拡張躯体:基礎&近代レベル文明圏

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匿名ユーザー

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コンセプト:マジックパンクエセ和風スペオペ、実体関連モデルSQL、ジェネリック新世界より、ハイパーインフレロボバトル

なお、以下の設定を、必ずしも作中メインの文明圏が認識・理解しているとは限りません


【魂】

 幽接生物の脳髄、またはそれに相当する情報処理装置に対し、量子力学的なゆらぎに乗じて『どこか』から干渉してくる『なにか』。
 物理的に観測が可能なのは、脳内の量子現象に、明らかな偏りが────つまり、理論上は起こりうるが実際の確率としては起こりえない〝奇跡的偶然〟が、特定のパターンをもって、ヒト脳内で毎秒発生し続けている、という結果のみ。

 この奇跡的偶然が引き起こされる干渉点を〝銀枝〟。具体的な干渉パターンを〝銀紋〟と呼称する。だいたい、健康な成人で銀枝の総数は二十万程度。静的な固定点ではなく、その座標も変動的かつ流動的。

(量子脳理論、それなりにいい感じに収めるのはどうすればいいか……という悩み。
既存の微小管かイオンチャネルで処理するか、あるいは脳を通り抜けてくニュートリノの衝突可能性をいじくって間接的に脳内の任意の座標に電子をポップアップさせる……みたいなのもアリかも?)

 なお、魂はただ脳に干渉するだけでなく、銀枝を通じて脳から情報を取得している、と推定されており、脳の物理状態に応じて銀紋も随時、変化する。
 つまり魂とは、所与の定数でも一方的な操作主体でもなく、魂と脳とのカオス的な相互作用の総体こそが、心、人格、表層意識、意志決定、ヒト精神のすべてである。この精神モデルにおいて、心身は一元論でも二元論でもなく、同時にそのどちらでもある、『二つの構成要素からなる一つの系』として記述される。

 ちなみに魂が宿りうる/銀枝が根を張る情報処理装置は、干渉による擾乱を許容し、それすら己の内に取り込める、柔軟で冗長なシステムでなければならない。

(つまり、現実の半導体コンピューターは、トンネル効果の発生確率なんかに干渉しまくってもエラー訂正されるOR訂正能力を超えれば落ちるだけで、その干渉までも含めた系の構築ができない、ゆえに有機ニューロンネットワークとは違い、魂の器たりえない)

【霊渉力学<サイコキネティクス>】

 魂が引き起こす『奇跡的偶然』、銀枝とその銀紋について取り扱う科学体系。


【魔術】

 物理領域の因果的閉包性を引き裂き連続性を切り裂いて、思うがままに現実を変容させる力。
 純粋な科学技術では、いまだ移動はヘリウム飛行船、計算は階差機関が最先端である【メイン文明圏】に、恒星間文明を作り上げるに至らせた、超絶の御業。
 同時に、個人に核兵器以上の殺傷能力をもたらし、あるいは分子一つの痕跡すら残さない完全犯罪を可能にしてしまう、社会の不安因子でもある。

魔術の、〝社会的〟本質について

 純物理技術と魔術の、社会的な意味の差とは、なにか。
 極めて強固な属人性に起因する、能力の絶大な個体格差。銃は手離せるが、魔術行使能は人から切り離せない、その潜在的脅威性。挙げられるものは多い。

 しかし実のところ、十分に長い時間スケールにおいては、これらの差は、すべて無化される運命にある。
 固有魔術は解析され汎用化されるし、高度な物理技術が普及すれば、必然的に殺傷や隠蔽といった行為も高度化される。神経系への繊細な介入が可能となれば、安全のため、魔術行使能を一時的にマスクすることも可能になるだろう。

 ならば社会を──ひいては文明の発展を語る上で、魔術と純物理技術の、もっとも根本的な違いとはなにか?
 それは、魔術は絶対的に『人口に律速された』資源であり、『乗数的な発展が起こらない』、ということである。

【魔術几盤】

 几盤は『きばん』と読む。
 後述する概括構造体を格納するテーブルにして、あらゆる魔術に不可欠な基盤となるハードウェア。ひとつの知性種族の標準的かつ統合的な環世界。
 平たくいえば、結晶化した集合無意識であり、物理的な実体は持たない。物理世界と相互作用できるのは、幽接種族、すなわちヒトの脳を介してのみ。

