助脳ならぬ並列脳、といって過言ではない。一心双体。

 脳髄と主演算核の間で、いかなる形で情報がやり取りされているのかは、その論理プロトコルも物理的通信手段も、実のところ定かでない(※)。
 しかし現在、テスタメンタとネフィル間にどれだけの距離、幾枚の壁を挟もうが、その繋がりが切れた事例は確認されていない。

(※Nephil-011〝ゼクレイネ〟の同調者、ラキア・ヘルンが自らのネフィルの隠匿領域ブラックボックスに侵入を試みたところ、『同義性共振マトリクス』なる名称を掠めとることには成功したものの、それがどのような原理で・どのように実装されているかは依然として不明である)

 そのため、テスタメンタを得て実働可能なネフィルには、兵器や重機としての価値のほかに、
 傍聴不能かつジャミング不能、両者が健在である限り、決して不通も遅延も起こり得ない、究極の通信機(・・・)としての価値もある。
 多くのテスタメンタを擁する三大勢力が、虚霧の影響で長距離通信が難しい再始暦世界において、数十隻の都市(コロニー)を連携させ、広い勢力圏を維持できる理由がこれ。

 加えて、亜述式『近似座標(シアミア)』により、同調しているネフィルとテスタメンタは瞬時に、もう一方の存在位置への実体化/空間跳躍すら可能。
 移動、奇襲、応戦、退避、など使い道は無限大。ただし、転移先に十分な体積と濃度の虚霧(=巨視的不確定性)が必要。いかに同義存在、〝自分〟同士の引力であっても、確固たる現実を割り裂くことはできない。転移に異物を巻き込んで運搬するのも、まったく不可能ではないが制約多し。他人は明確に無理。

 またこの転移は『引き寄せる』形でしか使えないため、たとえば窮地に陥ったテスタメンタが、遠方に配置していた自身のネフィルを召喚してしまえば、当然二点間の通信機としての役目は果たせなくなるし、再び元いた遠方に戻すには通常の移動手段を使うしかない。

戦闘中の短距離転移について

 亜述式『近似座標(シアミア)』を使った戦闘中の短距離転移については、大抵のテスタメンタが一度は思い付く。
 が、後述するベイルアウトと同じく、ネフィルが必要とされるほどの戦場に、短時間とはいえ転移座標として生身を晒すことのリスクは極大であるため、基本的に使われない。

モジュール構成

 多様極まるネフィルだが、それでも大枠として、多くの機体が共有するフォーマットは存在する。
 西暦世界の自動車に喩えるならば、エンジンもシャーシもトランスミッションも電装系も、何から何まで違う車種であっても、『エンジン』や『シャーシ』というモジュールの概念は共有するのと同じこと。あくまで『多くの機体が共有する』であり、例外機も多く存在する。

 ネフィルを構成するパーツは、まず二つに大別できる。
 すなわち脳にして心臓、最重要にして再生不可能、装甲の奥深くに隠された真紅の結晶コンピューター『演算核(ブレインコア)』と、
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 演算核それ自体についての詳細な説明は後述。この項目では『ネフィルに搭載されている演算核』に絞る。

 共通して、真紅の(=理論値ギリギリまで微細化された、最高位の)演算核を大体積かつ複数基、搭載する。あくまで共通しているのは回路密度であり、具体的なアーキテクチャには機体毎に個性がある。そのため行う計算・動かすアプリケーションには得手不得手が存在する。

 とはいえ、そもそもの水準が極めて高いため、基本動作の範疇ではコアの特性は表面化しない。100の処理能力があれば十分なところに14000を使おうが36000であろうが、大差はない。

 有意な差異が生じるのは、主に二点。一つは計算資源のぶつけ合いである架層戦。そしてもう一つの、前者以上に重要なのが、『述式』の実行能力である。
 述式の行使に必要となる全精度物理演算は、ネフィルの莫大な計算資源をもってしてもなお、幾枚と抽象化レイヤーを挟んだ汎用計算で処理するには、とてつもなく〝重い〟。
 またその時間発展を計算可能・記述可能な粒子数が、そのまま述式の最大出力・規模に直結する以上、こればかりはどれだけあっても十分とは言えない。

 よって、他機より遥かに優れた述式の実行能力を持つネフィルとは、すなわち非汎用(・・・)計算────特定の元子の振る舞いのシミュレーションに特化した専用回路(ハードウェア・アクセラレーター)に、コア体積の何割かを割いているということ。
 コア内でアクセラレーターが占める体積が大きくなればなるほど、特定の述式の実行能力は飛躍的に伸びていくが、もちろんその他の演算能力は割りを喰う。

(基本的に、搭載する演算核の総体積はあまり変わらない)

 アクセラレーターをほぼ持たない完全汎用型、複数種をつまみ食いする多角型、一目的の専用回路にコア体積の大半を割く特化型など、ネフィルのコア特性は非常に多様。

 熱学述式最強と謳われる機体、Nephil-232〝ラーヴェア〟などは、搭載コアの総体積の九割以上が熱元子シミュレーションに特化したアクセラレーターで占められている。そのため熱学以外の述式はてんでからきし。

演算核の主/副。


 ネフィルに搭載される複数基の演算核(ブレインコア)は、等価ではない。胴体内に据えられる、もっとも大体積かつ中枢機能を担うものを主演算核(セントラル・コア)、全身に分散配置される小型のものを副演算核(ペリフェラル・コア)と呼称する。