 魔術における情報処理の大半は魔術几盤に丸投げされているが、精緻な概括構造体や、複雑な幽式などを扱う場合には、個体クライアント側にも相応の能力が要求される(割合としてはさして変わらない。百の1%と一億の1%には当然大きな差があるというだけ)。

【概括構造体】

 人の処理能力からすれば無限に等しい、無数の素粒子の状態ベクトルの奔流を、『石』『水』『いまわたしが触れているコレ』『あの家』などの巨視的・抽象的な概念で括った構造体。
 ヒトの認識やイメージという曖昧で抽象的なものと、確たる物理現象という莫大な情報の渦を相互に翻訳する、インターフェイスとしての役割を持つ。
 微妙に長いので、【概体】と略される場合も多い。

 概括構造体の改変は、すなわち概括構造体というインターフェイスへの入力──により引き起こされる実物理状態への改変であり、また実体の変化もまた、概括構造体の構成パラメーターの変化としてリアルタイムで反映される。
 本質的にはインターフェイスであり、実用上は解像度を落とした鏡像、と言える。

 あらゆる魔術は、概括構造体の作成によって始まる。この概括構造体が割当てられた何らかの事象を、『可操作状態』にある、と呼称する。

 なお、概括構造体の『括り方』は、同じ実体に対しても用途の差、流派の差、言語の差、主体となる個人の感覚の/知識の/世界観の/処理能力の差……etc.などで無数の差が出る。特に流体などは、固体に比べて『括り方』の差が大きく出やすい。

 改変可能なのは概括構造体というインターフェイスが入出力として持つパラメーターのみであり、かつその精度も、概括構造体作成時の解像度が上限となる。
 たとえば『おおよその形状と運動ベクトル』しか取っていない概括構造体では、温度の把握や操作などはまったくできないし、唯一可能な形状と運動量の操作すらも『おおよそ』の大雑把にしかできない。しかし、このように粗く単純な概括構造体は、非常に速く、軽く、扱いやすい。

 一方で、子細に模られた概括構造体は、精密な観測や制御が可能なものの、遅くて重い。どのような概括構造体にも、それぞれ相性や長短、得手不得手が存在する。

 なお、概括構造体は、以下の三つの条件によって消失する。

  • 物理的な破壊や変質によって、実体が概括構造体の定義域から飛び出してしまった場合、鏡像として破綻し、砕け散る。
  • 一定時間操作が行われなかった場合、魔術几盤から自動的に削除される。具体的な時間は概括構造体のサイズや周辺の魔術の使用状況に左右されるが、最大でも三十秒程度。短ければ五秒未満。
  • 後述する『結締』を使う。

【魔術四命令】

 あらゆる魔術は、『起象』『承述』『転纂』『結締』の四つの命令に帰結する。
 どれだけ強力で複雑な魔術も、結局はこの四つを組み合わせることで実現される。

『起象』

──魔術几盤上に概括構造体を新造し、付随して実世界上にも現象を引き起こす。
 ゼロベースかつ一手で現実を改変できるため、後述する『承述&転纂』に比べて速く、また周囲の環境に左右されないが、燃費が悪い。

『承述』

──既存の実体を指定して読み取らせ、概括構造体を作成する。可操作状態にするだけで、それ自体は何の変化も起こさないため、基本的には『転纂』とセット。
 ただし『鑑定魔術』や『走査魔術』と呼ばれる、物体のおおよその状態や組成を読み取るための、現実の変容を目的としない魔術は承述のみで完結する。

『転纂』

──起象もしくは承述によって作成された概括構造体の変数を書き換え、連動して実体を改変する。一般に魔術的操作、と呼ばれるモノの大半がこれ。
 前述した通り、あくまで改変可能なのは、概括構造体が含むパラメーターに限る。概括構造体の作成者と転纂者が別人である場合、『括り方』と『書き換え方』の相性の如何によっては、まるで力を発揮できないことも。

『結締』

──概括構造体を魔術几盤上から破却する。
 その際、実体も連動させて消し去るかどうかを選択可能で、連動させない場合は操作不能になった実体が残される。この場合、『承述』により新たな概括構造体を作成すれば、再び魔術的操作が可能となる。