 主演算核はまさしくネフィルの本体であり、これを破壊されることがネフィルにとっての〝死〟。
 副演算核は失われても機能停止には至らないが、総演算性能は当然低下する(※)。

(※副演算核が破壊された場合、占めていた空間を骨格材が埋めるため、その部位の筐体強度は微妙に上がる。本当に微妙。演算性能の永続的低下を補うほどのメリットではない)

 また、ネフィルに搭載されている演算核は、記述光晶の基本機能(=外界への述式出力)を内蔵する。
 そのため装甲を解放し、演算核を外界に晒せば、そこからダイレクトに述式を発動可能。外装の記述光晶を経由するよりも、微妙に効率に優れる…………のだが、記述光晶と違って演算核は再生不可能。主演算核ならいうまでもなく、副演算核でも壊れれば永続的な性能低下は避けられない。せっかく分厚い装甲で防護されているそれを、あえて外界に晒け出すリスクに、『微妙に効率に優れる』程度のリターンでは見合わない。

 ゆえ、装甲解放による述式の直出力が使われる機会はあまりない。
 強いていうなら、戦闘中に外装の記述光晶をすべて破壊され、再生を待つ時間はない、などの状況。


  それ以外の全部位、マシンセル(とその精製物)の集合体であり、本体・中枢である演算核さえ無事なら何度でも再生・復元可能な『筐体』。
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記述光晶(ライトクリスタル)


 述式の出力装置にしてマルチセンサーである、水晶めいた無色透明の素子結晶体。掌部や武器などに大型のものが、小型のものは内装外装問わずに全身に配置される。
 フチなし眼鏡のように、記述光晶のブロックを最低限の金属関節で繋いだ水晶の手と、硬質な全身を縁取る透き通った浮彫りレリーフは、ネフィルを象徴する共通意匠である。

 ネフィルに搭載されるタイプの、性能面での最大の特徴は、通常の外界出力に加えて、記述光晶それ自体の虚霧耐性/観測強度の可動性と、それにより記述光晶自体を述式の対象にできること。

 通常、既製の物品を、非破壊的に述式の対象にすることは難しい。
 述式が『曖昧にしてすり替える』・『現実を一度溶かして再形成する』ものである以上、対象の虚霧耐性が高ければそもそも実行不可能で、かといって虚霧に溶かせてしまえば元々あった情報や構造はどうしても失われてしまう。

 だが独立したセンサー素子の集合体である、ネフィル搭載の記述光晶は、意図的に観測対象、範囲、解像度、すなわち虚霧耐性を制御できる。素子ひとつひとつの内部構造は強固に維持したまま、全体の運動ベクトルを不確定にする、平均温度は変えないまま、熱量を光晶内で偏らせる────など。
 無論、その過程で素子間の結合がちぎれることなどは多々あるが、即時の再結晶化が可能なので問題なし。

 多くのネフィルが標準で備える力学系述式『曳航推進』は、搭載する記述光晶群の運動量を改変し、その記述光晶に他部位が押され・引かれることで機体全体を移動させるもの。

 運動量変更の負荷が大きく記述光晶にかかるため、『曳航推進』のみで戦闘機動を行うことは基本的にはできない(※)。あくまで動作の補助や、非戦闘時の飛行などに使われる。

(※述式は原理上、どうしても発動にコンマ数秒のラグが生じる。そのため戦闘中に縦横無尽に飛び回りながら、リアルタイムで述式で負荷をキャンセル────のような使い方は二重の意味で不可能。
 逆にいえば、非戦闘時などに。前もって予定した動きをなぞるなら、コンマ数秒前に述式の発動を開始する、という手段が取れるため、ある程度は負荷キャン可能。ラグの時間自体も微妙にゆらぐため限度はあるが、戦闘中に比べれば最大加速度/許容荷重は大きく伸びる)

機能流体


 ネフィルの筐体内、動的立体流路形成材(アクティブキャヴァナス)内を流れる液体金属。
 総重量の1/3~1/2程度を占める。機血。色は機体毎に異なる。

 マシンセルそのものや、その餌である連子片の循環・培養、
 熱の伝導や衝撃の吸収、
 電力の補助導体&簡易コンデンサー、
 油圧ならぬ血圧アクチュエータ、
 機体内であえて偏らせることでの質量分布の変更、高速で周回させることでジャイロ効果を得る、など姿勢制御の補助にも使われる。非常に多機能。

動的立体流路形成材(アクティブキャヴァナス)

 孔の密度、本数、直径、経路etc……あらゆる性質をリアルタイムに変形可能な、多孔質材。流量の大きいストレートな大動脈が一瞬で毛細血管群に分割され、次の瞬間には海綿めいた立体孔の塊に変じ、また大動脈に舞い戻る。
 すなわち全体がパイプでありスポンジであり、同時にポンプ。機能流体の循環経路や速度、水圧、機体内分布を緻密にコントロール可能な理由がこれ。

 損傷時の〝止血〟も一瞬。

格納腔

 ネフィルの腹部などに存在することが多い、直径数メートル程度の空間。内壁の一部はディスプレイになっており、外部の光景などを表示可能。
 同時並行型の身体性制御であり、視界を含めた知覚系も並列二重に感覚でき、また二者の物理的距離がどれだけ開こうが接続の速度・帯域・安定性はいっさい落ちることがない=至近距離でも制御精度が向上したりはしない、というネフィルの特性上、テスタメンタ自身が乗り込んでも、あまりメリットはない。
 あくまで貨物室もしくは客室、テスタメンタ本人ではなく、モノや他人を載せるためのスペース、と言える。

催奇建材(テラトストラクチャ)


 厳密には、ネフィルを構成するモジュールではない。

 同調者を得ていないネフィルは、普段はうんともすんとも言わないくせ、解体しようとすれば全自動で暴れ出す。
 が、既にテスタメンタと同調し、テスタメンタの意志で稼働しているネフィルならば、テスタメンタ自身が協力的である限り、サンプルを切り出すことに抵抗はない。
 ネフィルを構成するマシンセル、という最高峰の連子機械を、継続的に安定して入手できる。その研究価値は、絶大な戦闘能力と絶対の通信能力に並んで、実働可能なネフィルがもたらす莫大な益の一つ。

 が、ネフィルの筐体部を構成するマシンセルは、基本的に本体(セントラル・コア)との接続が断たれてから一定時間で自壊を開始。元の形だけは残るものの、極微機械群としての情報や機能は完全に死に絶えた、灰色の化石に変貌する。
 そのうえ本来のタイムリミット前でも、外部からの走査や解析を認識すれば、高熱と共に急激な崩壊を起こして砂塵と化す。

 このマシンセルの持つ機密保持システムは、テスタメンタ当人にも解除不能。よって貴重なサンプルを毎朝手に入れては、昼前には同質量の無価値な石や塵を廃棄する、というのが、再始暦世界におけるネフィル担当のリバース・エンジニアの日常である。

 しかしまれに、偶然運よく、マシンセルをハック可能な信号パターンや薬物組成などが、発見される事例も存在する。
 しょせんは理解のないまぐれ当たりの異常動作、命令を聞かせるなどもっての他で、基本的に可能なのは『自壊しない』~よくてせいぜい、『与えた物質を材料に、サンプル元の本来の周辺部位が復元される』まで。
 その『復元』もきわめて不完全なものであり、元のネフィルに比べて形状やサイズがひどく歪んで捻じくれた、奇形発達するケースが多い。

 が、いかに歪んだ、異常・暴走・奇形発達したマシンセルであってもなお、それは高度なロストテクノロジーの結晶。
 単純なマテリアルとしての強度や耐熱性、自己修復性であれ、あるいは物質の変成能力であれ、必ず何らかの使い道が存在し、これを催奇建材と呼称する。

 単純な物体としての強度が高く、フレーム材などに流用されるものを『奇骨』。
 物質の変成・加工能力を持つものを『歪臓』。
 巨視的なパワーを発揮するものを、『化筋』と呼ぶ。

 なお、ネフィルの独自仕様性から、催奇建材のレシピを他のネフィルに使い回すことは、基本的にできない。



【テスタメンタ/スティグマ】


 ネフィルとの同調によって得られるのは、ネフィルという機の巨躯のみではない。
 元の、生身の側にも生体保全用統合医療システム〝スティグマ〟が移植(インプラント)され、肉体の強度や治癒能力が飛躍的に上昇。筋力などもアシストされるほか、不老性まで付与される。

 この〝スティグマ〟は、おおよそ二つのユニットからなる。
 一つは、紅玉をあつらえたような腕輪や首輪(位置には個人差アリ)。よく見ると皮膚と癒着融合している。嵌め込まれた紅い宝玉は小型の最高位演算核であり、これ単体でも対人クラスの述式なら高速で連射可能。
 テスタメンタであることを示す、分かりやすい外見的サイン。

 もう一つは、全身を侵襲する生体適合材料(バイオマテリアル)の金属繊維網〝コクーン〟。
 真皮下から骨髄まで、くまなくに根を張り、行き渡り、ミクロの領域では繊維表面の有機連子マニピュレーターによってあらゆる生理機能に介入。
 マクロの領域では、単純に人体に高い防弾・防刃・耐衝撃性を与えるほか(※)、
 大きな外傷を受けた場合には繊維自体が鉗子と縫合糸を兼ねて即座に傷口を縫い合わせ、運動機能に障害が生じている場合は繊維が束なり触手と変じ、四肢の機能を代行する。
 脳髄さえ無事であれば、テスタメンタが死ぬことはない。

(※ダイラタント流体めいて強い衝撃を受けた時のみ機能するので、普段からテスタメンタの肌がガチガチに硬い、というわけではない。また、真皮のすぐ下まで侵襲しているが巧妙にカモフラージュされており、肌から透けて見えることも、平時はない。
ただしダメージを受け防御機構が発動した時や、急速な肉体再生のために繊維が活性化した際などは、皮膚下で蠢く繊維が浮き彫りになる)
(〝スティグマ〟の金属繊維は外見に影響を与えないが、体重は当然増える。だいたい本来の値×1.5倍程度。繊維は人工筋肉としてのパワーアシストも担うため、当人の主観では体が重くなったとは感じない)

 高い身体能力と、小型とはいえ最高位演算核を持つテスタメンタは、それ自身も超人といって差し支えない。
 とはいえ、あくまで人体の規格の延長上にしては強い、であり、腕力や耐久性などの肉体性能としては、同等の技術レベルの機巨人(ネフィル)に対抗しうるものではない。
 が、同義性共振マトリクスという絶対の通信システムにより、己のネフィルの計算資源と常時直結しているため、述式の実行能力や架層戦の接続ノードとしての有用性においては、ネフィルに近い水準を発揮可能。
 再始暦世界において、最強の正面戦闘能力を持つのがネフィルの機体であり、サイズや隠密性に対して最優の破壊能力を持つのがテスタメンタの肉体である。