(案:むしろ基本的には概括構造体の消去は実体を道連れにしていくのが普通で、ゆえに

  • ただ承述しただけで時限消去爆弾となる
  • 自身に概括構造体を設定して操作する自己強化系の魔術は、被弾等により実体と概括構造体がズレた時のリスクがとんでもない/一応部位刻みの小さな概括構造体にブロック化しておくことで、肉体すべての消滅は防げるが、小分けするほど処理能力が要求される……

みたいなロジック、締諦で〆た場合のみ実体を残すことができる、みたいのもアリかなーと思ったけどこれはこれでバランスが極端になりそうなので検討中、ただ極端な方が面白い、みたいな感覚もある)

【魔術四能程】

 個人の魔術行使能を、四つに区分したパラメータ。
 とはいえ、一言に『因索』に優れるといってもその〝精度〟に優れる者と〝射程〟に優れる者ではまるで異なるし、
 『応儀』も使う魔術ごとにパフォーマンスの相性差というものが生じるため、実際の評価基準はさらに細分化・条件区分などされている。

『因索<いんさく>』

──魔術几盤からの情報の取得速度や精度、射程を指す。Input。
  四命令中の『起象』『承述』、すべての魔術行使の始点である概括構造体の作成に、特に強く影響する。

『果覧<がらん>』

──魔術几盤への情報の出力速度や精度、射程を指す。Output。
  他の三能が優れていても、果覧の能態が不足している場合、概括構造体の改変→実体の改変という魔術行使の最終工程において、大きなボトルネックが生じてしまう。

『応儀<おうぎ>』

──魔術的な情報処理能力を指す。CPU。
  魔術行使における全プロセスにおいて非常に重要な能程である。

『報録<ほうろく>』

──概括構造体や幽式の、同時保持能力を指す。Memory。
この能態が、操作可能な概括構造体のサイズ上限や、実行可能な幽式の複雑さの上限を定める。

【幽覚】

 魔術几盤と接続し、魔術的な情報を処理する感覚系。基本的には拡張現実めいて、基本的な五感、もしくは言語的な認知に上乗りするかたちで翻訳される。

 物理的・生理的な現象としては、視覚野や体性感覚野に根を張った銀枝によって、あたかも『実際にそのような現実を感覚しているかのように』神経網の状態が銀紋によって調整される。これによって発生する、主観的な視覚効果を幽光、聴覚効果を幽音などと呼称する。

 他者の魔術を見る/聞く/etc.、受動的な幽覚は、現実と同程度の共通性を持つ。つまりその魔術の行使者でなく・かつ健常な視覚機能を持つAが見る幽光と、同条件のBが見る幽光は、完全に同一ではないにせよ、ある程度近しい。

 一方で、自ら魔術を行使する場合の能動的な幽覚に関しては、どの感覚系や認知機能をトリガーにするのがもっとも効率が良いか? という点に大きな個人差がある。
 主に視覚をトリガーとして魔術を行使するものを視覚型幽覚者、体性感覚をトリガーとするものを体性型幽覚者、などと呼ぶ。

【純粋幽覚者】

 魔術几盤との接続に用いられる感覚系、いわゆる幽覚は、
 たいていは視覚、あるいは触覚、あるいは聴覚、あるいは言語的認知──の拡張として処理・解釈される。
 しかしまれに、既存の五感や言語への翻訳を介すことなく、純粋に魔術几盤上の情報の奔流を、ただありのままに扱える者も、少数存在する。

 彼ら彼女らは魔術という万能のツールを、第五の肢として振るい外界を書き換え、第六の感覚として万物を把握する。
 こと魔術の才において、純粋幽覚者とそれ以外には、決して超えられない壁がある、と言える。

 しかしそれぞれが独自固有の感覚系を構築している、というまさにその理由から、
 一般的なカリキュラムでの魔術教育は極めて非効率的であるし、また当人が他人にその業を伝える・教えることも非常に困難。
 集団による魔術の協働実行などに組み込むこともほぼ不可能。