 なお、〝スティグマ〟こそがネフィルとテスタメンタを繋ぐ、マンマシンインターフェイスなのでは? と誤解されることが多いが、実際には異なる。
 〝スティグマ〟の機能に不全が生じても、脳髄とネフィル主演算核の両者が健在であれば、ネフィルとテスタメンタの同調には影響は及ばない。

 〝スティグマ〟によって強化されたテスタメンタの肉体は、少なくとも生命維持の領域においては、衣食住をいっさい必要としない。、身二つ(・・)で、数百~数千年(=演算核の寿命)の時を生き続けることが可能。
 それはつまり、生存に他人を必要としなくなる、ということでもある。

同調率


 ネフィルとテスタメンタのペアごとに存在する値。
 低ければその動作にはどうしても小さなブレやラグが生まれ、一方で高ければ、本来の肉体以上に鋭く精密な動作が可能となる。
 ネフィル同士の近接戦闘においては、彼我の同調率に5%の遅れを取ればかなり不利、10%以上の開きがあればまず勝てない、とされている。

 最低限の起動ラインが80%、最高で99%台。100%に到達した事例は確認されていない。算出基準・方法は不明。



確率融解/単躯制働


 一心双体であるテスタメンタが、亜述式『確率融解(デリテナ)』によってあえて一方の身体を形而下世界から消失させ、単独の身体で活動する状態を、『単躯制働』と呼ぶ。縮めて『単躯』とも。対義語は双躯制働。
 定義上はどちらを消し/残してもよいのだが、実際に使われるのは、もっぱら生身の側を消失させた、ネフィルのみでの活動。

 通常ならば『確率融解』によって消失させた物質の、実世界への復元や回収は不能だが、テスタメンタとネフィルの同義性だけはそれを成せる。通常空間中の遠方にいるのとまったく同じように、『近似座標』で至近距離に即召喚可能。
 召喚による実体化の瞬間の状態は、『確率融解』による消失直前とまったく同じ。そのため脳髄と演算核間で同期を取りなおす必要があり、復帰した側の身体は半秒ほど硬直する。

 戦略・戦術のレイヤーにおいては、単躯制働はまったくもって不要、どころか不利益でしかない。
 両方が実体で活動していれば、別行動を取らせることも、通信装置として使うことも、一回きりとはいえ即座の空間跳躍も可能というのに、なぜ、わざわざひとつを消して、ひとつの身体で運用する必要があるのか?

 しかし戦闘のレイヤーにおいて────ネフィルの単躯制働の恩恵は、あまりにも大きい。 まず、同調率+10%相当の動作の精密性や即応性の向上。加えて感覚の鋭敏化(ハードウェアのセンサー感度は変わらないものの、精神の側がより深く没入できるようになる)。

 そしてなによりのアドバンテージとなるのが、個人差はあるものの、最大で3倍以上(※)にも達する主観時間の加速。
 双躯時では二つの身体、二つの頭脳を一つの意識、一つの時間認識に統合するため、主演算核側の共振エミュレーターに課せられているクロック上限が、単躯時には解放される。

(※しかしそもそも、単純な計算能力としては、ネフィルの主演算核はヒト精神を数万倍の速度で実行できてもおかしくない。
それがせいぜい、数倍が限界となる理由は不明。阻まれる、という現象のみがある)

 単躯制働に移行した瞬間、ネフィルの動きは目に見えて変わる。ネフィルに対抗できるのはネフィルだけ。ならば単躯制働に移行したネフィルに対抗できるのは、同じ単躯のネフィルか、さもなくば双躯を複数機。

 本来ならば、戦闘の優位が戦術・戦略の優位に勝ることはない。
 しかしネフィルという稀少な決戦兵器に、戦力の九割を預ける再始暦世界においては、ネフィルの戦闘の優位こそが、すなわち戦略・戦術の優位となる。

ベイルアウト

 単躯制働中のネフィルが破壊されれば、当然その人物は死体も残らず(確率融解による消失から回収できないまま)死ぬ。ベイルアウトとは、追い詰められた単躯ネフィルが最期の一瞬に、せめてもの悪あがきとしてテスタメンタの肉体を召喚する行為を指す。
 双躯状態ならば、ネフィルが破壊されても(廃人化しかねないほどの精神的ショックは受けるものの)テスタメンタが死ぬことはない────が、単躯のネフィルとは、紛れもなく再始暦世界において最強の存在。
 それが滅ぼされるような激烈な戦場に、生身で放り出されては、どのみち生存率はそう高くない。

虚霧


 正式名称は『事象不定場』。物質というよりは、場、空間、系の『状態』という方が適切である。視覚化された不確定性。曖昧さそのもの。

 本来、再始暦世界の物理法則は決定論的である。物質やエネルギーの最小構成単位である『元子』は量子的な不確定性や粒子/波動の二重性を持たない。いかなる時でも粒子として振る舞い、またそのパラメータは常に一意な値を取る。
 そのため『ある一瞬』の状態さえ完璧に把握できれば、元子やその集合が取りうる挙動、辿る未来は理論上(※)、完璧に予測可能となる。

(※実際には、観測精度と計算資源の問題から、全精度未来予測が可能なのは、小規模な閉じた系のみ)