 総じて、良くも悪くも突出した個である、といえる。

純粋幽覚者の危険性について

 非純粋型の幽覚者──すなわち既存の感覚系や知覚系を介すことで、二次的に魔術几盤と接続している大多数の人間にとっては、感情や衝動、反射による魔術の暴発は起こりえない。
 必ず『思考』の集中と、数瞬~数秒の『時間』を要するために、咄嗟に手が出ることはあっても魔術が出ることはないのである。
 非純粋幽覚者が魔術で他者を殺傷したとき、そこには必ず、確固たる害意が存在する。

 しかし、純粋幽覚者は思考を必要とせず、感覚や直感のみで魔術行使が可能であり、その所要時間は限りなくゼロ秒に近い。
 些細な口喧嘩で、一瞬の強い怒りを抱いただけで、次の瞬間には相手が惨殺死体になりかねない。
 精神の鍛練や薬物の投与など、この危険性を軽減する手段は複数考案されてはいるものの、もっとも確実な手段は、敬して遠ざけ、そもそも接近を避けることになる。

【幽式】

 四命令に条件分岐等を織り込み、複雑に組み合わせることで作られた、高度な自律性を持つ魔術。
 幽式を書き出す人間を『幽綴者』と呼ぶ。基本的には言語型や数理型の幽覚者が得意とすることが多い。純粋幽覚者が書き出す幽式は、未知のクオリアで記述されるため、本人以外には再現どころか解読すら不可能。
 一族秘伝の業、あるいは企業秘密、もしくは国家機密として、高度な幽式は、その内容を秘匿されるケースが多い。

 大雑把にいえばプログラミングされた魔術だが、弱点として、魔術几盤の揮発性が挙げられる。
 魔術を止めれば消去されてしまうため、次に使いたい時には一から組み直す必要があり、かといって常駐させれば術者の思考的・精神的なリソースを消費し続ける。
 このため、幽式に長けた人間の中にも、大別して『発動のたび、組み直すのが非常に速い』タイプと、『常駐させ、それによる負担を軽減・無視できる』の二種が存在する。

【固有魔術】

 他者による再現や模倣が困難、または不可能である魔術のこと。
 純粋幽覚者が用いる魔術は、すべて固有魔術であるが、すべての固有魔術が純粋幽覚によって引き起こされるわけではない。
 視覚や言語などのありふれた感覚系・知覚系を基盤に置きながら、実際に構築される幽式が異常に複雑なために、他者には真似できない、というようなケースも存在する。

【刻血】

 本来は再現・模倣が不可能な固有魔術を、なお継承可能にするために行われる遺伝子操作のこと。
 固有魔術保有者のオリジナルの脳活動から、抽象化された機能のみを抽出し、コンパクトな専用神経網、通称『魔術野』として再設計。遺伝子上にエンコードすることで完成する。
 刻血による固有魔術の継承が、帝室や櫃族(きぞく)の持つ権力の、最大の裏付けである。

【贋脳】

 後天的な外科手術によって、固有魔術者の脳髄の模造神経塊<オルガノイド>を埋め込み、その固有魔術を模倣可能にしたもの。
 刻血幽式との最大の違いは、魔術に必要な脳機能・神経活動のみの抽出ではなく、オリジナルの脳をほぼそのままシュリンクしている点。
 加えてあくまで遺伝子操作の結果として『本人の器官』として発現・成長する魔術野とは異なり、再現された『別人の器官』である点である。
 そのため本人の脳と贋脳の間での拒絶反応や、オリジナルの記憶の流入による自我混濁等、リスクが大きく、また単純な性能でも劣っている。
 総じて、刻血に比べて粗悪であり、もっぱら闇社会や反体制勢力によって利用される。


【架層構造体】

 概括構造体や幽式そのものを抽象化して括った、言わば二次的・三次的な概括構造体のこと。
 簡易な魔術においては物理実体と直結した概括構造体のみで十分であり、架層構造体は『魔術を制御する魔術』を含む高度魔術においてのみ使用される。
 超高度魔術の場合、複数の架層構造体の同期や協働、その関係そのものを、更なる高次の架層構造体で括る、複雑怪奇な入れ子構造が仮想的に形成される。

【櫃族】

 固有魔術保有者を祖とし、刻血によってその実力と権力とを継承し続ける一族のこと。
 『魔銘』という、固有魔術の特性から取られた封号を皇族より与えられている。
 特権階級であると同時に、その固有魔術によってインフラ等を担う責務を負い、巨像大陸ごとに規定の人数が配置される。