 だが、虚霧という巨視的な不確定性。あたかも霧のように見える/振る舞う〝曖昧さ〟に満ちた系では、そうではない。
 あらゆる実在が揺らぎ、物理量は一意性を失う。

 虚霧への暴露により、十分な存在確率を保てなくなり、事実上消滅することを俗に『溶ける』『融ける』などと表現する。

 構成元子間の相互作用が強く、複雑なものほど虚霧に対する耐性は高い。そのため原則として気体より液体、液体より固体の方が虚霧耐性は上。
 人体……というか生体はリアルタイムで進行し続ける化学作用、相互観測の塊であるため、極めて高い虚霧耐性を持ち、多少の虚霧濃度では小揺るぎもしない。

 一方で、代謝が止まった死体の虚霧耐性はそこまで高くはない。遺体を高濃度の虚霧に晒して消失させる〝霧葬〟は、火葬や化学葬に並び、再始暦世界ではポピュラーな葬送手段である。

 また、虚霧は符号化し(※)、物理空間ではなく架層空間内に保持することが可能。

(※具体的には? なんか情報理論とか混ぜていい感じにしたいけど己の無知無知さが牙を剥く……)

 虚霧に対して保存則は、厳密には成立していない。濃度が低ければ、系内の相互作用の観測効果に削り切られて消失し、逆にある一点の濃度を超えれば、坂を転げ落ちるように曖昧さが増大。最終的には『虚海』と化す。

虚海

 虚霧の究極系。無限小の大きさを持つ確率が無限数、重なり合った空間状態。すべてが在り、何も無い。

 一切の光元子を発しないが、なぜか人の眼には『向こう側を持たない、真なる透明』と映る。長時間見続けると精神の均衡に悪影響。

 どれだけ高い虚霧耐性を持っていても虚海内に侵入すれば問答無用で消失し、またいかなる述式・亜述式でも確定させることは不可能。発生した虚海に対して取れる手段は、『触らない』のみ。

 なお、虚海化ギリギリの高濃度虚霧をL化物質などを用いて押し留め→着弾点で機能停止させて周辺を虚海化、そこにあった一切を問答無用で消失させる『虚海化弾頭』なる兵器も開発されている。

+ ...
 <大洪水>
 実は、虚海が虚霧の究極系というのは主従が逆転した認識である。
 あらゆる可能性────変数たる物理量に留まらず、定数や演算子、法則そのものを無数に内包する虚海は、いわば分化全能性を持った世界の胚。

 人類世界は虚海の分化によって創られ、虚海への還元・初期化によって終焉を迎える。
 虚霧とは、創世後の虚海の残り香であり、終末における虚海の氾濫『大洪水』の先触れ。過渡期にのみ現れる、虚海の付随物に過ぎない。


述式


 虚霧を介し、物理系の変数を書き換える技術。確率制御。魔法めいた何か。大地は枯れ果て、海は赤く染まった再始暦世界において、ほぼ唯一の物質・エネルギー資源を得る手段でもある。

 原理としては、端的なアナロジーとして「曖昧にしてすり替える」「現実という強固な氷を一度溶かし、好きな形に再凝固させる」と説明される。

 必要なものは三つ。
 まず第一に、望む事象の規模に対して十分な体積と濃度(不確定度合の大きさ)をもった虚霧。
 虚霧濃度が低い(物理系全体が強固な一意性、確実性を持つ)環境中では、自ら記述光晶より虚霧を散布する。既に十分濃い虚霧が満ちた環境では、在るものをそのまま使えばいい。

 第二に、望む事象をコンマ数秒分、元子ひとつひとつのレベルでその時間発展をシミュレートする全精度物理演算。最終的な出力(レンダリング)さえ物理学的に正しければ、それを導いた演算過程は問わない。

 しかし周辺の光量や温度、虚霧自体のゆらぎなどの外因変数を(非全精度/だがそれなりの高精度で)組み込む必要があるため、一度行った物理演算を保存して使い回すことは、基本的に不可能。

 そして第三に、実相記述言語『クリファ』に演算結果を載せての、光学パターンという形での虚霧内への高密度情報投射。
 一瞬を切り取った静的な状態記述では意味がなく、コンマ数秒間の連続出力で、引き起こしたい時間発展をリアルタイムで書き込み続けてようやく、虚霧がひとつの事象へと収束し、実物理状態として固着する。

 戦場の華、主攻撃手段であると同時に、終わりかけの再始暦世界で物質・エネルギー資源を得るほぼ唯一の方法。

 作り出す元子が一種から二種混合になるだけでも相互作用が複雑化し、必要計算量が爆発的に跳ね上がるため、資源目的の述式(※)で生成するのはもっぱら単一元素のインゴット。
 作り出した複数種のインゴットを素材に、普通の形而下的物理的手段で合成や冶金といった加工を行う、する、という手段が取られる。

(※軍事目的で使われる攻性述式も、もっともメジャーなのは単一種類の元子を大量に生成して大量にぶつけるシンプルなタイプ。
 複雑な化学物質を作る述式を、実戦的な出力・規模で扱うには、ダアト述式ほどではないにせよ、相当な計算資源が必要となる)

亜述式

 虚霧を利用した技術のうち、全精度物理演算を必要としないもの。
 虚霧にモノを溶かして消し去る確率融解<デリテナ>や、それを散布型の防御幕として用いる減衰霧幕<フォルミ>、ネフィル同調者が使う近似座標<シアミア>などが該当する。



実相記述言語〈クリファ〉

 述式の行使に必須となる、出自不明の言語。元子の状態変数と時間発展を完全に記述可能。

 言語、とは名付けられているものの、自然言語からは程遠い。文法と情報量の両面において、人間が直に読み解くのは極めて困難。
 では、〈クリファ〉は機械語か? それも違う。機械語という名称は、機械が解釈・実行するからこそのもの。
 だが演算核や記述光晶といった機械にとって、〈クリファ〉は述式の発動プロセスにおいての最終出力フォーマットでしかない。基本動作はおろか、述式の最重要プロセスである全精度物理演算でさえ〈クリファ〉が出る余地はない。