【帝室、帝族】

 刻血、すなわち『固有魔術を継承可能にする固有魔術』を継承している、〝天帝〟に連なる一族。統暦世界最大の権力者。
 実のところ帝族の刻血幽式は更に包括的な能力であり、『刻血を行う刻血幽式』は彼らの力の一端に過ぎない。

【個体圏域<インディビデュアル・レルム>】

 あらゆる人間/幽接生命が生得的に持つ、自身の肉体を範囲とした魔術的な支配権。
 『自身の肉体』には服や靴、今この瞬間に把持しているモノなども含まれる。

 その機能の半分は、ありとあらゆる魔術干渉に対する絶対的な防御圏。
 当人がいっさい注意を向けていなくとも、どころか睡眠中であってすら、自身を対象とするあらゆる魔術。起象や転纂はおろか、それ自体は変化を生まない承述や結締までも含めた四命令すべてを拒絶<レジスト>する。

 そしてもう半分が、当人が許容する、ホワイトリストに入れた魔術のみは、非常に『通りを良く』──きわめて優れた効率で実行可能である、というもの。

 まったく同じタンパク質操作の魔術であっても、豚ロースに対するそれと、『当人が許容している』人体へのそれ。
 どころか同じ石ころに対する魔術であっても、路傍に落ちているそれと、誰かが握りしめた上で許容している場合のそれでは、必要な魔術リソースには非常に大きな差が生じる。

 ちなみにこの性質上、魔術文明における医療の現場では、『患者の意識を取り戻す』意義が非魔術文明以上に大きい。ホワイトリスト式である以上、当人に意識がなければ、医療魔術すら弾かれてしまう。
 また、死体や最初から魂を持たない生物は、個体圏域を持たない。つまり意識が戻っていないのに医療魔術が通ってしまったとしたら、それ自体が死亡確認になるということ。

【巨像大陸】

 居住者から徴収される莫大な魔力によって維持・運営される、
 ヒト型をした超巨大居住構造物<メガストラクチュアル・アーコロジー>。

 基本的にほぼ完全な気密性と自己完結性を持ち、あるものは海底に接地して立ち歩き、あるものはガス型惑星の雲海を揺蕩い、またあるものは虚空の宇宙を泳いでいる。

 なぜ、ヒト型なのか?
 それは万人が持つ個体圏域を、都市~国家規模までに拡張するためである。

 魔術を己の肉体として捉える体性型幽覚者を核に据え、
 その数十~数千km規模の巨躯の全身に、幽式による擬似神経網を張り巡らせた巨像大陸は、まぎれもなく一人の『人間』。
 肉の身ならぬ小惑星の削り出しであったとしても、一つの『人体』に他ならない。

 つまり、巨像大陸の内側では、魔術という個人が所持するには強すぎる暴力を一括して抑制できると同時に、
 管理機構に届出・承認された魔術に限っては、巨像大陸の外側ではありえないほどの高効率で実行可能となる。
 巨像大陸それ自体の維持に費やされる莫大な魔術的リソースも、同規模かつ巨像『ではない』/人体『ではない』超巨大居住構造物と比較すれば、非常に軽く、安上がり。

 なお、核に据えられた人間──通称『身柱<みばしら>』は、あまりにも巨大すぎる身体からフィードバックされる莫大な情報によって、その精神が希薄化。
 ただ個体圏域を展開し、通す魔術と通さない魔術を選り分けるだけの生体機構と化す。
 現状、巨像大陸というシステムは、人身御供無しには成り立たない。

魔術結絡網における、巨像大陸の優位性について

 魔力および魔術処理能の共有を、もっとも効率的に行う手段は物理的な接触である。
 そして巨像大陸という『人間』は、その内部に存在する全ての人間と『物理的に接触している』ことになる。
 そのため、魔術的なネットワークのハブとしても、巨像大陸という居住構造体の優位性は、絶大なものがある。

無感暗域

 巨像大陸は、それが巨像大陸として機能している限り、常に内部に個体圏域(=魔術の使用可不可を定めるフィールド)が展開されているが、
 部分的に擬似神経が壊死・麻痺などすれば、その区画内では魔術の選り分け/フィルタリングが停止。
 益害や敵味方を問わずにほぼ全ての魔術が封じられた状態になり、これを無感暗域と呼称する。

 なまじ巨像大陸が物理的にも魔術的にも巨大すぎることから、発生してしまった無感暗域は、基本的に代替わりまで(あるいは代替わりの時ですら)修復されない。

 本来、巨像大陸の内部で、その駆動幽式の管理権を持つ者に、戦って勝つことは不可能である。
 こちらの魔術は自分自身を対象としたもの以外すべてが無効化され、一方で向こうは内部の全座標を、最高の効率で、魔術行使の基点にできる。文字通り、空間そのものが敵/味方になるのだから、対抗のしようがない。

 しかし無感暗域の中においては、誰もが『自分自身を対象とした魔術しか使えない』という、ある意味で平等な環境になる。つまり対抗の目が出る。
 そのため反体制レジスタンスや、敵対する外部勢力の侵入部隊などが拠点や橋頭保に使う場合も多く、この場合、無感暗域と正常な区画の境界が、熾烈な戦場となる。



【咒刷装<じゅさつそう>】


 【作中時系列の作中最初に出てくる文明圏】における主力兵器となる、強化外骨格。
 魔術という万能の改変ツールが存在するこの文明圏において、『戦車』や『戦闘機』はおよそ主戦力たりえない。

 なぜなら、人間が乗り込んでいても『人体ではない』搭乗型兵器は、個体圏域による対魔術防御を持たない。
 それはつまり、制御部に、燃料タンクに、弾薬庫にフレームに──ありとあらゆるバイタルパートが、敵性の魔術によって、直に干渉されうるということ。直接に状態を書き換えられては、いかなる防御も装甲も、一切無益というほかない。

 しかし鎧う装甲、あくまで人体の延長である咒刷装は、纏う主体の個体圏域の恩恵に預かれる。つまり、敵性のあらゆる魔術をレジストしつつ、自身が使う強化・支援魔術は、最大の効率で使用できるということ。

 そして咒刷装を咒刷装たらしめるのは、行使する魔術・魔力が、必ずしも纏う個人のものだけではない、という点にある。
 銃後の高位魔術師たちの『楽団』が組み上げた高度な幽式に、共同体構成員から少しずつ汲み上げた莫大な魔力を流し込むことで成立する、超巨大・超高出力・超高精度の魔術ネットワーク。
 それを最高効率で外界に解き放つ出力ノードこそが咒刷装の本質であり、物理実体としての鎧は氷山の一角に過ぎない。

 『群』の力を凝集され代表する、最強の『個』たる魔導鎧は、恒星などの超がつく極限環境を除けば、宇宙のほぼ全領域で活動可能。
 駆動幽式に込められた機能にもよるものの、無補給での三ヶ月以上の単独活動、1G1atm環境におけるマッハ数十の速度域での静音機動──などなど、数々の超人的な能力を発揮する。

 居住施設と戦術兵器という用途の差こそあれ、個体圏域の活用、共同体の魔術的リソースを一人に注ぎ込む、という根本的な発想では巨像大陸と変わらない。
 が、咒刷装は人格の摩滅リスクを小さくすることも出来る。
(どう足掻いても人格が消失する巨像大陸と異なり、魔導鎧は駆動幽式の仕様、制御主体をどこに置くか、連続活動時間、などの様々なパラメータによって、当人への精神的負荷が大きく変わる)
(もちろん、使い潰す運用も可能)

咒刷装、ひいては魔術的リソースの集約という行為全般にかかる制約について

 咒刷装は、共同体の魔術的リソースを一個体に凝集し、出力ノードとして利用する主力兵器である。
 が、出力ノードとして利用する上で、ひとつ決定的な制約が生じてしまう。纏者の魔術的な出力容量の限界──四能程における〝果覧〟。
 いかに処理能力やメモリーを共有・集約できたとしても、最終的に出力するのが纏者一人である以上、その出口の広さがすべてのボトルネックになってしまう。
 この制約を唯一回避可能だったのが、生体系・架層系の『大縺華』

 汎用化、千人単位

【機刷鎧<きさつがい>】

 咒刷装のさらなる発展形。

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