 それなら、〈クリファ〉を入力され・解釈し・実行する主体はなにか────
 それは虚霧であり、世界という自律系であり、物理法則という状態機械そのものである。〈クリファ〉の本質は、世界構造に直通したインターフェイス。完全な夢想(シミュレーション)と現実を等価に繋ぐ、〝(シェル)〟に他ならない。

 外形としては、三次元空間上に投影される、フラクタルな立体光学言語パターン。巨視的にも微視的にも魔法陣めいている(イメージとしては、電脳コイルの暗号式的な……)(図形としてのクリフォトの要素をどこまで入れるかは考え中)。

 高濃度の虚霧中に、〈クリファ〉という言語(に載せられた全精度物理シミュレーションデータ/述式)が照射されることで、虚霧の確率ゆらぎは指向性をもって収束し、ひとつの元子の塊、ひとつの事象として確定する。

 虚霧濃度が低い=強固な確実性を持つ環境内に〈クリファ〉を照射しても、ただ眩しいだけ。

ダアト

  通常述式では必要とされない〈クリファ〉の番外モジュールを、法則変造用・下位構造記述言語〈ダアト〉。
 それを用いて発動される、極めて特異な述式を『ダアト述式』。ダアト述式によって展開される異種物理法則を、『ダアト法則』と呼ぶ。Law-Level Language、L3とも。

 通常、〈クリファ〉によって記述されるのは/述式が改竄しているのは、あくまで物理量──物理系の変数域に限定される。
 無から光を、雷を、鉄を、油を、その他諸々の事象を引き出そうが、それはあくまで光であり、雷であり、鉄であり油であり、標準物理法則が許容する状態変数のセットでしかない。

 だが、虚海化寸前の、極めて濃い虚霧の中では物理法則を記述する演算子・定数すら揺らぐ。揺らぐということは、述式によって改竄可能になるということ。
 そして『ダアト』は理論上、人間が想像できるあらゆる物理法則を記述・展開可能──なのだが、実際にはそのほとんどが実用性を持たない。

 なぜかといえば、異なる物理法則の大半は、標準物理法則と『噛み合わない』。
 標準法則下にある空間や物質、エネルギーの一切と相互作用をせず、つまり事実上、何も起きないのである。

 標準法則と『噛み合う』、形而下の世界に影響をもたらせる法則体系は極めて稀少であり、かつ、その内部定数を億分の一いじるだけでも、その実効性は失われる。ダアト述式の実用解とは、砂漠に紛れ込んだ砂金の粒のようなもの。
 ゆえに、Aの効果を持つ既知のダアト述式があるとして、少しアレンジしてA´の効果を持たせる──のようなことは、まず出来ない。

 存在するであろう『法則を制御する下層法則』や『法則同士を仲介する法則』は、標準物理法則下では完全に隠蔽されているため(※)観測不可能、ゆえに解明困難。

(※元子と背景場の振る舞いを記述する第一原理のみで、標準法則下のあらゆる現象を過不足なく、アノマリーゼロで説明できるため、探ろうにも取っ掛かりが存在しない)
(なお、あとあと密かに埋め込まれていた例外処理の判明や、アノマリーの塊が出てくる予定)

 物理法則そのものを改変するだけあって、標準法則内で変数を書き換えるだけの通常述式とは様々な意味で一線を画すことが多い。

 単純に桁違いの元子量を扱えるもの、改変法則それ自体に情報処理能力を持たせた(より正確には、あらゆる物理法則は計算機であるため、標準法則よりも人間が利用しやすい入出力を持つ、という表現が適切である)もの、
 標準法則下では存在しない物質を生成するもの、あらゆる強度を無視して巻き込んだものすべてを消失させるもの、時空間を捻じ曲げるもの……etc.、モノによっては一度の発動で全体の戦況を覆すことすらありうる。

 が、通常述式とは桁違いの計算資源を要求されるため、汎用計算での実行は極めて困難。
 少なくとも25~45mほどの筐体に収まる演算核の体積では、絶対に不可能である。

 逆説的に、ダアト述式を行使可能なネフィルは、例外なくコア体積の数割~大半をその専用回路に割いている(※)。
 そのため通常述式や架層戦の領分では、ダアト持ちのネフィルは非搭載機に遅れを取ることが多い。

(※極端な例では、Nephil-786〝イルシウス〟の演算核は、実に総体積の八割がダアト述式『仮構歯車』専用のアクセラレーターに費やされている。
 〝ラーヴェア〟が演算核の九割を熱学に特化させていることを考えれば、意外と少ない……と思われるかもしれないが、〝ラーヴェア〟の場合は『凝熱刃』『熱線砲』『灼気噴流』『熱波』など、熱元子にまつわる述式のほとんどを超高出力で実行可能。対して〝イルシウス〟が特化しているのは『仮構歯車』一本のみ。
 同じハードウェア特化であっても、通常述式用は『元子種/分野』であり、ダアト述式用は『単一』となる)

 なお、あくまでダアト述式の定義は『〈ダアト〉モジュールを使用して物理法則を記述し、展開する』こと一点。
 変造法則を張っておしまい、ではなく、『異なる物理法則を展開した上で、通常述式のように内部変数も制御する』ようなダアト述式も存在する。

 実用的には、述式を使うための〈クリファ〉がまずあり、それに加えての、特異なダアト述式を使うための〈ダアト〉、という理解で問題ないが、
 厳密には、法則を記述する〈ダアト〉モジュールまで含めて初めて〈クリファ〉の物理記述は完全であり、一般に通常述式と呼ばれるものは不完全な略式である。

 通常述式が変数の記述のみで実行できるのは、既にある標準法則をそのまま利用するゆえ、〈ダアト〉による法則記述を省略できるため。
 特にメリットがないので使われることはまずないが、〈ダアト〉で標準物理法則を記述したうえで、〈クリファ〉通常モジュールで変数を操作する、ということも一応可能。この場合、〈ダアト〉部の有無はいっさい最終的な挙動に影響を及ぼさない。

 ダアト述式ごとの特性
+ ...
  • 持続時間
 ダアト述式によって展開されたすべての異種法則は、一定の時間で自動的に効果が失われ、標準法則に復帰する。
 傾向としては、複雑なものほど持続時間は短く、単純なものほど長いが、例外も少なくない。

  • 効果範囲/効果対象
 そのまま。

  • 残留性
 ダアト述式によって作り出されたものが、ダアト述式が解けた後にどれだけ残るか、という値。存在しない物質を生成するものや、鏡像を作り出すタイプなどは、基本的に効果終了と同時に消滅する。

(通常述式によって生成された物質は、資源として使われることからも分かる通り、勝手に消えたりはしない)

  • 侵蝕性
 述式が『一度曖昧にしてすり替える』ものである以上、高い虚霧耐性を持つ敵に対して、述式による直接改変攻撃を仕掛けることは不可能である。これはダアトでも同じこと。
 が、敵を駆動させる物理法則それ自体を直に書き換えることは出来なくとも、既に成立したダアト法則が展開された空間や物体と敵が接触した際に、『成立した法則同士の侵蝕と上書き』は起こりうる。

 十分に高い侵蝕性を持つダアト述式は、防御不能の即死攻撃としての運用も可能。

  • 条件依存性
 一部のダアト法則は、特定の物理構造(換言すれば、特定の物理変数セット)がある場合のみ、成立する場合がある。
 この場合はその変数セットがそのまま発動条件に加えられ、またその変数セットが物理的な破壊などによって範囲外に飛び出してしまえば、持続時間に関係なくダアト法則は崩壊する。
 効果対象と密接に結びついていることも多い。

演算核(ブレインコア)


 宝玉めいた、有色透明の結晶状演算機関。究極のアナログコンピューターとして作用する、立体微細回路の塊。
 処理装置と記憶装置の不可分性や、無数の最小構成回路(セル)を結合させて高冗長性ネットワークを形成する点を始めとして、多くの生体脳的な性質を持つ。
 色は総じて単色。体積あたりの計算能力では紫色のものがもっとも性能が低く、真紅のものが最高位。ネフィルに搭載されているのはすべて真紅。

 再始暦世界の法則において、元子運動量や時間などの一部パラメータは量子化されない無限の『なめらかさ』を持ちうる。
 とはいえ物質を形作る『連子』の微細化には限度があるため、そこに無限の情報量があっても、実際に計算に利用できる量には限度がある。その理論上の限度に、極限まで近づいたのが真紅の演算核、ということになる。

(この辺述式の全精度物理演算と矛盾する? 述式は初期配置を非常に計算しやすい形に設定してるから~とかでいいだろうか)

 また製造過程の最終盤、回路の形成過程でカオス的な自己組織化プロセスを挟むため、ある程度の方向性こそ事前に設定できるものの、完全に同一な演算核は存在しないし、造れない。
 これは性格も能力も似通った一卵性双生児であってもなお、脳内神経網の一本一本の配列を見ていけばまるで別物である、ということと近似。すべての演算核の固有IDはこの物理的個性から生成されるため、事前の照会や管理がなくとも被ることはまずなく、また偽証は極めて困難。

 初回起動では、起こりうる回路形成の幅やゆらぎ、差異を吸収可能な、極めて冗長かつ分厚いOSでブートされ、その後に自身を実行する演算核を走査・診断。
 徐々にソフトウェア側が冗長性を削ぎ落し、自身をハード側に最適化していく。そのため演算核の実効性能は、その寿命初期から中期にかけては、使えば使うほど伸びていく。

 一度完成すれば、一切外部からのエネルギー供給も廃熱も必要なく稼働し続けられる(※)、西暦世界から見れば第二種永久機関めいた代物だが、実際には演算のたびに少しずつ回路が摩耗していくため、演算核には明確に限界寿命が存在する。

(※厳密には、出力信号の発信でコア内部のエネルギー総量は減少する。が、入力信号分で相殺される)

 現状、再始暦世界の資源は九割以上が述式による生成で賄われており、そして述式の発動には高位~最高位演算核が必要不可欠。
 しかし再始暦698年現在、再始暦世界の人間が生産に成功しているのは中位演算核まで。述式に使える高位演算核の新造は、まったく目途が立っていない。

 都市を支える基幹演算核の寿命が、最大でもおよそ800年と推定されていることを考えると、タイムリミットはそう遠くない、とされる。

 また物性として、加えられた応力や衝撃などを瞬時に全体に分散する、という特性を持つ。
 そのため、演算核にヒビや欠けが入ることはない。閾値までは軋みながらも割れず砕けず、閾値を超えた瞬間、全体が同時に粉砕される。リバースエンジニアリングが難航する大きな要因。

架層

 演算核というハードウェアが行う計算上に、仮想的・抽象的に構築される情報構造の総称。
 西暦世界における論理層に近い意味。仮想+架空+高架+階層で架層。
 用法としては架層攻撃、架層防壁、架層戦など。
 対義語として、物理層のことを“基層”と呼ぶ。

記述光晶<ライトクリスタル>



L化物質、L化材質

 生体組織以上の複雑性や情報処理性、それによる高い虚霧耐性を持つ物体の総称。
 Lは、LogicalまたはLivingの意。演算核は元より、ネフィルの筐体や都市<コロニー>骨格のマシンセルもL化物質である。
 その複雑性、構成元子の相互観測強度ゆえに虚霧に溶けることがないが、
 その複雑性ゆえに述式=全構成元子のリアルタイム物理演算によって、虚霧の中から生成することも、また不可能である。

整順結晶

 その元子の連なり-連子構造において、一切の歪みや捻じれを持たない物質の総称。
 この“一切の”は『観測不能な』のようなレベルではない、真性に誤差ゼロの理想的な結晶構造であり、同じ組成であっても、通常物質に比べて遥かに高い強度を誇る。
 通常の物質加工手段では、その精製は原理的に不可能だが、全精度物理演算によって物質を無から『その状態で作り出す』述式においては、むしろ計算モデルを単純化できるために通常物質よりも生成は容易い。
 一方で欠点としては、単純性ゆえの虚霧耐性の著しい低さが挙げられる。複雑性ゆえに高い虚霧耐性を持つが、述式による生成が不能であるL化物質とは真逆。
 述式によって虚霧から生まれやすいものは、虚霧へと還りやすく、その逆もまた然りである。


実存基定唯我〈セフィラ〉


 詳細は不明。実相記述言語〈クリファ〉と深い関わりを持つと推定される。

静漣<サイレン>

 ネフィルが標準で搭載している、複合型の短距離無線通信プロトコル。主に、戦場での音声通信に使われる。
 記述光晶の高速点滅パターンや、可聴域外の超音波、空気中微細電位などの複数の無線手段を複合させての相互補完構造を、ネフィルの巨躯の全身を送受信に使って実現しているために、非常に優れた安定性を持つ。
 戦場という、爆発や閃光、粉塵や(中濃度までの)虚霧といった、擾乱ファクターにあふれた環境の中で、なおかつ三次元機動を取る高速の動体間で、クリアな音質を維持しての音声通信が可能な規格は、静漣と同義性共振マトリクスのみ。後者はネフィルとその同調者<テスタメンタ>のペア間でしか使えないため、汎用的に使える技術としては静漣が唯一である。
 弱点としては、有効距離の短さが挙げられる。だいたい有視界程度が限界。メタ的には、機械巨人のスケールで『見える範囲なら声が届く/見えない距離なら届かない』という芝居をやるための設定。通信に使われる点滅や超音波や電位変化は、いずれも人間の感覚器ではほぼ知覚できないため、いかに静漣<サイレン>上でまくしたてようが、同じ場所にいる生身の人間からは、ごく静か<サイレント>である。

 静漣の通信プロトコルにはすべてのネフィルが対応しており、かつ、音声チャンネルはネフィル間では常にフルオープンになっている。これは同調者本人であっても変更不能。
 音声以外のパケットは各々が個別にフィルタリングできるため、ネフィル同士ならいくらでも架層攻撃を仕掛けられる、というわけではないが、無害な音声データに乗せられた口撃に関しては、食い止める術はない。なぜこのような仕様なのかは不明であるが、もっとも主流な推測としては、そもそもネフィルは本来、全機が共通のシリアルナンバーを振られていることからも一枚岩であって、それが敵味方に分かれて罵り合うような事態は想定されていなかった、という説である。

 複数の通信手段を組み合わせることで冗長性を確保し、通信強度を飛躍的に向上させているが、あくまで一つ一つの通信手段は理解可能な既知のもの。ネフィルを構成するテクノロジーの中ではかなり低位の部類に入る。
 そのため現存するすべての勢力でリバースエンジニアリングが完了しており、通常の通信機とネフィル間での、静漣のプロトコルを使った通信も可能。
(ネフィル-通信機や通信機-通信機では、本来は味方同士というネフィル間での前提がないため、音声チャンネルの強制フルオープン制は作用しない。音声通信であっても、向こうにその気がなければ拒絶される)

法壊の水<アプシントス>

記鈔塔<コーデックス>/定律正典<フィジカルカノン>


空葬槍<クリアランス>


ケルビムの呪縛


都市(コロニー)

 再始暦世界において、総人口の九割が棲まう、数十kmクラスの超巨大居住構造物(メガストラクチュアル・アーコロジー)
 人口は一隻あたりおよそ十万~百万ほど。
 これも遺失技術であり、新造は不能。骨格や外殻部はマシンセルによる代謝・再生能力を持つものの、それで維持されるのはあくまでハコのみであり、
 内部設備──特に食料生産プラント等の老朽化が問題となっている。都市によっては、空き区画を農業地として活用することで、プラントの生産量低下を補っている場合も。
 水や有機連子の消費量、光熱費等の面で、プラントによる直合成よりもだいぶコストパフォーマンスで劣るが、背に腹は代えられない。 

バベル/世界樹

 再始暦世界の中心に存在する、都市すら遥かに上回る、極めて巨大な塔。
 三大勢力の一画である聖都連の都市群は、バベルを取り囲む形で配置されている。

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